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不合格から始まる聖医の絆 ―踏切を越えた先、異世界で命を繋ぐ―  作者: ねこあし


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第16話 「強さへの渇望」

 「影の翼」との遭遇から、三日が経った。


 五人は、いつもより早くギルドの訓練場に来ていた。


 朝の空気は冷たく、息が白い。でも、五人の目は燃えていた。


「もっと強くならないと」


 セリアが、剣を振りながら呟いた。


「あの時、私たちは何もできなかった。眠らされて、倒れて、見ているだけだった」


「次は違う」


 リーナが、弓の弦を引きながら言った。


「次は、絶対に負けない」


 あかねは、短槍を構えた。


 あの夜のことを思い出す。


 一人で盗賊と戦った時の恐怖。


 仲間が倒れている無力感。


 でも、同時に感じたこともあった。


 自分は、まだまだ弱い。


 もっと、強くならないといけない。


「あかね、行くわよ」


 セリアが、木剣を構えた。


 あかねは、短槍で迎え撃つ。


 ガキン、ガキン、ガキン。


 木と木がぶつかる音が、訓練場に響く。


 セリアの攻撃は速く、重い。


 あかねは、必死に防ぐ。


 でも、押され気味だ。


「まだまだ! もっと速く!」


 セリアの攻撃が、さらに激しくなる。


 あかねは、鑑定能力を使おうとした。


 でも、やめた。


 セリアが言っていた。


『能力に頼りすぎるな。基礎が大事』


 あかねは、自分の目と体で、セリアの動きを読もうとした。


 セリアの呼吸、体の傾き、剣の軌道。


 全てを、観察する。


 そして、次の攻撃を予測した。


 右からの横薙ぎ!


 あかねは、槍で受け流した。


 完璧なタイミング。


「いいわ!」


 セリアが笑った。


 でも、攻撃は止まらない。


 さらに速く、さらに激しく。


 あかねは、限界まで追い込まれた。


 そして、ついに――


 ガッ!


