第19話 「遺跡への道」
夜明け前、六人は北門に集合した。
空はまだ暗く、星が輝いている。冷たい風が吹き、息が白い。
「全員揃ったな」
ダリウスが、六人を見回した。
全員、大きな荷物を背負っている。八日間の遠征に必要なもの全て。
「装備は確認したか?」
「はい」
「食料と水は?」
「十分あります」
「よし」
ダリウスが地図を広げた。
「改めて、ルートを確認する」
ダリウスが、地図上の線を指でなぞった。
「今日は、平原を抜けて森に入る。そこで一泊」
「明日は、森を抜けて山道に入る。山の中腹で二泊目」
「明後日、山の奥にある遺跡に到着する」
「分かりやすいわね」
セリアが頷いた。
「ただし」
ダリウスが真剣な表情で言った。
「この山は、魔物が多い。特に、山の奥は危険だ」
「オーガ、ワイバーン、それにもっと強力な魔物も出る」
「気を引き締めていけ」
「はい」
六人は、街を出た。
一日目
北門を出ると、広大な平原が広がっていた。
草原には、様々な花が咲いている。朝露が、キラキラと輝いている。
「綺麗……」
あかねが、思わず呟いた。
「そうね。でも、油断は禁物よ」
セリアが注意した。
「この平原、魔物も出る」
六人は、慎重に進んだ。
二時間ほど歩いた頃、トムが立ち止まった。
「待て。何か来る」
全員が、周囲を警戒した。
草原の向こうから、何かが近づいてくる。
大きな影。四本足。
あかねは、鑑定能力を使った。
『ダイアウルフ。Cランク魔物。群れで行動。数:5匹』
「ダイアウルフ! 五匹!」
あかねが叫んだ。
草原から、五匹の巨大な狼が現れた。
体長は二メートル以上。黒い毛並み。鋭い牙と爪。
「Cランクか……」
ダリウスが剣を抜いた。
「お前たち、戦えるか?」
「やります」
セリアが前に出た。
「私たちで、倒します」
「よし。でも、危なくなったら俺が出る」
五人は、ダイアウルフの群れと対峙した。
五匹が、円を描くように五人を囲む。
「散開するな! 固まって!」
セリアが指示した。
五人は、背中を合わせて円陣を組んだ。
ダイアウルフが、一斉に襲いかかってきた。
セリアが、正面のダイアウルフと交戦した。
剣を振るい、ダイアウルフの爪を防ぐ。
リーナが、矢を放った。
狙いは、右側のダイアウルフの目。
矢が命中し、ダイアウルフが怯む。
エルミナが、魔法を唱えた。
「『氷よ、敵を凍らせよ――アイスランス!』」
氷の槍が、左側のダイアウルフに命中した。
ダイアウルフの動きが、鈍くなる。
トムとあかねが、背後の二匹を相手にした。
トムが短剣で一匹を牽制し、あかねが槍でもう一匹を攻撃する。
戦闘は、激しかった。
でも、五人の連携は完璧だった。
訓練の成果が、発揮されている。
十五分後、五匹のダイアウルフは全て倒れた。
「やった……」
五人は、息を切らした。
「よくやった」
ダリウスが褒めた。
「Cランクの魔物を、五人だけで倒した。成長してる」
「ありがとうございます」
ダリウスが、ダイアウルフの死体を調べた。
「この毛皮、高く売れるぞ。持って帰ろう」
「はい」
五人で、毛皮を剥いだ。
重いが、価値がある。
再び、歩き始めた。
昼過ぎ、平原を抜けて森に入った。
木々が密集し、陽光が遮られる。
「ここで、昼食にしよう」
ダリウスが提案した。
六人は、木陰で休憩を取った。
乾パン、干し肉、それに水。
簡素だが、疲れた体には十分だった。
「ねえ、ダリウスさん」
あかねが尋ねた。
「エルドラの祠って、どんな遺跡なんですか?」
「詳しくは分からない」
ダリウスが答えた。
「ただ、古代の文明が作った祠らしい。何のために作られたのかは、不明だ」
「古代の文明……」
