第20話 「古代の試練」
重い扉が開き、六人はエルドラの祠の中へ足を踏み入れた。
松明を掲げると、目の前に長い廊下が現れた。
石造りの廊下。天井は高く、幅は五メートルほど。壁には、無数の古代文字と精巧な彫刻が刻まれている。
「すごい……」
あかねが、壁を見つめた。
彫刻には、人々が魔法を使っている様子が描かれている。
空を飛ぶ人、炎を操る人、水を生み出す人。
そして、死者を蘇らせる人。
「これ……生命魔法?」
あかねが、一つの彫刻を指差した。
そこには、横たわる人の上に手をかざす人が描かれている。横たわる人の周りに、光の粒子が浮かんでいる。
エルミナが近づいて、彫刻を調べた。
「おそらくね。古代文明は、本当に生命魔法を使えたのかもしれない」
「でも、なぜ滅んだのかしら」
セリアが疑問を口にした。
「そんなに高度な文明なら……」
「それが謎なんだ」
ダリウスが言った。
「さあ、行くぞ。でも、気をつけろ。この遺跡、千年以上前のものだ。何があってもおかしくない」
六人は、慎重に廊下を進んだ。
足音が、静かに響く。
空気は冷たく、湿っぽい。
五十メートルほど進んだところで、床の石が少し沈んでいるのに気づいた。
「待て」
ダリウスが手を上げた。
「これ、罠だ」
ダリウスが、小石を拾って、沈んだ石の上に投げた。
カチッ。
石が沈むと同時に、壁から矢が飛び出してきた。
シュッ、シュッ、シュッ!
十本以上の矢が、廊下を横切った。
「危ない……」
あかねは、背筋が寒くなった。
もし、踏んでいたら……
「これからは、床をよく見て進め」
ダリウスが指示した。
「沈んでいる石、色が違う石、ひび割れた石。全て、罠の可能性がある」
「分かりました」
六人は、さらに慎重に進んだ。
一歩一歩、床を確認しながら。
十分後、廊下の終わりに大きな扉が見えた。
扉には、複雑な模様が刻まれている。
「これ、開くのかしら」
セリアが、扉を押してみた。
でも、びくともしない。
「鍵がかかってる?」
「いや、違う」
エルミナが、扉の模様を調べた。
「これ、魔法の錠だわ」
「魔法の錠?」
「ええ。特定の魔法を使わないと、開かない」
エルミナが、模様を指でなぞった。
「この模様……火、水、風、地。四大元素ね」
「つまり、四つの魔法を同時に使えば開く?」
「おそらく」
「でも、私は火と水しか使えないわ」
エルミナが困った表情をした。
「風と地は……」
「風なら、俺が使える」
ダリウスが言った。
「地は……誰か使える人いるか?」
五人は、顔を見合わせた。
誰も、地の魔法は使えない。
「どうしよう……」
その時、あかねが思いついた。
「ねえ、この模様、順番に押せばいいんじゃない?」
「順番に?」
「うん。火、水、風、地の順番で」
あかねが、模様を指差した。
「ほら、この順番、自然の循環と同じ。火が燃えて、水が蒸発して、風になって、地に戻る」
「なるほど……」
エルミナが、試してみた。
まず、火の模様に手を当てて、火の魔法を発動。
次に、水の模様に手を当てて、水の魔法を発動。
ダリウスが、風の模様に手を当てて、風の魔法を発動。
最後に、地の模様。
でも、誰も地の魔法が使えない。
「やっぱり、ダメか……」
その時、あかねが前に出た。
「私、やってみる」
「でも、あかね、地の魔法使えないでしょ?」
「使えないけど……でも、試してみたい」
あかねは、地の模様に手を当てた。
そして、集中した。
地の力。
大地のエネルギー。
あかねは、自分の中の魔力を感じた。
