第18話 「それぞれの決意」
ヴィクターとの戦闘から、二日が経った。
五人は、それぞれ違う形で敗北を受け止めていた。
朝、セリアは一人で訓練場にいた。
剣を振る。一撃、二撃、三撃。
でも、力が入らない。
あの時のことが、頭から離れない。
ヴィクターの圧倒的な強さ。
自分の攻撃が、簡単に防がれた。
そして、吹き飛ばされた。
「くっ……」
セリアは、剣を地面に突き刺した。
「何やってるんだ、私は……」
貴族の娘として育った。剣術を習い、戦い方を学んだ。
冒険者になってからも、訓練を怠らなかった。
でも、足りない。
全然、足りない。
「もっと……もっと強くならないと……」
その時、後ろから声がした。
「自分を責めるな」
振り返ると、ダリウスが立っていた。
「ダリウスさん……」
「お前は、十分頑張った。ヴィクターに勝てなかったのは、お前のせいじゃない」
「でも……」
「あいつは、元Aランクだ。俺でも、勝てるかどうか分からない」
ダリウスが、セリアの隣に座った。
「お前、昔の俺に似てる」
「昔の……?」
「ああ。俺も、若い頃は自分を責めてた。勝てない敵がいると、自分が弱いせいだと思ってた」
ダリウスが、遠い目をした。
「でも、ヴィクターが教えてくれた」
「ヴィクターが?」
「『強さとは、一人で背負うことじゃない。仲間と共に戦うことだ』って」
ダリウスが微笑んだ。
「あいつ、昔はいい奴だったんだ」
「そうなんですか……」
「ああ。だから、今のあいつを見るのは辛い」
ダリウスが立ち上がった。
「お前は、一人じゃない。仲間がいる。それを忘れるな」
「はい」
昼、リーナは武器屋にいた。
新しい矢を見ている。
でも、どれも同じに見える。
「お嬢さん、何かお探しで?」
店主が声をかけてきた。
「強い矢が欲しいんです」
「強い矢?」
「はい。どんな敵にも、効く矢」
リーナが、真剣な表情で言った。
「私の矢が、全然効かない敵がいたんです」
「ふむ……」
店主が、奥から一本の矢を持ってきた。
「これはどうかな。魔力を帯びた矢だ」
矢の先端が、淡く光っている。
「これは……」
「魔力を帯びた鉱石で作った矢だ。普通の矢より遥かに強力だ」
「でも、高いでしょ?」
「ああ。一本、金貨一枚だ」
「金貨一枚……」
リーナは、懐を確認した。
銀貨が五十枚ほど。金貨には届かない。
「すみません、また今度で……」
リーナは、店を出た。
外で、深いため息をついた。
「お金が足りない……」
その時、トムが通りかかった。
「リーナ、どうした?」
「トム……なんでもない」
「嘘だろ。顔に書いてある」
トムが笑った。
「話してみろよ」
リーナは、事情を話した。
「なるほどな」
トムが考え込んだ。
「じゃあ、もっと稼げばいいんだ」
「でも、どうやって?」
「依頼をこなす。高額な依頼を」
「でも、危険な依頼ばかりよ」
「それでも、やるしかない」
トムが、真剣な表情で言った。
「俺たち、強くならないといけない。そのためには、いい装備も必要だ」
「そうね……」
リーナは、決意した。
「頑張るわ」
夕方、エルミナは図書館にいた。
魔法の本を読んでいる。
高位魔法、禁呪、秘術。
様々な魔法の記述を探している。
「もっと強力な魔法があれば……」
エルミナは、焦っていた。
自分の魔法が、ヴィクターに全く効かなかった。
炎の槍は、空間魔法で消された。
氷の魔法も、簡単に防がれた。
「私の魔法じゃ、足りない……」
その時、隣の席に誰かが座った。
あかねだった。
「あかね」
「エルミナ、何読んでるの?」
「魔法の本。もっと強力な魔法を探してて」
「そう……」
あかねも、本を開いた。
医学の本。
「あかねは?」
「私も、勉強。もっと医学知識を増やしたくて」
二人は、しばらく黙って本を読んでいた。
やがて、エルミナが口を開いた。
「ねえ、あかね」
「ん?」
「私、思ったの。魔法だけじゃ、足りないって」
「どういうこと?」
「魔法使いは、魔法に頼りすぎる。でも、魔法が効かない敵もいる」
エルミナが、本を閉じた。
「だから、他の戦い方も学ばないと」
「例えば?」
「体術とか、武器の使い方とか」
「そうね……」
あかねも、同じことを考えていた。
自分は、槍だけに頼っている。
能力もあるけど、それだけでは足りない。
「じゃあ、一緒に訓練しよう」
あかねが提案した。
「お互いに、足りない部分を補い合おう」
「いいわね」
二人は、微笑み合った。
夜、宿の食堂で五人が集まった。
それぞれ、一日の出来事を話した。
「みんな、考えることは同じね」
セリアが言った。
「もっと強くなりたい」
「ええ」
その時、ダリウスが食堂に入ってきた。
「よう、銀の絆。いいところにいた」
「ダリウスさん」
「ちょっと、いいか?」
ダリウスが、五人のテーブルに座った。
「実は、いい依頼がある」
「依頼?」
「ああ」
ダリウスが、一枚の紙を取り出した。
『特別依頼:古代遺跡の調査
依頼主:王立魔法研究所
報酬:500シルバー+成果報酬
危険度:高
詳細:北の山脈の奥にある古代遺跡『エルドラの祠』を調査せよ。遺跡内部の構造、保管されている物品、魔物の種類を報告すること。Cランク以上推奨』
