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不合格から始まる聖医の絆 ―踏切を越えた先、異世界で命を繋ぐ―  作者: ねこあし


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第37話 「束の間の平和」

 カーライル砦から王都への帰路は、三日間かかった。


 第二遊撃隊は、疲れ切っていた。


 二週間の前線任務。


 連日の戦闘。


 多くの負傷者、死者。


 心も体も、限界に近かった。


 三日目の夕方、王都の城壁が見えた。


 白い壁、高い塔。


 懐かしい光景。


「帰ってきた……」


 リーナが、安堵の表情で呟いた。


「ええ」


 セリアも微笑んだ。


 王都に入ると、街の人々が迎えた。


「お帰りなさい!」


「ご苦労様でした!」


「よく戦ってくれた!」


 冒険者たちは、疲れていたが、手を振り返した。


 六人も、笑顔を見せた。


 でも、心の中では、複雑な気持ちだった。


 二週間で、多くのことがあった。


 多くの命を救った。


 でも、救えなかった命もあった。


 その重さは、簡単には消えない。


 王宮広場で、解散した。


 レオナルドが、冒険者たちに言った。


「お疲れ様だった」


「三日間、休息を取れ」


「その後、また召集する」


「了解しました」


 冒険者たちが散っていった。


 六人も、宿へ向かった。


 『銀の月亭』


 久しぶりの、自分たちの部屋。


 六人は、荷物を置いた。


 そして、ベッドに倒れ込んだ。


「疲れた……」


 トムが呟いた。


「本当に……」


 リーナも同意した。


 しばらく、誰も動かなかった。


 ただ、天井を見つめていた。


 やがて、セリアが起き上がった。


「お風呂、入りましょう」


「賛成」


 六人は、宿の大浴場へ向かった。


 広い浴槽。


 温かいお湯。


 二週間ぶりのお風呂だった。


「気持ちいい……」


 あかねが、湯船に浸かりながら言った。


「ええ……生き返るわ……」


 リーナも目を閉じた。


 お湯が、疲れた体を癒してくれる。


 心も、少しずつ落ち着いていく。


 一日目


 翌朝、六人はゆっくりと起きた。


 久しぶりに、朝まで熟睡できた。


 朝食を取った後、それぞれ自由に過ごした。


 セリアとあかねは、市場へ行った。


 果物を買い、パンを買い、人々と話した。


「戦争、どうなってるんですか?」


 あかねが、果物屋のおばさんに尋ねた。


「膠着状態らしいわ」


 おばさんが答えた。


「エルドランド王国も、自由都市連合も、決定的な勝利を得られてない」


「もう一ヶ月近く、戦ってるのに」


「そうなんですか……」


「ええ。だから、和平交渉の噂もあるわ」


「和平交渉?」


「ええ。両国の代表が、近々会談するらしい」


 おばさんが続けた。


「もし、うまくいけば、戦争が終わるかもしれない」


「本当ですか!」


 あかねは、期待した。


 戦争が終われば、もう戦わなくていい。


 もう、人を殺さなくていい。


 もう、救えない命を見なくていい。


「でも、期待しすぎないほうがいいわ」


 おばさんが、現実的に言った。


「交渉が決裂する可能性もあるから」


「そうですね……」


 あかねは、少し不安になった。


 午後、六人は街の酒場で食事をした。


 久しぶりの、ゆっくりとした時間。


「和平交渉、本当なのかしら」


 セリアが言った。


「おばさんが言ってたわ」


 あかねが答えた。


「近々、会談があるって」


「もし、うまくいけば……」


 リーナが期待を込めて言った。


「戦争が終わるかもしれない」


「ええ」


 でも、ダリウスは懐疑的だった。


「簡単には終わらないだろう」


「エルドランド王国は、領土拡大を狙ってる」


「自由都市連合は、それを拒否してる」


「この対立は、深い」


「そうね……」


 セリアが頷いた。


 その時、酒場の扉が開いた。


 一人の男性が入ってきた。


 五十代。立派な服。


 貴族らしい。


 男性は、周りを見回した。


 そして、六人のテーブルを見つけた。


 近づいてくる。


「あなたたちが、銀の絆ですか?」


 男性が尋ねた。


「はい」


 セリアが答えた。


「私は、自由都市連合の外交官、ジョージ・ハミルトンと申します」


 男性が自己紹介した。


「実は、お願いがあって参りました」


「お願い?」


「はい。和平交渉の護衛をお願いしたいのです」


「和平交渉の……護衛?」


「はい」


 ハミルトンが説明した。


