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不合格から始まる聖医の絆 ―踏切を越えた先、異世界で命を繋ぐ―  作者: ねこあし


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第42話 「東からの使者」

 Aランク昇格から一週間が経った。


 六人は、順調にAランクの依頼をこなしていた。


 魔物討伐、護衛、遺跡調査。


 様々な依頼を成功させ、実績を積んでいた。


 その日の朝、六人はギルドにいた。


 次の依頼を探すために。


 Aランク依頼室。


 いつものように、依頼ボードを見ていた。


 その時、ギルドのロビーから騒ぎが聞こえた。


「何だ?」


 セリアが、部屋を出た。


 六人も続いた。


 ロビーには、多くの冒険者が集まっていた。


 みんな、入口の方を見ている。


 六人も、そちらを見た。


 ギルドの正面扉が、開いていた。


 そして、その入口に――


 一人の女性が立っていた。


 二十代半ば。


 長い黒髪、切れ長の目、整った顔立ち。


 東洋風の服装。


 白と青の着物のような衣装。


 腰には、細身の剣。


 全身から、ただならぬ雰囲気が漂っている。


 強い。


 一目で分かる。


 この女性は、非常に強い。


 女性は、ロビーを見回した。


 そして、六人の方を見た。


 視線が、あかねに固定された。


 女性が、あかねに向かって歩いてきた。


 冒険者たちが、道を開けた。


 女性の威圧感に、圧倒されているのだ。


 女性が、あかねの前で止まった。


 二人は、見つめ合った。


 沈黙。


 やがて、女性が口を開いた。


「あなたが、あかねさんですね」


 落ち着いた声。


 でも、力強い。


「はい……」


 あかねが、緊張しながら答えた。


「私は、東の大陸、エルデン大陸から参りました」


 女性が自己紹介した。


「名は、雪村凛(ゆきむらりん)


「エルデン魔法学院の教官を務めております」


「雪村……凛?」


 あかねが、驚いた。


 日本風の名前だ。


 まさか……


「あなたも、日本から来られたのですか?」


 凛が、静かに尋ねた。


「はい……」


 あかねが頷いた。


「私も、異世界人です」


「やはり」


 凛が微笑んだ。


「左手首の紋章、見せていただけますか?」


 あかねは、戸惑った。


 でも、左手首を差し出した。


 凛が、あかねの手首を見た。


 紋章が、微かに光っている。


 銀色の複雑な模様。


 大地、風、光を表す三つの要素。


「間違いない」


 凛が、静かに言った。


「あなたは、『選ばれし者』です」


「選ばれし者……?」


「はい。詳しい話は、場所を変えましょう」


 凛が、周りを見回した。


 多くの冒険者が、興味津々で見ている。


「ここでは、話せません」


「分かりました」


 セリアが前に出た。


「私たちの宿へ、どうぞ」


「ありがとうございます」


『銀の月亭』の一室。


 六人と凛が、向かい合って座った。


 緊張した空気。


 凛が、口を開いた。


「まず、お礼を言わせてください」


「私を受け入れてくださり、ありがとうございます」


「いえ」


 セリアが答えた。


「凛さんは、あかねのことで来られたんですよね」


「はい」


 凛が頷いた。


「あかねさんに、重要なことを伝えに来ました」


「紋章のこと、ですか?」


 あかねが尋ねた。


「はい」


 凛が、真剣な表情で言った。


「あなたの左手首の紋章」


「それは、『神託の紋章』と呼ばれています」


「神託の紋章……」


「はい。約千年前、古代魔法文明の時代に作られた紋章です」


 凛が説明を始めた。


「当時、世界には強大な魔物がいました」


「『闇の王』と呼ばれる、破壊の化身」


「闇の王は、世界を滅ぼそうとしました」


「それに対抗するため、古代の賢者たちは『神託の紋章』を創造しました」


「紋章は、異世界から勇者を召喚します」


「そして、勇者に三つの力を授けます」


「地の力、風の力、光の力」


 凛が、あかねの手首を見た。


「あなたは、その勇者です」


「勇者……」


 あかねは、信じられなかった。


 自分が、勇者?


