第18話 ㉑——「雲の上での修行……仙人かな?笑」
『“形態変化——大入道雲”』
激戦だった冬の貴婦人戦を(かなりギリギリだったけれど)無事に切り抜けて——一時は死にそうなくらいに凍えてしまっていた身体を、お風呂でしっかり温めたり……はたまた、ボスの討伐報酬であるお宝を回収し、獲得した新装備で私自身をさらに強化できたところで……
私たちはいよいよ、この精霊ダンの〈中層深域・第一区・後半部〉である雪山ルートへと向かうために……私はコクトーを、巨大な雲のエリアボスへと変身させる。
そうして現れたる、見上げるほどに巨大な人型の雲を見た面々は——
「これはこれは……さすがは境界主——といった威容ですわね」
「いやぁ〜……このデカさで、上に色々と乗せて空飛べるってさぁ——それ、普通にヤバいよね。ぶっちゃけ、くっそ便利じゃん」
「……あーし、何気に今日、夢叶ったワ。雲に乗って、空を飛ぶ——それはな、あーしがちびちゃんの頃からの夢だったんよ……だからマジで、あんがとにゃ、ソラっち!」
「い、いえっ……このボスを使役できたのも、元を辿れば、すべてがやっさんのお陰ですので——!」
「さよか? んなら、やしゃっちにも——あんがとねん!」
「それはそれは……楽しんでいただけそうで、何よりだね」
思い思いに、それぞれの感想を述べつつ……
人型から普通の雲の形になり、ちょうどいい大きさに縮んだ大入道雲の背中(上?)へと——馬車も一緒になって——続々と乗り込んでいくのだった。
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ビュォォォオオオッッ——
雄大な白き山脈の峰々を、それよりさらに高い場所を飛行して超えていく雲の上にて……
移動中の時間を有効活用するために、新たに手に入れた装備を試しておくことにした私は——他のメンバーたちは、ほとんど全員が快優邸の中に入っているので——付き添いとして一緒に外に出てきてくれたやっさんと、一時的にこの場では二人きりになっていた。
高速で飛行する剥き出しの雲の上にいることで、さっきまでは強い風に晒されていた私だったのだけれど……初めて使ってみる新装備の能力を、試しに発動してみたところ——
『“吹雪の加護”』
ビュォォォオオオッッ——ヒュルルルル……シーン。
「おお……! さっきまであった、吹きつけてくる風を感じなくなりましたね。——ん……? というか、こ、これって……!?」
「お、気がついた? そうそう、〝吹雪の加護〟を使うと——そんな風に、周囲がかなり寒くなるんだよね。だから本来は、最初から寒さに耐えられる特殊な存在——それこそ、氷属性のモンスターとかが使う能力であって、探索者が使うには、対策という名の〝ひと工夫〟が必要になるんだけれど……ソラの場合は、『真冬の指輪』の存在が、まさにその〝ひと工夫〟になってるってワケ。
真冬の指輪があれば、寒くても平気だし……それどころか、より寒くなることで、STもその分、強化されることになるわけだから——
指輪を組み合わせることで、〝吹雪の加護〟が——ただの防御技というだけではなく——ある種のバフ技としての効果まで発揮できるようになるっていう……まさに一石二鳥の組み合わせなんだよね、これは」
「な、なんと……! じゃ、じゃあ、やっさんはそれも見越して、私にこれをオススメしてくれていたんですかっ?!」
「ん、まあね……色々な意味で——あの宝箱から出るラインナップの中では——その指輪は外せないと思っていたよ」
「おおぉぅ……さ、さすがです、やっさん——!」
まさか、そんなお得な相乗効果まであったなんて……!
「それじゃ、残りは腕輪だけだね。ソレの能力も、今のうちにいっぱい使って試しておくといいよ」
「あ、はい。分かりました……あれ、でも、今日の配信はもうすぐ終わるんですよね? なら、別に今じゃなくてもいいんじゃ……?」
「あ、いや、それなんだけれどさ————」
それからやっさんは、この後の〝降り〟でやろうと思っていることを——高速飛行中ということで、ドローンカメラもしまって(私たちの分は)配信停止中の、このタイミングで——私に説明してくれる。
——な、なるほど……ご褒美って、そういう……
最初は、確かにちょっと楽しそう——なんて思って、聞いていた私だったけれど……
詳しい話を聞いていくうちに、なんかどんどん雲行きが怪しくなっているような気がしてくる……というか——
「あの、やっさん……実は私、そういうウィンタースポーツ的なアレは、実はまったくの未経験でして……」
「そう? まあでも、大丈夫だよ。ボクも大して経験なんてなかったけど、試しにやってみたら普通に出来たし」
「そ、それは……」
やっさんだからなのでは……?
