第45話 「四天王の教え」
フェンリル・ストームブレイドが、訓練場の中央に立った。
銀髪が、風になびく。
鋭い目が、六人を見つめる。
全身から、圧倒的な威圧感が漂っている。
「まず、お前たちの実力を見せてもらおう」
フェンリルが、剣を抜いた。
細身の長剣。
刀身が、銀色に輝いている。
「六人全員で、私に挑め」
「え?」
セリアが驚いた。
「六人で、ですか?」
「そうだ。本気で来い」
フェンリルが構えた。
「制限時間は、十分だ」
「十分間、私の攻撃に耐えられれば合格」
「倒す必要はない」
六人は、顔を見合わせた。
レオナルドやヴィクターとの試験を思い出した。
あの時も、同じような試験だった。
でも、フェンリルは四天王。
Sランク以上の実力を持つ。
もっと強いはずだ。
「行くわよ」
セリアが、六人に合図した。
六人は、陣形を組んだ。
そして――
「始め」
フェンリルが言った瞬間、彼の姿が消えた。
速い!
次の瞬間、フェンリルはセリアの背後にいた。
剣を振り下ろす。
セリアは、咄嗟に剣で受け止めた。
ガキィン!
でも、力が違う。
セリアは、吹き飛ばされた。
ダリウスが続いた。
魔力を込めた剣で攻撃する。
でも、フェンリルは軽くかわした。
そして、反撃。
ダリウスも、倒れた。
リーナが矢を放つ。
エルミナが魔法を唱える。
トムとあかねが、左右から攻撃する。
でも、フェンリルは全てを防いだ。
剣一本で。
余裕の表情で。
三分が経過。
六人は、全員地面に倒れていた。
一人も、立っていない。
圧倒的な力の差。
「終わりか」
フェンリルが、剣を鞘に収めた。
「お前たちは、まだまだだ」
六人は、悔しかった。
Aランクになって、自信があった。
でも、フェンリルの前では、子供同然だった。
「でも、悪くない」
フェンリルが、六人に手を差し伸べた。
「お前たちには、伸びしろがある」
「これから、私が鍛えてやる」
「よろしくお願いします」
六人が、フェンリルの手を取って立ち上がった。
午後、フェンリルの訓練が始まった。
まず、個別訓練。
フェンリルは、一人ずつ呼んだ。
「セリア、来い」
セリアが、前に出た。
「お前の剣技、基本はできている」
フェンリルが評価した。
「でも、一つ足りない」
「足りないもの……?」
「殺意だ」
フェンリルが、真剣な表情で言った。
「お前の剣には、殺意がない」
「優しすぎる」
「それは、弱点だ」
セリアは、反論しようとした。
でも、フェンリルが続けた。
「誤解するな。私は、冷酷になれと言っているのではない」
「戦う時は、覚悟を持てと言っている」
「相手を倒す覚悟」
「自分が倒される覚悟」
「その二つがなければ、真の強さは得られない」
セリアは、深く考えた。
確かに、自分は戦闘中、いつも躊躇していた。
相手を殺すことに、抵抗があった。
「考えろ」
フェンリルが言った。
「そして、自分の答えを見つけろ」
「はい」
次は、ダリウスだった。
「お前の魔力を込めた剣技、面白い」
フェンリルが評価した。
「でも、魔力の使い方が非効率だ」
「無駄が多い」
フェンリルが、自分の剣に魔力を込めた。
青白い光が、刀身を包む。
でも、セリアが見た時より遥かに効率的だ。
同じ魔力量で、倍以上の威力がある。
「見ろ」
フェンリルが、近くの岩に剣を振った。
岩が、真っ二つに割れた。
「これが、効率的な魔力の使い方だ」
「お前も、これを目指せ」
「はい」
ダリウスが、真剣に頷いた。
リーナの番。
「お前の弓、正確だ」
フェンリルが評価した。
「でも、威力が足りない」
「威力……?」
「ああ。正確に当てても、倒せなければ意味がない」
フェンリルが説明した。
「弓の威力を上げるには、二つの方法がある」
「一つは、より強い弓を使う」
「もう一つは、矢に魔力を込める」
「矢に、魔力を……?」
「そうだ。見ろ」