「ああ。今から千年以上前、この大陸には高度な魔法文明があったと言われてる」
ダリウスが説明した。
「でも、ある日突然、その文明は滅んだ。理由は、誰も知らない」
「そして、各地に遺跡が残された」
「エルドラの祠も、その一つ?」
「おそらくな」
エルミナが、興味深そうに尋ねた。
「その文明、どれくらい高度だったんですか?」
「今よりも、遥かに高度だったらしい」
ダリウスが続けた。
「生命魔法、時間魔法、空間魔法。今では失われた魔法を、自在に使えたと言われてる」
「すごい……」
「でも、なぜ滅んだのかしら」
セリアが疑問を口にした。
「そんなに高度な文明なら、滅ぶはずがない」
「それが謎なんだ」
ダリウスが、遠い目をした。
「ある学者は、『禁断の魔法を使いすぎて、自滅した』と言ってる」
「禁断の魔法……」
「生命魔法とか、か?」
「おそらくな」
六人は、黙り込んだ。
生命魔法。
それは、ヴィクターが求めているもの。
そして、エルドラの祠に関係しているかもしれないもの。
「休憩終わり。行くぞ」
ダリウスが立ち上がった。
六人は、再び森を進んだ。
夕方、森の奥で野営地を作った。
テントを張り、焚き火を起こす。
夕食は、あかねとエルミナが作った。
森で採った木の実と、持参した食材を使ったスープ。
「美味しい」
リーナが、スープを飲みながら言った。
「あかねとエルミナの料理、いつも美味しいわね」
「ありがとう」
夕食後、見張りの順番を決めた。
最初はダリウスとセリア。次はエルミナとトム。最後はリーナとあかね。
深夜、リーナとあかねの見張りの時間になった。
二人は、焚き火の前に座り、周囲を警戒した。
森の夜は、静かだった。
時々、遠くで動物の鳴き声が聞こえる。
「ねえ、あかね」
リーナが小声で言った。
「ん?」
「私、不安なの」
「何が?」
「これから、遺跡に行くでしょ。そこで、何が待ってるか分からない」
リーナが、弓を抱きしめた。
「もし、私たちじゃ太刀打ちできない敵がいたら……」
「大丈夫よ」
あかねが励ました。
「ダリウスさんもいるし、私たちも強くなった」
「そうだけど……」
「それに、私たち、家族でしょ? 何があっても、一緒よ」
「あかね……」
リーナが微笑んだ。
「ありがとう。元気出た」
「どういたしまして」
二人は、しばらく無言で焚き火を見つめた。
「でもね」
リーナが続けた。
「あかねも、不安でしょ?」
「え?」
「分かるわよ。顔に出てる」
リーナが笑った。
「あかね、心配性だから」
「そう……かな」
あかねは、正直に答えた。
「うん。不安。遺跡に、何があるのか。ヴィクターが来るのか。私たち、無事に帰れるのか」
「でも、みんながいるから、頑張れる」
「そうね。私も同じ」
二人は、微笑み合った。
二日目
朝早く、六人は出発した。
森を抜け、山道に入る。
道は険しく、急な坂道が続く。
岩がゴツゴツしていて、足を滑らせないように注意が必要だ。
「きつい……」
あかねが、息を切らした。
「もう少しよ。頑張って」
セリアが励ました。
午前中、順調に登っていた。
しかし、昼近く、トラブルが起きた。
崖沿いの細い道を進んでいた時、突然、岩が崩れた。
「危ない!」
ダリウスが叫んだ。
全員、急いで避けた。
でも、トムが足を滑らせた。
「うわっ!」
トムが、崖から落ちそうになった。
「トム!」
あかねが、咄嗟にトムの手を掴んだ。
「あかね……」
「大丈夫! 離さないから!」
でも、トムの体重で、あかねも引きずられそうになる。
「セリア! 手伝って!」
セリアが駆け寄り、トムのもう片方の手を掴んだ。
二人で、トムを引き上げる。
ダリウスも加わり、三人でようやくトムを崖の上に引き上げた。
