第41話 「Aランクの初仕事」
Aランクに昇格して、三日が経った。
六人は、ギルドの依頼ボードを見ていた。
でも、今回は違うボードだ。
Aランクの依頼ボード。
BランクやCランクの依頼ボードとは、場所が違う。
ギルドの二階、特別な部屋にある。
入室には、Aランクのギルドカードが必要だ。
「ここね」
セリアが、扉を開けた。
中には、広い部屋があった。
壁には、依頼書が貼られている。
でも、数は少ない。
Aランクの依頼は、希少だ。
部屋には、他のAランク冒険者も数人いた。
みんな、ベテランの雰囲気を漂わせている。
六人は、少し緊張した。
依頼ボードに近づいた。
依頼書を見る。
『依頼内容:古代魔獣の討伐
依頼主:王国軍
報酬:金貨五十枚
危険度:極高』
『依頼内容:禁呪書の回収
依頼主:魔法学院
報酬:金貨四十枚
危険度:高』
『依頼内容:行方不明者の捜索
依頼主:ヘンリー・ウィンターズ伯爵
報酬:金貨二十枚
危険度:中
詳細:伯爵の娘、エミリア・ウィンターズ(15歳)が三日前から行方不明。最後に目撃されたのは王都北部の森。魔物に襲われた可能性あり。生死不明』
六人は、それぞれの依頼を検討した。
「どれにする?」
セリアが尋ねた。
「古代魔獣は危険すぎるわね」
エルミナが言った。
「私たち、まだAランクになったばかりだし」
「禁呪書も難しそうね」
リーナが続けた。
「行方不明者の捜索は?」
あかねが提案した。
「危険度は中だし、私たちにもできそう」
「それに、誰かを助けられる」
「そうね」
セリアが頷いた。
「じゃあ、これにしましょう」
六人は、行方不明者捜索の依頼を受けた。
カウンターで手続きを済ませた後、依頼主のもとへ向かった。
ヘンリー・ウィンターズ伯爵の屋敷。
王都の高級住宅街にある、豪華な邸宅。
門番に案内され、応接室に通された。
しばらくすると、一人の男性が入ってきた。
五十代。立派な服。顔には、深い疲労の色。
ヘンリー伯爵だ。
「来てくれたか、銀の絆」
伯爵が、力なく言った。
「娘を、頼む」
「はい」
セリアが答えた。
「詳しく、教えてください」
伯爵が、説明を始めた。
「娘のエミリアは、三日前の朝、森へ薬草採集に出かけた」
「薬草学が趣味でな。よく森へ行っていた」
「でも、夕方になっても戻らなかった」
「私は、すぐに捜索隊を出した」
「でも、見つからなかった」
「森の奥で、エミリアの薬草採集バスケットが見つかった」
「中身は空っぽで、血痕があった」
伯爵の声が、震えた。
「魔物に、襲われたのかもしれない」
「でも、遺体は見つかっていない」
「だから、まだ生きている可能性がある」
「どうか、娘を見つけてほしい」
「分かりました」
セリアが、伯爵の手を握った。
「必ず、見つけ出します」
「頼む……」
伯爵が、涙を流した。
午後、六人は王都北部の森へ向かった。
エミリアが最後に目撃された場所。
森は深く、木々が密集している。
視界が悪い。
「ここね」
セリアが確認した。
「捜索隊が、バスケットを見つけた場所は?」
「この先、約一キロ」
ダリウスが地図を見ながら答えた。
六人は、慎重に森を進んだ。
一キロ先、木の根元に何かが落ちていた。
バスケット。
編まれた籐のバスケット。
あかねが、鑑定した。
『薬草採集バスケット。所有者:エミリア・ウィンターズ。血痕あり(人間の血)』
「これ、エミリアさんのバスケットよ」
あかねが確認した。
「血痕もある」
「でも、量は少ないわね」
セリアが観察した。
「致命傷ではなさそう」
「つまり、まだ生きている可能性がある」
リーナが希望を持って言った。
「そうね」
あかねは、周囲を鑑定した。
地面には、足跡がある。
人間の足跡と、何か大きな生き物の足跡。
「魔物の足跡があるわ」
あかねが報告した。
「大型の、四足歩行の魔物」
「おそらく、ダイアウルフ」
「ダイアウルフ……」
トムが呟いた。
ダイアウルフ。
狼型の魔物。
体長三メートル、凶暴で知能が高い。
