第15話 「街の異変」
霧の谷の依頼から、五日が経った。
五人は、順調に依頼をこなしていた。
街の警備、商人の護衛、小型魔物の討伐。Dランクの冒険者として、着実に実績を積んでいった。
そして今日、朝いつものようにギルドへ向かうと、様子が違った。
いつもより人が多い。そして、みんな深刻な表情をしている。
「何かあったの?」
リーナが、周囲を見回した。
冒険者たちが、小声で話している。
「聞いたか? また倉庫が襲われたらしい」
「三件目だろ?」
「ああ。しかも、衛兵が見張ってたのに、やられたんだって」
「衛兵が? どうやって?」
「分からん。気づいたら、衛兵は眠らされてて、倉庫は空っぽだったって」
あかねは、不安になった。
何か、ただの盗賊事件じゃない気がする。
カウンターに行くと、職員も深刻な表情をしていた。
「おはようございます」
「ああ、銀の絆の皆さん。おはようございます」
職員が、疲れた様子で言った。目の下に隈がある。
「実は、街で大きな問題が起きています」
「聞きました。倉庫が襲われているって」
「ええ。もう三件も」
職員が、小声で説明した。
「最初は五日前。南の倉庫街で、一つの倉庫が襲われました。中の物資が全て盗まれました」
「次は三日前。西の倉庫街。やはり、全ての物資が盗まれました」
「そして昨夜。北の倉庫街。衛兵が警備していたのに、やられました」
「衛兵が警備していたのに?」
セリアが驚いた。
「ええ。不思議なことに、衛兵は『眠らされた』と言っています」
「眠らされた?」
「魔法か、薬か。とにかく、衛兵は一瞬で意識を失い、気づいたら朝でした」
職員が、さらに続けた。
「それだけじゃありません。盗まれた物資の量が、尋常じゃないんです」
「どれくらい?」
「一つの倉庫に、少なくとも馬車十台分の物資がありました。それが、一晩で全て消えた」
「馬車十台分……」
トムが驚いた。
「それだけの物資を、一晩で運ぶなんて、不可能じゃないか?」
「そう思うでしょう。でも、事実なんです」
職員が、依頼書を見せた。
『緊急依頼:倉庫街の警備
依頼主:商人ギルド
報酬:150シルバー(成功報酬:+100シルバー)
危険度:中
詳細:夜間の倉庫警備。盗賊の襲撃を防ぎ、可能なら犯人を捕らえよ。注意:犯人は魔法または特殊能力を持つ可能性あり』
「これ、受けますか?」
セリアが、四人を見た。
みんな、頷いた。
「受けます」
「ありがとうございます。今夜、東の倉庫街を警備してください」
職員が地図を広げた。
「南、西、北と来たので、次は東だと予測しています」
「分かりました」
夕方、五人は作戦を練っていた。
宿の部屋で、テーブルを囲んで座る。
「まず、状況を整理しましょう」
セリアが言った。
「犯人は、五日間で三つの倉庫を襲った。毎回、大量の物資を盗んでいる」
「それも、衛兵がいても襲える」
エルミナが付け加えた。
「魔法か、薬で眠らせる能力がある」
「それに、大量の物資を一晩で運べる」
トムが考え込んだ。
「普通じゃないな。何か、特殊な方法を使ってる」
「空間魔法とか?」
リーナが提案した。
「アイテムボックスみたいな」
その言葉に、あかねはドキッとした。
自分のアイテムボックスが思い浮かぶ。
でも、自分じゃない。自分は、そんなことしていない。
「可能性はあるわね」
セリアが頷いた。
「空間魔法を使えば、大量の物資も簡単に運べる」
「でも、空間魔法って、すごく珍しいんじゃない?」
「ええ。使える人は、ほとんどいない」
エルミナが説明した。
「だから、犯人は相当な実力者よ」
「じゃあ、私たちで対応できるかしら」
「やるしかないわ。街の人々が困ってる」
セリアが決意を込めて言った。
「作戦を立てましょう」
五人は、細かく作戦を練った。
配置、合図、対応方法。
全てを、入念に確認した。
夜、五人は東の倉庫街に向かった。
月が雲に隠れ、暗い夜だった。
倉庫街には、いくつもの大きな倉庫が並んでいる。
中には、様々な商品や物資が保管されている。食料、布、金属、武器、魔法の道具。
「ここが、今夜警備する倉庫ね」
セリアが、一番大きな倉庫を指差した。
この倉庫には、高価な魔法の道具が保管されているらしい。
「配置につきましょう」
五人は、それぞれの位置についた。
セリアが正面の入口。リーナが隣の建物の屋根の上。エルミナが裏口。トムが東側の路地。あかねが西側の路地。
互いに見える距離を保ちながら、全方位を警戒する。
夜は、静かに更けていく。
街の明かりは消え、通りには誰もいない。
時折、風が吹き、看板が軋む音がする。
一時間、二時間。
何も起こらない。
でも、五人は集中を切らさなかった。
深夜二時頃、あかねが何かを感じた。
気配。
でも、地上からじゃない。
上から?
