第18話 ⑳——「激戦の後は……褒賞の時間!」
「ふぅ……」
本日二度目の〝快優邸〟の大浴場で、だだっ広い超豪華な湯船に浸かりながらも……私のテンションは低かった。
『——いや〜、ね……実際、ソラはよくやっていたとボクは思うよ。というか、正直言うと……ぶっちゃけ、ソラが貴婦人に勝てるかどうかは、勝率でいうと半々もいけばいいくらいだと思っていたから……それを考えると、あの内容なら、むしろ出来過ぎだったと言っていいくらいなんじゃないかな』
〈探索兵長:そうですね。途中までは、ほとんど完璧だったと思います。……まあ、つまり、最後のアレ以外は〉
『うん、まあ……でも、最後のアレについても、結局は自力でリカバリーして、最終的には——戦果である貴婦人の魔石もちゃんと自分たちで回収してから突破してみせたんだから……そういう意味では、ボクは普通に、あのボス戦はソラの勝ちってことでいいと思うんだけどな。
というか——これはボクの想像だけれど——ソラはあの最後の局面で、自分が無防備になることを、実は折り込み済みだったんじゃないかと思うんだよねぇ。
つまり、あれは——あるいは被弾するかもしれないってのを、あらかじめ覚悟しての最終攻勢だったワケさ。
——まあ、勝利を確信して油断してしまったのも、たぶん間違いではないと思うけれども……
とはいえ結果的には、ある意味ではソラの思惑通りに事が進んだわけだから……やっぱり、あの戦いは偶然とか幸運ではなく、ソラの実力での勝利だと言っていいだろうとボクは評価するね』
……っ、やっさん……っ!
お風呂に浸かりつつも、防水完備のハイテク機器である〝照面鏡〟で映し出している画面の向こうで——私のチーム以外はみんな揃っている談話室にて——先ほど終わったばかりのボス戦を振り返るやっさんの言葉を受けて……私は感極まる思いだった。
——それにしても、さすがはやっさんだ……褒めてくれたのも嬉しいけれど、それ以前に、私の考えを見事に見抜かれていたことには、驚きを通り越して感嘆させられる。
実際、あの時——最終局面での私は、貴婦人への攻撃に専念することで自分が無防備になることを自覚していたし……それでも攻撃することを優先した。
それで、結果的には貴婦人を倒せた代わりに、氷鋭魚の不意打ちを受けて——直接的なダメージ自体は、『透甲の鎧』の【波動装甲】を発動していたお陰で無傷だったとはいえ——無様に水の中に転落してしまったのだけれど……
——正直、最悪の可能性として、水の中に落ちることがあったとしても、まあ何とかなるだろうと……そんな風に軽く考えていたのは確かだった。だけど後から聞いたら、極寒の湖に落水するとか、溺れる以前に普通に凍死というかショック死していてもおかしくなかったらしいし……怖っ。
——さらに言うなら、あの湖の水の中は、元から大量の氷鋭魚がひしめいている超危険地帯だったのだから……溺れるとか凍死よりも前に、真っ先にヤツらに襲われてアッサリとお陀仏になる可能性もあったのだ。
——それでも私が助かったのは……一緒に落ちたラマンダとりんちゃんが、極寒の水を温めてくれたり、防御魔法で必死に敵から守ってくれたからで……さらには、私が落ちてからすぐに(宙に浮いたまま)駆けつけた〝青猫〟が、【白光線弾】を使って迅速に水から引き上げてくれたからに他ならない。
——水から上がった後も、すぐにウェンディとラマンダとりんちゃんが(いつぞやのお風呂上がりの時みたいに)素早く水気を飛ばした上で温めながら一気に乾かしてくれたことで、低体温症で死ぬこともなく、私は九死に一生を得たのだった……。
——そんなこんなしている間にも、頼れる新入りである黒套がちゃっかりと、水中に没していた貴婦人の魔石を(これまた【白光線弾】で)引き上げて回収してくれていたから、あとは迅速にその場から撤収するだけでよかった。
そうして今、氷湖を抜けた先に到達した私は……大事を取って、こうして大浴場で温まらせてもらっているというわけなのだった。
『——さて、それじゃ、今のうちに、この後の配信の流れを説明しておくとしようかな。
とはいえ、今日の大一番であるボス戦は、ソラがめっちゃいい感じに健闘して無事に終わったし——すでに時間もだいぶ押してるから——後はもう、軽く流していく感じでやるつもりなんだけれどね。
ええっと、予定としては、今日はこの〈中層・深域〉の〝第一区〟を踏破するまでやるつもりだったから……とりあえず、そこまでは進めるよ。
ただまあ、普通にやってたら絶対に間に合わないから……残る〈第一区・後半部〉に関しては——一気にガーっていくしかない、かな?』
〈ツッコミ番長:肝心な部分が説明になってなくて草〉
〈アンチ太郎:もういいから、とっととお嬢に説明役を代わってもらえ〉
『……じゃあ、悪いけどお嬢様くん、この〈後半部〉がどんなルートになっているのかを、軽く説明してくれる? そこをどう進めるかについては、ボクが補足するからさ』
『ええ、お任せくださいな。では、説明させていただきますわね————』
お嬢様の説明を聞きながら、私も頭の中で(事前に軽くは聞いていた)予定を反芻していく——
今現在の私たちがいるのは、〈中層・深域〉の〈第一区・中間部(氷湖)〉を過ぎて、〈後半部〉に入るちょうど境目の地点である。
この〈後半部〉は中間部と同様に、主に二つのルートがある。
・雪山ルート
