第19話 ③——「〝大天使〟との戦い! 魔眼vs魔眼!!」
この〝天空城〟の首級が待ち受ける——最上階の「天守の間」へと繋がる扉を開き……
「おっと、気をつけてね……その扉を潜った瞬間に戦闘開始になって、あのボス——〝大天使〟が動き出すから、まずは手前から様子見しよっか」
開かれた扉の先——まさに謁見の間といった風情の——広々とした空間にて待ち受けている、その大天使を一目見た瞬間に……怖気が走った。
——っ……三対六枚の翼、頭上には光輪、両手に長槍と盾の武装……全身に金色の魔力を纏いて、まさに神の造形の如き美しさを持つ、最高位の天使……ッ!!
——あれは……このじいやをして、単独では勝ち目のない相手、まごうことなき強敵……!
——城内を彷徨いている普通の天使の時点でそうだったが……あの大天使などはまさに、表の世界の最前線たる〝深層〟ですら、まるで釣り合わぬ……もはや、裏の世界の最前線に出てくる敵と言って相違無し。いわんや、〝中層〟などに出ていい敵ではない……!
——やはり、この〝天空城〟とは……中層にあって中層ではない、それほどに特殊な区域なのでしょうな……。
あの大天使と戦うとなれば——裏の世界で最前線を走り続けてきたと自負している——このじいやですら、あるいは死を覚悟しなければならない……それほどの相手なのであると、歴戦の直感が、そう告げていた。
。
。
。
「えーっと、それじゃあ——すべてのカメラの音声もオフにしたところで——これから、ボス戦前のオフレコ会議をやっていこうか」
配信の音声を切り、視聴者に聞かれない状態を作ったところで——天守の間へと続く扉の前に陣取り、全員が車座になって話し合う。
その会議の中で、まず初めに話し合われたのは……この中の誰が戦いに参加するのか、だった。
「んーまあ、ぶっちゃけ、あの大天使ってかなり強いから……無理強いはしないよ。それこそ、最悪はボクが一人で戦って倒してもいいんだけれど……でも、それだとさすがに味気ないから、参加したいって人には手を挙げてもらえたら嬉しいんだけれどね」
夜叉姫様はそう言うが……今いる面子の中で、実力的に参加できそうな者は——このじいやを除けば——御剣姉妹のお二人くらいしかいないだろう。
「あーしは参加したいっス!」
「ま、あーちゃんならそう言うか。ならアタシも、姉として参戦するしかないねぇ」
事実、やはりというか、声を上げたのはお二人だけだった。
と、思いきや……
「ふむ……実力的に、今の私には参加資格が無いことは重々承知していますが……とはいえ、せっかく賓客として配信にお呼ばれしたというのに、華の大将戦に不参加というのは、いささか沽券に関わるといいますか……忸怩たる思いがありますわね。
であれば……少々、反則的ではありますが、ここは貴方に出てもらうしかないようですわ——
というわけで——出番ですわよ、じいや!」
——っ!?
お、お嬢様っ……?!