そして、それを地の模様に流し込んだ。
すると――
模様が、淡く光った。
「え……」
そして、扉がゆっくりと開いた。
「開いた!」
五人は、驚いた表情であかねを見た。
「あかね、地の魔法使えたの?」
「分からない……でも、何か感じて……」
ダリウスが、あかねを見つめた。
「才能があるのかもな。魔法の」
「そうなのかな……」
六人は、開いた扉の向こうへ進んだ。
そこは、広い部屋だった。
円形の部屋。直径は二十メートルほど。
天井は高く、ドーム状になっている。
部屋の中央には、石の台座があった。
台座の周りには、複雑な魔法陣が描かれている。
そして、台座の上には――
「水晶?」
透明な水晶が、台座の上に浮いていた。
直径三十センチほど。淡く光を放っている。
あかねは、鑑定能力を使った。
『記憶水晶。用途:古代の記憶を保存。内容:生命魔法の理論と実践』
情報が浮かび上がる。
「これ、生命魔法の情報が入ってる!」
「本当か!?」
ダリウスが驚いた。
「これが、ヴィクターが探してるものか」
「おそらく」
セリアが、慎重に台座に近づいた。
「でも、簡単には取れないわね。この魔法陣、何かの防御機構かも」
「どうする?」
「調べてみるわ」
エルミナが、魔法陣を詳しく調べた。
「これは……防御魔法陣ね。水晶を守ってる」
「解除できる?」
「時間がかかるけど……できると思う」
エルミナが、魔法陣の解析を始めた。
十分後。
「よし。解除方法が分かったわ」
エルミナが、魔法陣の特定の場所に魔力を流し込んだ。
すると、魔法陣の光が消えた。
「解除できた!」
セリアが、水晶に手を伸ばした。
そして、水晶を掴んだ。
その瞬間――
ゴゴゴゴゴ……
部屋全体が揺れた。
「地震!?」
「いや、違う!」
ダリウスが叫んだ。
「罠だ!」
轟音と共に、部屋の入口が石の扉で閉ざされた。
ガシャン!
「しまった!」
そして、部屋の四隅から、何かが動き出した。
石でできた、巨大な像。
四体。
高さは三メートル。人の形をしているが、顔はない。
全身が石でできている。
ゴーレムだ。
「Bランクの魔物……」
ダリウスが剣を抜いた。
「しかも、四体……」
ゴーレムたちが、ゆっくりと六人に近づいてくる。
ズシン、ズシン、ズシン。
重い足音が、部屋に響く。
「戦うしかない!」
セリアが叫んだ。
「配置につけ!」
六人は、円陣を組んだ。
ゴーレムが、四方から襲いかかってきた。
セリアが、正面のゴーレムと交戦した。
剣を振るうが、ゴーレムの石の体は硬い。
ガキィン!
火花が散る。
「硬い!」
リーナが、矢を放った。
でも、矢はゴーレムの体に刺さらず、弾かれた。
「矢が効かない!」
エルミナが、魔法を唱えた。
「『火よ、敵を焼け――ファイアランス!』」
炎の槍が、ゴーレムに命中した。
でも、ゴーレムは石でできている。炎は効果が薄い。
「火も効かない!」
トムが、短剣でゴーレムの足を攻撃した。
でも、短剣は跳ね返された。
「どうすれば……」
その時、あかねが鑑定能力を使った。
『石のゴーレム。Bランク魔物。攻撃力:極大。防御力:極大。弱点:核(胸の中心に埋め込まれた魔石を破壊すれば停止する)』
詳細な情報が浮かび上がる。
「弱点は核! 胸の中心にある魔石を壊せば止まる!」
あかねが叫んだ。
「分かった!」
ダリウスが、一体のゴーレムに突進した。
そして、剣を胸の中心に突き刺した。
ガキィン!
石が砕け、中から青い魔石が見えた。
ダリウスが、さらに深く剣を突き刺す。
パリン!