フェンリルが、リーナの弓を借りた。
そして、矢を番えた。
矢に、魔力を込める。
矢が、青白く光り始めた。
フェンリルが、矢を放った。
矢は、空を裂いて飛んだ。
そして、遠くの的に命中した。
的が、粉々に砕けた。
「すごい……」
リーナが、驚いた。
「これが、魔力を込めた矢だ」
「お前も、できるようになれ」
「はい」
エルミナの番。
「お前の魔法、理論はしっかりしている」
フェンリルが評価した。
「でも、詠唱が長すぎる」
「実戦では、詠唱中に攻撃される」
「だから、無詠唱魔法を覚えろ」
「無詠唱魔法……?」
「ああ。詠唱なしで、魔法を発動する技術だ」
フェンリルが、手をかざした。
何も言わないのに、炎が現れた。
小さな火球が、手の上に浮いている。
「これが、無詠唱魔法だ」
「難易度は高いが、お前ならできる」
「頑張ります」
エルミナが、決意した。
トムの番。
「お前の体術、実践的だ」
フェンリルが評価した。
「でも、力に頼りすぎている」
「力だけでは、より強い敵には勝てない」
「技を磨け」
フェンリルが、トムに体術の型を教えた。
相手の力を利用する技。
相手の攻撃を受け流し、反撃する技。
全てが、実戦的だった。
「これらの技を、完璧に使いこなせ」
「そうすれば、お前はもっと強くなる」
「はい」
トムが、真剣に練習を始めた。
最後は、あかねだった。
「お前は、特別だ」
フェンリルが、あかねを見た。
「『選ばれし者』として、特別な力を持っている」
「でも、お前はその力を恐れている」
「え?」
あかねが驚いた。
「お前は、紋章の力を使う時、いつも躊躇している」
フェンリルが指摘した。
「力を使いすぎると、暴走するのではないか」
「力を使いすぎると、体が持たないのではないか」
「そんな恐れが、お前の中にある」
あかねは、図星を突かれた。
確かに、紋章の力を使う時、いつも不安だった。
「その恐れを、克服しろ」
フェンリルが続けた。
「力は、お前のものだ」
「お前が支配するのだ」
「力に、支配されるな」
「はい……」
「今から、紋章の力を使う訓練をする」
フェンリルが、大きな岩を指差した。
「あの岩を、三つの力全てを使って破壊しろ」
「地の力、風の力、光の力」
「全てを、同時に使え」
「同時に……?」
あかねは、驚いた。
今まで、一つの力しか使ったことがない。
三つ同時なんて、できるのか。
「やってみろ」
あかねは、深呼吸した。
そして、集中した。
紋章に意識を向ける。
地の力を感じる。
風の力を感じる。
光の力を感じる。
三つの力が、体の中で渦巻く。
あかねは、両手を岩に向けた。
そして――
三つの力を、同時に解放した。
地の力が、岩の土台を崩す。
風の力が、岩を切り裂く。
光の力が、岩を浄化する。
三つの力が、一つになった。
岩が、粉々に砕けた。
でも――
あかねは、膝をついた。
魔力を使いすぎた。
体が、重い。
「よくやった」
フェンリルが、あかねを支えた。
「初めてにしては、上出来だ」
「でも、まだコントロールが甘い」
「これから、毎日練習しろ」
「そうすれば、三つの力を自在に使えるようになる」
「はい」
あかねが、弱々しく答えた。
夕方、六人は疲れ切っていた。
フェンリルの訓練は、想像以上に厳しかった。
でも、確実に成長している。
それを、六人は感じていた。
「今日は、ここまで」
フェンリルが言った。
「明日も、同じ時間に来い」
「はい」
六人が答えた。
フェンリルが、去ろうとした時、セリアが呼び止めた。
「フェンリルさん」
「何だ?」
「一つ、質問してもいいですか?」
「言ってみろ」
「フェンリルさんは、なぜ四天王になったのですか?」
セリアが尋ねた。
「何のために、そこまで強くなったのですか?」
フェンリルは、しばらく黙っていた。
やがて、口を開いた。
「復讐のためだ」
「復讐……?」