「んー……ならさ、これ使っとこうか。前に使った〝初級〟の方は、もう馴染んでるでしょ?」
「それは……まさかっ、〝中級〟の『体術の書』ですか——?!」
「そうだよ」
やっさんが取り出してきたのは——片側を紐で閉じられた、古びた本のような見た目をしている——『体術の書(中級)』というアイテムだった。
「あの……前回の〝初級〟を使っていただいた時にも思ったのですが……そのぉ、本当に、いいんですか?」
「ん、まあ——探索者のルール的には、協会を通さないアイテムのやり取りってグレーなんだけれど……まあでも、その場で使っちゃえば消費アイテムみたいなもんだし、何より……バレなきゃ問題ないさ」
「あ、はい……ソウデスネ。——分かりました。それでは……ありがたく使わせていただきます」
いやまあ、私が訊きたかったのは、ルール的なアレではなく……
使えば一発で——等級に応じた——〝体術〟の知識を修めることができるという、市場には一切出回らないような幻の激レアアイテムを、私なんかに使ってしまっていいのだろうか……という意味だったんだけれど。
とはいえ、やっさんがそこまで言ってくれているのだから……ここはお言葉に甘えておくとしよう。
というわけで……私はありがたく受け取らせてもらった『体術の書(中級)』を、さっそく使用させてもらう。
すると——開いた本が、宙に解けるように消えていくのに合わせて——私の頭の中に、身体操作の技術的な知識である、いわゆる〝体術〟の極意が、スルスルと読み込まれていく……
——これは……すごいっ! 初級の時も、初めての経験という意味での衝撃は大きかったけれど……中級は、より高度な技術を授けられるという意味で、初級の時とは比べるべくもない衝撃だ……っ!
高度な身体の動かし方の技術が、体感的に〝理解〟されていく……この知識を得た後の私は、以前の私とは、もはや別人になっていることだろう。
——初級でも、かなり大きな変化を感じていたからね……
それこそ、今日の最初に狼に襲われて倒された——あの時に、とっさに格闘戦で上手く対処できたのは……あれは今思えば、初級が馴染んできていたからこその成果だったのだろう。
その上、中級の体術まで習得した今の私なら……なるほど、やっさんの無茶振り的なソレも、やってやれなくはないのかもしれない。
とはいえ、普通のソレとは、だいぶ違う感じになるみたいだし……
コッチの練習も、今のうちにガッツリしておかないと。
そんなわけで私は——この後の〝お楽しみ〟を、ちゃんと楽しめるようにするためにも——ちょっとしたお試し気分から一転して、出来る限りの慣らしをしておかなければと、一気に気合いを入れて腕輪の能力の試しを行っていくのだった。
『“氷盾防御”』
私が——初めて使う魔法を、試行錯誤しながら練習している間にも……まるで何気ない世間話のように、やっさんは色々と興味深い話をしてくれる。
「そうそう……そんな感じ。その〝氷の盾〟は、そうやって浮かせる位置を調整したりもできるからね」
「なるほど……勉強になります」
「うんうん……まあそれに、こういうのもさ、実は〝魔功術〟の鍛錬になっているんだよ」
「え、そうなんですか?」
「実はそうなんだよねぇ。というのも、今ソラがやってるのは、魔功術でいうなら——【魔功波動】で出した〝魔力の盾〟に、【魔功装色】の〝青魔〟というか〝冷魔〟で氷属性を足して、それを【魔功念力】で操ってるって感じだから……逆に言えば、魔功術の覚醒段階に至れば、その魔法も魔功術だけで再現できちゃうんだよ」
そう言ってやっさんは、実際にそれを有言実行してみせる。
『“魔功波動——魔功装色——青冷流反・〝冷魔〟——魔功念力”』
すると確かに——やっさんの前に、冷気を発する盾が浮かび……彼女の腕の動きに合わせて、宙を自在に移動してみせるのだった。
「す、すごい……魔功術だけで、そんなことまで——?!」