「とはいえ……もちろんのこと、私も無理にとは言いませんわ。——もはや私では、あの大天使とじいやのどちらが強いのかも判らないくらいに、実力的に隔絶した領域の話ですから……最終的な判断は、じいやに委ねますわ。
という、それを大前提とした上で……
今ここに、天上院家の令嬢として、我が家に仕える貴方に命じます。
かの大天使を討ち果たし、この私に勝利を捧げなさい……天上院家、筆頭執事——黒鬼紅月」
「……謹んで拝命いたします、神楽お嬢様。この黒鬼、己が身命を賭しても——必ずや、お嬢様に勝利を」
——主命とあらば、是非もなし……
私は隠密を解いて姿を現しつつ、恭しく応じる。
〈ツッコミ番長:ファッ??! いきなり……誰っ??〉
〈やが灰のファンである:ッ……!?! ——その時、無音の会議中に唐突に現れたのは、若い頃はさぞやイケ散らかしていたと思われるイケしぶお爺様なのであった……ってマジで何?? どなた様でっ??!〉
〈地上の視聴隊:あ、貴方様はっ……!! もしや、噂に聞かれし天上院家の筆頭〝裏〟執事——まさかの、そのご本人様であらせられるのではなくてっ……??!〉
いきなり(無音の)画面の中に謎の人物が現れたことで、にわかに視聴者たちが湧き立っているようですが……もはやそれも、考慮するに及ばず。
——そう……たとえそれが、いかな無茶振りであったとしても……
お嬢様の願いとあらば、この黒鬼……万難を排して臨む所存であるからにして。
私が姿を現し、参戦の意を表明したところで……大天使との戦いに挑むのは——私の他に、御剣姉妹のお二人と夜叉姫様という——この四人ということに決まった。
参加者が決まったところで、いよいよ大天使との戦い方についての具体的な作戦会議を行う。
大天使の概要について、夜叉姫様が説明してくださるのを聞き……それを元に対策を練る。
それに加えて、参戦する各々が、お互いの持つ手札を開示して、事前にすり合わせを行っておく。
——もちろん、奥の手や切り札といった秘奥の部分にまで踏み込むわけではないが……これから共闘し連携するに当たっては、可能な限りにおいて、お互いのやり口を知っておくことが望ましいので、明かせる手札は明かしてしまう。
何があっても、最終的には自分がどうにかするので、安心して戦ってほしい——と、そう言って締め括った夜叉姫様のお言葉も……事ここに至っては、素直に受け入れられる。
それが出来る実力が、確かに彼女にはあるのだということについては——話し合いの途中で、彼女が〝開示〟してくれた実力の、そのほんの一端だけでも知ることができた今となっては……もはや疑う余地はなかった。
そうした話し合いを終えたところで、ついに我々が大天使に挑む——その時がやってきた。
配信の音声を戻し——それから、急遽参戦する運びとなった謎の執事たる我が身について、視聴者様方に向けて、お嬢様から直々に大まかな説明をしていただくなどしてから——いよいよ大天使との戦いを始めるにあたり、我々は扉を潜り、決戦の場へと足を踏み入れる。
『“……刻は、来たれり。もはや、一刻の猶予もない。滅びの時は、すぐ目の前に迫っているのだ、人類よ”』
我々の侵入に反応し、宙に浮いたままこちらへと近寄ってくる大天使が——脳内に直接、語りかけてくる。
〈ニートの無職ん:こ、コイツっ、直接脳内にっ!? ——を、マジでやってきてて草 ……いや草じゃないが〉
〈暇人預言者X:この預言者Xを差し置いて、預言めいた世迷言をほざくとは……天理の走狗たる分際で、大きく出たものだな、翼の生えた傀儡め……!〉
〈やがてファンになる:おおおぉおぁぉぉぅっ……知らん言語なのに、なぜか理解できる……な、何コレぇっ!??〉
〈地上の視聴隊:ちょ、ちょっとお待ちになってくださいませんこと……あ、あの……こ、これって……配信を見ているアタクシたちにまで、あの大天使様のチカラが届いているってことじゃあ——ありませんこと???〉
……やはり、あの大天使くらいになると、それくらいの芸当は当たり前のようにやってきますか。
——戦闘に参加せずに観戦するだけのお嬢様やソラス様、そして視聴者様方については……一応はすでに、夜叉姫様が万全の守りを敷いていると仰っていましたが……
いえ——今は戦いに集中しなければ……そちらは夜叉姫様を信じることにしましょう。
『“……滅びを定められてなお、もがき抗う、哀れな人の子らよ……これもまた運命、我が与えし試練を乗り越えてみせよ。
さすれば——あまねくすべてを欲しいままにする……〝究極の至宝〟への道が開かれるであろう”』
と、そこで初めて——ここまでずっと瞑目していた大天使が——閉じられていた目蓋をゆっくりと持ち上げていき……すでに見たことのある、その〝魔眼〟を解放させる。
『“天使の瞳——断罪の魔眼”』
そして、告げる——
『“過ぎたる力は、身を滅ぼす……ゆえに知るがいい、己の身の程を。自らの手で培いしもの……それのみが、真の実力なのだと。
この瞳に射抜かれし、あまねくすべての者に告げる——いまこの時より「〝与えられし力の行使は、その一切を禁じる〟」。
……天与の恩寵とは、過酷な運命に抗わんとする意志の結実であり、悲劇を憂いた大いなる慈悲が齎した恵みである……それを、己の成した功だと驕り高ぶる傲慢には、その不遜に相応しいだけの末路が与えられることだろう——”』
その瞬間——我が身に宿りし【吸血鬼】の能力、そのうちの一つである〝変身〟により、本来の年齢へと変えていた姿が、元に戻ったことで——己が〝天恵〟の力が完全に封じられ、一時的に失われたことを……否応なく理解させられる。
っ——!!?