「三日後、エルドランド王国との和平会談が開かれます」


「場所は、中立地帯の古城」


「我々外交団が、そこへ向かいます」


「でも、危険です」


「交渉を妨害しようとする勢力がいるかもしれません」


「だから、強力な護衛が必要なのです」


「あなたたち、銀の絆は、ドラゴンを倒した実績がある」


「レオナルドの訓練も修了した」


「この任務に、最適です」


 六人は、顔を見合わせた。


 和平交渉の護衛。


 もし、交渉が成功すれば、戦争が終わる。


 それは、六人が望んでいることだ。


「報酬は、金貨二十枚です」


 ハミルトンが続けた。


「受けていただけますか?」


 セリアが、他の五人を見た。


 みんな、頷いている。


「受けます」


 セリアが答えた。


「ありがとうございます」


 ハミルトンが安堵した。


「明後日の朝、王宮の正門に来てください」


「詳細は、そこで説明します」


「分かりました」


 ハミルトンが去った後、六人は話し合った。


「和平交渉か……」


 トムが呟いた。


「もし、成功すれば、戦争が終わる」


「ええ」


 あかねが期待を込めて言った。


「そうなればいいわね」


「でも、油断できない」


 ダリウスが警告した。


「交渉を妨害しようとする者がいるかもしれない」


「気をつけないと」


「そうね」


 二日目


 六人は、準備を始めた。


 武器を整備し、防具を確認し、薬を買い足した。


 和平交渉の護衛。


 重要な任務だ。


 失敗は許されない。


 午後、セリアは一人で街を歩いていた。


 考え事をしながら。


 和平交渉が成功すれば、戦争が終わる。


 それは、良いことだ。


 でも、同時に不安もあった。


 エルドランド王国。


 自分の故郷。


 自分を追っている国。


 その国と、和平を結ぶ。


 複雑な気持ちだった。


 その時、前方から一人の男性が歩いてきた。


 五十代。立派な服。


 その顔を見た瞬間、セリアは凍りついた。


 父だった。


 エドワード・ブライトブレード。


 セリアの父。


 エルドランド王国の貴族。


「セリア……」


 父が、セリアを見て立ち止まった。


 二人は、しばらく見つめ合った。


 沈黙。


 やがて、父が口を開いた。


「久しぶりだな、セリア」


「父上……」


 セリアが、震える声で答えた。


「何を、ここで……」


「和平交渉だ」


 父が答えた。


「私は、エルドランド王国の外交団の一員として来た」


「和平交渉……」


 セリアは、驚いた。


 父が、エルドランド王国の代表として来ている。


 つまり、三日後の会談に参加する。


 そして、自分は護衛として参加する。


 父と、再会する。


「セリア、お前……」


 父が、セリアを見つめた。


「冒険者になったのか」


「はい」


「そうか……」


 父が、複雑な表情を浮かべた。


「お前、手配されているのを知っているか」


「はい」


「なぜ、逃げた」


「自由が欲しかったからです」


 セリアが、はっきりと答えた。


「父上が決めた婚約者と結婚したくなかった」


「自分の人生を、自分で決めたかった」


「だから、逃げました」


 父は、しばらく黙っていた。


 やがて、深いため息をついた。


「そうか……」


「すみません」


「謝ることはない」


 父が、優しく言った。


「お前は、正しいことをした」


「え?」


 セリアは、驚いた。


 父が、そんなことを言うなんて。


「私は、お前に無理強いしすぎた」


 父が続けた。


「お前の幸せを考えず、家の利益ばかり優先した」


「それは、間違いだった」


「父上……」


「セリア、お前は立派になったな」


 父が、微笑んだ。


「冒険者として、活躍していると聞いた」


「ドラゴンを倒したとも」


「はい……」


「誇りに思う」


 父が、セリアの肩に手を置いた。


「だから、もう追わない」


「手配を取り下げる」


「本当ですか!」


「ああ。お前は、自由だ」


 父が、優しく言った。


「自分の人生を、自分で生きろ」


「ありがとうございます、父上」


 セリアは、涙が出そうになった。


 父が、認めてくれた。


 自分の選択を。


 自分の生き方を。


「ただし」


 父が、真剣な表情で言った。


「和平交渉が成功すれば、の話だ」


「もし、交渉が決裂すれば……」


「戦争が続く」


「そして、お前と私は、敵同士だ」


「分かっています」


 セリアが頷いた。


「だから、交渉を成功させましょう」


「ああ」


 父が、手を差し出した。


 セリアが、その手を握った。


 父と娘の、握手。


