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不合格から始まる聖医の絆 ―踏切を越えた先、異世界で命を繋ぐ―  作者: ねこあし


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第13話 「絆の名」

 Dランクに昇格してから、三日が経った。


 五人は、パーティ名をまだ決めかねていた。


 朝、宿の食堂で朝食を取りながら、その話題になった。


「そろそろ、パーティ名を決めないとね」


 セリアが、パンをかじりながら言った。


「期限は、あと四日」


「どんな名前がいいかしら」


 エルミナが尋ねた。


「強そうな名前? 格好いい名前? それとも、意味のある名前?」


「意味のある名前がいいわね」


 リーナが言った。


「私たちを表すような」


「例えば?」


「うーん……『仲間』とか?」


「シンプルすぎるわ」


 トムが苦笑した。


「『絆』は?」


 あかねが提案した。


「私たち、家族みたいな絆で結ばれてるし」


「絆……悪くないわね」


 セリアが考えた。


「でも、そのままじゃ地味かも」


「じゃあ、『銀の絆』は?」


 エルミナが提案した。


「銀……いいわね。高貴すぎず、でも品がある」


「『銀の絆』か……」


 五人は、その名前を口にしてみた。


「悪くないわね」


「でも、もう少し考えてから決めましょう」


 セリアが言った。


「今日、依頼をこなしながら考えて、夜に最終決定しましょう」


「賛成」


 ギルドに行くと、Dランクの依頼ボードを見た。


 Eランクの依頼とは、明らかに違う。報酬が高く、内容も複雑で危険。


『依頼内容:盗賊団の討伐。報酬:200シルバー。危険度:中』

『依頼内容:魔物の巣の調査。報酬:150シルバー。危険度:中』

『依頼内容:貴重品の運搬。報酬:180シルバー。危険度:中』


「どれも、難しそうね」


 リーナが呟いた。


「でも、報酬が高いわ」


 その時、あかねが一枚の依頼書に目を留めた。


「これは?」


『依頼内容:行方不明者の捜索

 依頼主:商人ギルド

 報酬:100シルバー

 危険度:低

 詳細:商人ギルドの会員が行方不明。最後に目撃されたのは、南の森。手がかりを探し、可能なら救出せよ。行方不明者:アントニオ・ロッシ(28歳、商人)。失踪から三日経過』


