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第19話 ②——「天空城を、ご案内!」



「んじゃいくよ……せーの、さん——はい!」


 夜叉姫(やしゃひめ)様の号令に合わせて、手を繋いだ全員が(透明な階段の上という、なかなかに足場が不安定な)その場で跳び上がる。

 ——(わたくし)もこっそりと、端っこの方で白鳥(しらとり)さんと手を繋いでいた(ひじり)くんの肩に手を置いて、一緒に跳ぶ。

 そして——視聴者(リスナー)から見れば、画面が暗転している間に——夜叉姫様が何かの能力を使ったことで……


『“刻印転移スティグマ・テレポート”』


 我々は一瞬にして、階段の先である〝天空城〟の目の前へと移動していたのであった。


「はーい、到着〜! じゃじゃ〜ん、目の前に見えるデッカいお城が、〝天空城〟だよ。さて、それじゃさっそく、城の中へと入ろっか」


 夜叉姫様が先導して、天空城の入り口へと進んでいき……巨大な城門の前にたどり着いたところで——空中をふわふわと飛行してきて——まるで門番のように、こちらを通せんぼしてくる二人組が現れる。


『むっ……誰かと思えば——なんだ、オマエか』

『おいヤシャヒメ、いきなり現れるもんだからビックリしたぞ。ちゃんと階段を登ってこいよ』

「やあやあ、諸君……今日は一日、フリーパスでお願いするよ。——えっと、ちゃんと話は全員に通ってるんだよね?」

『それは、オマエの持ってきた〝こころづけ〟次第だね』

『ここを通してほしければ、〝キラキラでポリポリ〟か、〝カラフルでモグモグ〟を差し出すのだぁ……!』

「はいはい……〝金平糖〟と〝ゼリービーンズ〟ね。ちゃんと持ってきてるから、他の連中にも大人しくするように言っておいておくれよ」

『おお、これこれ! クセになっちゃう美味しさ!』

『これぞ、堕落したニンゲンの味……うむ、甘露(かんろ)、甘露』


 はたから見れば、夜叉姫様も含めて、そこにはソックリな三人組がいるように見えることだろう。

 ——あれが、天使の魔物(モンスター)……

 ——子供くらいの年齢で、中性的な美少年か美少女かといった見た目は、まさに天使と形容するに相応しい可憐さであるが……

 ——その内に秘めたる実力は……まさに神の使徒の名に相応しいばかり。このじいやをして、決して油断できぬ強さと見える……!

 渡されたお菓子をさっそく美味しそうにぽりぽり食べている愛らしい姿からは、まったく想像もできないほどに高位の魔物(モンスター)であることは、もはや間違いない……

 天使の登場によって、にわかに沸き立つ視聴者たちとは裏腹に——がぜん、警戒心を掻き立てられる。


『にしても——試練に挑みし人の子の他にも、使役された精霊やら魔物もいれば、エリアボスのダークエルフの精神()きに、吸血鬼の()()()()()までいるなんて……やたらとバラエティに()んだ連中だよ』

『まあ、中でも一番変なのはオマエだけどね、ヤシャヒメ。ぼくたちと同じ天使の姿で——しかも、ぼくたちより位階が上ってなんなんだよ? おかけで、どうにもやりにくいったらありゃしない』

『というか、あの吸血鬼もどきもついてくるの? えー、アンデッドなんて城の中に入れたくないなぁ……それにさ、なんかコソコソ隠れてるのって怪しくない? ねぇどうする? 処す? あれ、処した方がいいんじゃない?』


 むっ——いま、こっちを見られたか……!?

 ——っ、さっそく気づかれましたか……やはり、相当な手練(てだれ)のようですな……!

 ——あまり本腰を入れて隠密しては逆に警戒されるかと思い、あえてそれなりに抑えていたのが、むしろ裏目に出ましたかね……

 うぅむ……下手に刺激して襲い掛かれては、お嬢様を守り切れるかどうか……となるとここは、もはや隠密を解いて姿を表すべきか……?!


「おいおい……キミたちの仕事は、この城に入る資格を持つ存在を見極めること、だろう? ボクがちゃんと、この〝天空城の鍵〟を持ってきている時点で、ごちゃごちゃ文句言ってもムダなんだから……というか、何のためにソイツをあげたと思ってるのさ? そんなに文句を言うようなら没収しちゃうよ?

