第18話 タレ
シュウマイを屋台で出し始めて10日ほどが経ち――。
商品としての扱い方や、作り置きの仕方、接客などを覚えた子供たちが毎日楽しそうに働く姿を横目にしながら、そろそろ次の段階へ行こうかと考えていた。
町の人たちも、この屋台の事が噂になって、新しい食べ物として認識されるようになると、日を追うごとに客足は増えていく一方で、トラブルも増えるようになった。
捌ききれないお客様によるクレーム、その場で食べていく人たちのマナー、そして厄介なのが邪魔しようとしてくる人たち、そして屋台に並ぶ人たちがいることによる周囲の店や住んでいる人たちへの配慮など、いろいろな面でまだまだ足りていない。
シュウマイを広く周知することはできた。しかし流行っているのも物珍しさがあるうちだけだという事は理解しているので、まずはそこから対処することに。
「リーク、ルーク、リザ」
「はい?」
「何ですか?」
「なに?」
その日の営業終わりに、片づけをしている3人に声をかける。
「このあと少し時間あるか?」
「大丈夫です。シスターにはテッタさんのところにいることは知ってますし、ここにいると安心してるみたいですから」
リークの返事に2人もこくりと頷いた。
「そうか……試したいことがあるんだ」
片付け後に、次の日を仕込むため、孤児院へと向かう。
♢♢♢♢♢
「まずはこれを試してほしい」
「これは?」
前日に、宿屋の厨房で試しに作ったモノを3人とシスターのアキさんの前に出す。
「新しいタレってやつだな」
「タレ……ですか」
アキさんが不思議そうな顔をしてそれに鼻を近づける。
「ん? ちょっと刺激臭がしますね」
「お? わかる?」
次の日のシュウマイを少し蒸篭で蒸して、それをつけて食べてくれと頼んだ。
「ん!?」
「か、からい……けどおいしぃ」
「辛いから、次も食べたくなるね」
「私には辛いです!!」
アキさんは驚いて目を見開き、リークは最初こそ驚いたものの、その味の変化にすぐ慣れたようで、リークは口の中のものが消えた途端に2つ目を口に放り込み、リザは少し涙目になって俺の方を見てくる。
「これは、何ですか?」
「これは、ラー油もどき……かな?」
「ラー油もどき……」
アキさんが説明を求める目を俺に向けてくる。
少し前に、市場に行って仕入れてきた材料をどうにかできないかといろいろ試したのだけど、買ってきた油に唐辛子だと思うものを入れて加熱し、辛み成分を油に抽出したものを作り出した。
まだ少し味はとがっているものの、ラー油として使えそうなので『ラー油もどき』として、今回新たなタレとして出してみようと思ったのだ。
今までは、肉に練りこんだハーブと塩の味しかしなかったシュウマイを、改良することはなかなか難しいので、『タレ』につけて食べるという、外部から変化させるという手法を使ってみることにした。
その第1弾がラー油もどきである。
「なるほど……確かにただ辛いだけではなく、少し深みを感じますね」
「あぁ、気づきましたか」
このラー油もどきだが、ただ唐辛子成分を抽出しただけじゃなく、市場で売っているいろいろなものを漬け込んで試した中で、自分で納得できたものを今回持ってきた。
「中身は……」
「内緒です」
「ですよね……。こういうのを簡単に教えてしまってはダメですよ?」
「はい。いろいろと商業ギルドからも言われてます」
今まで作ったウインナーもそうだし、今回のシュウマイもそう。そしてシュウマイを作るために作ってもらった蒸篭もまた、商業ギルドから『特許』はどうするのかと相談されているのだ。
蒸篭に関しては、ラウルさんと相談したうえで、発明者としての登録は俺という事にして、製造と販売者はラウルさんに一任する形をとった。
今回シュウマイに関しては、俺的には孤児院の皆で作れるものとして売り出してもらおうかと考えていたんだけど、アキさんからは『お手伝いだけですから』と止められてしまい、発案も販売も俺という事で登録した。
――あとで何か孤児院の子だけでもできるものを考えなくちゃな……。
そんなことを考えていると、アキさんからジト目で見られてしまう。間違いなく何か考えてるでしょ? という疑いの目だ。
「どうだろう? これをつけて食べてもらうようにと考えてるんだけど」
「そうですねぇ……」
アキさんが考え始めた。
「もう一つあるんだ」
「え? もう一つですか?」
小さな土瓶を出して、シュウマイの上に中身をぱらりとかけていく。
その後に興味深々なリークが頬張った。
「うわぁ!! 何これピリッとする!!」
食べてすぐに反応をするリーク。その様子を見て少しビビりながらも口へと運ぶ3人。
「本当だ。最初にピリッとするけど、後にあまり気にならないですね」
「こっちの方が食べやすいかも」
