第12話 「昇格への試練」
薬草採集の依頼から、さらに一週間が経った。
五人は、順調に実績を積んでいった。
二日目は、商人の護衛。街から隣の村まで、馬車を守りながら移動した。盗賊の襲撃は一度だけあったが、リーナの矢と、セリアの剣で撃退した。
四日目は、行方不明者の捜索。森で迷子になった子供を探し、無事に見つけ出した。
六日目は、小型魔物の討伐。街の近くに出没するゴブリンの群れを倒した。十匹ほどのゴブリンだったが、五人の連携で難なく倒せた。
そして、今日。
朝、ギルドに行くと、カウンターの職員が五人を見つけて手を振った。
「セリアさん、良い知らせです!」
職員が笑顔で言った。
「あなたたちの実績が認められました。Dランク昇格試験を受ける資格が得られました」
「本当ですか!」
リーナが飛び上がって喜んだ。
「はい。二週間で、十五件の依頼を完了。全て高評価。特に、薬草採集とゴブリン討伐は、最高評価でした」
職員が書類を見せた。
そこには、五人の実績が細かく記録されている。
「素晴らしい成果です。試験は明日です」
職員が、一枚の紙を渡した。
『Dランク昇格試験
日時:明日、午前十時
場所:ギルド訓練場集合
内容:実技試験。詳細は当日発表
注意事項:試験は危険を伴います。怪我のリスクを承知の上、参加してください』
「実技試験……」
セリアが書類を読んだ。
「具体的には、何をするんですか?」
「それは、当日のお楽しみです」
職員が微笑んだ。
「ただ、過去の試験では、魔物討伐や模擬戦闘が多いですね」
「魔物討伐……」
「Dランクに相応しい実力があるか、確認する試験です。簡単ではありませんよ」
職員が真剣な表情で言った。
「実際、合格率は五割程度です」
「五割……」
あかねは、緊張した。
二人に一人は、落ちる。
「でも、あなたたちなら大丈夫でしょう」
職員が励ました。
「グレートベア討伐の実績もありますし」
「ありがとうございます。頑張ります」
五人は、ギルドを出た。
外に出ると、あかねは深呼吸した。
「緊張するね」
「そうね。でも、私たちなら大丈夫よ」
セリアが自信を持って言った。
「グレートベアを倒したんだから。Dランクの試験くらい、問題ないわ」
「そうね」
エルミナも頷いた。
「今日は、早めに休んで、明日に備えましょう」
「そうしましょう」
しかし、宿に帰る途中、カイルに声をかけられた。
「よう、明日試験だって?」
「カイルさん」
セリアが振り返った。
「ええ。Dランクの昇格試験です」
「そうか。頑張れよ」
カイルが微笑んだ。
「ただ、一つアドバイスだ」
「アドバイス?」
「試験は、思ってるより厳しいぞ」
カイルが真剣な表情で言った。
「試験官は、受験者の実力を限界まで試す。油断するな」
「分かりました。ありがとうございます」
「それと」
カイルが付け加えた。
「試験は、個人の実力だけじゃなく、チームワークも見られる。仲間を信じろ」
「はい」
カイルは、そう言って去っていった。
「良い人ね」
リーナが言った。
「ええ。気にかけてくれてる」
エルミナも同意した。
その夜、五人は宿の自室で作戦会議をした。
「明日の試験、どう思う?」
セリアが尋ねた。
「魔物討伐だと思うわ」
エルミナが答えた。
「Dランクの試験で、一番多いパターンだから」
「どんな魔物かしら」
「シャドウウルフか、ゴブリンの大群か……」
「それとも、もっと強い魔物かも」
トムが言った。
「オーガとか」
「オーガ……」
あかねは、その名前を聞いたことがあった。
大型の魔物。身長三メートル以上。力が強く、凶暴。
「オーガだったら、厳しいわね」
セリアが考え込んだ。
「でも、可能性はある」
「どんな魔物が来ても、対応できるようにしましょう」
エルミナが提案した。
「作戦を確認しておくわ」
五人は、様々なパターンの作戦を練った。
小型魔物の群れが来た場合。大型魔物が来た場合。複数の種類の魔物が来た場合。
それぞれの対応を、細かく確認した。
「よし。これで準備は万全ね」
セリアが満足そうに言った。
「明日、頑張りましょう」
「おー!」
五人は、拳を合わせた。
翌朝、五人は早めに起きて、ギルドに向かった。
訓練場には、すでに他の受験者たちが集まっていた。
数えると、四つのパーティ。合計十八人。
みんな、緊張した表情をしている。