 それと——吸血鬼くんについては、よく見なよ、あれはそういう能力で、中身はちゃんと人間さ。それに彼は……そう、シャイなんだよ、だから、そっとしておいておくれよ。

 それじゃ、ここは通らせてもらうから……余計なことはしないでよ?」

『おっと……せっかくの献上品(オヤツ)を、取り上げられちゃあ(かな)わないね』

『やれやれ……ちょっとした軽口じゃないか、ヤシャヒメ。そうムキになるなよ——ほら、どうぞ。通っていいよ』


 一瞬、警戒心を跳ね上げたのも束の間——夜叉姫様が話をつけてくれたようで、天使たちはあっさりと城の中へと通してくれたのだった。

 

 ——ふぅ……夜叉姫様からは、事前の下見で話を通してあるとは聞いていましたが……とはいえ、このように魔物(モンスター)を素通り出来てしまうと、実際に体験しても信じられない思いですな……。


 巨大な扉を開き、いよいよ入場することになった城の中は……とにかく広大で、とてつもなく豪華に(いろど)られていた。


「これは、これは……さすがは、(わらわ)を倒さねば到達できない城よ。はてさて……この辺りの危険度は、人の使う尺度にして、いかほどのものなのか——感じる圧などは、もはや神域に類するそれじゃが……。

 それにしても……内観もまた、見事なものじゃのう。ここまで素晴らしいと、いっそのこと隅々まで見て回りたくなるというものじゃが……のう? 夜叉姫よ、まずはどこに向かうのじゃ?」

「そりゃあ、城に入ったとなれば……まず最初に行くところは決まってるよね」

「ほう……とすれば、謁見(えっけん)()か!」

「いや、宝物庫だよ」


〈ニートの無職ん:完全に盗人(ぬすっと)の思考回路で草〉


〈MS管理人R:鍵を手に入れてから、各地の城の宝物庫を巡る——RPGゲームあるあるよな笑〉


 夜叉姫様に先導されて、我々が真っ先に向かったのは……城の地下部分にあるという〝宝物庫〟だった。


 奥まった場所に隠されるように存在していた、下へと降りる階段を使い、向かった先にあったのは……厳重に施錠されている頑丈な扉と、それを守るように立ち塞がる——武装した大人の天使だった。


『っげ、オマエ……また来たのか』

「やあ、こないだぶりだね。それで、さっそくだけど——キミには二つの選択肢があるよ。

 一つ——〝こころづけ〟を受け取り、戦わずにボクらを素通りさせる。

 二つ——勝ち目の無い戦いに挑み、下見の時みたいにボコボコにされる。

 ボクはどっちでも構わないけれど……どうする?」

『……前回来た時、オマエは宝箱を調べただけで、なぜか中身は持ち去らなかったな。であれば、前回戦った分の報酬を、今回取りに来たと見做(みな)せば、あるいは——』

「もう、どっちなの? さっさと決めてよ」

『……オマエの実力は、すでに試した。であれば、(ふたた)び戦うこともあるまい。争いを好まず対話を試みてくるならば、なおのこと。さて——手土産があると言ったな、せっかくなので受け取らせてもらおう。その代わりに、こちらも手出ししないことを約束する』

「話が分かるヤツは嫌いじゃないよ……はい、どうぞ」

『ふっ……どうも』


〈浮世の社畜ん:天使語は(わか)らんけど……ひいさまが自分の実力を前面に出したストロングスタイルの交渉をしていることは、なんとなく分かった笑〉


 戦闘を回避して宝物庫の中に入った夜叉姫様は、さっそく一つの宝箱を開けて——閉めて、また開けてを繰り返す。


『くっ……それ、前回もやっていたな。まったく……欲しいものが出ないからといって、そんなことのために、いちいちダンジョンの位相(チャンネル)を何度も切り替えるとは……なんともふざけたヤツだ』


 あれに関しても……何度も経験したことによって、ようやく何が起きているのか、おぼろげにだが(わか)ってきた。

 これは、おそらく——宝箱を開けるたびに、迷宮(ダンジョン)の〝位相(チャンネル)〟そのものを切り替えているのか……。

 

 同じ迷宮(ダンジョン)でも、複数の位相(チャンネル)があるということは、すでに知られていることではある。

 多くの探索者が集まる人気(にんき)迷宮(ダンジョン)でも、内部が人の多さで混雑することがないのは、一定人数ごとに複数の位相(チャンネル)に振り分けられているからだと言われている。

 つまり、同じ迷宮(ダンジョン)の同じ階層でも、異なる位相(チャンネル)に入れば、それぞれが内部で出会うことはないし……配置された宝箱の中身もまた、位相(チャンネル)が変われば別のものになる可能性があるのだ。

 ——とはいえ……探索者自身の手で、迷宮(ダンジョン)位相(チャンネル)を任意に切り替えることを可能にする方法が存在するとは……知らなかった……情報通を自負している、このじいやですら。