「古代遺跡……」
あかねが、依頼書を読んだ。
「エルドラの祠……聞いたことない」
「そうだろうな。最近、発見されたばかりだ」
ダリウスが説明した。
「登山家が偶然見つけた。入口だけ確認して、すぐに報告した」
「それで、王立魔法研究所が調査を依頼してきた」
「王立魔法研究所……」
セリアが、その名前に反応した。
「あの、生命魔法を研究してるって噂の?」
「ああ。その研究所だ」
ダリウスが、声を潜めた。
「そして、この遺跡、生命魔法に関係してるらしい」
「本当ですか!?」
五人が、身を乗り出した。
「確証はない。でも、研究所がわざわざ依頼してきたってことは、何か理由があるはずだ」
「つまり……」
「ああ。ヴィクターも、この遺跡を狙ってる可能性が高い」
ダリウスが、五人を見回した。
「だから、先に調査する必要がある」
「でも、Cランク以上推奨って……」
リーナが、不安そうに言った。
「私たち、Dランクです」
「分かってる」
ダリウスが頷いた。
「だから、俺が推薦した。お前たちなら、できる」
「でも……」
「お前たち、強くなりたいんだろ?」
ダリウスが、真剣な表情で言った。
「なら、これはチャンスだ。危険な依頼をこなすことで、実戦経験を積める」
「それに、報酬も高い。五百シルバー。成果次第では、もっと増える」
五人は、顔を見合わせた。
危険だ。でも、やるしかない。
「やります」
セリアが答えた。
「ただし、条件があります」
「条件?」
「ダリウスさんも、一緒に来てください」
セリアが続けた。
「私たちだけじゃ、不安です。Bランクのあなたがいれば、安心できます」
「そうか……」
ダリウスが、少し考えた。
「分かった。一緒に行こう」
「ありがとうございます」
「ただし」
ダリウスが、釘を刺した。
「俺は、あくまでサポートだ。戦闘は、お前たちがメインで行う」
「俺が出るのは、本当に危険な時だけ」
「分かりました」
「よし。じゃあ、準備しろ」
ダリウスが立ち上がった。
「明後日の朝、北門に集合。遺跡までは、片道三日かかる」
「三日……」
「ああ。往復で六日、調査で二日。合計八日間の長期依頼だ」
「分かりました」
ダリウスが去った後、五人は顔を見合わせた。
「八日間……長いわね」
「でも、やるしかないわ」
「そうね」
翌日、五人は準備を始めた。
食料、水、テント、装備。
八日間の長期遠征に必要なものを、全て確認した。
昼、五人は武器屋に行った。
「いらっしゃい」
店主が迎えた。
「すみません、装備の修理をお願いしたいんですが」
セリアが、剣と盾を見せた。
「ああ、結構傷んでるね。直すのに、銀貨十枚かかるよ」
「分かりました」
リーナも、弓を見せた。
「これも、弦を交換したいです」
「弦だけなら、銀貨五枚だ」
「お願いします」
他の三人も、それぞれの武器を修理に出した。
全部で、銀貨三十枚。
痛い出費だが、必要な投資だ。
「明日の夕方に取りに来てくれ」
「ありがとうございます」
次に、薬屋に行った。
オルガの店だ。
「あら、銀の絆の皆さん」
オルガが迎えた。
「お久しぶりです」
「どうしたの?」
「長期の依頼に行くので、薬が欲しいんです」
「長期? どれくらい?」
「八日間です」
「八日間! 大変ね」
オルガが、棚から様々な薬を取り出した。
「治癒薬、解毒薬、それに疲労回復薬。全部で、銀貨二十枚」
「ありがとうございます」
オルガが、薬を包みながら言った。
「気をつけてね。無理はしないで」
「はい」
夕方、五人は宿に戻った。
部屋で、荷物を整理する。
「これで、準備は完了ね」
セリアが、リストをチェックした。
「食料、水、テント、毛布、薬、武器、予備の服、ロープ、松明……全部ある」
「よし」
あかねは、アイテムボックスに予備の物資を入れた。
万が一の時のために。
「明日は、ゆっくり休みましょう」
エルミナが提案した。
「明後日から、長い旅になるから」
「そうね」
その夜、あかねは一人で窓辺に立っていた。
街の明かりを見つめながら、考えていた。
古代遺跡。
生命魔法。
ヴィクター。
様々なことが、繋がっている気がする。
そして、自分の能力のことも。
紋章から授けられた、四つの能力。
アイテムボックス、鑑定、医学知識、聖魔法。
これらは、なぜ自分に与えられたのか。
何か、意味があるのか。
「あかね、まだ起きてるの?」
セリアが、ベッドから声をかけてきた。
「うん。ちょっと、考え事してて」
「何を?」
「色々……」
あかねが、窓を閉めた。
「明日から、大変な旅になるね」
「ええ。でも、みんなで行くから、大丈夫」
セリアが微笑んだ。
「一緒に、頑張りましょう」
「うん」
あかねは、ベッドに入った。
明日から、新しい冒険が始まる。
古代遺跡。
そこには、何が待っているのだろう。
生命魔法の秘密。
ヴィクターの目的。
そして、自分の運命。
全てが、明らかになるかもしれない。
あかねは、目を閉じた。
明日に備えて。
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