Cランクの魔物だが、群れで行動すると厄介だ。
「足跡は、どっちへ?」
セリアが尋ねた。
「北へ」
あかねが指差した。
「森の奥へ向かってる」
「追いましょう」
六人は、足跡を追った。
北へ、北へ。
森は、どんどん深くなっていく。
一時間後、足跡が洞窟に続いていた。
暗い洞窟。
中から、低い唸り声が聞こえる。
「ダイアウルフの巣ね」
セリアが確認した。
「エミリアさんは、中にいるかもしれない」
「行きましょう」
六人は、洞窟に入った。
松明を灯して、慎重に進む。
通路は狭く、湿っている。
やがて、広い空間に出た。
そこには――
五匹のダイアウルフがいた。
全員、こちらを睨んでいる。
そして、洞窟の奥に、一人の少女が倒れていた。
金色の髪、青いドレス。
エミリアだ。
「エミリアさん!」
あかねが叫んだ。
でも、エミリアは動かない。
気を失っているのか、それとも……
ダイアウルフたちが、六人に向かって吠えた。
威嚇している。
「戦闘よ」
セリアが剣を抜いた。
「エミリアさんを救出するわ」
六人は、陣形を組んだ。
そして、ダイアウルフと戦い始めた。
ダイアウルフは、速く強い。
でも、六人はAランクの実力がある。
セリアとダリウスが、前衛で三匹を引きつける。
リーナが、矢で一匹を牽制する。
エルミナが、魔法で一匹の動きを鈍らせる。
トムとあかねが、側面から攻撃する。
十分後、五匹のダイアウルフは全て倒れた。
「よし」
セリアが、エミリアのもとへ駆け寄った。
「エミリアさん、大丈夫?」
エミリアは、目を閉じていた。
呼吸は浅いが、まだ生きている。
左腕に、深い傷がある。
ダイアウルフに噛まれた傷だ。
「あかね、治療を」
「はい」
あかねが、エミリアの隣に座った。
まず、医学知識で確認した。
出血、脱水、低体温。
三日間、ここにいたのだろう。
食べ物も水もなく、傷も治療されず。
でも、まだ命はある。
あかねは、治癒薬を取り出した。
エミリアに飲ませる。
そして、傷に薬を塗る。
でも、傷が深すぎる。
治癒薬だけでは、完全には治らない。
あかねは、決断した。
聖魔法を使う。
光の力。
あかねは、両手をエミリアの傷に当てた。
そして、聖魔法を発動した。
白い光が、傷を包んだ。
傷が、少しずつ治っていく。
出血が止まり、皮膚が再生する。
五分後、傷は完全に治った。
エミリアが、目を開けた。
「ここ、は……?」
弱々しい声。
「大丈夫よ」
あかねが微笑んだ。
「私たち、あなたを助けに来たの」
「助けに……?」
エミリアが、周りを見た。
倒れたダイアウルフ、六人の冒険者。
そして、自分の腕の傷が治っていることに気づいた。
「私……助かったの?」
「ええ」
セリアが頷いた。
「お父様が、とても心配していたわ」
「父が……」
エミリアが、涙を流した。
「ありがとう……ありがとう……」
「どういたしまして」
あかねが、エミリアを抱きしめた。
「もう、大丈夫よ」
六人は、エミリアを連れて洞窟を出た。
森を抜け、王都へ戻った。
夕方、ウィンターズ伯爵邸に到着した。
門番が、六人とエミリアを見て驚いた。
「エミリア様!」
すぐに、伯爵が飛び出してきた。
「エミリア!」
伯爵が、娘を抱きしめた。
「無事だったのか! 良かった! 本当に良かった!」
「お父様……」
エミリアも、父を抱きしめた。
二人は、しばらく抱き合って泣いていた。
やがて、伯爵が六人を見た。
「ありがとう、銀の絆」
「娘を、救ってくれて」
「いえ、私たちの仕事ですから」
セリアが答えた。
「でも、本当に感謝している」
伯爵が、金貨の袋を渡した。
「これが、約束の報酬だ」
「それと」
伯爵が、もう一つの袋を取り出した。
「これは、追加の謝礼だ」
「金貨十枚」
「受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
六人は、報酬を受け取った。
合計、金貨三十枚。
六人で山分けすると、一人金貨五枚ずつ。
これまでで最高額の報酬だった。
「それと」
