第16話 フラグ回収はお早めに
ちょっとした出来事があったにしては、プレオープンは成功した――といっても良いのではないだろうか。
味を確認してくれた人たち、買いに来てくれた人たち、お店を噂として広めてくれた人たち、それぞれに人を集めてくれた多くの人に、じゅうぶんインパクトは残せたと思う。
初めて、『手を汚さない』で稼ぐという方法を経験した子供たちは、とてもいい笑顔を見せてくれて、次の販売に意欲を見せてくれているし、そんな子供たちを見守る町の大人たちの優しい視線も、俺の目にはしっかりと映っている。
――しかしなぁ……。
心の奥で引っ掛かりがあるのだけど、それをどうしようか迷っていた。
「どうしたのさ師匠」
「ん?」
「すっごく難しそうな顔してたよ?」
リークとルークが俺の顔を覗き込みながら話しかけてくる。
「ん~……ちょっとな」
「今日の俺たち何かしたかな?」
「悪いところあったならごめんなさい」
リークとリザがとてもすまなそうな顔を向けてくる。そんな二人の頭を安心させるようになでる。
「いや、みんなの事じゃないんだ」
「俺たちの事じゃない?」
「あぁ」
孤児院の皆におすそ分けするために、少し残しておいたシュウマイの一つを口に入れて、もぐもぐと咀嚼しながらもう一度考える
「やっぱり足りないんだよなぁ……」
「足りない?」
そう、俺的にはこれでは足りないのだ。
「まぁ、君たちはよくやってくれた。それは間違いないよ。明日からが本番だからしっかり頼むな!!」
「「「うん!!」」」
いい返事を聞いた俺は、片づけを手伝い、シュウマイを子供たちに持たせて、屋台を一人引いていく。
貸し出しの屋台だから、一旦商業ギルドへと返さないといけないのだ。ただ、この屋台はラウルさんが俺が使う専用に加工してくれているので、他の誰かが使うという事はないけど。
「さてっと……」
商業の裏手にある屋台置き場について、まずは使って汚れてしまったものを水洗いし、指定の場所へと屋台を戻し、布をかぶせてできる限りごみやほこりが入らないようにする。
そうして一区切りついて屋台を見ていると、後ろから声をかけられた。
「テッタさん」
「あ、ザイツさん。お疲れ様です」
「はい。お疲れさまでした。今日は盛況でしたね」
「そう……ですね」
俺の返事があまりよろしくないことに気が付いたザイツさんは、にこやかな顔を真顔に戻した。
「何かあったのですか?」
「う~ん。いろいろと考えてましてね」
「詳しく話を聞きましょう。こちらへ」
促されるまま、商業ギルドの中へと2人歩いて向かう。
♢♢♢♢♢
「ささ。座ってください。今お茶をお持ちしましょう」
「すみません」
誰かにもってきてもらうのかと思っていたら、ザイツさんが自らティーポットを持ってきて、その場でお茶を入れてくれる。
「それで?」
お茶を入れ、腰を下ろしたザイツさんと、お茶を一口飲んだ後、ザイツさんは静かな声で聴いてきた。
「正直に言ってくださいね」
「はい、もちろん」
俺はまじめな顔でザイツさんに問いかける。
「今日のシュウマイ、どうでしたか?」
「そうですねぇ。今までにない料理法でしたし、一口で食べれるのもよかった。噛むと肉汁が口に広がっていくあの感覚……おいしかったと思いますが?」
食べたときの思い出がよみがえったのか、ザイツさんは天井を見ながらほうっとため息をついた。
「そうですか……」
「どうなされたんです?」
「あぁ、その……あれでは物足りないなと思いましてね」
「物足りない……ですか?」
「はい」
最初に冒険者ギルドでウインナーを作ったときもそうだし、今回のシュウマイでもそうなのだが、俺はあれが完成形だとは全く思っていない。
――味付けが塩とハーブだけっていうのがな……。しかも塩は割と高価なものだから多くは使えない。それがやはり俺には物足りなく感じてしまうのだ。
「ちょっと改良しようと思ってます」
「あのシュウマイをですか? さらに改良?」
「えぇっとですね、あれはあのまま少し配合を変えてみようと思ってますけど、それ以外ですね」
「それ以外……」
「はい。タレを作ろうかと思ってます」
「タレですか」
驚き俺の顔をじっと見つめるザイツさん。
「まぁ、作ってみないとどうなるかわからないですけどね」
「そうですか。いやはや、もう次の手を考えていらっしゃるとは……。それは売れますかね?」
「あぁ~……。あはははは。ザイツさんがそう判断されるならば」
「なるほど。わかりました」
それ以上は何も聞かず、お互いにお茶をすする。
「あぁ、もう一つ」
「なんです?」
「用心棒……ではないですけど、そういったものも必要かなって……」
「あぁ、なるほど……」
今日のあの出来事はザイツさんもその場にいたから知っている。
「なかなか根深いものがあるのですよ」
