第34話 「戦の予兆」
犯人逮捕から、三日が経った。
王都リベルナは、戦争の準備に追われていた。
一日目
朝、街の雰囲気が変わっていた。
衛兵が、街中を巡回している。
通常の三倍はいる。
城壁では、職人たちが補強工事をしていた。
石を積み、柵を修理し、大砲を設置する。
商店街では、人々が食料や水を買い溜めしていた。
戦争に備えて。
「すごい人ね」
リーナが、市場の混雑を見て言った。
「ええ。みんな、戦争が近いことを感じてる」
セリアが答えた。
六人も、準備を始めた。
まず、武器屋へ行った。
「いらっしゃい」
店主が迎えた。
「武器の整備をお願いします」
セリアが、剣と盾を差し出した。
「了解。それと……」
店主が、奥から何かを持ってきた。
ドラゴンの鱗でできた防具だ。
「これ、一ヶ月前に依頼されたドラゴン鱗の防具です」
「完成したんですか!」
六人は喜んだ。
店主が、防具を一つずつ見せた。
セリア用の胸当て、リーナ用の籠手、エルミナ用のローブ、トム用の脛当て、あかね用の肩当て、ダリウス用の腕甲。
全て、ドラゴンの赤い鱗で作られている。
美しく、そして強固だ。
「試着してみてください」
六人は、それぞれの防具を身につけた。
軽い。
でも、確かに守られている感覚がある。
「すごい……」
あかねが、自分の肩当てを見た。
赤い鱗が、光を反射して輝いている。
「これで、大抵の攻撃は防げるわ」
セリアが満足そうに言った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
店主が微笑んだ。
「戦争で、無事に戻ってきてください」
「はい」
次に、薬屋のオルガの店へ行った。
「あら、銀の絆のみなさん」
オルガが迎えた。
「お久しぶりです」
「戦争の準備?」
「はい」
「なら、これを持って行きなさい」
オルガが、大量の薬を取り出した。
治癒薬、解毒薬、疲労回復薬、それに止血薬。
「こんなにたくさん……」
「いいのよ。あなたたちには、お世話になったから」
オルガが優しく言った。
「それに、戦争では薬が命綱になる」
「たくさん持って行きなさい」
「ありがとうございます」
六人は、薬を受け取った。
オルガが、あかねの手を握った。
「あかね、気をつけてね」
「はい」
「あなたは、優しい子だから心配なの」
「戦場では、優しさだけじゃ生き残れない」
「時には、冷酷にならないといけない」
「分かりました」
オルガが微笑んだ。
「でも、その優しさは失わないで」
「それが、あなたの強さだから」
「はい」
二日目
昼、六人はギルドにいた。
ロビーには、多くの冒険者が集まっていた。
みんな、戦争の話をしている。
「エルドランド王国の軍隊、五万人だって」
「五万! 自由都市連合は、三万しかいないのに」
「数で負けてる……」
不安な声が、飛び交っている。
六人は、カウンターへ向かった。
「何か、依頼はありますか?」
セリアが尋ねた。
「いえ、今は通常の依頼は受け付けていません」
職員が答えた。
「全ての冒険者は、戦争に備えて待機してください」
「明日、正式な召集命令が出ます」
「分かりました」
六人は、ギルドを出た。
午後、グランデール伯爵邸を訪れた。
執事が迎えた。
「銀の絆の皆さん、お待ちしていました」
応接室に案内されると、エリザベス夫人が待っていた。
「ようこそ」
エリザベス夫人が微笑んだ。
「お忙しい中、来てくださってありがとうございます」
「いえ」
セリアが答えた。
「私たちこそ、お世話になりました」
「今日は、お礼を言いたくて」
エリザベス夫人が、小さな箱を取り出した。
「これを、あなたたちに」
箱を開けると、六つのペンダントが入っていた。
銀でできた、美しいペンダント。
「これは……」
「お守りです」
エリザベス夫人が説明した。
「魔法がかけてあります。危険を察知すると、光ります」
「戦場で、役立つはずです」
「ありがとうございます」
六人は、ペンダントを受け取った。
「それと」
エリザベス夫人が、真剣な表情で言った。
「どうか、無事に帰ってきてください」
「この街には、あなたたちが必要です」
「はい」
三日目
朝、六人は宿で朝食を取っていた。
静かな時間。
明日、召集命令が出る。
戦場へ向かう。
もしかしたら、これが最後の平和な朝かもしれない。
「ねえ、みんな」
あかねが口を開いた。
「何?」
「もし、戦争で……私たちが……」
あかねは、言葉に詰まった。
「大丈夫よ」
セリアが、あかねの手を握った。
「私たちは、死なない」
「絶対に、生きて帰る」
「そうね」
リーナも頷いた。
「私たち、『銀の絆』だもの」
「どんな困難も、一緒に乗り越えてきた」
「戦争だって、乗り越えられるわ」
「ええ」
エルミナも微笑んだ。
「私たちは、強くなった」
「レオナルドさんの訓練も受けた」
「Aランクに匹敵する実力がある」
「大丈夫よ」
トムとダリウスも頷いた。
「俺たちを信じろ」
「一緒に、生きて帰ろう」
あかねは、涙が出そうになった。
でも、こらえた。
今は、泣いている場合じゃない。
「うん。ありがとう、みんな」
その時、宿の扉が開いた。
衛兵が入ってきた。
「緊急召集です!」
衛兵が叫んだ。