「結構、人がいるわね」
リーナが呟いた。
「ええ。でも、全員が合格するわけじゃないわ」
セリアが周囲を観察した。
受験者たちは、様々な装備をしている。
剣士、弓使い、魔法使い、斧使い、槍使い。
その中に、一人目立つ女性がいた。
背が高く、赤い髪。両手に大きな斧を持っている。
「あの人……」
あかねが小声で言った。
「すごい迫力」
「ええ。相当な実力者みたいね」
時間になると、一人の男性が現れた。
四十代くらい。筋肉質で、顔には無数の傷跡。片目に眼帯をしている。Bランクの冒険者らしい、圧倒的な威圧感。
「俺は、試験官のガロン。Bランク冒険者だ」
ガロンが、低い声で言った。
受験者たちが、息を呑んだ。
「今日の試験は、シンプルだ。森に行って、魔物を倒してこい」
ガロンが続けた。
「倒す魔物は、シャドウウルフ。一パーティにつき、最低三匹」
「シャドウウルフ……」
あかねは、その名前に聞き覚えがあった。
東の森を抜ける時に、戦った魔物だ。夜襲ってきた、黒い狼。
「ただし」
ガロンが、鋭い目で受験者たちを見回した。
「条件がある」
「全てのパーティが、同じ森に入る。つまり、競争だ」
受験者たちがざわついた。
「シャドウウルフの数は限られている。早い者勝ちだ」
「それと」
ガロンが付け加えた。
「時間制限は三時間。それ以内に、シャドウウルフの牙を三本以上持ち帰れ。できなければ、不合格だ」
「以上だ。質問は?」
赤髪の女性が手を挙げた。
「他のパーティと戦闘になった場合は?」
「禁止だ」
ガロンが即答した。
「パーティ間の戦闘は、即失格。ただし、魔物を横取りするのは構わん」
「分かりました」
「他には?」
誰も、質問しなかった。
「よし。じゃあ、出発しろ。目指す森は、緑風の森。五分後にスタートだ」
受験者たちは、それぞれ準備を始めた。
武器を確認し、仲間と作戦を練る。
「五分後か……」
セリアが時計を見た。
「急ぎましょう」
「でも、焦っちゃダメよ」
エルミナが注意した。
「冷静に、確実に」
「そうね」
五分後、ガロンが笛を吹いた。
「スタート!」
受験者たちは、一斉に森へ走り出した。
五人は、他のパーティよりも少し遅れて出発した。
「急ぐ必要はないわ」
セリアが冷静に言った。
「みんなが同じ場所に行けば、混乱するだけ」
「そうね。私たち、別のルートで行きましょう」
エルミナが提案した。
五人は、他のパーティとは違う道を選んだ。
緑風の森の東側。あまり人が来ない場所。
「こっちの方が、シャドウウルフがいるかもしれないわ」
森に入ると、木々が密集していた。
前回来た時よりも、深い場所。
「あかね、鑑定できる?」
セリアが尋ねた。
「うん。やってみる」
あかねは、鑑定能力を使った。
周囲の気配を探る。
小動物、鳥、昆虫……様々な生物の気配。
そして、魔物の気配も感じた。
「あっちの方に、何かいる」
あかねが指差した。
「魔物の気配」
「よし、行きましょう」
五人は、慎重に進んだ。
木々の間を抜け、獣道を辿る。
やがて、洞窟が見えてきた。
岩肌に開いた、暗い穴。
「あれ……」
「シャドウウルフの巣かもしれないわ」
セリアが剣を抜いた。
「慎重に近づきましょう」
五人は、洞窟の入口に近づいた。
中からは、獣の匂いがする。
「松明を」
エルミナが魔法で、小さな火球を作った。
それを手に持ち、明かりとする。
洞窟の中は、予想以上に広かった。
奥へ進むと、開けた空間に出た。
天井は高く、壁は湿っている。
そして、そこには――
「うわ……」
トムが呟いた。
十匹以上のシャドウウルフがいた。
大人のシャドウウルフが七匹。子供が五匹。
全員が眠っている。
「多い……」
あかねは息を呑んだ。
「どうする?」
リーナが小声で尋ねた。
「戦うしかないわ」
セリアが決断した。
「でも、一度に全部は無理。起こさないように、少しずつ倒しましょう」
「どうやって?」
「リーナ、一番手前のを狙って。音を立てずに」
「了解」
リーナが弓を構えた。
狙いを定め、息を止める。
そして、矢を放った。
シュッ……
矢が、一匹のシャドウウルフの首に刺さった。
シャドウウルフは、声も出さずに倒れた。
「一匹」
「次」
リーナが、二匹目を狙った。
しかし、この矢は外れた。
矢が、岩に当たって音を立てた。
カチン!
