第21話 後ろ盾
この世界に来るまでの俺は、地球と呼ばれる星で生まれ、33年間生まれた地域で食堂を営みながら暮らしていて、とある事件に巻き込まれ、その世界での生を終えて、この世界で新たな人生を歩み始めてること。
この世界へとやってきたときには、この町の近くにある草原のど真ん中にいたこと。そこでナツとハルに助けられてこの町へとやってきた事。
言葉が分からないまでも、俺に生き方と言葉を教えてもらい、これまで生きてこれたこと。
冒険者ギルドを出るにあたって、自分で何かしようと思いたち、自分の店を持つことを目標にしていて、屋台で商売しているのはそのための資金調達までという事。
一気に話し終えると、俺は目の前に用意されていたお茶を一口すすった。すでに冷めていたけど、ずっと話をしていたせいか、その冷たさがここち良かった。
「なるほど」
「にわかには信じられない事ですが……」
「ですよねぇ……」
ご領主様は腕を組んで考え込んでいるし、オリバーさんもどこか納得はしていない表情で俺を見つめている。
「いや……そうでもないぞオリバー」
「と、申しますと?」
考え込んでいたご領主様が体を起こして、俺の方へと視線を向けた。
「テッタ殿、君は孤児院と併設されている教会に顔を出しているよね?」
「え? あ、はい」
こくりと頷くご領主。
「はなしを聞いたのだが、テッタ殿は女神さまの像に手を合わせたとき、気絶してしまったと聞いているが、もしも……」
「…………」
先ほどまで話していた内容には、この世界の神様であるパリピュア様に、この世界へと転生させていただいたという話はしていない。
「もしもその時に、何かお言葉をきいたとしたら?」
「それは、あり得ないのでは? 神のお言葉を聞くことができるのは、教会の巫女様か、聖女様しかいらっしゃらないでしょう」
「今までは……な」
オリバーさんの話を否定はせずに、肯定もせず、ご領主様は俺の方へと視線を向けたままだ。
――どうする? これは言った方がいいのかな?
二人が話している間も俺は脳内でいろいろと考える。このまま怪しまれたままでこの町で暮らしていけるのか? この町ではもう何もできないんじゃないか? 正直に話をしたら、教会とかいう所へ連れていかれてしまうんじゃないか? そんな考えがぐるぐるとめぐる。
「…………」
「ふむ。揺さぶってみてはみたが、君も義理堅いようだね。なかなか口を割らないか。いや……もしかしたら話せないのかな?」
「……すみません」
「なるほどな……。話してしまうと自分の事が危うくなるか……」
何も言わないでいたら、ご領主様がうんうんと頷いた。
「まぁ、どんな理由があるにしてもだね、この町に来てくれたこと、この町に住んでくれようとしていることに感謝する」
「え?」
「何を驚くんだい?」
「いや、だって得体のしれない人間が言うことを、そんな簡単に信じていいんですかね?」
「簡単ではないよ? 今日、こうして直に君という人物と話をしてみて、人となりを多少は理解したつもりだよ。これでもこの領を治める領主だからね。人を見る目はあると自負している」
ようやくご領主様の目から鋭さが引き、初めに俺と話をしていた時のような、柔らかな目になっていた。
「で、だ」
「はい?」
「そんなことは今ははどうでもいいのだよ。テッタ殿、この町で生まれた食べ物を――君が作ったという食べ物を、今、この場で作ることは可能だろうか? 実は私の妻や子供たちも食べてみたいといっているのだよ。私だけ隠れて食べているのがずるいとね」
ご領主の言葉を聞きながら、少し驚きはしたが考える。
「そうですねぇ……。材料さえあれば作れるとは思いますが……。あ!! 蒸篭は無いですよね?」
「セイロとは?」
俺がシュウマイを作る過程で使っている道具だと説明し、厨房で確認してもらうと、従来『蒸す』という調理法はないとのことなので、最初に俺が試作した時のように作ろうかと考えて伝える。
「いや、新しい料理法なのだろう? ならばそれを習うためにも、うちでもそのセイロとやらを用意しよう」
鶴の一声というか、ご領主の決断は早く、館にある鍋の大きさを何通りか測り、急いでラウルさんのお店へといってもらい、購入してきてもらうことになった。
俺はというと、屋敷の厨房にお邪魔させてもらい、そこで材料などを見せてもらう。そして使う食材を出してもらったのだが、なんというか俺がここで調理をすることが前提だったみたいな、そんな用意のされ方だった。
その前にである。
「えっとですね……」
「どうしたね?」
厨房に一緒に来ていたご領主様と、料理長の方へと視線を向けた。
「さすがに一人ではこれから作るのに時間がかかってしまいますので、誰かお手伝いしていただけると助かるのですけど」
「そうだな」
