第18話 ㉒——「配信のグランドフィナーレ——ならぬ、ゲレンデフィナーレ!」
「さて……みんな、今日の配信も、いよいよフィナーレが近づいてきたよ」
雪山ルートをひとっ飛びにショートカットしてきて——あれだけ連なっていた山々も、もはや残すところはあと最後の一つだけというところで……
そのまま最後のひと山を超えてしまうことも、やろうと思えば出来たけれど——あえてそうはせずに、大入道雲をその場で止めると、私たちは山の頂上付近へと降り立ったのだった。
「いやね——このまま最後まで空を飛んで抜けていったんじゃ、さすがに味気ないし……それに、最後の最後くらいは、ちょっとお遊びもいれていいんじゃないかなってゆうことで……
ここから、雪山ルートの終わりまで——つまりは、〝第一区〟のゴール地点までは……この雪山の斜面を、スキーとかスノボーって感じで、一気に滑り降りて行っちゃうことにしたんだよね。
これぞ題して——『ドキッ、モンスターだらけのスキーミッション! 絶景のゲレンデを、一気に麓まで滑り抜けろ! 〜雪崩もあるよ♪〜』——の、始まり始まり〜」
〈ニートの無職ん:絶対にどっかのイカれた夜なんとか姫さんが考えたであろう、すっげぇふざけた企画が始まったな〉
〈ツッコミ番長:ポロリもあるよ——みたいなノリで、致死級の自然災害を出してくるのはさすがに草ww〉
〈(・・?):なんでそんな昔のヤツ知ってるの?〉
〈やが灰のファンである:んーまあ、一見すると楽しそうな気がしなくもないけれど……とはいえ、ここってダンジョンですからねぇ……。他のメンバーはともかく、ソラちゃんは大丈夫かなぁ?〉
〈地上の視聴隊:肝心のお嬢様やギラちが、すごくワクワクしているご様子なので、アタクシからは何も言いませんけれど……天下の神楽お嬢様を相手にして、こんなにふざけ——っと、失礼……これほど愉快な企画をぶち上げられるのは、世界広しといえども夜叉姫様くらいなのでは……?笑〉
確かに、景色はすごくイイんだよねぇ……
——晴れ渡る空に、雄大な山頂から見下ろすは、美しく輝く白銀のゲレンデ……
まさに、絶景と呼ぶに相応しい光景だと思う、うん……。
とは、いえ……
今からここを、一気に滑って降りていけと言われたら……それは、なかなか——
それに、肝心のスキー用具になるのが、まさかの……
『“闇王の瞳——憑依の魔眼”』
「——さて! 実に楽しそうな企画じゃな! もちろん私も参加させてもらうぞ。ふむ……では、必要な道具については、我が魔法にて用意して差し上げようではないか」
『“氷の造形”』
颯爽と現れた女王が、まさに魔法のように素早く創り出して見せたのは……氷で出来ていることを除けば、見事な造形のスキー板やスノボーだった。
そう……今回使うスキー用品は、まさかの現地調達(?)なのである。
しかも、私の場合……
「ふむ……スキーとスノボー、どっちがいいかなぁ。ね、ソラはどっちにするか決めた?」
「あ、えっと……私は、一度に二つの盾——じゃ、なくて……板を、作り出して制御するってのは、まだちょっと難しそうなので……必然的に、スノボーってことになるのかなぁと」
「なるほどね……じゃあボクも、ソラとお揃いのスノボーにしよっかな」
そう言うやっさんが、女王の作成したスノボーを取りに行くのを尻目に……私は、自分が使うスノボー()を自作する。
『“氷盾防御”』
——先端は丸く、少しだけ持ち上がるように曲げて、全体は細長い長方形……表面はどこまでも滑らかに……分厚くなり過ぎず、しかし頑丈で、決して割れたりしないように……限界まで強靭に作る……っ!