シャドウウルフたちが、目を覚ました。
「まずい!」
一斉に、シャドウウルフたちが襲いかかってきた。
「迎え撃つわよ!」
セリアが前に出た。
五人は、円陣を組んだ。
シャドウウルフたちが、四方から襲いかかる。
セリアが、二匹を相手にした。
剣を振るい、一匹を斬る。
もう一匹が飛びかかってくる。
盾で受け止め、反撃。
リーナが、遠距離から矢を放つ。
一匹、二匹。
確実に、シャドウウルフを射抜いていく。
エルミナが、魔法を唱えた。
「『火よ、敵を焼け――ファイアストーム!』」
炎の嵐が、三匹のシャドウウルフを包んだ。
シャドウウルフたちが、燃え上がる。
トムが、短剣で一匹を倒した。
あかねも、短槍で戦った。
一匹が飛びかかってくる。
あかねは、鑑定能力で動きを予測し、槍を突き出した。
槍が、シャドウウルフの喉に刺さった。
もう一匹が、側面から襲ってくる。
あかねは、槍を抜く暇がなかった。
咄嗟に、格闘技で対応。
シャドウウルフの前足を掴み、小手返しで投げた。
シャドウウルフが地面に叩きつけられる。
その隙に、トムが止めを刺した。
戦闘は、激しかった。
十分後、全てのシャドウウルフが倒れた。
大人七匹、子供五匹。合計十二匹。
「やった……」
五人は、息を切らした。
全身、汗だくだ。
「お疲れ様」
セリアが微笑んだ。
「これで、試験はクリアね」
「牙を回収しましょう」
五人で、シャドウウルフの牙を抜き取った。
大人のシャドウウルフから、十四本。
これで、十分だ。
「帰りましょう」
五人は、洞窟を出た。
ギルドに戻ると、まだ他のパーティは戻っていなかった。
「一番乗りね」
リーナが嬉しそうに言った。
ガロンが、五人を見て驚いた表情をした。
「もう戻ったのか」
「はい」
セリアが、袋に入れた牙を渡した。
ガロンが、牙を一本ずつ確認する。
「シャドウウルフの牙……十四本」
ガロンの目が、少し見開かれた。
「十二匹も倒したのか」
「はい」
「どこで見つけた?」
「森の東側、洞窟の中です」
「洞窟……巣を見つけたのか」
ガロンが感心した。
「大したものだ。普通、巣は見つからない」
「運が良かったんです」
「運だけじゃない。探索能力も高い」
ガロンが頷いた。
「それに、十二匹を全滅させるとは。実力もある」
ガロンが、五人を見回した。
「お前ら、本当に新人か?」
「はい」
「嘘だろ。動きが、Dランクを超えてる」
その時、別のパーティが戻ってきた。
赤髪の女性のパーティだ。
四人組。全員、疲れ切っている。
「戻ったぞ」
赤髪の女性が、牙を渡した。
「三本か。ギリギリだな」
ガロンが確認した。
「まあ、合格だ」
赤髪の女性が、五人を見た。
「あんたら、もう戻ってたのか」
「はい」
「早いな。何匹倒した?」
「十二匹です」
「十二匹!?」
赤髪の女性が驚いた。
「嘘だろ……俺たち、三匹倒すのに二時間かかったのに」
「運が良かったんです」
「運だけじゃねえだろ……」
赤髪の女性が、感心した表情をした。
「あんたら、強いな」
その後、他のパーティも次々と戻ってきた。
三時間後、全てのパーティが戻った。
結果は、四パーティ中三パーティが合格。一パーティは、時間切れで不合格だった。
「では、発表する」
ガロンが、合格者の名前を読み上げた。
「セリア、リーナ、エルミナ、トム、アカネ。合格」
「やった!」
五人は、喜び合った。
「お前らは、特に優秀だった」
ガロンが言った。
「一番早く戻り、最も多く倒した。文句なしの合格だ」
「ありがとうございます!」
職員が、新しいギルドカードを渡した。
カードには、「Dランク」と記されている。
「おめでとうございます」
職員が笑顔で言った。
「これから、より高額な依頼も受けられます。ただし、危険も増えます。気をつけてください」
「はい」
「それと」
職員が付け加えた。
「Dランクになると、パーティ名を登録できます。どうされますか?」
「パーティ名……」
五人は、顔を見合わせた。
「どうする?」
「考えてなかったわね」
「じゃあ、後日でもいいですか?」
「もちろんです。一週間以内に、決めてくださいね」
五人は、ギルドを出た。
外に出ると、青空が広がっていた。
日差しが、心地よい。
「やった! Dランク!」
リーナが飛び跳ねた。
「ええ。みんな、よく頑張ったわ」
セリアが微笑んだ。
「これで、もっと良い依頼が受けられるわね」
「報酬も増えるわ」
エルミナが嬉しそうに言った。
「やっと、まともな生活ができそう」
「そうね」
トムも笑った。
「さて、お祝いしましょう」
セリアが提案した。
「今夜は、豪華な食事よ!」
「賛成!」
五人は、嬉しそうに街を歩いた。
新しいスタート。
Dランク冒険者として。
これから、どんな冒険が待っているのだろう。
不安もある。でも、期待もある。
仲間がいる。
それが、何よりも大きな支えだった。
あかねは、空を見上げた。
青い空、白い雲。
新しい未来が、そこにある気がした。
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