「俺にはよくわかりませんけど、そういうこともあるでしょうね」
はぁ~と二人でため息をつく。
「冒険者のクエストとして依頼を出すという手もありますよ」
「なるほど」
「あとはそうですね……戦闘奴隷を買う……とかですかね」
「奴隷……ですか」
前世ではあまりいい言葉ではないので、それを聞いたとたんに心のなかが靄っとする。
「テッタさんがどのように感じているかは、その表情を見ただけで理解できますが、テッタさんが考えている奴隷は、この国では禁止されてます」
「え?」
俺の表情を見て悟ったのか、ザイツさんがこくりと頷く。
「この国、アイーヅ王国では、犯罪を犯した者が罰を受ける犯罪奴隷以外は、しっかり法整備されているんですよ」
「へぇ~」
「まぁその辺はこの町にも奴隷商会はありますから、お尋ねになられて話をお聞きくださるとよろしいかと……」
「うぅ~ん。まぁ話を聞くだけなら?」
「……意外とテッタさんにはそちらの方が必要かもしれませんね」
「……どういう意味です?」
「さぁ?」
なんとなくだけど、ザイツさんは俺の事で何か感づいているんじゃないかなと思ってしまう。時折、ザイツさんの俺を見る目が鋭くなる時があるから。
「さて、これから改良をするのですよね?」
「これからじゃ材料を見て回るにしても、お店自体が閉まってるでしょうから、明日、子供たちが手伝ってくれている時にでも、町に出ようと思ってます」
「そうですか。いいモノが見つかるといいですね」
「……えぇ、そうですね」
何か意味深なことを言っているような気もするけど、あえてスルーすることにした。お茶を飲み干して、その場を退散する。
――さて、俺の考えているものは作れるのだろうか……。
自分が止まっている宿に向かうまでの間、何ができるかを考えながら歩く。
どん!!
「きゃぁ!!」
「うえぇっと、すまない!!」
考えしながら歩くのは良くない。道を曲がろうとしたところで、人とぶつかってしまったのだから。
「だ、大丈夫?」
「いたた……、は、はいぃ~大丈夫です」
「ん?」
手を引き、体を起こそうとしたとき、その手の甲にあざのようなものが見えた。
「あ!! えっと……」
「大丈夫? それ、あざになってるみたいだけど……」
「あ、ち、違います!! ごめんなさい!!」
「え!? あ!!」
ぶつかったのは俺よりも少し若いくらいの女の子。俺が見た手を隠すようにして足早に走り去っていってしまった。
「なんだったんだ?」
次に会う時があれば、もう一度しっかり謝ろうと決めて、宿へと急ぎ向かうのだった。
♢♢♢♢♢
「放してください!!」
「良いじゃねぇか……あんたアレなんだろう?」
朝、子供たちがなぜか俺の宿に迎えに来て、孤児院へと強制連行され、リーク達2兄弟の指導と、残っている興味ある子への指導をすることになり、ある程度はできるようになったので、シスターアキさんに監督を任せて、俺は市場へと向かっていた。
野菜くずをもらった八百屋さんに顔を出し、今回はしっかりと野菜を購入し、肉屋さんへと向かい歩いていると、路地の暗がりから言い争う声が聞こえてきた。
「ん? あれなんかデジャヴ……」
どこかで見たことあるシチュエーションだなぁと感じた瞬間に、俺はその声のする方へと歩き出していた。
「放してくださいぃ!! お使いを頼まれているんですから!!」
「へへへ、そ、そんなこと後にしろよ。な? い、いいだろ?」
少し紫色を帯びた長い髪の毛が邪魔して顔は見えないけど、俺よりもきっと年下の女の子が、腕に荷物を抱えていて、その腕を男がつかみ、下劣な眼差しで彼女を見ながら笑っていた。
「はいはいはい。そこまでにしましょう」
手をパンパンとたたきながら、俺はその二人の間に割って入っていく。
「な、なんだてめぇ!!」
「なんだも何も……通りすがりの一般人ですけど?」
「あん!?」
ずかずかと二人の間に割って入り、少しずつ距離をとっていくと、女の子は俺の後ろに身を隠した。
「もうすぐ衛兵さんが来ますよ? 大丈夫ですか?」
「な、なに!? てめぇ衛兵なんて呼んだのか!?」
「そりゃ呼ぶでしょう? 俺は一般人だって言ったでしょ?」
「ちっ!! 覚えてろよ!!」
「あ、そのセリフって都市伝説じゃないんだ……」
走り去っていく男を見ながらため息をついた。
「あ、あの……」
「ん?」
「ありがとうございました……」
「あれ? 君は昨日の……」
次の日にフラグ回収をするという、俺もどこかの主人公のような事態に陥ってしまった。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
すでに16話なのに『ラ』の字もでてこねぇw
まぁ気長に読んでくだせぇ(;^ω^)
次回
第17話 買ってくださいませんか?
お楽しみに!!