「行方不明者の捜索……」


 セリアが依頼書を読んだ。


「危険度は低いけど、報酬も控えめね」


「でも、人命救助よ」


 あかねが言った。


「放っておけない」


「そうね」


 エルミナも同意した。


「それに、Dランクの最初の依頼としては、丁度いいんじゃない? いきなり難しい依頼を受けて失敗するよりは」


「分かったわ。これにしましょう」


 五人は、カウンターで手続きをした。


「行方不明者の捜索ですね」


 職員が説明した。


「依頼主は、商人ギルドのマルコ・ロッシさん。弟さんが行方不明になったそうです」


「詳しい情報は?」


「アントニオさんは、薬草の買い付けに南の森へ行ったそうです。でも、予定の日に戻ってこなかった」


「南の森……」


「ええ。危険度は低いとされていますが、小型の魔物は出ます。気をつけてください」


「分かりました」


 商人ギルドは、街の中心部にあった。


 三階建ての立派な石造りの建物。正面には、天秤の紋章が掲げられている。


 中に入ると、受付の若い女性が迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。ご用件は?」


「冒険者ギルドから来ました。行方不明者の捜索依頼を受けました」


「ああ、お待ちしていました。マルコ様は、二階の執務室におられます。こちらへどうぞ」


 女性が、階段を案内した。


 二階に上がると、広い廊下に何室もの扉が並んでいる。


 一番奥の扉をノックすると、中から声がした。


「どうぞ」


 部屋に入ると、太った中年男性が机に座っていた。


 五十代くらい。豪華な服を着ているが、顔には疲労の色が濃い。目の下には隈がある。


「こちらが、依頼主のマルコ様です」


 受付の女性が紹介した。


「初めまして。冒険者の、セリアと申します」


 セリアが丁寧に挨拶した。


「ああ、来てくれたか……」


 マルコが、疲れ切った表情で立ち上がった。


「すまない、座ってくれ」


 五人は、用意された椅子に座った。


「早速だが、弟のことを話そう」


 マルコが、深いため息をついた。


「弟の名は、アントニオ。私と同じく商人だ。真面目で、優しくて……自慢の弟なんだ」


 マルコの声が、少し震えた。


「三日前、アントニオは南の森に薬草を買い付けに行った。いつもの取引だ。森の入口の村で、村人から薬草を買う」


「でも、その日の夕方になっても戻ってこなかった。翌日も、その次の日も……」


「心配になって、私も森に行ったんだ。でも、村人はアントニオを見ていないと言う」


 マルコが、机の上の地図を広げた。


「この辺りが、南の森だ。森自体は大きくないが、道が複雑で迷いやすい」


「魔物は?」


 セリアが尋ねた。


「小型のものが中心だ。ゴブリン、ファングラット、たまにオオカミ。大型魔物は、ほとんど出ない」


「でも、もし襲われたら……」


 マルコが、顔を覆った。


「弟は、戦闘の訓練を受けていない。ただの商人なんだ」


「分かりました。すぐに捜索します」


 セリアが決意を込めて言った。


「必ず、見つけ出します」


「頼む……」


 マルコが、深く頭を下げた。


「これが、弟の肖像画だ」


 マルコが、一枚の絵を渡した。


 若い男性の顔が描かれている。優しそうな顔立ち。穏やかな目。


「それと、これが弟の馬車の特徴だ」


 マルコが、メモを渡した。


『茶色の馬車。屋根に青い布。側面に『ロッシ商会』の文字』


「分かりました」


 南の森へ向かった。


 街の南門を出て、街道を二時間ほど歩く。


 道中、あかねはトムに話しかけた。


「トム、商人って、一人で森に行くものなの?」


「普通は、護衛を雇うけどな」


 トムが答えた。


「でも、いつもの取引で、しかも危険度の低い森なら、一人で行くこともある」


「コストを抑えるためにね」


「そうか……」


 やがて、森に着いた。


 木々が密集しているが、緑風の森ほど深くはない。陽光が差し込み、明るい雰囲気。


 森の入口には、小さな村があった。


 十軒ほどの家。畑と、家畜小屋。子供たちが遊んでいる。


「ここが、アントニオさんが来るはずだった村ね」


 村の中心にいた老人に話を聞いた。


「三日前、商人の方が来ませんでしたか?」


「三日前?」


 老人が首を傾げた。


「いや、誰も来てないな」


「本当ですか?」


「ああ。この村は小さいから、誰が来たか、すぐ分かる」


 他の村人にも聞いたが、同じ答えだった。


「おかしいわね」


 セリアが考え込んだ。


「アントニオさんは、本当にここに来たのかしら」


「道を間違えた可能性は?」


 エルミナが地図を見た。


「この辺り、いくつか分岐がある」


「じゃあ、その分岐を調べましょう」


 五人は、街道を戻り、分岐点を探した。


 一つ目の分岐。東へ向かう道。これは、別の村へ続く道だった。


 二つ目の分岐。西へ向かう道。こっちは……


「獣道ね」