 セリアの木剣が、あかねの防御を破った。


 あかねは、地面に倒れた。


「くっ……」


「お疲れ様」


 セリアが、手を差し伸べた。


「でも、最後の受け流し、良かったわよ。能力を使わずに、私の攻撃を読んだ」


「ありがとう……」


 あかねは、セリアの手を取って立ち上がった。


「でも、まだ足りない」


「ええ。もっと強くならないと」


 昼、五人はギルドの食堂で昼食を取っていた。


 疲れ切っているが、誰も弱音を吐かない。


「聞いた? また倉庫が襲われたらしいわ」


 隣のテーブルの冒険者が話している。


「また? 影の翼か?」


「らしい。今度は、南の倉庫街」


「衛兵は何してるんだ」


「何もできないんだろ。相手はワイバーンに乗ってるんだから」


 あかねは、その会話を聞いて歯ぎしりした。


 また、盗まれた。


 自分たちが止められなかったから。


「あかね、自分を責めないで」


 エルミナが、優しく言った。


「私たちのせいじゃないわ」


「でも……」


「次は、止める。そのために、訓練してるんでしょ?」


「そうね」


 その時、一人の男性が、五人のテーブルに近づいてきた。


 ダリウスだ。


「よう、銀の絆」


「ダリウスさん」


 五人が挨拶した。


「訓練、見てたぞ」


 ダリウスが椅子に座った。


「いい動きだ。特に、あかね。最後の受け流し、見事だった」


「ありがとうございます」


「だが」


 ダリウスの表情が、真剣になった。


「まだ足りない。影の翼と戦うには、今の実力じゃ無理だ」


「分かっています」


 セリアが、拳を握った。


「だから、訓練してるんです」


「訓練だけじゃ、足りない」


 ダリウスが続けた。


「実戦経験が必要だ。それも、強敵との」


「でも、どうやって……」


「俺が、手配してやる」


 ダリウスが微笑んだ。


「明日から、俺の特訓を受けろ。基礎から、実戦まで、全部教えてやる」


「え?」


 五人は驚いた。


「でも、なぜ?」


「この街を守るためだ」


 ダリウスが真剣な表情で言った。


「影の翼は、危険だ。あいつらを放置すれば、街はめちゃくちゃになる」


「だから、強い冒険者が必要なんだ。お前たちには、その素質がある」


 ダリウスが、五人を見回した。


「特に、お前たちの連携は素晴らしい。磨けば、Bランクにも届く」


「Bランク……」


「ああ。だから、俺が鍛えてやる」


 ダリウスが立ち上がった。


「明日の朝、日の出前に街の北門に来い。遅れるな」


 ダリウスは、そう言って去っていった。


 五人は、顔を見合わせた。


「Bランクの冒険者が、私たちを鍛えてくれるなんて……」


「チャンスよ」


 セリアが決意を込めて言った。


「このチャンスを、逃してはいけない」


「そうね」


 翌朝、日の出前。


 五人は、北門に集まっていた。


 空はまだ暗く、星が輝いている。


「寒いわね……」


 リーナが、震えながら言った。


「でも、これも訓練のうちよ」


 エルミナが励ました。


 しばらくすると、ダリウスが現れた。


「よく来た。遅刻者なし、か。いいぞ」


 ダリウスが、荷物を背負っている。大きな袋と、剣。


「じゃあ、行くぞ」


「どこへ?」


「北の山だ。そこで、一週間訓練する」


「一週間!?」


「ああ。文句を言うな」


 ダリウスが歩き始めた。


 五人は、慌てて後を追った。


 北の山へ向かう道は、険しかった。


 でも、霧の谷へ行った時よりは楽だった。


 二時間ほど歩いて、山の中腹に着いた。


 そこには、小さな平地があった。


「ここが、訓練場だ」


 ダリウスが荷物を降ろした。


「まず、テントを張れ。ここで一週間、寝泊まりする」


「了解」


 五人で、テントを張った。


 それから、ダリウスが説明を始めた。


「今日から一週間、お前たちを徹底的に鍛える」


「午前中は、基礎訓練。走り込み、筋トレ、体幹トレーニング」


「午後は、実戦訓練。森で魔物と戦う」


「夜は、戦術訓練。戦い方、連携、弱点の見極め方を教える」


 ダリウスが、五人を見回した。


「厳しいぞ。ついてこれるか?」


「やります」


 セリアが即答した。


「よし。じゃあ、早速始めるぞ」


 ダリウスが指を指した。


「まず、あの山の頂上まで走れ」


 五人が見上げると、遥か上に山頂が見えた。


「え……あそこまで?」


「ああ。往復だ」


「往復!?」


「文句を言うな。行け」


 五人は、走り始めた。


 急な坂道。岩がゴツゴツしている。


 息が上がる。足が重い。


 でも、止まらない。


 一時間後、山頂に着いた。


「やっと……着いた……」


 あかねは、地面に座り込んだ。


