第17話 買っていただけませんか?
「あ、昨日もお助けいただいた……」
「ケガはないかい?」
「はい。有難うございました」
「いや、さっき腕を引かれていたところだよ?」
そういうと隠れている彼女の腕を取り、確認しようとする。
「あ、いえ!! 大丈夫ですので!!」
「そんなことはないでしょ? 結構強くつかまれていたみたいだし」
「ほ、本当に大丈夫ですので……」
手を握っている俺にいやいやと顔を振る女の子。
――まるでさっきのとこと同じみたいじゃないか?
ちょっとまずいかなと思っていると、路地の先からドタバタ,ガシャガシャと足音とともに金属がこすれる音が聞こえてきた。
「そこで止まれ!!」
「え?」
「狼藉を働いている男がいると報告が入った!! おとなしく言うことに従えばケガはさせない!! いいな!!」
ガシャガシャと音を立てて、穂先を俺に向けた槍を持った数人の衛兵さん達が、俺の方へと近づいてくる。
「ん? ちょっとまて!!」
「「「はっ!!」」」
指揮している大柄な人が、何かを見て声を上げた。
「あんた……シュウマイ屋台の旦那か?」
「へ?」
声をかけられたのでその男性に顔を向けると、俺の方を見てにこりと白い歯を見せて笑った。
「おぉ!! やっぱりそうかあのシュウマイ旨かった!!」
「あ、ありがとうございます?」
にっこにこな笑顔を見せてくれる衛兵さんだが、俺にはその顔にあまり覚えがなかった。
「なんだ? 俺のこと忘れたのか?」
「どこかでお会いしましたっけ?」
「この町に最初に来た時、ナツとハルと一緒に会っただろ?」
「あぁ!! あの時の!!」
俺が女神さまに放置された後、この町にナツとハルと一緒にやってきたとき、門の前での確認をしていた2人の衛兵さん。
そのうちの一人が、今俺に話しかけてくれている人だった。
「おい放してやれ!!」
「え? でもコイツが犯人じゃ……」
衛士の人が命令に困惑する。
「お嬢ちゃん。君の事を襲うとしたのはこの人なのか?」
「え? い、いえ!! 冒険者のような恰好をした男の人……でした」
俺の後ろにいた女の子は俺の横まで出てくると、先ほどまでの小さな声ではなく、声を張りきっぱりと言い切った。
「だ、そうだ。放してやれ」
「はい!!」
縄で後ろ手に縛られそうになっていた俺は、その一言で文字通りお縄になることは無くなった。
「こんなところで何してるんだ? 今日は店は良いのか?」
「あぁ、今日は孤児院の子たちが売り物を作ってくれてるんだよ。俺は足りないものを買いに行こうとしたら、今こんな状態ってところ」
「なるほどねぇ。あんた戦闘系のスキルとかないだろ?」
「ないよ?」
「あんまり無理はすんなよぉ。あんたの作った料理を楽しみにしてるやつが大勢いるんだからさぁ」
「そうだな。俺もケガをしちまったら商売にならんしね」
「今回はヒーローになれたようだけど、次もなれるなんざ思わんほうがいい」
「あぁ、その時は大声で衛兵さんを呼ぶさ」
ガハハと大きな声を上げ笑う指揮官。俺の背中をポンとひとたたきしてその場を歩いて去っていく。
「そういえば君さ、名前はなんていうんだい?
「あ、あの、フユと申します」
「そうかフユちゃんか。それって買い物してきたモノだろう? おれも買い物に行く途中だったんだ」
「そ、そうなのですか?」
「うん。あ、そうだ、一緒に買い物に付き合ってくれないかい?」
「え? でも……」
まぁ急にこんなことを言っても俺と一緒に来てくれるなんてことないと思っている。断ってくれた方がこの子を送っていく口実になると思って、俺も話を振ってみただけだから。
「な、なにをお求めになられるのですか?」
「お? そうだな……食用の油と香辛料が欲しいんだよね」
「それなら、私がいつもお邪魔しているところに売ってると思います」
そういうと、俺の前を歩き始めた彼女。少し歩いて振り向き、首を傾げた。
「行かないのですか?」
「え? 連れて行ってくれるのかい?」
「はい。2度も助けていただいたんですから、そのくらいのお礼はさせてくださいませ」
「ありがとう」
「あ……」
本当に無意識に、自然と、目の前の女の子の頭をなでてしまった。
「あ、わるい。いつもの癖でつい……でも、知らん奴に触られたくないよな」
「そ、そんなことは、あ、ありません。ちょっと――」
俯いてしまったので、顔の様子や感情が読めなかった。それから二人黙って歩き始めた。
♢♢♢♢♢
「お? フユちゃん今日はお仕事かい?」
「馬鹿言うな!! フユちゃんの良い人に決まってんだろう?」
「フユちゃんにふさわしいのは俺だぞ!!」
市場へ行くと、俺の前を歩くフユちゃんに声をかける店の人たちが多くいることに驚いた。
確かに薄い紫色が混じるような暗色の髪の毛に、小さなかお。そして紫色の大きな瞳で整った顔立ちをしているんだから、人気が出て当たり前のような気がする。
現代日本にいたら、アイドルにすぐなれそうなほど、容姿が整ってると思う。
「ち、ちがいます!! 今日はお買い物でして……あ、この方のお店は食用油を取り扱ってらっしゃいますよ」
「そうなの?」
淡々としていたフユちゃんだったけど、俺が言っていたお目当ての商品を取り扱っているお店の方が見えると、てこてこと先に行って紹介してくれる。
「お? フユちゃんじゃねぇか。今日はどうした?」
「お買い物は私じゃないんです。こちらの……」
「あ、哲太と申します」
「テッタさんが欲しいものがあるそうで」
おい店の中の店主であろうおじさんが出てきて、フユちゃんに声をかける。そういえばフユちゃんにも名乗ってなかったなと思い、2人に改めて名前を告げた。
「ん? あんた……屋台を出してなかったかい?」
「お? 知ってます?」
「あたりめぇよ。この町で出されるものは一通り目にしてるからな。しかも食い物と来た。食わないわけにはいかないだろ?」
にこりと微笑むおじさん。
「あははは。有難うございます。今日は買い物に来たんですよ」
「何か足りないのか?」
「あ、その、アレを改良しようと思ってまして」
「「「なにぃ~!?」」」
店のおじさんだけでなく、その両隣で話を聞いていた店主が2人、俺の言葉に驚いて居た。
「もう改良すんのかい?」
「あれすごくおいしかったじゃないか」
「悪い所なんてなかったと思うぞ?」
「あはははは。それを進化させるのが俺たちの腕……じゃないですかね?」
俺の言葉に虚を突かれたのか、ポカンとする三人。
バシ!!