今できる全力を込めて——女王の作品をお手本に——渾身の一作を作り上げる。
——出来たっ……けど、まるで既製品のような完成度を誇る女王の作品に比べたら、かなりお粗末な出来栄えだなぁ……でもまあ、これが今の私の精一杯だ。
それにしても、ほとんど遊びのような企画とはいえ……私にとっては、これも修行の一環なんだよなぁ。
人生初体験のスノボーを——自分で作った氷の板(盾)を使って——まさかのダンジョンですることになるだなんて、夢にも思っていなかったけれど……
——それも、やっさんやヴンオケや御剣姉妹という、めちゃくちゃ豪華なメンバーと一緒に滑れるだなんて……
こんな機会、二度と無いだろうし……せっかくだから、精一杯、楽しんでやろう。
そして始まった……配信のフィナーレを飾る、スキー(スノボー)大会(inダンジョン)は——とても盛り上がっていた。
地上でもなかなか見ないような、大自然の雪山を豪快に滑り降りていく映像には、リスナーたちも大興奮で……なんならそれこそ、モンスターと戦うよりも盛り上がっている様子だった。
というか、まあ……普通にモンスターも襲ってきてたけれどね。滑り降りていく途中にも。
しかし、そんなモンスターたちも……私に先行して滑り降りていく実力者たちが、スキーを楽しむ片手間に、じゃんじゃん始末していく。
派手に活躍しているのは、御剣姉妹と女王で……前者は滑り降りながら通り過ぎざまに一刀両断していき、後者は魔法を連射してピンポイントに倒していく。
ヴンオケの面々は……神楽お嬢様は優雅に滑りつつも、天御神楽を壮大な伴奏付きで演奏しており……白鳥様とセバス様は、お嬢様の周囲を守護るように追従していて……ギラさんはただ一人、スキーもスノボも使わず、自前の光刃靴によって自由かつダイナミックに滑りながら、大自然の傾斜を利用して——プロ選手もビックリな——高難度の技を次々と決めて配信を盛り上げているけれど……そんな彼女たちは滑ることに集中しているのか、モンスターは基本的に避けて進んでいるようだった。
ちなみに、女王を除くウチの使役獣たちや、ヴンオケの使役獣たちは、馬車の中で待機している。
しかし、その馬車自体は、一角獣の〝乙女号〟に引かれることによって、豪快に斜面を爆走している。
——それもこれも、快優邸が地面から浮いているからこその荒技だろう。
まあ、お陰様で……待機中のみんなも退屈することなく、窓から外の景色を見て、自分も滑走しているかのような気分を味わって楽しんでいるようだったから、良かったのだけれど。
——なんなら私も、馬車で待機していた方が純粋に楽しめていたかもしれない……
なんて、弱音が少し漏れそうになる。
なぜなら、かくいう私は……そんな先行組の後を必死に追いかけるのが精一杯で、ぶっちゃけモンスターと戦うどころか、周りの様子を窺うことすら覚束ないような有様だったから。
——だってこれっ、普通にめっちゃ難しいもん……!
いやまあ、ただ滑るだけなら——例の〝体術〟の恩恵もあるし——たぶん、なんとかなったと思う。
しかし、私の場合は——ただ普通に滑るだけでも、複数の能力を上手く行使する必要があったから……そちらの制御もやっていたら、とてもじゃないけれど、他に回せる余裕なんてものはまるで存在しなかった。
なにせ、私が魔法で作成した氷のスノーボードは……既製品にはほど遠い出来栄えの、言ってしまえば、ただの氷の板でしかないので……
スノボーをスノボーたらしめる上で、最も重要と言っていい部分である……足をボードに固定する器具——いわゆる〝バインディング〟が、そもそも存在していないのである。
そう——完全に、ただの氷の板でしかないからね、コレ……。
これは私の未熟な自作ボードに限った話ではなく、女王の作品にも同じことが言える。
——彼女の見事な作品にも、固定器具は存在していない。
それでも、他のメンバーは普通に滑っている。それはなぜか……?
その答えは、彼女たちが——〝魔功術〟が覚醒段階に至っている——高位の探索者だからに他ならない。
彼女たちは、固定器具を使う代わりとばかりに……魔功術の『覚醒三功』が一つ、【魔功装色】の〝橙魔〟を使うことにより、足の裏を氷の板に自力で固定することが出来るので、固定器具が無くてもなんら問題ないのだ。
だから……問題は私だ。
魔功術の覚醒どころか、いまだに『基本三項』すら習得していないような私なので……もちろん、〝橙魔〟なんて使えない。
しかし私には、まるであつらえたかのように、この状況で使える装備があった。
今も足に装備している、革靴と足環。
それぞれ——氷の上でも滑らない【万地不倒】の能力と……壁に貼り付くことが出来るようになる【壁面歩行】の能力を宿している。
そう……この二つの能力を組み合わせれば——それこそ、まるで固定器具でも使用しているかのように——氷の板の上に両足を固定することが可能になるのだ。
この二つの能力や、腕輪の能力があるお陰で……曲がりなりにも私は——道具の用意も含めた——すべてを自力で賄って、スノボ移動をすることができているのだった。
「そうそう……イイ感じだね、ソラ。慣れてきたら、【氷盾防御】の制御能力を応用して、その氷の板自体を念じて操作することで——普通に体の動きだけでターンするのに比べたら——より複雑な動きで滑ることすらも可能になると思うよ。
というか、【氷盾防御】の魔法は、その気になれば、浮かせた氷盾の上に自分が乗ることで、空中浮遊することすら可能になるからね。——まあ、自分自身も浮かせるとなると、一気に操作が難しくなるんだけれど……