「でも、まだ半分よ」


 セリアが、下を見た。


「下るのも、大変」


 下山は、登りよりも難しかった。


 足を滑らせないように、慎重に。


 一時間半後、ようやく訓練場に戻った。


「遅い」


 ダリウスが、腕を組んで待っていた。


「二時間半もかかるなんて。戦場じゃ、それで命取りだぞ」


「すみません……」


「まあいい。今日が初日だからな」


 ダリウスが、次の指示を出した。


「次は、筋トレだ。腕立て伏せ百回、腹筋百回、スクワット百回」


「百回!?」


「できるまで、飯抜きだ」


 五人は、必死で筋トレをした。


 腕が震える。腹筋が痛い。足が限界。


 でも、諦めない。


 夕方、ようやく終わった。


「よくやった」


 ダリウスが、満足そうに頷いた。


「じゃあ、飯にするか」


 ダリウスが、鍋で料理を作った。


 シンプルだが、栄養価の高い食事。


 肉、野菜、穀物。


「美味い……」


 あかねは、涙が出そうになった。


 疲れ切った体に、食事が染み渡る。


「明日から、もっと厳しくなるぞ」


 ダリウスが言った。


「覚悟しろ」


 二日目、訓練はさらに厳しくなった。


 山の往復を二回。筋トレも増量。


 そして、午後は実戦訓練。


「森に行くぞ」


 ダリウスが先導した。


 森の中で、魔物を探す。


 やがて、ゴブリンの群れを見つけた。


 二十匹ほど。


「行け。俺は見てるだけだ」


 ダリウスが木に寄りかかった。


「助けないから、本気で戦え」


 五人は、ゴブリンの群れに挑んだ。


 セリアが前衛で敵を引きつける。リーナが矢を放つ。エルミナが魔法で支援。トムとあかねが、側面から攻撃。


 連携は、以前よりスムーズだった。


 十分後、全てのゴブリンが倒れた。


「まあまあだな」


 ダリウスが評価した。


「でも、動きに無駄がある。もっと効率的に戦え」


 ダリウスが、具体的にアドバイスした。


 セリアの位置取り、リーナの狙うタイミング、エルミナの魔法の使い方、トムとあかねの連携。


 全てを、細かく指摘する。


「次は、もっと強い魔物だ」


 ダリウスが、さらに奥へ進んだ。


 そこには、オーガがいた。


「行け」


 五人は、オーガと戦った。


 ダリウスのアドバイスを思い出しながら。


 セリアが、より効率的な位置取りをする。


 リーナが、ベストなタイミングで矢を放つ。


 エルミナが、魔力を無駄にしない魔法を使う。


 トムとあかねが、完璧な連携で攻撃する。


 以前より、遥かに短い時間で、オーガは倒れた。


「いいぞ」


 ダリウスが初めて、満足そうに笑った。


「成長してる」


 三日目、四日目、五日目。


 訓練は続いた。


 毎日、少しずつ強くなっていく。


 動きが速くなり、判断が的確になり、連携が完璧になる。


 六日目の夜、ダリウスが戦術訓練を始めた。


「明日は、最終試験だ」


「最終試験?」


「ああ。お前たちに、ある魔物を討伐してもらう」


 ダリウスが、地図を広げた。


「この山の北側に、ワイバーンの巣がある」


「ワイバーン!?」


 五人は驚いた。


「ああ。Bランクの魔物だ」


 ダリウスが続けた。


「影の翼が使ってるワイバーンは、訓練されてる。でも、野生のワイバーンも同じくらい危険だ」


「だから、明日、そのワイバーンを倒せ」


「でも……」


「これが、最終試験だ。クリアできれば、お前たちはBランクに匹敵する実力がある」


 ダリウスが、真剣な目で五人を見た。


「できるか?」


 セリアが、他の四人を見た。


 みんな、緊張しているが、目は輝いている。


「やります」


 セリアが答えた。


「よし」


 ダリウスが頷いた。


「じゃあ、作戦を立てるぞ」


 夜遅くまで、五人とダリウスは作戦を練った。


 ワイバーンの特性、弱点、攻撃パターン。


 全てを、細かく確認した。


 七日目の朝。


 五人は、ワイバーンの巣へ向かった。


 ダリウスも同行するが、戦わない。見守るだけ。


 山の北側、崖の中腹に、大きな洞窟があった。


「あそこが、巣だ」


 ダリウスが指差した。


「行け。俺は、ここで待ってる」


 五人は、洞窟に近づいた。


 中から、低い唸り声が聞こえる。


 あかねは、鑑定能力を使った。


『ワイバーン。Bランク魔物。攻撃力:極大。飛行能力:高。弱点:翼の付け根、首』


 情報が浮かび上がる。


「翼の付け根と首が弱点」


 あかねが小声で伝えた。


「了解」


 五人は、洞窟に入った。


 中には、巨大なワイバーンがいた。


 体長は十メートル以上。翼を広げれば、二十メートルはある。


 鋭い爪、強靭な尾、炎を吐く口。


 ワイバーンが、五人に気づいた。


 咆哮!