 リーナが道を見た。


「でも、馬車が通れるくらいの広さはある」


「こっちかもしれないわ」


 五人は、西の道を進んだ。


 森の中へ、深く。


 あかねは、鑑定能力を使いながら、手がかりを探した。


 木々、植物、地面……様々なものを調べる。


 そして、地面に何かを見つけた。


「これ……」


 地面に、馬車の轮の跡があった。


 鑑定する。


『馬車の轮跡。時間経過:約三日。方向:西。特徴:片方の車輪に損傷あり』


 情報が浮かび上がる。


「馬車の跡。三日前のもの。しかも、車輪が損傷してる」


「アントニオさんの馬車かもしれないわ」


 セリアが言った。


「この跡を辿りましょう」


 五人は、轮跡を追った。


 森の奥へ、奥へ。


 木々がどんどん密集してくる。


 三十分ほど進んだところで、轮跡が急に不規則になった。


「ここで、何かあったのかも」


 地面を調べると、馬の足跡が乱れている。


「馬が暴れた跡ね」


「何かに襲われたのかも」


 さらに進むと、轮跡が完全に消えた。


 そして、その先に――


「あった!」


 壊れた馬車があった。


 茶色の馬車。屋根の青い布は破れている。側面には、『ロッシ商会』の文字。


 間違いない。アントニオの馬車だ。


 馬車は、横転していた。荷物は散乱している。薬草の袋が、地面に転がっている。


「でも、人はいない……」


 あかねが周囲を見回した。


「アントニオさんは、どこ?」


「周囲を探しましょう」


 五人で、周囲を捜索した。


 セリアとリーナが北側、エルミナとトムが南側、あかねが東側を探す。


 あかねは、鑑定能力を使いながら、慎重に探した。


 地面、茂み、木々……


 すると、茂みの中に、布の切れ端を見つけた。


 鑑定する。


『布の切れ端。素材:絹。血痕あり。時間経過:約三日』


「血……」


 あかねの心臓が早鐘を打った。


 アントニオさんは、怪我をしている。


「みんな! こっち!」


 あかねが叫んだ。


 四人が駆け寄ってきた。


「何か見つけた?」


「布の切れ端。血がついてる」


「じゃあ、アントニオさんは怪我をして、この辺りを逃げたのね」


 セリアが周囲を見回した。


「血痕の跡を辿りましょう」


 地面を注意深く見ると、所々に血痕が点在していた。


 五人は、その跡を追った。


 茂みを抜け、小川を渡り、岩場を登る。


 やがて、小さな洞窟が見えてきた。


「あそこかも」


 洞窟に近づくと、中から微かな呻き声が聞こえた。


「誰かいる!」


 洞窟の中に入ると、男性が倒れていた。


 肖像画の男性、アントニオだ。


「アントニオさん!」


 あかねが駆け寄った。


 アントニオは、意識が朦朧としていた。額に傷があり、血が固まっている。服は破れ、腕にも傷がある。


 あかねは、医学知識で状態を確認した。


 脱水症状、栄養失調、軽度の脳震盪、腕の裂傷、軽い感染症。


 かなり衰弱しているが、命に別状はない。


「生きてる」


「良かった……」


 あかねは、アイテムボックスから水筒を取り出した。


 アントニオの口に、水を含ませる。


 しばらくすると、アントニオが目を開けた。


「う……ん」


「大丈夫ですか? 私たち、冒険者です」


「冒険者……」


 アントニオが、安堵の表情をした。


「助かった……もう、だめかと思った……」


「何があったんですか?」


「馬車が……襲われたんだ」


 アントニオが、弱々しく話し始めた。


「森に入って、しばらく進んだところで……盗賊に」


「盗賊?」


「ああ。三人組の盗賊。馬を奪われて、荷物も全部……」


 アントニオの声が震えた。


「抵抗したんだが、殴られて……気づいたら、馬車は壊れてた」


「それで、ここまで逃げてきたんですね」


「ああ。でも、途中で力尽きて……もう、動けなくなった」


 アントニオが、涙を流した。


「水も食料もなくて……三日間、ここで……」


「もう大丈夫です。今、街に連れて帰ります」


 あかねは、オルガからもらった治癒薬を取り出した。


 アントニオの傷に塗る。


 傷が、少しずつ治っていく。


「すごい……痛みが引いていく」


「もう少しで、完全に治りますよ」


 トムが、アントニオを背負った。


「しっかり掴まっててくれ」


「ありがとう……本当に、ありがとう……」


 五人は、洞窟を出た。


 帰り道、森を抜けようとした時、突然、前方から三人の男が現れた。


 粗末な服、汚れた顔、手には武器。


「盗賊だ!」


 セリアが剣を抜いた。


「お前ら、何者だ?」


 盗賊の一人が叫んだ。


「冒険者よ。道を開けて」


「冒険者だと? ちょうどいい。金を置いていけ」


「断るわ」


 盗賊たちが、武器を構えた。


 剣、斧、弓。


「なら、力ずくだ!」


 盗賊が襲いかかってきた。


 セリアが、剣士の盗賊と交戦した。


 リーナが、弓使いの盗賊を狙った。