「でも、闇の王は千年前の存在でしょう?」


 ダリウスが尋ねた。


「今は、いないのでは?」


「いえ」


 凛が、首を振った。


「闇の王は、完全には倒されませんでした」


「封印されただけです」


「そして、その封印が今、弱まっています」


「弱まっている……」


「はい。約一年後、封印が完全に破られます」


 凛が、深刻な表情で言った。


「そして、闇の王が復活します」


「それを防ぐために、紋章があなたを召喚したのです」


 六人は、衝撃を受けた。


 一年後、世界を滅ぼす魔物が復活する。


 そして、あかねがそれを止めなければならない。


「でも、私……」


 あかねが、震える声で言った。


「そんな大それたこと、できるかどうか……」


「大丈夫です」


 凛が、優しく言った。


「あなたは、既に三つの力を覚醒させました」


「それだけでも、素晴らしいことです」


「でも、まだ不十分です」


「不十分……?」


「はい。三つの力を完全に使いこなすには、訓練が必要です」


 凛が続けた。


「そして、闇の王と戦うには、さらに強くならなければなりません」


「だから、私はあなたをエルデン大陸に招待します」


「エルデン魔法学院で、特別な訓練を受けてください」


「エルデン大陸……」


 あかねは、迷った。


 この仲間たちと離れたくない。


 でも、世界を救うために必要なら……


「一人で行く必要はありません」


 凛が、六人全員を見た。


「あなたの仲間たちも、一緒に来てください」


「『銀の絆』の皆さん」


「本当ですか!」


 あかねが、目を輝かせた。


「はい。仲間の力も、重要です」


 凛が微笑んだ。


「それに、エルデン魔法学院には最高の訓練施設があります」


「皆さんも、さらに強くなれるでしょう」


 六人は、顔を見合わせた。


 エルデン大陸。


 未知の場所。


 でも、一緒なら行ける。


「どうする?」


 セリアが、みんなに尋ねた。


「行きましょう」


 リーナが即答した。


「あかねを、一人にはできないわ」


「私も賛成」


 エルミナが頷いた。


「俺も行く」


 トムが言った。


「俺もだ」


 ダリウスも同意した。


「じゃあ、決まりね」


 セリアが微笑んだ。


「私たち、エルデン大陸へ行くわ」


「ありがとう、みんな……」


 あかねが、涙を流した。


 仲間が、一緒に来てくれる。


 それが、何より嬉しかった。


「では、準備を始めましょう」


 凛が言った。


「出発は、三日後です」


「港から、船で海を渡ります」


「航海には、一週間かかります」


「分かりました」


 その後、六人は準備を始めた。


 荷物をまとめ、必要な物資を買い揃え、知り合いに挨拶をした。


 オルガには、事情を説明した。


「エルデン大陸……」


 オルガが、心配そうに言った。


「遠いわね」


「でも、行かなきゃいけないんです」


 あかねが答えた。


「世界を救うために」


「そう……」


 オルガが、あかねを抱きしめた。


「気をつけてね」


「必ず、戻ってきてね」


「はい」


 エリザベス夫人にも報告した。


「素晴らしいわ」


 夫人が微笑んだ。


「あなたたちなら、きっとやり遂げられるわ」


「これを持っていきなさい」


 夫人が、六つのお守りを渡した。


「航海の安全を祈っています」


「ありがとうございます」


 ギルドマスターにも挨拶した。


「そうか、エルデン大陸へ行くのか」


 ギルドマスターが言った。


「大きな冒険だな」


「でも、お前たちならできる」


「戻ってきたら、Sランク試験を受けさせてやる」


「本当ですか!」


 六人は驚いた。


「ああ。お前たちは、もうSランクに近い実力がある」


「エルデン大陸で、さらに強くなって戻ってこい」


「はい!」


 三日後


 朝、六人は港に集まった。


 大きな船が、停泊している。


 帆船。


 長さ五十メートルはある。


 立派な船だ。


 凛が、既に船の上にいた。


「おはようございます」


 凛が手を振った。


「おはようございます」


 六人が答えた。


 荷物を船に積み込んだ。


 そして、甲板に上がった。


 港には、見送りの人々が集まっていた。


 オルガ、エリザベス夫人、ギルドマスター、それに街の人々。


「行ってきます!」


 六人が手を振った。


「気をつけてね!」


「必ず戻ってきてね!」


 人々が、叫んだ。


 船が、ゆっくりと動き始めた。


 港から、離れていく。


 王都リベルナが、小さくなっていく。


 六人は、甲板に立って見送った。


 やがて、王都が見えなくなった。


 目の前には、広大な海が広がっている。


「さあ」


 凛が、六人を見た。


「エルデン大陸への旅が、始まります」


「航海中も、訓練しますよ」


「紋章の力を、完全に使いこなすために」


「はい」


 あかねが頷いた。


 六人は、決意した。


 エルデン大陸で、もっと強くなる。


 そして、一年後に復活する闇の王を倒す。


 世界を救うために。


 仲間と一緒に。


 『銀の絆』として。


 その夜、あかねは甲板に一人で立っていた。


 星が、綺麗に輝いている。


 海の上は、静かだった。


 波の音だけが、聞こえる。


「あかね」


 後ろから、声がした。


 振り返ると、凛が立っていた。


「凛さん」


「眠れないのですか?」


「はい……色々、考えていて」


「そうですか」


 凛が、隣に立った。


「不安ですか?」


「少し……」


 あかねが正直に答えた。


「世界を救う、なんて」


「私にできるのかな、って」


「大丈夫です」


 凛が、優しく言った。


「あなたには、仲間がいます」


「そして、紋章の力があります」


「何より、あなた自身が強い」


「強い……?」


「はい。あなたは、優しく、勇敢で、諦めない心を持っている」


 凛が続けた。


「それが、真の強さです」


「力だけでは、闇の王には勝てません」


「心の強さが、必要なのです」


「凛さん……」


「私も、かつてあなたと同じでした」


 凛が、遠くを見た。


「日本から、この世界に召喚されて」


「何も分からず、不安で」


「でも、仲間と出会い、強くなりました」


「そして、今は教官として、次の世代を育てています」


「だから、あなたも大丈夫」


「きっと、乗り越えられます」


「ありがとうございます」


 あかねが微笑んだ。


 凛の言葉が、心に染みた。


 そうだ。


 自分は、一人じゃない。


 仲間がいる。


 『銀の絆』がいる。


 だから、大丈夫。


 どんな困難も、乗り越えられる。


 あかねは、決意を新たにした。


 世界を救う。


 闇の王を倒す。


 そのために、もっと強くなる。


 仲間と一緒に。


 船は、静かに海を進んでいく。


 東へ、東へ。


 エルデン大陸へ向かって。


 新しい冒険が、始まろうとしていた。


 パーティ『銀の絆』の、最大の冒険が。

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