「ああ。かつて、私の家族は魔物に殺された」
フェンリルが、遠い目をした。
「私は、その魔物を倒すために強くなった」
「そして、倒した」
「でも、それだけでは満足できなかった」
「だから、さらに強くなった」
「全ての魔物を倒すために」
「全ての人々を守るために」
「それが、私の使命だ」
フェンリルが、六人を見た。
「お前たちも、使命を持て」
「何のために戦うのか」
「何のために強くなるのか」
「それを、明確にしろ」
「そうすれば、迷いなく戦える」
「はい」
六人が、深く頷いた。
フェンリルが、去っていった。
六人は、しばらく黙っていた。
やがて、セリアが口を開いた。
「使命、か……」
「私たちの使命は、何かしら」
「闇の王を倒すこと」
あかねが答えた。
「それが、私の使命」
「でも、それだけじゃない」
「仲間を守ること」
「人々を守ること」
「それも、私たちの使命よ」
「そうね」
五人が頷いた。
「じゃあ、それを忘れないようにしましょう」
セリアが言った。
「どんなに辛くても、どんなに厳しくても」
「私たちの使命を、忘れない」
「うん」
六人は、決意を新たにした。
一週間後
フェンリルの訓練は、続いていた。
毎日、厳しい訓練。
でも、六人は確実に成長していた。
セリアは、覚悟を持つことを学んだ。
剣に、迷いがなくなった。
ダリウスは、魔力の効率的な使い方を学んだ。
魔力を込めた剣が、以前より遥かに強力になった。
リーナは、矢に魔力を込めることを覚えた。
威力が、倍増した。
エルミナは、無詠唱魔法の基礎を学んだ。
簡単な魔法なら、詠唱なしで発動できるようになった。
トムは、技を磨いた。
相手の力を利用する技が、身についた。
あかねは、三つの力の同時使用を練習した。
まだ完璧ではないが、以前よりコントロールできるようになった。
そして、一週間後――
フェンリルが、再び六人と模擬戦闘をした。
「では、始めるぞ」
フェンリルが構えた。
六人も、構えた。
戦闘が始まった。
今回は、違った。
六人の動きが、遥かに洗練されている。
セリアの剣が、迷いなくフェンリルに迫る。
ダリウスの魔力剣が、強力な威力でフェンリルを攻撃する。
リーナの魔力を込めた矢が、フェンリルを狙う。
エルミナが、無詠唱で魔法を発動する。
トムが、技でフェンリルの攻撃を受け流す。
あかねが、三つの力を使ってフェンリルを攻撃する。
激しい戦闘。
一分、二分、三分……
今回は、六人が倒れない。
フェンリルの攻撃を、防ぎ続けている。
五分、六分、七分……
まだ、戦っている。
フェンリルも、少し本気を出し始めた。
でも、六人は諦めない。
何度倒されても、立ち上がる。
八分、九分……
そして――
十分が経過した。
ピー!
タイマーが鳴った。
六人は、地面に倒れ込んだ。
全員、息を切らしていた。
でも、笑っていた。
十分、耐えた。
一週間前には考えられなかったことだ。
「合格だ」
フェンリルが、微笑んだ。
「よくやった、銀の絆」
「お前たちは、確実に強くなっている」
「これからも、訓練を続けろ」
「いつか、お前たちは本物の英雄になる」
「ありがとうございます」
六人が、深く頭を下げた。
フェンリルが、去っていった。
六人は、しばらく地面に座っていた。
疲れていたが、満足していた。
「私たち、成長したわね」
セリアが言った。
「ええ」
五人が頷いた。
「でも、まだまだよ」
あかねが続けた。
「闇の王を倒すには、もっと強くならないと」
「そうね」
「じゃあ、明日も頑張りましょう」
「うん」
六人は、立ち上がった。
そして、宿舎へ戻った。
明日への期待を胸に。
もっと強くなるために。
世界を救うために。
パーティ『銀の絆』として。
仲間と一緒に。
これからも、ずっと。
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