 エルミナが、魔法を唱えた。


 あかねは、トムの背中のアントニオを守りながら、短槍を構えた。


 戦闘は、激しかった。


 でも、五人の連携は完璧だった。


 セリアが剣士を圧倒し、リーナの矢が弓使いを射抜き、エルミナの魔法が斧使いを焼いた。


 五分後、三人の盗賊は全員、地面に倒れていた。


「やった」


「この盗賊たち、縛っておきましょう」


 セリアが提案した。


「街に連れて帰って、衛兵に引き渡すわ」


 五人は、盗賊たちを縛り、一緒に連れて帰った。


 街に戻ると、まず衛兵に盗賊を引き渡した。


「ご苦労様」


 衛兵が感謝した。


「この盗賊たち、手配されてた連中だ。報奨金が出るぞ」


「本当ですか?」


「ああ。後日、ギルドに連絡する」


 次に、商人ギルドに向かった。


 マルコが、飛び出してきた。


「アントニオ!」


「兄さん……」


 兄弟は、抱き合った。


 マルコが、涙を流している。


「良かった……本当に良かった……無事で……」


「ごめん、兄さん。心配かけて……」


「いいんだ。無事なら、それでいいんだ」


 しばらくして、マルコが五人に向き直った。


「ありがとう。本当に、ありがとう」


 マルコが、深く頭を下げた。


「これが、約束の報酬だ」


 マルコが、銀貨の袋を渡した。


「それと、これも」


 マルコが、もう一つの袋を渡した。


「ボーナスだ。弟を無事に連れ戻してくれた。それに、盗賊まで捕まえてくれた。本当に感謝している」


「ありがとうございます」


 五人は、嬉しそうに報酬を受け取った。


 合計で、銀貨百五十枚。


「それと」


 マルコが付け加えた。


「今後、私たちの商会で何か必要なものがあれば、特別価格で提供する。いつでも言ってくれ」


「ありがとうございます」


 ギルドに戻り、依頼完了の報告をした。


「お疲れ様でした」


 職員が笑顔で言った。


「依頼主から、最高評価の報告が来ています。それに、衛兵からも、盗賊逮捕の報告が」


「報奨金も、後ほどお支払いします。銀貨三十枚です」


「やった!」


 リーナが喜んだ。


 その時、カウンターの別の職員が、五人を呼んだ。


「セリアさん、ちょっといいですか?」


「はい?」


「実は、指名依頼が来ています」


「指名依頼?」


 あかねは、初めて聞く言葉だった。


「ええ。特定のパーティを指名しての依頼です」


 職員が、一枚の依頼書を見せた。


『依頼内容:薬草採集の護衛

 依頼主:薬師オルガ

 報酬:150シルバー

 危険度:中

 詳細:遠方の森での薬草採集。期間は三日間。パーティ指名:セリア、リーナ、エルミナ、トム、アカネ』


「オルガさん!」


 あかねが驚いた。


 以前、Eランクの時に薬草採集の依頼を受けた、あの薬師だ。


「オルガさんが、あなたたちを気に入ったようですね」


 職員が微笑んだ。


「前回の依頼で、質の高い薬草を採集してくれたこと、それに誠実な仕事ぶりを評価されています」


「どうされますか?」


「受けます」


 セリアが即答した。


「オルガさんには、お世話になったし。それに、指名してくれたのは嬉しい」


「分かりました。では、明日の朝、オルガさんの店に行ってください」


「あ、その前に」


 セリアが言った。


「パーティ名、決めました」


「本当ですか?」


「はい。『銀の絆』」


 セリアが、四人を見た。


 みんな、頷いている。


「私たちは、銀のように輝く絆で結ばれている。だから、『銀の絆』」


「素敵な名前ですね」


 職員が、書類に記入した。


「では、正式に登録します。パーティ『銀の絆』、おめでとうございます」


 五人は、笑顔で手を取り合った。


 その夜、宿の自室で、五人は祝杯を上げた。


「パーティ名が決まったわね」


 セリアがグラスを掲げた。


「『銀の絆』。私たちにぴったりの名前」


「ええ」


 エルミナも微笑んだ。


「この名前を、誇りに思いましょう」


「乾杯!」


 五人は、グラスを合わせた。


 カチンという音が、心地よく響いた。


「明日から、オルガさんの依頼ね」


 リーナが言った。


「三日間の薬草採集。楽しみだわ」


「でも、危険度は中。油断は禁物よ」


 セリアが注意した。


「そうね。しっかり準備しましょう」


 あかねは、窓の外を見た。


 街の明かりが、綺麗に輝いている。


 パーティ『銀の絆』。


 自分たちの名前。


 これから、この名前と共に、冒険していく。


 あかねは、左手首を見た。


 紋章は見えないが、確かに存在している。


 そして、仲間がいる。


 絆で結ばれた、家族のような仲間。


 これから、どんな冒険が待っているのだろう。


 不安もある。でも、期待もある。


 仲間がいる。


 それが、何よりも大きな支えだった。

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