「いった!!」
表にまで出てきていたおばちゃんに背中をたたかれた。
「良く言った!! 確かにそうだね。進化させる……か。あたしらはその辺を忘れちまってるのかもしれないね」
「確かにな。今のままで満足して、金は入るけどそこまででおしまい。そう考えちまってたかもしんねぇ」
「……ヨシ!! 兄ちゃん何が欲しいんだ?」
三人が何か気合を入れている。ちょっと俺には何が起こっているのかわからない。
「えっとですね、食用の油と、小さな粒からしぼった油とかありますか?」
「食用の油はあるぞ。小さい粒? ていうのはこれの事か?」
「そう!! それです!!」
「おう。これも量は少ないがあるにはあるな」
「じゃぁ買えるだけ、それをいただきます」
そういうと冒険者ギルドのカードを取り出した。冒険者ギルドに入れた金額も、商業ギルドで入れた金額も、同じように管理されているのでなかなか便利なのだ。
「他にはあるかい?」
「それじゃぁ、香辛料を売ってるお店を紹介してもらえますか?」
「あら、ならうちじゃないか。寄ってっておくれ」
路地を挟んだ向かい側から声がかかり振り返る。店の前に並んだ香辛料やハーブが目に入った。
「どんなものをお探しだい?」
「そうですね、ピリッと辛さが出るものとかを探してますけど」
「それなら先ずはこれだね」
見せてもらったのは日本でも取れる赤唐辛子に似た植物。ちょっとかじらせてもらって舌で感じる。
――うんいい感じだな!! これは唐辛子だ!!
ピコン
ピコン
「ん?」
あたまの中で再生される、この電子音にも最近聞きなれた。
【ワサビ― 水の澄んでいるところでしか取れない天然もの。 刺身で食べたい!!】
【ジャペッパー 日本にも自生しているピリッとする植物。 ウナギのかば焼きとかどうかな?】
なんともパリピ様は様の気持ち駄々洩れな内容に少し笑ってしまう。
「これ……」
「ん? あぁそれは結構近くで撮れるんだけど、舌がびりびりするからまり使い処がないんだよ」
「そうなんですか?」
「あぁ。仕入れるには仕入れるんだけど、いつも余っちまってね」
「じゃぁあるだけ買います!!」
「え!?」
俺の勢いにおばさんが驚く。
「さっきの赤いのと、このワサビ―と、この実のやつをください」
「は、はいよ!!」
それらを袋に詰めてもらって、俺はほくほく顔でその場を後にした。フユちゃんの紹介という事と、いっぱい買ったからという事でおまけまでしてもらえて、買物は満足した。
「さてっと……。フユちゃん案内ありがとうね」
「え? いえ。お礼ですから」
「いやいや、お礼以上のものが手に入ったんだから、俺にもお礼させてくれないかな?」
「お礼なんて……」
フユちゃんが俯いてしまい、どうしようかと思っていると、俺とフユちゃんの間にいつの間にか男性が静かに立っていた。
「うわぁ!!」
「あ!?」
「これはこれは……」
「えっとごめんなさい遅れてしまって」
「それは構いませんよ。しかし……」
フユちゃんの前に立つ男性は俺の方へ視線を向けると、にこりと微笑んだ。
「先ほどのお礼という話ですがね、ではこの子を買っていただけませんか?」
「「え?」」
「申し遅れました。私はこの町の奴隷商会会長をしております、サガと申します。後程お店の方へお越しくださいませ」
サガと名乗った男性は、フユちゃんの持っていた荷物を一つ持つと、俺に礼をして歩き去っていった。
――奴隷商……か。
早々には接触はしないだろうと思っていたものが、まさか向こうから来てしまうとは思ってなかった。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
手を出すつもりはなかったもの、手を出さずに過ごすはずだったもの。
しかし運命はテッタを放しはしなかった。
『これ甲斐さんのためです』とはパリピュア様談
次回
第18話 タレ
お楽しみに!!




