第21話 「帰還と新たな脅威」
翌朝、六人は街へ向かって出発した。
祠を後にし、来た道を戻る。
山を下り、森へ。
記憶水晶は、セリアが大切に持っていた。
布に包み、バッグの奥深くにしまっている。
「これ、本当に大丈夫かしら」
セリアが、バッグを確認しながら言った。
「落としたり、割れたりしたら……」
「大丈夫よ」
エルミナが励ました。
「魔法で強化してある。少々のことじゃ、割れないわ」
「そう……」
でも、セリアの不安は消えなかった。
この水晶には、生命魔法の秘密が入っている。
もし、ヴィクターに奪われたら……
一日目
山を下る途中、トムが立ち止まった。
「待て。誰か来る」
全員が、警戒した。
遠くから、人の気配。
やがて、三人の冒険者が現れた。
「よう」
一人が手を上げた。
「お前ら、冒険者か?」
「ああ」
ダリウスが答えた。
「お前らも?」
「そうだ。俺たちは、Cランクのパーティ『鋼の盾』だ」
男が自己紹介した。
「お前らは?」
「Dランクの『銀の絆』だ」
「Dランク? こんな山の奥で、何してたんだ?」
「依頼だ。古代遺跡の調査」
「古代遺跡……ああ、エルドラの祠か」
男が頷いた。
「俺たちも、そこへ行くところだ」
「え?」
「王立魔法研究所から依頼を受けた。追加調査だ」
男が説明した。
「お前らが最初の調査をして、その報告を元に、俺たちが詳細調査をする」
「そうなんだ……」
「祠、どうだった? 危険か?」
「ああ。ゴーレムが四体いた」
ダリウスが答えた。
「気をつけろ」
「ありがとう。じゃあな」
三人は、山の奥へ去っていった。
六人は、再び歩き始めた。
「追加調査か……」
あかねが呟いた。
「研究所、本気なのね」
「ああ。生命魔法は、それほど重要ってことだ」
夕方、森の中で野営した。
焚き火を囲みながら、六人は話した。
「明日の昼には、街に着くわね」
セリアが言った。
「そうね。そうしたら、まずギルドに報告して、それから研究所へ」
「研究所か……」
あかねが不安そうに言った。
「記憶水晶、ちゃんと届けられるかな」
「大丈夫よ」
ダリウスが励ました。
「俺たちが守る」
二日目
朝早く出発し、森を抜けた。
平原に出ると、遠くに街の姿が見えた。
「ああ、街が見える」
リーナが嬉しそうに言った。
「もうすぐね」
しかし、昼近く、事件が起きた。
突然、空から影が襲ってきた。
「何!?」
大きな鳥。いや、違う。
ワイバーンだ。
「ワイバーン!?」
でも、背中には誰も乗っていない。
野生のワイバーンだ。
ワイバーンが、六人に向かって急降下してきた。
「散開!」
ダリウスが叫んだ。
六人は、それぞれ違う方向に飛んだ。
ワイバーンが、地面に着地した。
そして、炎を吐いた。
「危ない!」
炎が、草原を焼いた。
六人は、ワイバーンと戦った。
リーナが、特殊な矢を放った。
翼の付け根を狙う。
矢が命中し、ワイバーンの片翼が動かなくなった。
エルミナが、氷の魔法を使った。
ワイバーンの動きを鈍らせる。
ダリウス、セリア、トム、あかねが、剣と槍で攻撃した。
十分後、ワイバーンは倒れた。
「やった……」
六人は、息を切らした。
「でも、なぜ野生のワイバーンが……」
セリアが疑問を口にした。
「この辺り、ワイバーンは出ないはずよ」
「誰かが、けしかけたのかもしれない」
ダリウスが推測した。
「誰が?」
「分からん。でも、注意が必要だ」
六人は、さらに警戒を強めて進んだ。
夕方、ついに街に到着した。
「着いた……」
あかねは、ホッとした。
「長かったわね」
六人は、まず宿に向かった。
荷物を置き、体を休める。
それから、夕食を取った。
「明日、ギルドと研究所に行きましょう」
セリアが提案した。
「今日は、もう遅いし」
「そうね」
その夜、あかねは部屋の窓から外を見ていた。
街の明かりが、綺麗に輝いている。
無事に帰ってこられた。
でも、何か不安が残る。
野生のワイバーン。
誰かが、自分たちを狙っている?
