第19話 羊?
「このタレ? うまいな!!」
「兄ちゃん10個くれ!! タレで!!」
「お嬢ちゃんこの後ひまかい?」
新たに場所を移して営業を始めた俺たちの屋台は、以前の場所でもなかなかの繁盛をしていたわけだが、場所を町の中心地になる広場へと移転してもその人気は陰ることが無かった。
いや、以前以上にお客さんが来るようになったといってもいいかもしれない。
知り合いが知り合いに教えて、探してお店を探してまで来てくれていた人帯も、移転しても変わらずごひいきにしてくれているし、今までは知られていなかった町の中心地でも、列をなす姿を見て興味から御店に立ち寄ってくれる人もいた。
手伝ってくれている孤児院の子の人気も上がり、三兄弟はもうこの店の店員として顔が売れているし、リザは一定の人たちから違う意味でも声をかけられる看板娘になっている。
――さっきリザに声かけてきたやつはマークしておこう。ああいった奴らは危ない。
こうなってくると、店で用意していた分が早期に完売してしまうという事が頻発する。しかしまだ収入に対して支出が多くて、原材料などを考えるとそうそう材料を購入するわけにもいかない。
何よりこの世界、塩の値段がバカ高い。塩はいろいろな場面で使うので絶対に切れない材量なのだけど、購入するにはある程度の覚悟が必要になる。あとはラー油に使う油もまた高い一つだ。
――値上げするかなぁ……。
そんなことを考えていた矢先、店の前で荒げる声が聞こえてきた。
「どうした?」
仕込みをしていた俺が販売をしているリザとルークに声をかける。
「あ、テッタさん」
「この人たちが店で食べたもので腹を壊したって言ってきてて」
「腹を?」
二人から事情を聴いて、すぐにその相手の方へと赴く。
「オウ兄ちゃんが責任者か?」
「そうですけど何かありましたか?」
3人グループのリーダーらしい少し来ているものが破れている男に声をかける。
「何かありましたかじゃねぇよ!! この店で買ったもん食ったら腹が下って仕事に行けなかっただろうが!!」
「どうしてくれるんだ? 責任取ってくれるよな?」
こういう奴らが来ることは想定はしていたけど、移転してすぐに現れるとは思ってなかったので、少しばかりどうしようかと考える。
「そうですね……。本当にこの店で買ったものでというのであればですが……。証拠はありますか?」
「「「なに!?」」」
「証拠があって、その後食べて腹を壊したという証拠もあればいいのですけど……」
「そんなもんあるわけねえぇだろうが!!」
「腹に入ったもんをどう証明しろっていうんだコラ!!」
はぁ~っとため息をついて、その男三人を店の前から離していく。
「それでしたらこちらも何もできません」
「てめぇ!!」
「こんな店、俺たちならすぐにどうにかできるんだぜ!!」
「やっちまうぞコラ!!」
――こういう輩は、結局は金目当てなんだよなぁめんどくさいなぁ……。
そんなことを考えていると、俺の後ろに人が立つ気配を感じた。
「お話し中に申し訳ありません」
声のした方へ身を向けると、黒で統一された服装の少しばかり歳を召された老紳士が立っていた。
「えっと……どうなされました?」
「はい。こちらでお売りされているのはシュウマイというものでしょうか?」
「えぇ……そうですけど」
「あぁ良かった!!」
胸に手を当てて大げさにほっと溜息をつく。
「おいコラじじぃ!!」
「何いきなり割って入ってきてるんだよ!!」
「後にしな!!」
老紳士のことなどお構いなしに、男三人が食って掛かる。
「何事ですかね?」
「えっと……この方たちが私のお店で買ったものを食べて体調を崩されたと申しておりまして、現在その対応をしていた所です」
「なるほど……」
顎に手を当て考え込む老紳士。
「では、その真偽のほどを私と一緒に解決されますか?」
「え?」
スッと身を少し横に移動する老紳士。その後ろにいつの間にか馬車が一台停まっていた。
「我が主が、このところ町で流行っているウインナーなるものとシュウマイなるものにいたく興味を持ちまして、どうしても食べてみたい、話してみたいとおっしゃられているのですよ」
「えっと?」
よくわからない俺が戸惑っていると、三人の男は急に焦りだした。
「おい!!」
「あれって……」
「まさか……やばくねぇか?」
三人で何かこそこそと話し合い、俺の方へと顔を向ける。
「きょ、今日のところは勘弁してやるよ!!」