「では私が」
ご領主がうなずくと、すぐに料理長の横にいた方が手を上げて、俺に指示を仰いでくる。
「あ!! その前にしっかりと手を洗ってください!!」
「え? あ、あぁすまない……」
すぐに材料に触れようとしたので、しっかりと手を洗ってもらう。そういう所からすでに料理は始まっているのだから。
初めに何を作るか考えて、シュウマイの皮造りにとりかかり、小麦粉を煉って寝かせている間に、ウインナー用の腸を洗い、肉を選んで叩いていく。
厨房の中で見つけたものがあるので、今日はそれを使ってみることにして、手伝いの方と一緒に進めていると、俺の作業を見ていた料理長やスタッフの方も一緒になって料理を進めていた。
買出しに出ていた騎士の方が戻ってきて、蒸篭の大きさを試し、それから寸胴に似た鍋があるので、水を張り野菜くずなどを入れて火にかける。
シュウマイの皮を作るために寝かせていた小麦粉を伸ばして、薄くしていき、そこへ作ったタネを入れてまとめていく。
「さて……」
「どうしたんだい?」
作業も終盤になり、俺は一息つきながらご領主様の顔を見た。
「せっかくですから、みなさんで召し上がっていただきたいともいます。お庭に出て、皆さんで食べませんか?」
「ほう……庭でか」
「えぇ。護衛の皆様もそうですが、巡回の騎士の方は残念ながらご一緒にというわけにはいかないでしょうけど、後で食べてもらうとして、それ以外の方々は一緒にどうでしょうか?」
顎に手を当てご領主が考える。
「いいだろう。では用意させよう」
「よろしいのですか?」
「面白そうではないか」
「まぁ、ご主人様はそういったお方ですかね」
なんとなくオリバーさんが苦労しているみたいな会話を聞きつつ、俺たちは急ぎ庭での試食会を準備していく。
♢♢♢♢♢
そして冒頭に至る。
結果的には満足いただけたようだ。
実は今回のシュウマイには、厨房で見かけた油脂を一緒に煉りこんで蒸してある。試食としてオリバーさんが購入していったものとは、またひと味違うと思う。
そして今日はそれらを『あんかけ』ででも食べられるようにした。
ご領主様はもちろん、その奥様もお子様たちも、みな笑顔で食べてくれた。集まった屋敷の人たちも、初めて行われる野外での食事に驚きつつも、良い笑顔を見せてくれた。
それだけでも俺がここに来た甲斐があるというもの。
皆さんの食事が終わり、後片付けをしようとしていたら、メイドさん達にスッと止められてしまった。
「あとは私たちがやります」
「おいしいお食事ありがとうございました」
「あ、いえ。お粗末さまでした」
てきぱきと片付けられていくのをぼぉ~っと見ていると、オリバーさんに呼ばれ、そのまま応接室へと通される。
「さて、テッタさん」
「はい?」
「本日は本当にありがとう!! 褒美は何がいいかな?」
「褒美!?」
ご領主様がにこにこと尋ねてくるが、褒美が欲しくてやったわけじゃないし、どうしたらいいか悩む。
「何かないかい?」
「そうですねぇ……」
ないことはない。できるのならばお店を出したい。しかしそれをもらってしまうというのも何か違う気がするので、さらに悩む。
「ではこういうのはどうでしょうか?」
「なんだい? 私にできるものかい?」
「というか、ご領主様にしかできません」
「?」
俺はオリバーさんとご領主様にとあることをお願いした。
「こんなものでいいのかい?」
「ご領主様のだからいいんですよ」
「そうか。でもそれだけじゃちょっと私の気持ちが収まらないな。オリバー、あれを」
「はっ!!」
一度オリバーさんが部屋を出ていき、すぐに戻ってくると、手にはトレーを持っていて、そこに1本の短剣が乗せられていた。
「これを持っているといい」
「これは?」
「私の家紋の入った短剣だよ。これを持っていればよほどのことがない限り、何か言ってこられても対処できるからね。それと――」
「まだあるんですか!?」
家紋入りの短剣だけでも、なんとなく影響力が理解できるのに、それ以外にもなんて少し恐ろしい。
「これをテッタさんに預けるんだから、私の事はノイアーと呼んでくれ」
「え? それは……ノイアー様で」
「ノイアー」
「……ノイアーさん」
「ま、それで手を打つとしよう。もうテッタさんとは友達だ。何かあれば館を訪ねてくるといい。門番の騎士には通達しておくから」
「あ、ありがとうございます」
なんと貴族であるノイアーさんと友達になってしまった。押し切られた形ではあるけど。
こうして、領主館への連行は無事に終わったのだった。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
ちょっとご都合な話になっちゃったけどまぁいいか……。
次回
第22話 資金がないんですよ
お楽しみに!!