天恵が——【吸血鬼】の能力が——すべて失われているっ……!?
大天使の魔眼——まさか、これほどとは……っ!
「っ、マジか、アタシの光刃剣が……使えなくなってるぅ!?!」
「うおぅっ!? やべコレ、ガチのヤツじゃん……っ?!」
「っ、まさか【豪華絢爛】が封じられるとは……!!
しかし今、それより何より、最も驚くべきことは——なんですの、それは!? じいや!
いや、もはや貴方はじいやではなくってよ……あれは——あれはまさに、美少年!
なんてこと!? じいやの正体が、まさかの……美少年でしたなんてっ!?!」
〈もっこり助兵衛:ッッッッッ——!!!!! 嘘やろ、やべっ、マジで死ぬっ!! 老年の執事が、実はショタとかっ……そんなん大好物ですありがとうございます案件過ぎて死んでしまう!!!!〉
〈やが灰のファンである:ボス戦はまだ始まったばかりなのに、いきなり盛り上がってきたなァッ……! なんか、ギフトが封じられたとか聞き捨てならないことを言われた気がしたが、しかし突然のショタにすべてを持っていかれてしまったぜッ——!!〉
〈地上の視聴隊:ま、まさかここにきて、ヴンオケが新たな地平を開拓していってるってマジですのぉ!? い、いけませんお嬢様っ! ショタは……ショタ執事はっ、アタクシには効果バツグンなんですのぉ!! んほおおおおおヨダレが止まらねぇんですわぁぁぁぁぁぁ!!!!〉
……初めて迷宮に入り、【吸血鬼】という天恵を授かった——あの時の年齢、あの当時の姿そのままに変わった——いや、戻ったというべきなのでしょうか、これは……
——【吸血鬼】となったその時より、この身は(外見上は)歳を取らなくなった……ゆえに今は〝変身〟の能力によって、生きてきた年相応の見た目に姿を変えていたのですが……
【吸血鬼】が封じられたことで、〝変身〟も解け、本来の姿に戻ってしまった、と……
……まあ、【吸血鬼】が失われたことで、これまで止まっていた分の加齢が一気に降りかかる——なんてことにならなかっただけ、まだしも助かったのかもしれませんが。
観ている視聴者様も含めて、その場には大いなる動揺が広がっている。
——まあ、なぜだか視聴者様に関しては、この私の変化に対する反応が大部分を占めている様子ですが……
しかし、そんな中でもただ一人……夜叉姫様だけは平然とした様子で——相変わらず、あの大天使と瓜二つの姿のまま——その顔に不敵な笑みを浮かべ、余裕の態度で口を開くと、大天使へと大胆不敵に語りかける。
「ははっ、なんだか一気に盛り上がってきたねぇ……! まあ、それはともかく——やあやあ、ボクとそっくりの大天使よ! さっきから聞いてりゃあ……なんだか上から目線に、好き勝手言ってくれてんじゃないの。
やれ——試練を与えるだか、何だか知らないけどさぁ……そこまで言うんなら、自分も試練を与えられるという覚悟があってのことなんだろうね? ねぇ?
ていうか——初手からこっちのギフトを封じるとか、大人げないくらいに本気出してきてるし……このままじゃ、さすがに厳しいかもだから、テコ入れの一環としても……初っ端からブチかましちゃうとしようかな——!
さあ、大天使よ……覚悟はいいかい? ついさっき、キミが傲慢にも振りかざしたものと、まったく同じ魔眼を——今度はその身に喰らってみるがいい!」
そして——夜叉姫様の瞳が、燦然と輝きを放ち……
『“天使の瞳——断罪の魔眼”』
まるで、先ほどの意趣返しかのように——天恵の封印すら成し得る御力を、その元凶へと向かって解き放ってみせるのだった。