豪雪に覆われた険しい山越えのルート。ただでさえ急勾配で厳しい登山を強いられる中で、降り積もった雪は雪崩を始めとした自然災害の危険性も孕んでいる上、モンスターも普通に襲ってくるという三重苦を文字通り乗り越える必要がある。
・吹雪ルート
常に猛吹雪が吹き荒れているルート。雪山と違い勾配はほとんどないが、ほんの数メートル先も見通せないような猛吹雪の中を、雪原特有の天然の罠やモンスターを警戒しながら進むのは、探索者であろうと困難を極める。
『——で、選ぶのは雪山ルートだね。と言っても、普通に登山していたら、ぜんぜん今日中に間に合わないどころか数日かかるだろうし……なんなら、下手すりゃ遭難するからね。
だから今回は、前半の〝登り〟はもう、すっ飛ばしちゃうよ。
——具体的には、コクトーを雲のアイツにして、みんなで乗って一気に空飛んで越えるって感じでね。
そして後半の〝降り〟については……まあ、実際に観てのお楽しみってところかな。
——いやね、今日の配信は、さっきのボス戦がクライマックスだったから、ぶっちゃけもう終わりでもいいくらいだし……
頑張ったソラへのご褒美じゃないけれど、最後くらいは楽しんでもいいんじゃないかなーって、思ってね』
ご褒美、かぁ……
——これについては、私もまだ詳細を聞いてないんだけれど……
すでにこれ以上ないほどに良くしてもらっているのに、この上なにやらご褒美までもらってしまうなんて、なんだか烏滸がましいようだけれど……
——いけない、ちょっとマイナス思考になっちゃってるかも……
せっかくのコラボ探索なんだし、やっさんがそう言ってくれているのだから……私も切り替えていこう。
これまた、先ほどのボス戦で頑張ってくれたご褒美では無いけれど——私のネガティブ感情を敏感に察知して近寄ってきていたウィルくんに、モヤモヤを全部吸い取ってもらったりなどしてから……
私は気持ちも新たにして、お風呂から上がると——さっさと着替えてから——みんなのところへ向かったのだった。
私がお風呂から上がって合流したところで、小休憩の雑談も終わりとばかりに、さっそく〈後半部〉へと突入する————その前に、氷湖を抜けたすぐ先の洞窟内にあった「お宝部屋」で、ボスを倒した報酬である宝箱の開封などを行った。
——ボスの報酬とはいえ、いまさら中層級のアイテムなんて必要ないということかもしれないけれど……
コラボメンバーたちは、みな快く譲ってくれたので……大いに恐縮しつつも、ここでの報酬は私が受け取ることになった。
宝箱は三つあり、それぞれ何が出るかはランダムなのだけれど、しかし中身の傾向としては特定の氷属性の装備に偏っており、さらには全体的なレアリティとしても高めに設定されているのだとか……
というのは全部、やっさんが(私にこっそりと耳打ちして)教えてくれたことであり……さらに彼女は、出るアイテムの中から名指しでオススメの一品をいくつか紹介してくれる。
なので私は、オススメされた中から三つのアイテムを選ばせてもらい……
後はやっさんが——いつぞやにやったみたいに——宝箱の蓋を何度か開け閉めして、狙い通りの三つを揃えてくれたのだった。
「いやぁ〜、今回は傾向的に出やすいアイテムばかりだったから、すぐに終わったからよか——ああいや、何でもないよ。——危ない危ない……」
うっかり口を滑らせそうになったやっさんを——結局アレは何をしているのか、全然よく分かっていない私と違って……開け閉め中のやっさんを見て、何かを感じ取っていたのかもしれない——他のメンバーたちが、何とも形容しがたい目で見ているのを尻目に……
私はさっそく、新たに手に入れた三つのアイテムを身につけていく——
今回、宝箱から手に入れたのは——やっさんが特にオススメだと太鼓判を押してくれた——次の三つの装飾品だった。
・指輪
名称『真冬の指輪』
装備効果「暑ければ涼しくし、寒さへの耐性を高め、寒ければ寒いほどSTが強化される」
・腕輪
名称『氷盾の腕輪』
能力【氷盾防御】
効果「氷の盾を生み出す——〝氷盾防御〟の魔法を発動できる」
・ネックレス
名称『冬守の首飾り』
能力【吹雪の加護】
効果「弱い攻撃を弾き、息吹系攻撃(特に炎)のダメージを軽減できる——自身の周囲に冷気流の防御を展開する——〝吹雪の加護〟の魔法を発動できる」
さすがに強かったボス戦の報酬というだけあり……そのボス戦の最後にて、さっそく浮き彫りになった私の弱点である「打たれ弱さ」を、早くも改善できそうな兆しが見えてきそうな……とても優秀な装備たちだった。
——というか、普段使い用としても、『真冬の指輪』とかすごく便利そうだよね。暑さも寒さも平気になるなんて、冷暖房要らずの素晴らしい効果が、指輪みたいな装備しやすい装飾品についてるなんて……これって普通に、わりと破格なのでは……?
装備してすぐに体感したのは、やはり『真冬の指輪』の効果であり——すぐに、まったく寒さを感じなくなっただけではなく、一気に調子が上がっていることが実感できた。
——なるほど、これが寒さによるSTアップの効果かぁ……。いやぁ、仮にこの状態だったなら、大休憩前にやった雪中行軍も、もっと楽にできたに違いない……。
なんて、今更なことを考えながらも、装備の効果を軽く確かめ終えた私は……
いよいよ、本日における配信の最後を飾る〈後半部〉へと、足を踏み入れるのだった。