エミリアが、前に出た。
「私からも、お礼を」
エミリアが、小さな袋を差し出した。
「これ、私が採集した薬草です」
「希少な薬草ばかりです」
「使ってください」
「ありがとう」
あかねが、袋を受け取った。
中を見ると、確かに希少な薬草が入っている。
治癒力を高める薬草、解毒作用のある薬草、魔力回復の薬草。
全て、貴重なものだ。
「大切に使わせていただくわ」
「はい」
エミリアが微笑んだ。
その夜、六人は宿に戻った。
部屋で、報酬を山分けした。
一人、金貨五枚。
それに、エミリアからの薬草。
「Aランクの初仕事、成功ね」
セリアが満足そうに言った。
「ええ」
五人が頷いた。
「エミリアさんも無事で、良かったわ」
リーナが言った。
「本当に」
あかねも微笑んだ。
「助けられて、嬉しかった」
「これが、冒険者の醍醐味だな」
トムが言った。
「人を助ける」
「そのために、強くなる」
「ああ」
ダリウスが頷いた。
その時、窓の外から何かが光った。
あかねが、窓を開けた。
空に、流れ星が見えた。
綺麗な光。
「流れ星……」
あかねが呟いた。
その時、左手首が温かくなった。
紋章だ。
でも、今回は違った。
紋章が、光を放っている。
見える光。
白い光が、手首から溢れ出ている。
「あかね、手首が……」
セリアが驚いた。
「紋章が、光ってる……」
光は、数秒間続いた。
そして、徐々に消えていった。
でも、紋章は変わっていた。
以前は見えなかった紋章が、今は微かに見える。
銀色の、複雑な模様。
円の中に、三つの要素が描かれている。
大地を表す岩、風を表す渦、光を表す太陽。
三つの力を象徴している。
「これ……」
あかねが、紋章を見つめた。
そして、頭の中に声が響いた。
『汝、三つの力を手にせり』
あの声だ。
紋章の声。
『されど、真の試練はこれからなり』
「真の試練……?」
あかねが呟いた。
『汝の運命、まもなく明かされん』
『東の大陸より、使者来たる』
『備えよ』
声が、消えた。
あかねは、混乱していた。
東の大陸?
使者?
何のことだろう。
「あかね、大丈夫?」
セリアが、心配そうに尋ねた。
「うん……大丈夫」
あかねが答えた。
でも、心の中では不安だった。
紋章の謎。
まだ、全ては明かされていない。
これから、何が起こるのだろう。
あかねは、紋章を見つめた。
銀色の模様が、微かに光っている。
まるで、何かを告げているかのように。
翌朝、六人はいつも通り朝食を取った。
昨夜のことは、みんなに話した。
紋章が見えるようになったこと。
声が聞こえたこと。
東の大陸からの使者のこと。
「東の大陸……」
ダリウスが考え込んだ。
「それは、この自由都市連合の東にある大陸だ」
「『エルデン大陸』と呼ばれている」
「エルデン大陸?」
あかねが尋ねた。
「ああ。古い魔法文明が栄えていた場所だ」
ダリウスが説明した。
「今でも、強力な魔法使いや冒険者が多い」
「でも、この大陸とは交流が少ない」
「海を越えなければならないからな」
「その大陸から、使者が来る……」
セリアが呟いた。
「何のために?」
「分からないわ」
あかねが首を振った。
「でも、紋章が『備えよ』と言った」
「つまり、何か大きなことが起こる」
「そうね……」
六人は、少し不安になった。
でも、同時に思う。
どんなことが起きても、一緒なら大丈夫。
『銀の絆』として、乗り越えられる。
「まあ、今は考えても仕方ないわ」
セリアが前向きに言った。
「使者が来るまで、普通に冒険を続けましょう」
「そうね」
五人が頷いた。
六人は、ギルドへ向かった。
新しい依頼を受けるために。
Aランク冒険者として。
そして、これから起こる大きな出来事に備えて。
冒険は、続いていく。
パーティ『銀の絆』の冒険は。
仲間と一緒に。
家族と一緒に。
どんな困難も、一緒に乗り越えていく。
それが、『銀の絆』だから。
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