それでも、自力で浮遊できる手段があるのと無いのじゃ、戦術的にも大きな違いが出てくるからさ——機動力は高いに越したことはないんだし——このスノボ移動も含めて……なんでも出来るようになっておいて損はないと思うよ」
「はっ、はいぃっ……!」
すべて自力で——なんて言いつつ……
私がどうにかこうにか滑ることが出来ているのは、(謎の超絶テクで、私と動きを完全に同期させて、ピッタリと張り付くように滑ることで)さっきから隣にいるやっさんが、付きっきりで色々と——近寄るモンスターを排除してくれたり……自分では見る余裕のないコメント欄や、周りのみんなの様子を教えてくれたり……はたまた、能力の使い方をアドバイスしてくれたりと——サポートしてくれているお陰だった。
——そもそも、これらの装備を揃えられたのだって、やっさんの協力があったからであり、自力で集めたわけでもないんだからね……
それでも……以前の自分からは想像も出来ないようなこと(ダンジョンの雪山で、自分の魔法で作った氷の板でスノボする)を、やってみせていることは確かなのだ。
〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:ゲレンデの天使♡な夜ちゃんサイコー! こんな素敵なコーチとマンツーマンなんて……やが灰、うらやま!笑〉
〈ニートの無職ん:天使がスノボやってる絵面、めっちゃシュールで草〉
〈もっこり助兵衛:ちょくちょくやってくるモンスターの襲撃がなければ、これって完全に、美少女二人の雪山スノボデートなのよねぇ……あぁっ、眼福眼福♡〉
〈ねっこ寝子:景色も綺麗だし、こんなところを伸び伸び滑れるなんて最高だよね! まあ……モンスターがいなければ、なおいいんだけれど〉
〈やが灰のファンである:最初はおっかなびっくりだったソラちゃんも、けっこう滑れるようになってきてない? さすがソラちゃん、成長が早い……!〉
〈やがてファンになる:天使な夜叉姫さんの万全なサポート体制は安心なんだけれど……フィギュアスケートのペア競技並みに接近して、完全に動きが同調してるのは、もはやスノボの動きじゃないんよw〉
〈地上の視聴隊:お嬢様たちヴンオケや御剣姉妹のお二方、そして夜叉姫様が優雅に滑ってみせるのは、さすがは高位探索者だと感服いたしますけれど……特筆すべきは、そこにソラ様もちゃんと追従できているという点ですわ。もはや——初っ端で狼にしてやられていた頃の面影は、完全に払拭されていますわね……たった一日でこれほど成長されるとは、さすがと言う他ないですわ……!〉
そう……〝ご褒美〟というなら、なによりも、それこそがご褒美だった。
今日一日で、いったいどれだけ成長できたのか……改めて振り返ると、そのあまりの急成長振りに、自分でも驚いてしまうほどだ。
本当に……感謝してもしきれない。
恩返しをしたくても、今の私に出来ることなんて、たかがしれているから……
とにかく今は——もっと上を目指して、もっと強くなる……!
この恩を決して忘れずに、止まることなく邁進し続けて……そして、いつかきっと、恩返しするんだ……っ!!
そう、新たなモチベーションを胸に深く刻んで……
より一層やる気になった私が、いよいよ変則的なスノボにも慣れてきてからは——周りを見る余裕も出てきて、素晴らしい景色の中を滑り降りる楽しさを十分に堪能したり、スノボしながらモンスターと戦うことも可能になり……最終的には、発生した雪崩からも、みんなでワイワイ言いながら逃げられるくらいには、スノボを乗りこなせるようになったところで…………
とても長い一日となった、コラボ配信の〈三週目・一日目〉は……ついに終わりの時を迎えるのだった。
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「いや〜、なんやかんや——時間いっぱいギリギリまで使っちゃったけれど……なんとか無事に、目的の場所まで今日中に辿り着けたね。
というわけで、〈第一区〉の攻略は今日でバッチリ終わったから、明日は〈第二区〉を攻略する予定だよ。
——まあ、この〈第二区〉では、普通の攻略はそっちのけで、別のことをするつもりなんだけれどね……。
そうそう、追加メンバーであるヴンオケと御剣姉妹も、今日に引き続いて、明日も来てくれることになっているから——明日もよろしくね」
「こちらこそ、このような素晴らしい配信に参加させていただきましたこと、誠に感謝いたしますわ。今回の配信にて、夜叉姫様からは、とても多くのことを学ばせていただきましたのに……私、まだまだ十分なお返しが出来ていないと思っておりますから——明日の配信も、どうぞよろしくお願いいたしますわ!」
「いやぁ〜終わってみると、あっという間だったにゃ〜……最後とか、めっちゃ楽しかったしぃ——マジで、こちらこそ明日もよろしくだわ、夜叉姫ちゃん!」
「その……皆さん、今日は本当に——本当にありがとうございました……っ!! 明日の配信も、どうかよろしくお願いします……!」
「もちろんですわ! ソラ様」
「うんうん、明日もよろしく〜」
——本当に……時間があれば、もっとたくさんお礼を言いたかったのだけれど。
——まあでも、ゲストを迎えたコラボ配信は、明日も続くのだし……お礼を言うのは、すべてが終わってからでも遅くないのだから……
まずは明日の配信もまた、やっさんやヴンオケという推しとコラボできることに感謝して——今日を締めくくる私なのだった。