あかねは、空を見上げた。
雲の切れ間から、月明かりが差す。
その光の中に、何かが飛んでいる。
大きな影。
鳥? いや、違う。
あかねは、鑑定能力を使った。
『ワイバーン。Bランク魔物。騎乗者:人間×3。目的:倉庫襲撃』
情報が浮かび上がる。
ワイバーンに、人が乗っている!
「みんな! 上よ!」
あかねが叫んだ。
五人が、空を見上げた。
ワイバーンが、急降下してくる。
大きな翼、鋭い爪、長い尾。
背中には、三人の人影。
「ワイバーン!?」
セリアが驚いた。
ワイバーンが、倉庫の屋根に着地した。
ドスン!
衝撃で、屋根が軋む。
背中から、三人の人間が降りた。
黒い服、顔を覆うマスク、武器。
「盗賊だ!」
セリアが剣を抜いた。
でも、盗賊たちの動きは速かった。
一人が、何かを投げた。
小さな瓶。
瓶が地面に落ちて割れると、紫色の煙が広がった。
「煙!?」
あかねは、反射的に息を止めた。
でも、他の四人は吸ってしまった。
「うっ……」
セリアが、膝をついた。
リーナ、エルミナ、トムも、次々と倒れていく。
「みんな!」
あかねは、煙の中を走った。
息を止めたまま。
でも、盗賊たちは既に倉庫の中に入っていた。
あかねは、倉庫の扉に駆け寄った。
中から、光が漏れている。
魔法の光。
そして、大量の物資が、次々と消えていく。
空間魔法だ。
あかねは、中に入ろうとした。
でも、その時。
「おい、まだ一人いるぞ」
盗賊の一人が、あかねに気づいた。
「小娘だ。邪魔するな」
盗賊が、あかねに向かって攻撃してきた。
短剣を振りかざす。
あかねは、短槍で受け止めた。
ガキン!
