第18話 ⑲——「激闘の結末はっ……ええっ!?!」
『“堅牢なる剛氷の天城壁”』
貴婦人の奥の手によって生み出された、まさに難攻不落の城壁が如き氷の大防御魔法を前にして……私は必死に頭を働かせる。
——求めるところは、あの莫大な魔力を内包する極めて頑丈な氷壁を打ち砕けるほどの、圧倒的な破壊力……
——今の私たちの手札の中で、最も破壊力のある攻撃は、ラマンダの【爆炎衝撃】か、黒套の【水雷爆弾】のいずれか……
——しかし、その二人が交互に、これらの大技を(可能な限り)連発したとしても……大技である以上、どうしても溜めや反動が必要になるため、最大まで効率的に運用しても、あの氷壁を破壊できるまでにかなりの時間がかかってしまい……貴婦人の召喚を防ぐには間に合わない。
——っ……私とにゃんたろーにも【水雷爆弾】が使えれば……! 四人がかりで運用できれば、なんとか間に合った可能性はあるかもしれないのに……っ。
自分の実力不足が悔やまれる……
【水雷爆弾】は、〝三矢一体〟——すなわち、三つの魔弾を一つに合わせる高度な技だから、私にはまだ使えない。
——今の私に使えるのは、せいぜいが〝二矢結合〟まで……
【水雷爆弾】は、赤、青、黄の三つの魔弾それぞれを同時発動しつつ特定の比率で組み合わせることにより、まさに爆発的な威力を生み出せるという強力な技である反面、魔力の調整がかなり難しいのだ……
——その分、消費魔力量は破壊力にしてはそこまで多くないという利点もあるのだけれど……それも裏を返せば、それだけ難しいからこその破格の威力だと言える。
二つの魔弾を組み合わせる二矢結合ですら、今の私にはギリギリの難易度で四苦八苦しているのだから……一人で三つも組み合わせるなんて、とてもとても——
……待てよ?
一人で無理なら、協力すれば……
——奇しくも、今は同じ『七矢の弩』使いが三人いる……
普通なら無理だろう——自分一人でも難しいのに、他者と協力してお互いの魔力を特定の比率にピッタリと調整するなんて、そんな芸当は不可能に等しいのだから——しかし私は……私たちは、お互いに強い絆で繋がった無二の仲間たちなのだから……っ!
可能性は、あるんじゃないのか……っ!?
『“……にゃんたろー、黒套——聞いて、作戦がある”』
もはや、これに賭けるしかない——
そう決意した私は、さっそく協力すべき二人に概要を説明していき……ぶっつけ本番で、その〝合体技〟を試すことにする。
私が赤、にゃんたろーが青、黒套が黄——
それぞれの魔弾の威力——そこに込められた魔力を、ピッタリと必要な値に揃えて……
——お互いを繋ぐ〝接続〟を通して、お互いの魔力を感じ取れる私たちだからこそ、それも可能になる。
さらにはその上で、対象の真上においてピッタリと命中して合わさるように、お互いの射線と発射のタイミング、そして発射した魔弾の速度すらを一つに合わせるのだ。
…………揃った!
『“いくよっ、二人とも! 3、2、1——〝三叉射撃〟ッッ!!”』
バシュッ——っと、完全に三つの発射音が揃い……
『“赤炎燃弾”』
『“青氷結弾”』
『“黄雷光弾”』
まったく同じ速度で飛翔した三色の魔弾が、貴婦人が引きこもる氷壁の上でピッタリと重なり合うと——
『“七矢魔弾——相乗合体・三矢一体——水雷爆弾”』
カッッッ——ドッッカアアアアアァァァァァァァンンンッッッッッ!!!!
その場で特殊反応を起こし、破滅的な威力を宿した魔弾へと変化すると、直後に大爆発を巻き起こしたのだった。
っ……成功したッッ!!
——なんてこと……これは、本当にすごい技を編み出してしまったかもしれないっ……!
これが……これこそがっ、今の私たちの完成形だ……っ!
なにせこれなら、短時間のうちに何度でも連発できる——!!
——三人で分担しているお陰で、個々の負担がとても少ないから、溜めも反動もほとんど無い……!