あかねは、記憶水晶のことを考えた。
これを狙っているのは、ヴィクターだけじゃないかもしれない。
他にも、狙っている人がいるかもしれない。
「あかね、まだ起きてるの?」
セリアが、ベッドから声をかけてきた。
「うん。ちょっと、考え事してて」
「何を?」
「色々……明日、ちゃんと記憶水晶を届けられるかとか」
「大丈夫よ」
セリアが微笑んだ。
「私たち、一緒だから」
「うん」
あかねは、ベッドに入った。
明日。
全てが、決まる日。
三日目
朝、六人はギルドへ向かった。
カウンターで、報告書を提出した。
「お疲れ様でした」
職員が、報告書を受け取った。
「遺跡の調査、完了したとのこと。素晴らしいですね」
「ありがとうございます」
「これが、基本報酬です」
職員が、銀貨の袋を渡した。
五百シルバー。
「それと、王立魔法研究所からの連絡です」
職員が、封書を渡した。
セリアが開いて読んだ。
『記憶水晶を、本日中に研究所に届けてください。所長アルベルトより』
「今日中か……」
「急ぎましょう」
六人は、研究所へ向かった。
研究所は、街の北部にあった。
白い石造りの大きな建物。三階建て。正面には、王国の紋章が掲げられている。
中に入ると、広いロビーがあった。
壁には、様々な魔法陣の絵が飾られている。研究者らしき人々が、忙しそうに歩いている。
「ギルドから来ました。エルドラの祠の調査の件で」
セリアが受付で言った。
「ああ、お待ちしていました」
受付の女性が、奥に案内した。
長い廊下を歩き、階段を上り、三階の一室に着いた。
扉をノックすると、中から声がした。
「どうぞ」
部屋に入ると、一人の老人が机に座っていた。
七十代くらい。白髪、白い髭。丸い眼鏡をかけている。
周りには、大量の本と書類が積まれている。
「ようこそ」
老人が立ち上がった。
「私は、王立魔法研究所の所長、アルベルト・フォン・シュタインです」
「初めまして。冒険者パーティ『銀の絆』です」
セリアが挨拶した。
「ああ、君たちが……」
アルベルトが、六人を見回した。
「若いね。でも、エルドラの祠を調査し、記憶水晶を手に入れた。素晴らしい」
「ありがとうございます」
「さあ、記憶水晶を見せてくれ」
セリアが、バッグから布に包んだ水晶を取り出した。
布を解くと、透明な水晶が現れた。
淡く光を放っている。
アルベルトが、水晶を手に取った。
そして、魔法で水晶を調べ始めた。
「ふむ……ふむふむ……」
アルベルトの目が、輝いた。
「これは……本物だ! 間違いない!」
「本物?」
「ああ。古代の記憶水晶だ。中には、生命魔法の理論と実践が記録されている」
アルベルトが興奮した様子で言った。
「これで、我々の研究が飛躍的に進む!」
「生命魔法って、本当に存在するんですか?」
あかねが尋ねた。
「存在する」
アルベルトが断言した。
「古代文明は、確かに生命魔法を使っていた。死者を蘇らせることができた」
「でも……」
アルベルトの表情が、曇った。
「生命魔法には、大きな代償がある」
「代償?」
「ああ。生命魔法を使うと、術者の命が削られる。一人を蘇らせるために、術者は数年の寿命を失う」
「それに、蘇った者は、完全に元に戻るわけじゃない」
アルベルトが続けた。
「記憶が欠けていたり、体が弱くなっていたり……様々な問題がある」
「だから、古代文明は生命魔法を禁じた。そして、その知識を封印した」
「でも、一部の者が、その知識を求め続けた。そして、文明は滅んだ」
六人は、黙り込んだ。
生命魔法。
それは、禁断の魔法だった。
「でも、なぜ研究所は、生命魔法を研究してるんですか?」
セリアが尋ねた。
「研究と、使用は違う」
アルベルトが説明した。
「我々は、生命魔法を使うつもりはない。ただ、その原理を理解したい」
「生命魔法の原理を理解すれば、治癒魔法の発展に繋がる。病気の治療、怪我の回復」
「それは、人々の役に立つ」
「そうなんですか……」
「ああ。だから、君たちが持ってきてくれた記憶水晶は、非常に貴重なんだ」
アルベルトが、金貨の袋を取り出した。
「これは、追加の報酬だ。金貨十枚」
「こんなに……」
「当然だよ。君たちは、人類の知識を広げる手助けをしてくれた」
アルベルトが微笑んだ。
「本当に、ありがとう」
六人は、研究所を出た。
外は、もう昼過ぎだった。
「やっと、終わったわね」
セリアが、安堵のため息をついた。
「ええ。これで、しばらくゆっくりできるわ」
リーナが笑った。
「まずは、美味しいものを食べましょう」
エルミナが提案した。
「賛成!」