 何をやっているのかはおぼろげに推測できても、一体どうやってそんなことを可能にしているのかは相変わらず不明であるし……やはり、夜叉姫様は計り知れないお方だ。


 なんて思っている間にも、夜叉姫様は開け閉め(リセマラ)を終えたようで……出てきたお目当ての品を、ソラス様に渡していた。


「それは次に向かうところで使うからね。それじゃ、サクサク行こう」


 そう言うが早いか、さっそく続いての場所に向かっていく。

 地下から出て、城の中をズンズンと進む夜叉姫様は、道中に出会う、恐ろしくも幼気(いたいけ)な天使をすべて素通り——もとい、〝こころづけ〟を渡して懐柔していく。


「はーい、どうぞ」

『エイメン! 感謝するよ、ヤシャヒメ』

「ほらよ、受け取りな」

『ハレルヤ! 賛美歌を捧げよ!』

「まったく……一匹見たら十匹は出てくるね——そらよ!」

『ゼリービーンズの名の元に……すべての民に祝福を!』

 

 あの数が普通に敵対してきたらと思うと——あのような安物の菓子折り一つで戦闘を避けられるなら、文字通りに安いものだろう……。


「もし、そこの貴方(あぁた)。あるいは、そちらの貴方(あぁた)も。皆様のどちら様か、よろしければ、うちの使役獣(テイモン)になりませんこと? 今なら——豪華三食昼寝付き、いつでもおやつ食べ放題の特別待遇で迎え入れますわよ!」

『おいおいおい——なーんて言ってるけど、どー思う?』

『ふむ……へぇ、彼女、人の子にしては、とても美しく清廉な〝魂の色〟をしているね。この輝きには、天使(ぼく)としても少なからず魅せられるけれど——』

『やめとけやめとけ。このお嬢さんと契約するならともかく……テイマーは、あっちの男だよ』

『彼は——こっちも悪くはないけれど、お嬢さんほどの輝きは無いかなぁ』

『あの吸血鬼とか、あっちの姉妹ならともかく……どっちみち彼女たちじゃ、ぼくらと契約するには、まだまだ実力(レベル)がぜんぜん足りてないから無理さ。——そういうわけだから、悪いけど諦めるんだね、お嬢さん』

「……ふむ、どうやらお断りされたようですわね。残念ですわ」


 お、お嬢様ぁ……っ?!

 お願いですから、あまり彼らを刺激しないようにしてくだされ……!

 じいやの心臓が持ちませぬ……!


 神楽(かぐら)お嬢様の破天荒に振り回されて、不死者(ヴァンパイア)の肉体でも無視できぬ精神的な心労(ダメージ)を抱えつつも……我々は城の中を進み、なんとか無事に次なる目的地へと辿り着くことができた。


「ちょっと邪道なやり方だけれど……ぶっちゃけ、チマチマやってる時間が無いから、今回はここにいるコイツを利用して、ソラのレベルをガッツリ一気に上げちゃうよ」


 そう言う夜叉姫様が案内してくれた城の一室にいたのは……〝宝石結晶(ジュエリークリスタル)〟という、その名前通りに宝石のように綺麗な結晶の姿をした、極めて特殊な魔物(モンスター)だった。

 

 ——なるほど……? ひとたび倒せれば、普通の魔物とは比べ物にならない〝経験値〟を得られる宝石結晶(ジュエリークリスタル)を使って、一気呵成(いっきかせい)強化育成(レベルアップ)させようというわけですか……

 

 しかし——そもそも滅多に出現せず、出現しても倒すのがとても難しいゆえに、運良く出くわしても、倒せずに悔し涙を流す探索者の方が多いというのが、この宝石結晶(ジュエリークリスタル)にまつわる悲しい現実なのですが……

 なぜなら、この宝石結晶(ジュエリークリスタル)という魔物は——


〈探索兵長:これは、もしや……宝石結晶(ジュエリークリスタル)ですか!? まさか、ここに確定出現するのですかっ?! だとしたら、すごい発見じゃないですか……っ!?〉


〈流浪の探索者:いやでも、宝石結晶(ジュエリークリスタル)って、対峙する相手によって強さが変わるっていう、かなり珍しい特性持ちで……しかも、相手よりかなり強くなるせいで、基本的に倒せないんよなぁ。まあ、それでも倒せるヤツがいるとすれば、自分の平均的な強さを大きく超える威力を持つ奥の手の必殺技みたいなんを使えるようなヤツくらいやから……えーっと、やが灰って、そんな切り札なんて持ってたっけか?〉


 そう……そんな風に、厄介な性質を持っているからこそ、そう簡単に倒せる相手ではないのだが……

 さて、夜叉姫様は、どうするおつもりなのか——?