リーダーらしい男がそういうと、ほかの二人を連れて足早に去っていく。
「おや? 話し合いは必要かないみたいですね?」
その様子を見て老紳士がにこやかに笑う。
「あ、ありがとうございました……」
「いえいえ」
「それでええぇっと……」
「大変失礼しました。テッタ様でよろしかったでしょうか?」
「はい。そうですが……」
「私、このツバサの町のある領、クラーメン領を治める、クラーメン伯爵にお使いしている執事で、オリバーと申します」
「羊?」
「し・つ・じでございます」
この世界の言葉が良くわかってないので、申し訳ない聞き間違いをしてしまった。
「あ、すみません……」
「いえいえ。テッタ様が言葉をまだあまりご理解しておられないのは承知しておりますゆえ。それで先ほども申し上げた通り、我が主が是非食べたいと申しておりまして、どうにかならないでしょうか?」
「それは……持ち帰ってもらえるならですが、順番は守ってもらいますけど……」
「もちろん!! では並ばせていただきます」
そういうと、オリバーさんはスッと頭を下げ、列の後方へと歩いて行った。
「あ、オリバーさん!!」
「はい? なんでしょうか?」
「このお店はシュウマイしか売ってませんよ? ウインナーは冒険者ギルドなどで食べれますから」
「そうなのですか。まぁ今はウインナーではなくシュウマイの方を買う事に致します」
スッと頭を下げてすたすたと歩きだし、列の最高峰へと並ぶ。
「貴族様……か」
冒険者ギルドや商業ギルドのギルマスたちから話は少しきいていた。このツバサの町は珍しいものが好きな伯爵様が治めていて、もしかしたら声がかかるかもしれないと。
――おもったよりも早かったな……。
なるようにしかならないと思っていた俺には、そんな感想しか浮かばなかったのである。
♢♢♢♢♢
本日も用意していた分はすべて捌け、屋台とごみなどの後始末をしていると、人影が俺の姿を覆いつくす。
「ん?」
「お邪魔します」
声をかけられたので手を止めて身を起こし、声の主の方へと顔を向けた。
「あれ? オリバーさん?」
「はい。オリバーでございます」
静かに俺の後ろに立っていたのは、しっかりと列に並び、30個という結構多い量を買っていったおリーバーさんだった。
「何かありましたか?」
「言伝を預かりしまして戻って参りました」
「言伝?」
「我が主がテッタ様にお会いしたいとのことで、この後お時間がございましたら、屋敷にぜひお越しいただきたいとのことでございます」
「あぁ……」
「なにか?」
この人が来たという事で、そういうこともあるかなと思ってはいたが、その通りになってしまうと、少し考えてしまう。
「いえ、その……この屋台を片付けないといけないですし、明日の仕込みもありますので、どうしたらいいかなと……」
「なるほど……。でしたら屋台の方はこの騎士たちに片づけをお任せいただいて、仕込みというのはどちらでなさっておられるんですか?」
「仕込みはですね、孤児院で子供たちとしてまして……」
「ふむ。子供たちだけではできませんか?」
「うぅ~ん……」
子供たちの方へ顔を向けると、三人ともに頷いてくれる。
「……後で俺も行くから、よろしく頼むね」
「師匠、任せてください!!」
意気込んで応える3人に、俺は頷いて返した。
「という事で、大丈夫です」
「良かった。ではまいりましょう。騎士の方!! 屋台の方たのみましたよ!! それと子供たちをお送りしてください!!」
「「「「はっ!!」」」」
オリバーさんの掛け声とともに、一斉に動き出す騎士たち。
「では参りましょうか」
「はい。ではよろしくお願いします」
用意されていた馬車へと移動して、オリバーさんに扉を開けてもらい、先に乗り込む。おありバーさんが乗り込んで腰を下ろし、合図をすると、馬車は静かに動き出した。
俺の頭の中に、あの有名な連れていかれる悲しげな歌が流れていた。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
連れていかれる哲太。
どのような話になるのか……。
※世界(星)の名前フクキタリは福島県をモデルに。国の名前アイーヅは会津地方をモデルにしていて、クラーメン領は『蔵の町』『ラーメン』を使った造語で、アイーヅの北部に位置しているという設定です。
次回
第20話 何者なんだ?
お楽しみに!!