 敵国同士でありながら、家族としての絆。


「では、三日後に」


 父が言った。


「はい」


 父が、去っていった。


 セリアは、その背中を見送った。


 父が、認めてくれた。


 それが、嬉しかった。


 でも、同時に思う。


 絶対に、和平交渉を成功させなければ。


 そうでなければ、父と戦うことになる。


 それだけは、避けたい。


 セリアは、決意した。


 その夜、六人は宿の部屋で話し合った。


 セリアが、父との再会を報告した。


「お父様が、エルドランド王国の代表として……」


 あかねが驚いた。


「ええ」


 セリアが頷いた。


「そして、手配を取り下げてくれると言った」


「良かったじゃない」


 リーナが微笑んだ。


「ええ。でも、条件がある」


 セリアが続けた。


「和平交渉が成功すれば、の話」


「つまり……」


 ダリウスが理解した。


「交渉を成功させなければならない」


「そうよ」


 セリアが、決意を込めて言った。


「私たちは、絶対に交渉を成功させる」


「そのために、全力で護衛する」


「分かったわ」


 五人が頷いた。


「私たちも、全力で守るわ」


「ありがとう」


 セリアが微笑んだ。


 三日目


 朝、六人は王宮の正門に集まった。


 そこには、既に外交団が集まっていた。


 ハミルトン、セリアの父エドワード、それに数人の外交官。


 全員で十人ほど。


「おはようございます」


 ハミルトンが挨拶した。


「おはようございます」


 六人が答えた。


「では、出発しましょう」


 外交団と六人は、馬車に乗った。


 そして、王都を出た。


 目的地は、北東の中立地帯にある古城。


 そこで、エルドランド王国の外交団と会談する。


 馬車は、一日中走り続けた。


 平原を抜け、丘を越え、森へ。


 夕方、古城が見えてきた。


 石造りの古い城。


 一部は崩れているが、まだ使える。


 馬車が、城の前で止まった。


 既に、エルドランド王国の外交団が到着していた。


 十人ほど。


 全員、立派な服を着ている。


 そして、その護衛として、冒険者らしき人々が数人。


 双方の外交団が、城の中に入った。


 六人も、護衛として同行した。


 城の大広間で、会談が始まった。


 自由都市連合の代表と、エルドランド王国の代表が、向かい合って座った。


 六人は、部屋の隅で待機した。


 何か起これば、すぐに対応できるように。


 会談が始まった。


「本日は、お集まりいただき、ありがとうございます」


 ハミルトンが口火を切った。


「我々は、この無益な戦争を終わらせたい」


「そのために、和平を提案します」


「和平の条件は?」


 エルドランド王国の代表が尋ねた。


「現状維持です」


 ハミルトンが答えた。


「領土は変更せず、両国は不可侵条約を結ぶ」


「それは、我々には受け入れられない」


 エルドランド王国の代表が、即座に拒否した。


「我々は、自由都市連合の一部の領土を要求する」


「それは、受け入れられません」


 ハミルトンが強く言った。


「我々の領土を、一寸たりとも渡すことはできません」


 議論が続いた。


 一時間、二時間、三時間。


 でも、合意には至らなかった。


 両国の主張は、平行線だった。


 やがて、日が暮れた。


「今日は、ここまでにしましょう」


 ハミルトンが提案した。


「明日、再び協議しましょう」


「分かりました」


 エルドランド王国の代表が同意した。


 会談は、一時中断された。


 六人は、城の一室で休んだ。


「どうなるかしら」


 リーナが不安そうに言った。


「分からない」


 セリアが答えた。


「でも、まだ諦めないわ」


「明日、何か進展があるかもしれない」


「そうね」


 その夜、あかねは眠れなかった。


 窓の外を見ると、月が綺麗に輝いている。


 和平交渉。


 成功すれば、戦争が終わる。


 失敗すれば、戦争が続く。


 どうなるのだろう。


 あかねは、祈った。


 どうか、交渉が成功しますように。


 どうか、戦争が終わりますように。


 そして――


 突然、城の外から叫び声が聞こえた。


「襲撃だ!」


 あかねは、飛び起きた。


 窓から外を見ると、城の周りに黒い影が見える。


 武装した男たち。


 数十人。


 城を取り囲んでいる。


「みんな! 起きて!」


 あかねが叫んだ。


 六人が、すぐに武器を手に取った。


 そして、城の外へ出た。


 戦闘が、始まろうとしていた。

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