 地面が震える。


「行くわよ!」


 セリアが叫んだ。


 戦闘が始まった。


 ワイバーンが、炎を吐いた。


 五人は、散開して避ける。


 リーナが、矢を放った。


 狙いは、翼の付け根。


 でも、ワイバーンの鱗が硬く、矢は弾かれた。


「硬い!」


 エルミナが、魔法を唱えた。


「『火よ、敵を貫け――ファイアランス!』」


 炎の槍が、ワイバーンに命中した。


 でも、ワイバーンは炎に強い。効果は薄い。


「火は効かない!」


「じゃあ、物理攻撃で!」


 セリアが、ワイバーンに斬りかかった。


 でも、ワイバーンは尾で払った。


 セリアは、盾で受け止めたが、吹き飛ばされた。


「セリア!」


 あかねが駆け寄った。


「大丈夫?」


「ええ……でも、強い」


 セリアが立ち上がった。


「作戦を変えるわ。トム、あかね、ワイバーンの注意を引いて」


「了解」


 トムとあかねが、ワイバーンの周りを走り回った。


 ワイバーンの注意が、二人に向く。


 その隙に、セリアとリーナが、ワイバーンの背後に回った。


「今よ!」


 リーナが、矢を放った。


 狙いは、翼の付け根。鱗の隙間。


 シュッ!


 矢が、深く刺さった。


 ワイバーンが悲鳴を上げた。


 片方の翼が、動かなくなる。


「飛べなくなった!」


 セリアが、ワイバーンの首に斬りかかった。


 でも、ワイバーンは尾で反撃してきた。


 セリアは、避けきれなかった。


 尾が、セリアに当たった。


 セリアが、地面に倒れた。


「セリア!」


 あかねが駆け寄った。


 セリアの腕が、折れている。


 あかねは、医学知識で確認した。


 単純骨折。でも、重傷だ。


 あかねは、迷った。


 聖魔法を使えば、治せる。


 でも、ダリウスが見ている。


 秘密がバレる。


 でも、セリアを放っておけない。


 その時、セリアが言った。


「大丈夫……治癒薬を……」


 あかねは、オルガからもらった治癒薬を取り出した。


 セリアに飲ませる。


 骨折は治らないが、痛みは和らぐ。


「みんな……私抜きで、倒して」


 セリアが言った。


「でも……」


「行って!」


 あかねは、立ち上がった。


 残りの四人で、ワイバーンと戦う。


 トムが前衛で引きつける。


 リーナが、もう片方の翼を狙う。


 エルミナが、氷の魔法に切り替える。


「『氷よ、敵を凍らせよ――アイスランス!』」


 氷の槍が、ワイバーンに命中した。


 ワイバーンの動きが、少し鈍くなる。


 あかねが、ワイバーンの首を狙った。


 短槍を構え、全力で突進する。


 そして、飛び上がり、槍を突き刺した。


 首の、鱗の隙間に。


 深く、深く。


 ワイバーンが、最後の悲鳴を上げた。


 そして、倒れた。


 静寂。


「やった……」


 四人は、息を切らした。


 そして、セリアのもとへ駆け寄った。


「セリア、大丈夫?」


「ええ……みんな、ありがとう」


 セリアが微笑んだ。


 その時、ダリウスが洞窟に入ってきた。


「よくやった」


 ダリウスが、満足そうに頷いた。


「Bランクの魔物を倒した。お前たちは、合格だ」


「ありがとうございます」


「だが、セリアは怪我をした。すぐに街に戻るぞ」


 ダリウスが、セリアを背負った。


 五人は、山を下りて、街へ戻った。


 街に戻ると、すぐに治療師のもとへ向かった。


 セリアの腕は、魔法で治療された。


 完全に治るには、数日かかるらしい。


「安静にしててね」


 エルミナが心配そうに言った。


「ありがとう。でも、大丈夫よ」


 セリアが微笑んだ。


 その夜、五人はダリウスと共に、宿の食堂にいた。


「一週間、お疲れ様だった」


 ダリウスがグラスを掲げた。


「お前たちは、確実に強くなった」


「ありがとうございました」


「これから、もっと強くなれ」


 ダリウスが続けた。


「影の翼は、まだ活動してる。次に遭遇した時は、勝てるはずだ」


「はい」


 五人は、決意を新たにした。


 これから、もっと強くなる。


 影の翼を止めるために。


 街を守るために。


 パーティ『銀の絆』として。

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