「わたしはどっちも辛いよぉ」
三者三様の反応が返ってくるが、未だ子供舌のリザには少し刺激が強いみたいだ。
「これは?」
「コイツですよ」
市場で買ったあのジャペッパーを三人に見せた。
「これはあまり使いどころのない実ですよね?」
「そう言ってましたね」
「良くお使いになろうと思いましたね」
「そこはほら、俺にはスキル? があるので」
「なるほど……」
ジャペッパーとは挽いた時と味見をした感じ、日本でいう山椒の事だった。これと一緒に買ったワサビ―もあるんだが、いろいろと試した結果、今回は使えないと判断してやめた。
「良いと思います」
「俺もいいと思う。これならいっぱい食べても途中で味を変えられるし」
「次が食べたくなるよ!!」
「辛いのは苦手です……」
若干リザだけが不満気だけど、3人に玻評判がいいという事で試しで出してみることにした。
♢♢♢♢♢
「テッタさん」
「どうした?」
「これ食べづらいです」
「ん?」
次の出店日、俺は露店の前に二つを置いて、お好みでかけてくださいという文言の書かれた板を出し、営業を始めたのだけど、物珍しそうにしてかけていく人もちらほらいるが、ほとんどは今まで通りに何もかけないで、その場で食べる人や持ち帰る人が多く目につく。
そろそろ正午になるという時に、手伝いに来ている孤児院の子に昼食を取らせようと、シュウマイと黒パンを渡したときに、その子が俺に伝えてきた。
「上にかけたやつは良いんだけど、つけるやつ? 置く場所がないと食べづらいです」
「あぁ……なるほど……」
言われて初めて気が付いた。確かにジャペッパーの方は振りかけるだけだから、そのままたっても食べられるが、ラー油の方はつけるという作業があるために小皿に出しているので、立ってというには食べづらい。
「あ、じゃぁ、これに座ってたべてくれ」
そうして俺はそれまで座って作業していた長椅子をその子の方へと渡し、その子も腰を下ろしてラー油を置いてつけて食べ始めた。
「おい兄ちゃん」
「はい?」
それを見ていたお客さんの一人が、俺に声をかけてくる。
「俺にもその椅子を貸してくれないか? その子がつけてるものが気になってな」
「あ、はいどうぞ」
「ありがとよ」
そういって腰を下ろして、タレにつけて一つ口に放り込んだ。
「かっらぁ!! でもうっまぁ!!」
上を向いて叫んだと思ったら、つぎのシュウマイもぱくっと口に放り込んだ。
それを見ていた列の人も、次第にラー油を使う人が増え、徐々に出店の横に人だかりができ始めた。
――なるほど、食べるための場所か……。
辛いとか旨いとか叫んでいる人たちの横で、俺はそれの対応を考え始めていた。
♢♢♢♢♢
その日の営業終わり、俺は2か所に足を運ぶ。
一つ目の場所はラウルさんのところ。座るための椅子と簡易的なテーブルの相談に乗ってもらうために訪れた。
「なるほどな」
「どうですか?」
「良いんじゃねぇか? これをウチでも売っていいんだろ?」
「もちろんいいですよ」
テーブル部分になる天板部分に、足となる部分を格納できるようにした新たな商品として、ラウルさんと設計図を組み、制作と販売を引き受けてもらうことに合意し、その足で商業ギルドへと向かう。
「また新たな製品ですか……」
奥に通されて話を聞いてもらったザイツさんに少しあきれられてしまったけど、話はまとまり登録をしてもらった。
「相談はもう一つあるんです」
「なんです?」
ザイツさんにジト目を向けられて、少しばかりすまないと思いつつ話をする。
「今の出店がある場所だと、これを設置すると場所を取ってしまうので、違う場所で営業できないかなと思いまして」
「なるほど……」
今日のように人が集まってしまうと、通行するにも、ほかの隣接する店にも邪魔になってしまう。クレームがつく前に何とか対応できないかと考えた。
「では広場の方に場所を確保しましょうか」
「え? でも……」
ツバサの町には、町の中心部に大きな広場がある。そこは公園としても憩いの場としても使用されている場所で、人の往来も多い。
「大丈夫でしょう。テッタさんのお店、好評ですからね」
「あ、ありがとうございます」
場所の移動と、その周知のために2日ほどかかるというので、俺はお礼を言って商業ギルドを後にした。ラウルさんは商業ギルドを出ると、早速新たなテーブル造りを始めると意気込んでいて走って去っていく。
その姿を見て苦笑いしつつ、次の営業も頑張ろうと夕日に染まっていく街を見ながら決心した。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
近づいてきましたね!!
え?何かって?
ラーメンのお供にですよ(*^-^*)
次回
第19話 羊?
お楽しみに!!