「助かった……」
トムが、地面に座り込んだ。
「ありがとう、あかね、セリア」
「どういたしまして」
あかねも、座り込んだ。
心臓が、激しく鳴っている。
「危なかったわね」
エルミナが、心配そうに言った。
「これからは、もっと気をつけましょう」
「ああ」
しばらく休憩した後、再び歩き始めた。
今度は、より慎重に。
午後、魔物に遭遇した。
オーガだ。
二匹。
「Bランクの魔物が、二匹……」
セリアが、緊張した。
「俺も出るぞ」
ダリウスが前に出た。
「お前たちは、一匹を相手にしろ。もう一匹は、俺が倒す」
「分かりました」
五人は、一匹のオーガと戦った。
ダリウスは、もう一匹を相手にした。
ダリウスの剣技は、圧倒的だった。
オーガの攻撃を、全て避けながら、確実にダメージを与えていく。
五分で、ダリウスのオーガは倒れた。
五人の方は、まだ戦っている。
でも、優勢だった。
セリアが前衛で引きつけ、リーナが弱点を狙い、エルミナが魔法で支援し、トムとあかねが側面から攻撃する。
十分後、五人のオーガも倒れた。
「よくやった」
ダリウスが褒めた。
「二匹目のオーガ、前より速く倒せたな」
「はい。連携が、良くなってきました」
夕方、山の中腹で野営した。
この日は、全員疲れ切っていた。
特に、トムは崖から落ちそうになったショックが残っていた。
「大丈夫?」
あかねが、トムに尋ねた。
「ああ。ありがとう、あかね。助けてくれて」
「どういたしまして。家族だもん」
「家族……そうだな」
トムが微笑んだ。
その夜、六人は焚き火を囲んで座った。
「明日、遺跡に着く」
ダリウスが言った。
「最後の確認だ。遺跡に入る前に、注意事項を言っておく」
六人が、真剣な表情で聞いた。
「一つ。遺跡には、罠がある可能性が高い。床、壁、天井。全てに注意しろ」
「二つ。魔物が棲息している。どんな魔物がいるか、分からない」
「三つ。ヴィクターが先に来ている可能性もある。もし遭遇したら、すぐに逃げろ」
「四つ。何があっても、パニックにならない。冷静に、判断しろ」
「分かりました」
「よし。じゃあ、今夜は早めに休め。明日に備えて」
三日目
朝、六人は早くから出発した。
山の奥へ、さらに進む。
道は、ほとんどなくなっていた。
獣道を辿り、岩場を登り、崖を越える。
昼過ぎ、ついに目的地に到着した。
山の奥、切り立った崖の中腹に、古い建造物が見えた。
石造りの建物。苔むし、蔦が絡まっている。
でも、その姿は荘厳だった。
高さは二十メートルほど。幅は三十メートル。
正面には、大きな門がある。門には、古代文字が刻まれている。
「あれが……エルドラの祠」
あかねが、息を呑んだ。
「すごい……」
六人は、慎重に祠に近づいた。
周囲には、魔物の気配はない。
静かすぎるくらい、静かだった。
「気をつけろ」
ダリウスが警告した。
「静かすぎる。何かある」
六人は、祠の門の前に立った。
門には、古代文字が刻まれている。
あかねは、鑑定能力を使った。
『古代文字。翻訳:「生命の探求者よ、ここに眠る秘密を求めるなら、覚悟せよ。代償なくして、真実は得られず」』
情報が浮かび上がる。
「これ……」
あかねが、翻訳を伝えた。
「代償……か」
ダリウスが、門を見つめた。
「覚悟は、あるか?」
五人は、顔を見合わせた。
そして、頷いた。
「あります」
「よし。じゃあ、入るぞ」
ダリウスが、門を押した。
ギィィィ……
重い音を立てて、門が開いた。
中は、暗闇だった。
松明の光だけが、頼りだった。
六人は、エルドラの祠の中へ、足を踏み入れた。
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