「全ての冒険者は、すぐに王宮広場に集合してください!」
「エルドランド王国軍が、国境を越えました!」
「戦争が、始まりました!」
六人は、顔を見合わせた。
ついに、来た。
戦争が。
「行きましょう」
セリアが立ち上がった。
六人は、急いで王宮広場へ向かった。
王宮広場には、既に数百人の冒険者が集まっていた。
Aランク、Bランク、Cランク。
様々なランクの冒険者。
全員、武装している。
緊張した空気が、広場を包んでいた。
やがて、王宮の正面バルコニーに、外務大臣が現れた。
「冒険者の諸君!」
外務大臣が、大声で言った。
「本日未明、エルドランド王国軍が国境を越え、自由都市連合領内に侵攻しました!」
「これは、明確な侵略行為です!」
「自由都市連合は、本日をもって、エルドランド王国に宣戦布告します!」
どよめきが広がった。
「我々は、祖国を守るために戦います!」
「自由を守るために戦います!」
「冒険者の諸君にも、協力をお願いします!」
外務大臣が続けた。
「冒険者は、正規軍とは別に、遊撃部隊として行動してもらいます」
「敵の後方を撹乱し、補給路を断ち、重要拠点を奪取する」
「危険な任務です」
「しかし、あなたたちなら、できるはずです!」
外務大臣が、拳を掲げた。
「自由のために!」
「自由のために!」
冒険者たちが、一斉に叫んだ。
六人も、叫んだ。
「自由のために!」
その後、冒険者たちは部隊ごとに分けられた。
Aランクは第一遊撃隊。
Bランクは第二遊撃隊。
Cランクは第三遊撃隊。
六人は、第二遊撃隊に配属された。
隊長は、レオナルドだった。
「よう、銀の絆」
レオナルドが、六人を見た。
「また、お前たちと戦えるとはな」
「レオナルドさん」
六人は、嬉しかった。
レオナルドがいれば、心強い。
「第二遊撃隊は、敵の補給路を攻撃する」
レオナルドが説明した。
「エルドランド王国軍は、補給なしでは戦えない」
「我々が補給を断てば、敵は弱る」
「了解しました」
「出発は、明日の朝だ」
レオナルドが続けた。
「今夜は、ゆっくり休め」
「明日から、地獄が始まる」
その夜、六人は宿に戻った。
部屋で、最後の準備をした。
武器、防具、薬、食料。
全てを確認した。
そして、それぞれ休もうとした。
でも、あかねは眠れなかった。
窓の外を見ると、街の明かりが見える。
この街を、守りたい。
人々を、守りたい。
でも、戦争は怖い。
人を殺すかもしれない。
自分が殺されるかもしれない。
不安だった。
その時、左手首が熱くなった。
紋章だ。
あかねは、驚いた。
そして、頭の中に声が響いた。
『時は来たり』
「また、あの声……」
『汝の試練、ここに在り』
『光の力を解放せよ』
『そして、真の力を手にせよ』
「光の力……」
あかねは、集中した。
紋章の力を、感じようとした。
すると――
突然、体の中から光が溢れてきた。
まばゆい光。
部屋中を照らす。
「何……これ……」
あかねの体が、光に包まれた。
そして、その光が、窓の外へ広がった。
街全体を、照らすような光。
「あかね!」
セリアが、目を覚ました。
「何が起きてるの!」
他の四人も、目を覚ました。
あかねの体から、光が放たれている。
紋章の力だ。
光の力が、覚醒した。
光は、数分間続いた。
そして、徐々に収まっていった。
あかねの体から、光が消えた。
でも、あかねは感じていた。
自分の中に、新しい力があることを。
光の力。
治癒、浄化、防御。
様々なことができる力。
そして――
聖魔法が、さらに強化された。
最高位の治癒魔法だけでなく、蘇生魔法も使えるようになった。
死者を蘇らせる魔法。
いや、正確には違う。
死にかけている者を、死の淵から引き戻す魔法。
完全に死んだ者は蘇らせられない。
でも、死にかけている者なら、救える。
「あかね、大丈夫?」
セリアが、あかねに駆け寄った。
「うん……大丈夫」
あかねが答えた。
「ただ、新しい力が……」
「新しい力?」
「うん。光の力」
あかねが説明した。
地の力、風の力、そして光の力。
三つの力が、揃った。
「すごい……」
五人は、驚いた。
「これで、あかねはもっと強くなったわね」
セリアが微笑んだ。
「この力、戦場で役立つわ」
「うん」
あかねは、決意した。
この力を使って、仲間を守る。
人々を守る。
そして、戦争を終わらせる。
翌朝、六人は王宮広場に集合した。
第二遊撃隊、約百人の冒険者。
全員、武装し、準備万端だ。
レオナルドが、前に立った。
「出発する!」
レオナルドが叫んだ。
「目標は、北の街道!」
「エルドランド王国軍の補給路を断つ!」
「行くぞ!」
「おう!」
冒険者たちが、一斉に叫んだ。
そして、街を出た。
北へ向かって。
戦場へ向かって。
六人も、その中にいた。
新しいドラゴン鱗の防具を身につけ、エリザベスのペンダントを首にかけ、オルガの薬を持って。
そして、あかねは新しく覚醒した光の力を持って。
戦いが、始まる。
大きな戦い。
でも、六人は恐れなかった。
一緒だから。
仲間がいるから。
パーティ『銀の絆』として。
六人は、戦場へ向かった。
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