「うん、だからね……魔功術を極めていくと、大抵のことは魔功術で出来るようになるから——するとさ、どうなると思う?」
「え、それは……すごく便利だし、強いと思います?」
「そうそう、そうなのよ……要はさ、ソラが魔功術をもっと使えるようになれば、その腕輪みたいな装備も、もはや必要としなくなるってことなのよ」
「っ……!」
「したらその分、今度は別の——純粋に防御力とかのSTを大きく強化できる腕輪とか……あるいは、魔功術では再現できないような高度な能力を宿した装備を身につければ、もっと強くなれるってワケでさ。魔功術という基礎を鍛えると実力が上がるっていうのは、つまりはそういう側面もあるってわけ」
目から鱗が落ちるようだった。
——魔功術って、そこまでの可能性を秘めた技術だったんだ……
そりゃあ、高位の実力者たちがみんなして「強くなるためには、絶対に必須」って言うわけだよ……
「なる、ほど……確かに、魔功術で同じことが再現できるなら、わざわざそんな能力の腕輪なんて使わないでも、もっと別の能力の装備にすればいいんですもんね……」
「……あ、なんかせっかく手に入れた新装備にケチつけるみたいなこと言っちゃったことになるのかな、これ……ゴメン」
「そ、そんなことはっ! 今の私にとっては、ものすごく有用な装備なのは確かですから!」
「そ、そう?」
「ですです!」
ああ、やっさんがコミュニケーションエラーを起こしたと思って、軽く落ち込んでる……話題を変えよう。
「そ、それにしても……魔功術でそこまで色々できるなら、むしろ何が出来ないのかが気になるかもですね」
「そうねぇ……まあ、大抵のことは出来るんだよね」
「えっと……なら、アレとかはどうなんでしょう? その、やっさんが前回のコラボで装備していた、あの黒い手甲の能力——アレなんかは、さすがに無理ですよね?」
「え? ん、いやぁ……アレも言ってみれば、ただの重力属性だし——〝黒魔〟の〝重魔〟で再現できるよ」
「ええっ!?」
なんて言いつつ——あの時の黒い手甲はおろか、腕には何も装備していないはずの——白魚のように綺麗な素手を晒しているやっさんは……しかし、なんてことないように、おもむろに手のひらの上に黒い球を生み出すと……
『“魔功波動——魔功装色——黒重隠匿・〝重魔〟”』
確かに……不意に現れた黒い球に——まるで重力に引かれるかのように——引き寄せられていく力を感じる。
——ま、マジかっ……!?
え、魔功術、万能か……?
「じゃ、じゃああの、天使の弓で使っていた魅了とかなら? これは——」
「それも、〝桃魔〟でいけるね」
『“魔功波動——魔功装色——桃魅感挑・〝魅魔〟”』
言って、桃色の矢を無造作に生み出してみせるやっさん。
——マジっすかぁっ……!?
——え、てか、それならなんで、あの弓を使って……こ、コスプレ?(錯乱)
いやマジで、ならもう、マジで何なら無理なの……?
「……逆に、魔功術で出来ないことって、何なんでしょう?」
「んー、そうねぇ……ああ、あれかな、〝未来予知〟とか?」
「そのレベルまで?! いくんですか……?!」
「うん、ボクの知る限りでも、未来視系の能力って、かなり希少な能力だから」
「そう、なんですか……でもそれ、今となっては、逆に意外かもしれません。だって、魔力感知を極めたら、未来予知すら可能になるとか、なんかありそうだし……」
「……あー、まあ、よく考えたら、近いことはできるかもしれない——かも」
「やっぱり出来るんですか……?!」
「いやぁ……でも、さすがに魔功術だけだと難しいから、そういう装備を使った方が断然ラクだよ。うん」
「……つまり、魔功術を極めたら、未来視が可能になるレベルの装備じゃないと、もはや意味がなくなるってことですか……」
「まあ、大抵のことは出来るからね」
——やっぱとんでもないな、この人……
ちょっとした雑談でも、あらためてそう感じることになる私なのだった。