——そもそも、それぞれがやっていることは、ただの通常魔弾を飛ばしているだけなのだから……連発できて当然なのだ。
——もちろん、その分、本来ならお互いの間での調整が至難の業になるはずだったのだけれど……それくらいは、これまでに積み重ねてきた絆があれば、私たちにとっては何の障害にもならない。
——まあ、黒套はだいぶ新入りだけれど……でも、『七矢の弩』の扱いが一番上手いのも黒套だから、付き合いの短さを経験と技量でカバーしてくれる。
いける……これなら……っ!
あの氷の牙城を、圧倒的な破壊力を持つ爆撃の連射で打ち崩せるっ……!
活路が見えたっ——!
『“二人とも……やるよ! 目標——目の前の氷の塊! 私たちの絆パワーで、あの氷城を粉々に打ち砕くっ!”』
そう勇ましく宣言すると……
それから私たちは、止まることない怒涛の攻勢を開始した。
新たに編み出した連携合体技——〝三叉射撃・三重爆撃〟を、可能な限りの速度で連射する!
——三人の魔力を調整して……発射! 発射! 発射ァッ!!
ドォォォオオオン——!!!
ドォォォオオオン——!!!
ドッッカアアアアアァァァァァァァンンンッッッ!!!!!
三色の魔弾が幾度となく宙を舞い、寸分の狂いもなく狙い通りの場所で融合し、大爆発を巻き起こす——
そんな光景が、幾度となく繰り返されて……
真夏の花火大会もかくやというド派手な爆発の祭典が、氷湖の凍てついた湖面を震撼させる——!
〈ツッコミ番長:敵が守りを固めて引きこもったから、どうするんかと思って観てたら……なんかいきなりやが灰がとんでもない威力の爆撃をヤバい頻度で連発し始めてて草ァ!!笑笑〉
〈やが灰のファンである:追い詰められた(敵を仕留めようとして)ソラちゃんが覚醒して、爆撃魔になっちまった、だと……ッ!?!ww〉
〈やがてファンになる:さっすがソラちゃん! ここぞという時にいつでも俺たちの予想をいい意味で裏切ってくる! そこに痺れる憧れるゥ!!笑〉
〈地上の視聴隊:絵面がとんでもないことになっていますけれど……でもこれって、実のところ、かなり高度な連携技を披露してくださっているのではないんですの?? さすがはソラ様……恐ろしいまでの才能ですわね——!〉
〈眠れぬ森の女王:今のソラでは打ち破れぬ規模の魔法じゃと思ったが……いやはや、見誤ったのは妾じゃったか。これほどの妙技を、この土壇場で、よくぞ……さすがは我が主様よ。うむ、実に見事、まことに天晴れじゃ!〉
撃てば撃つほど、集中力が高まっていくように感じる……
——これはいわゆる、過集中状態ってヤツなんだろうか……
前回よりも今回が速く、そして、今回よりも次回はさらに速く撃てるようになる……
——爆発の音と響く振動が、次第に心地よく感じるようになっていく……
氷城が内包する魔力が、爆撃を受けるたびに——魔力感知を通して——目に見えて減っていくのが分かるっ……
決壊の時は、近い——!
——目標を中心に入れて……三つの射線を交差、魔力を調整し、呼吸を合わせたら……発射ッ!!
ドォォォオオオン——‼︎‼︎
——目標を中心に入れて……三つの射線を交差、魔力を調整し、呼吸を合わせたら……発射ッ!!
ドォォォオオオン——‼︎‼︎
バキバキバキッ——ガラガラガラッ‼︎‼︎
——目標を中心に入れて……三つの射線を交差、魔力を調整し、呼吸を合わせたら……発射ッ!!
ドォォォオオオン——‼︎‼︎
「ッッッ……!!!」
——目標を……はっ!
氷の城壁が、一気に崩壊して——最後の爆発で完全に吹き飛ばされた……!
——ズタボロの貴婦人が倒れ込んでいる姿が、崩れ落ちた氷塊の只中に現れる……
召喚は……されて、ない!
間に合った!
ということは……
この勝負……勝った——!
自らの勝利を確信して——さぁ、剥き出しになったところで一斉攻撃して、このまま一気に終わらせてやる——と思った私だったけれど……
——ズキッ……ッ!!