六人は、街の中心部へ向かった。
人々で賑わう広場。
屋台が並び、様々な食べ物の匂いが漂っている。
「何食べる?」
「あ、あそこの焼き鳥、美味しそう」
六人は、屋台で食べ物を買い、広場のベンチで食べた。
焼き鳥、焼きそば、それにスープ。
簡素だが、美味しい。
「久しぶりの街の食事ね」
セリアが、焼き鳥を食べながら言った。
「野営の食事も悪くないけど、やっぱり街の食事は格別よ」
「そうね」
平和な時間。
あかねは、幸せを感じた。
でも、その時――
広場の空気が、変わった。
ざわめきが、広がる。
人々が、空を見上げている。
「何?」
あかねも、空を見上げた。
空から、大きな影が降りてくる。
ワイバーンだ。
そして、その背中には――
「ヴィクター!」
ダリウスが叫んだ。
ワイバーンが、広場に着地した。
人々が、悲鳴を上げて逃げる。
ヴィクターが、ワイバーンから降りた。
黒い外套、腰には剣。
その目は、冷たく光っていた。
「よう、銀の絆」
ヴィクターが、六人を見た。
「それと、ダリウス。久しぶりだな」
「ヴィクター……」
ダリウスが、剣を抜いた。
「何しに来た」
「決まってる」
ヴィクターが笑った。
「生命魔法の情報を手に入れに来た」
「お前たち、記憶水晶を研究所に届けただろ?」
「どうして知ってる……」
「俺には、情報網がある」
ヴィクターが続けた。
「さあ、研究所に案内しろ。そして、記憶水晶を渡せ」
「断る!」
セリアが前に出た。
「あの水晶は、研究のためのものよ。あなたみたいな盗賊には渡さない!」
「盗賊……か」
ヴィクターの表情が、一瞬歪んだ。
「俺は、娘を救いたいだけだ」
「でも、そのやり方は間違ってる!」
あかねが叫んだ。
「生命魔法には、大きな代償があるって聞いたわ。術者の命が削られるって」
「あなたは、自分の命を削ってまで、娘さんを蘇らせたいの?」
「そうだ」
ヴィクターが即答した。
「俺の命など、惜しくない。娘が生き返るなら」
「でも、娘さんは望んでない!」
あかねが続けた。
「父親が命を犠牲にして、自分を蘇らせるなんて!」
「黙れ!」
ヴィクターが叫んだ。
「お前に、何が分かる!」
ヴィクターが、剣を抜いた。
「力ずくで、研究所に行かせてもらう」
「させない!」
六人が、剣と武器を構えた。
周囲には、もう人はいない。
全員、逃げた。
広場には、六人とヴィクターだけ。
そして、ワイバーン。
緊張が、走る。
ヴィクターが、一歩前に出た。
「来い。前回は手加減した。でも、今回は容赦しない」
その瞬間――
衛兵たちが、広場に駆けつけた。
二十人ほど。
「動くな!」
衛兵隊長が叫んだ。
「お前、ヴィクター・ブラッドソーンだな。盗賊団『影の翼』のリーダー」
「王国の命令で、逮捕する」
ヴィクターが、衛兵たちを見回した。
「邪魔だな」
ヴィクターが、空間魔法を唱えた。
「『空間転移――テレポート!』」
ヴィクターとワイバーンの姿が、消えた。
瞬間移動。
衛兵たちが、驚いた表情をしている。
「逃げられた……」
ダリウスが、悔しそうに拳を握った。
「くそ……」
衛兵隊長が、六人に近づいてきた。
「君たち、大丈夫か?」
「はい」
「ヴィクターが、何か言ってたか?」
「記憶水晶を狙ってると……」
セリアが説明した。
「そうか……」
衛兵隊長が、真剣な表情で言った。
「研究所の警備を強化する。君たちも、気をつけろ」
「はい」
衛兵たちが去った後、六人は顔を見合わせた。
「ヴィクター、本気ね」
セリアが呟いた。
「ああ。次は、もっと激しい戦いになる」
ダリウスが言った。
「準備しておけ」
六人は、宿へ戻った。
部屋で、今日のことを話し合った。
「ヴィクター、どうやって私たちが記憶水晶を届けたって知ったのかしら」
エルミナが疑問を口にした。
「情報網があるって言ってたわ」
「スパイがいるのかも」
トムが推測した。
「ギルドか、研究所か……どこかに」
「怖いわね」
あかねが震えた。
「でも、私たちにできることは?」
「警戒することだ」
ダリウスが答えた。
「ヴィクターは、必ずまた来る。その時に備えて、準備しておけ」
六人は、それぞれ考え込んだ。
ヴィクター。
元Aランク冒険者。
圧倒的な実力。
そして、娘を蘇らせるという執念。
どうすれば、止められるのか。
あかねは、窓の外を見た。
夜が、街を包んでいる。
星が、冷たく輝いている。
嵐が、近づいている。
そんな予感がした。
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