魔石が砕けた。
ゴーレムが、動きを止めた。
そして、崩れ落ちた。
「一体、倒した!」
五人も、同じ戦法を試みた。
セリアが、ゴーレムの攻撃を盾で受け止め、隙を作る。
その隙に、リーナが胸の中心を狙って矢を放つ。
矢が、石を砕き、魔石を露出させる。
エルミナが、魔法で魔石を攻撃。
トムとあかねが、剣と槍で止めを刺す。
連携は、完璧だった。
一体目、倒れる。
二体目、倒れる。
三体目、倒れる。
残るは、最後の一体。
でも、この一体は、他より強かった。
動きが速く、攻撃が重い。
セリアが、ゴーレムの拳を盾で受け止めたが、吹き飛ばされた。
「セリア!」
あかねが駆け寄った。
セリアの盾が、ひび割れている。
「大丈夫……でも、この一体、強い……」
ダリウスが、ゴーレムに斬りかかった。
剣が、ゴーレムの胸を狙う。
でも、ゴーレムは腕で防いだ。
「くっ……」
その時、あかねが思いついた。
「みんな、同時に攻撃して! 全員で、胸の中心を!」
「分かった!」
五人が、ゴーレムを囲んだ。
そして、ダリウスが合図した。
「今だ!」
六人が、一斉に攻撃した。
ダリウスの剣、セリアの剣、リーナの矢、エルミナの魔法、トムの短剣、あかねの槍。
全てが、ゴーレムの胸の中心に集中した。
ガシャン!
石が砕け、魔石が露出した。
そして――
パリン!
魔石が砕けた。
ゴーレムが、動きを止めた。
そして、崩れ落ちた。
「やった……」
六人は、地面に座り込んだ。
全員、疲れ切っている。
「よくやった」
ダリウスが、息を切らしながら言った。
「四体のゴーレム……お前たちの連携、完璧だった」
「ありがとうございます……」
しばらく休憩した後、セリアが立ち上がった。
「水晶を持って、出ましょう」
「ああ」
セリアが、台座の上の水晶を手に取った。
今度は、何も起こらなかった。
「よかった……もう罠はないみたいね」
六人は、閉ざされた入口の扉を調べた。
「開かない……」
「別の出口があるはずだ」
ダリウスが、部屋の壁を調べた。
やがて、隠し扉を見つけた。
「ここだ」
扉を開けると、階段があった。
上へ続いている。
「行くぞ」
六人は、階段を登った。
階段は、長く続いていた。
十分ほど登ると、出口に着いた。
扉を開けると、外だった。
祠の裏側。
夕日が、山々を照らしていた。
「外に出られた……」
あかねは、新鮮な空気を深く吸い込んだ。
「よかった……」
六人は、祠の外で休憩した。
今日の探索は、これで終わり。
明日、街へ戻る。
「水晶、手に入れたわね」
セリアが、水晶を見つめた。
「これで、生命魔法の秘密が分かるかもしれない」
「でも」
ダリウスが、真剣な表情で言った。
「ヴィクターも、この情報を狙ってる。気をつけろ」
「はい」
その夜、六人は祠の近くで野営した。
焚き火を囲みながら、今日のことを振り返った。
「今日、みんな本当によく戦ったわ」
セリアが言った。
「特に、あかね。扉の謎を解いたり、ゴーレムの弱点を見つけたり」
「いえ、みんなのおかげです」
あかねが謙遜した。
「でも、あかね、地の魔法使えたのすごいわよ」
エルミナが言った。
「私も驚いた」
「自分でも、よく分からないんです。でも、何か……感じたんです」
ダリウスが、あかねを見つめた。
「もしかして、お前、特別な才能があるのかもな」
「特別な……」
あかねは、自分の左手首を見た。
紋章。
見えないが、確かに存在している。
この紋章が、自分に何かを与えているのかもしれない。
「明日、街に戻ったら、水晶を研究所に届けるぞ」
ダリウスが言った。
「そして、報酬をもらって、少し休もう」
「そうね」
六人は、焚き火を見つめた。
長い一日だった。
でも、成功した。
生命魔法の情報を手に入れた。
これで、ヴィクターの計画を止められるかもしれない。
あかねは、空を見上げた。
星が、綺麗に輝いている。
明日から、何が起こるのだろう。
不安もある。でも、希望もある。
仲間がいる。
それが、何よりも大きな支えだった。
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