「うんまあ……だからこそ、これを使うのさ」


 そう言って夜叉姫様は、ついさっき宝箱から手に入れたばかりのそれを、ソラス様に取り出させる。


「それで、やっさん、さっきは説明がまだでしたけれど、これは……?」

「えっとね、簡単に言うと……これはね、色々な種類の爆弾を生成できるって感じのアイテムなんだよね。んで、そうやって作れる爆弾の中には、固定ダメージを与える爆弾があるんだけれど……これをソラが使えば、アイツも一撃で倒せるのさ」

「な、なるほど……?!」


 ——なんと、さっきの宝箱は、そのために……

 ——誰でも使えて、一定の威力を発揮する爆弾……確かにそれならば、ソラス様の強さに対応した実力(レベル)宝石結晶(ジュエリークリスタル)ならば、一撃で倒せるということなのか……!?


 説明もそこそこに、言われた通りに生成した爆弾を、ソラス様が投げつけると……


 ポイッ——ドッカーン!!!


 煌びやかな輝きを放つ結晶の魔物は、爆弾の一撃で見事に破壊され、粉々に砕け散ってしまうのだった。


 ……本当に倒せてしまった。

 であれば……これで彼女も、一気に成長できたことだろう。


「さて……あと一つだけ、ちょっと寄り道したら、その後にいよいよ、本日のメインイベントがあるからね! 楽しみにしててよね」


 それからまた夜叉姫様の案内で立ち寄った部屋は、一見するとなんの変哲もない豪華な客室のようであったが……しかし、見るものが見れば、その場に(ひそ)んでいる魔物(モンスター)の存在に気がつくことができた。


「ここには、他ではなかなか見ないような、珍しいモンスターがいてね……せっかくだから、ついでに倒して魔石を回収して、黒套(コクトー)の変身先の一つにしておきたかったんだよね」

「珍しいモンスター、ですか……? そう言われても、特に何もいないようですけれど……」

「まあ、擬態系のモンスターだからね……実は、あのデッカい鏡がそうなんだよ」

「っ——!?」


 そう……部屋の片隅にある、あの全身鏡はおそらく——対面した相手の姿や能力を写し取るという技を持つ、特殊な魔物(モンスター)なのだろう。


「——そう、アイツは変身能力と分身能力に特化している反面、本体はあまり強くないという……どっかの誰かさんみたいなモンスターだからさ。あえて弱いヤツに変身させたら、もはやソラでも倒せちゃうんだよね。

 というわけで……誰に変身させようか」

「えっ……と、そう、ですね——」


 そうしてしばらくの間、悩んでいる様子だったソラス様だったが……

 ——変身後の鏡の魔物を楽に倒すために、弱い相手に変身させる必要がある以上は、必然的に候補はソラス様のチームの誰かということになるので……魔物が変身しているとはいえ、仲間の姿をした相手と戦わなければならない彼女が悩むのは当然だろう。

 しかし、結局は……葛藤する彼女が答えを出すまで待ちきれず、とうとう痺れを切らした夜叉姫様が発した鶴の一声にて——骸骨射手(スケルトンシューター)であるところの黒套(こくとう)氏が生贄に選ばれてしまい……

 あれよあれよと、担ぎ出された黒套氏が目の前に来たことで、黒套氏と(姿も能力も)瓜二つに変身させられた鏡の魔物は……そのまま、夜叉姫様の手によって、あっさりと始末されてしまうのであった。


〈ニートの無職ん:いつかの意趣返しか? まったく、隙あらば黒套(コクトー)を始末しようとするよな、コイツ……笑〉


〈ツッコミ番長:偽物でもいいから黒套を始末したいという、姫のただならぬ執念を感じる……w〉



 そんな寄り道も終わったところで、我々はいよいよ——夜叉姫様が言うところの——本日の大一番(メインイベント)が待ち受ける場所へと向かい……

 城の中を、上へ上へと進んでいき……


 ついに辿り着いた、最上階にあったのは……

 このじいやをして、やにわに戦慄させられるほどの強敵の気配が、扉一枚(へだ)てられた向こう側から発せられている……


 まさにこの、天空城の(ボス)が控えているのであろう……〝天守の間〟なのだった。


 

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 まぁ理屈の上では確かに一番実力は下かもですが……コメ欄が言うように、やっぱりコクトーさん嫌いなんですねやっさん(笑) それでは今日はこの辺りで失礼致します。
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