金属音が響く。
「やるな」
盗賊が、さらに攻撃してくる。
あかねは、必死に防いだ。
でも、相手は強い。
あかねよりも、遥かに経験豊富。
攻撃の一つが、あかねの腕を掠めた。
血が流れる。
「くっ……」
その時、倉庫の中から声が聞こえた。
「もういい。撤退するぞ」
「了解」
盗賊が、あかねを突き飛ばした。
あかねは、地面に倒れた。
盗賊たちは、ワイバーンに飛び乗った。
そして、空へ飛び立った。
あっという間に、闇の中に消えていった。
「待って……」
あかねは、立ち上がった。
でも、もう遅い。
あかねは、倉庫の中を見た。
物資が、半分以上なくなっていた。
そして、倒れている四人のもとへ走った。
「みんな! 大丈夫!?」
セリアを揺さぶる。
でも、起きない。
眠っている。
あかねは、オルガからもらった解毒薬を取り出した。
四人に、飲ませる。
数分後、四人が目を覚ました。
「うう……何が……」
セリアが、頭を押さえた。
「煙に、眠らせる薬が入ってたんだと思う」
あかねが説明した。
「盗賊たちは、ワイバーンに乗って逃げた」
「ワイバーン……」
セリアが、悔しそうに拳を握った。
「逃がしてしまった……」
「でも、顔は見たわ」
あかねが言った。
「マスクをしてたけど、体格とか、動きとか、覚えてる」
「そうか……」
五人は、倉庫の被害を確認した。
物資の半分以上が、盗まれていた。
翌朝、ギルドで報告した。
職員と、商人ギルドの代表が、深刻な表情で聞いていた。
「ワイバーンに乗って……」
商人ギルドの代表が、呟いた。
「それは、予想外だった」
「すみません。防げませんでした」
セリアが頭を下げた。
「いや、君たちのせいじゃない」
代表が首を横に振った。
「ワイバーンに乗った盗賊なんて、誰も予想できない」
「それに、君たちがいなければ、全ての物資が盗まれていた」
職員が付け加えた。
「半分は守れたんです。それは、評価に値します」
「ありがとうございます」
「報酬は、予定通りお支払いします」
代表が、銀貨の袋を渡した。
百五十シルバー。
「それと」
代表が続けた。
「この事件、もっと大きな陰謀がある気がします」
「陰謀?」
「ええ。ワイバーンを手なずけ、空間魔法を使い、大量の物資を盗む。これは、普通の盗賊団じゃない」
代表が、地図を広げた。
「しかも、盗まれた物資には、ある共通点があります」
「共通点?」
「全て、魔法に関係するものです。魔法の道具、魔力を帯びた鉱石、魔法薬の材料」
「つまり……」
「誰かが、大量の魔法関連物資を集めている」
代表が、深刻な表情で言った。
「何か、大きなことを企んでいる可能性があります」
あかねは、不安になった。
大きなこと。
それは、何だろう。
「今後も、警戒を続けてください」
代表が言った。
「そして、もし何か分かったら、すぐに報告を」
「分かりました」
ギルドを出ると、五人は複雑な表情をしていた。
「逃がしてしまった……」
セリアが、悔しそうに呟いた。
「仕方ないわ」
エルミナが励ました。
「相手は、私たちの想像以上だった」
「でも、次は負けない」
リーナが、拳を握った。
「そうね」
その時、一人の男性が、五人に近づいてきた。
三十代くらい。黒い服、剣を腰に下げている。顔には鋭い目つき。
「君たちが、銀の絆か」
「はい。何か?」
セリアが警戒した。
「俺は、ギルドのBランク冒険者、ダリウス」
男が自己紹介した。
「昨夜の事件、聞いたぞ。よく戦った」
「ありがとうございます」
「それで、一つ教えてやる」
ダリウスが、声を潜めた。
「あの盗賊団、『影の翼』と呼ばれてる」
「影の翼……」
「ああ。裏社会で有名な盗賊団だ。リーダーは、元Aランク冒険者」
「元Aランク……」
五人は、驚いた。
「そんな相手に、君たちDランクが勝てるわけがない」
ダリウスが続けた。
「今後、もしあの盗賊団に遭遇したら、逃げろ。戦っても、勝てない」
「でも……」
「命が大事だ。覚えておけ」
ダリウスは、そう言って去っていった。
五人は、しばらく黙っていた。
「元Aランク……」
あかねが呟いた。
「私たち、そんな相手と戦ったの?」
「そうみたいね」
セリアが深刻な表情で言った。
「でも、次はもっと準備して挑む」
「ええ」
五人は、決意を新たにした。
この街に、大きな陰謀が渦巻いている。
それを止めるために、もっと強くならなければならない。
パーティ『銀の絆』として。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