緊張の糸が緩み、極度の集中がプツンと途切れてしまった反動か……その時、とてつもない疲労感が一気にドッと押し寄せてきて——同時に激しい頭痛に襲われ、とっさに意識が朦朧としてしまう……。
——う、ぐぅっ……や、ヤバい……
——これはっ……集中して気づいてなかっただけで、黒套とにゃんたろーの魔力を常に感じ取りながら調整していた私の負担は、実はかなり大きかったんだ……
——し、指示を……あと少しで、トドメが……勝利は、目の前……なのに……っ!
『“快復の光”』
もはや足腰すらおぼつかず、思わずその場に崩れ落ちそうになった——その時、胸元から暖かな光が溢れて……靄がかかったような私の意識は、まるで霧が晴れるようにスッキリと覚醒した。
ハッとして胸ポケットを見ると、そこには頼れる小さな妖精さんが、こちらを——少しだけ心配そうな表情をして——見上げており……
『“りんちゃん……! ありがとう、もう大丈夫だよ”』
私がそう伝えると、彼女はパアッと明るい笑顔になって、うんうんと頷いて見せるのだった。
——あらかわいい……。
いやぁ……本当に助かった。うっかり意識がトんじゃうところだった。
……っとぉ、ボヤッとしてる場合じゃない。
——戦いは、まだ終わってない……
貴婦人はどうなった……?!
ハッとして貴婦人の方を見やると……彼女はなにやら、身を屈めて足元の氷面に両手をつけており——
次の瞬間、そこから一気に、強烈な魔力と大いなる衝撃が、周辺一帯に広がっていく……!
——やられた……! 一手、間に合わなかったか……
私が最後にへばらなければ、そのまま勝てていたかもしれないだけに、少しだけ無念に思うけれど……反省は後だ。
今は、この最後の局面を、無事に乗り切ることだけを考えなければ……!
ゴゴゴゴゴゴッッ——バキバキバキバキッッ……!!!!
氷湖の氷面に両手をついた貴婦人を中心として、足元の氷がバキバキと割れて、崩れて、粉々になっていき——そのまま最後は青い粒子に変わりながらも貴婦人の元へと飛んでいき、彼女に吸収されていく……
——うおっ、こっちにも来たっ……!
貴婦人を中心にして、周囲にどんどんと広がっていくように……分厚いはずの氷面が、どんどんと裂けて、砕けて、粉々になっていく——っ!
足場となる氷がどんどん消えていき……代わりに現れるのは、これまでは氷の下に隠れていた水面だ。
——ヤバい、足場がっ……氷がどんどん無くなっていく……っ!
貴婦人を中心として始まった氷面崩壊現象は、どんどんとその範囲を広げていっており……それなりに距離を取っていた私のいる場所にも、すでに迫ってきている。
その様子を見ては、私も一瞬、足場となる氷が完全に無くなって水の中に落とされるかと思って焦ったけれど……
——幸いにして、崩壊現象は貴婦人から離れるほど効果が落ちていくようで……
私のいる辺りまで来る頃には、氷が完全消滅する粒子化はおろか、粉々になるまでもいかず、ある程度まで砕けてしまったところもあるけれど、大部分はいくつかの塊になるくらいに裂ける程度で留まりそうな勢いだった。
——というのを、崩壊の予兆となるように貴婦人から広がっていく魔力の流れを〝視る〟ことで、私は素早く推察する。
とはいえそれでも、足場が大きく制限されることになるのは確かなので……私は選択を迫られていた。
すなわち、引くか……それとも、あえて攻めるか。
現在の貴婦人は、ある種の暴走強化状態になっている。
——という話は、リスナーに向けた説明では(ネタバレ嫌いなやっさんの意向で)触れられていなかったけれど……私にはちゃんと事前に(休憩中の雑談で)教えてくれていたので、この段階から現れる【???】のことも含めて、私はすでに知っている。
周囲の氷を分解して魔力に変えて吸収することで、足場となる氷面を崩壊させてこちらの動きを封じつつ、同時に自分のSTを劇的に高められるという——まさに一石二鳥の効果が得られる、貴婦人の最後の切り札。
——貴婦人は水の上でも瞬時に凍らせつつ移動できるらしいので、彼女の場合は足場となる氷が無くなっても問題無いという……
とはいえこれは、あくまでも一時的な強化であり、しかも、劇的な効果がある反面かなり無理している分、効果時間が過ぎたらほぼほぼ戦闘不能になるくらいに強烈な反動がくるらしいので……これから行われるであろう貴婦人の猛攻を凌げたら、それだけでもはや、こちらからは何をする必要もなく相手はそのまま自滅することになる。
なので、守りに徹しつつ一時的に撤退するという戦略も、十分に考慮に値するのだけれど……
崩壊していく地面ならぬ氷面を、分断された場所を飛び越えて無事な部分へと移動しながらも——脳内でそう逡巡する私をよそに、その時、いよいよ貴婦人が立ち上がって……
『“公転する白氷星の防衛陣”』
すわ、もう攻撃が来るかと焦る私の予想を裏切るように——貴婦人が最初に使ってきたのは、まさかの……その魔法だった。
——っ……暴走状態でも、貴婦人の頭は極めて冷静だ……っ!
——攻撃に専念するために、最初に自動防御の魔法を使う……なるほど、とても理にかなっている。
——これは……背中を見せれば負ける……
——だったら……やるしかない!
しかし、私がそう覚悟を決めた時にはすでに、ついさっき強力な魔法を使ったはずの貴婦人が、すぐに新たな魔法を使ってきていた。
『“連続する氷の礫弾”』
『“水盾防御”』
高速で連射される拳大の氷の弾が〝青猫〟ペアを襲い——氷が割れたことで、水の下から襲いかかってくるようになる【???】を避けるために、にゃんたろーと共にすでに宙高くに浮いて避難していた——ウェンディが、水の盾で防ぐ。
——っ、本来はあるはずの反動を無視したような連続詠唱……これも暴走状態の効果なの?!
——……だったらやはり、逃げられるような相手じゃない。
——自動防御に加えて、あの連続詠唱なら……並大抵の攻撃は防がれるどころか、むしろカウンターでこちらが危ないくらいだ。
——とはいえ貴婦人の体力も、もはや限界ギリギリのはず……
——あと一撃でも大技が決まれば、きっとそれで倒せる……!
水魔法の応用で、水の体である自分自身を浮かせることで——その気になれば、にゃんたろーくらいは抱えて浮遊できるウェンディだけれど、機動力というか空中での移動速度は遅いので、あの連射を躱せるほどではない。
——空中浮遊と防御の併用では、おそらく彼女も長くは保たない……
相変わらず隠密中の〝闇骨〟と〝空主〟は、今は貴婦人にも【???】にも襲われていないけれど……すぐにでも援護しなければ、このままでは〝青猫〟たちが危ない。
——とはいえ、攻撃したら位置がバレる……だからこれは、最初で最後のチャンスだ。
次の攻撃で、すべてを終わらせる——っ!
貴婦人の弱点は、もう分かっている……だから、そこを突く。
『“——ウェンディ、あと少しだけ耐えて! ——にゃんたろー、何かあったら〝頼む〟よ。——黒套、〝サポート〟をお願い。——ウィルくん、〝タイミング〟を合わせてね……。——りんちゃん、念のため準備〝お願い〟ね。——ラマンダ、ここで〝決める〟よ!”』
まさに以心伝心——〝念話〟により、一瞬で最後の作戦概要を伝えた私は……
作戦通りに、ウィルくんと別れて姿を現した黒套が、牽制射撃で貴婦人の気を引いてくれたところで、自らの役割を果たす。
『“七矢魔弾——白光線弾”』
黒套と〝青猫〟に気を取られている貴婦人の背後から、彼女の背中を狙って白い線が伸びていき——割り込んできた白球に遮られる。
——やはり、これでも防がれたか……まあいい。
すると、それとほぼ同時に——
『“迷闇の暗幕”』
ウィルくんが魔法を放ち——視界を閉ざし、方向感覚を失わせる闇の帷が展開し、貴婦人の周囲を大きく覆い隠す。
「——っ!?!」
真っ黒な闇に覆われて、もはや私からも見えないけれど——思わず魔法攻撃の手を止めるほど動揺しているらしき貴婦人の位置だけは、白線の向こうにしっかりと感じ取っている。
『“強烈なる吹雪”』
するとすぐさま、いかにも慌てたように貴婦人がその魔法を使ってきたようだったけれど……実体の無い闇の魔法は、吹雪で吹き払うことは出来ない。
——白い光の線も、切れていない……無事だ。
すぐに効かないと悟ったのか、早々に吹雪の魔法が終了したところで——間髪入れずに反撃する。
終わりだ——!
『“使令強化——爆炎衝撃”』
私が構える——白い光の線が伸びている——『七矢の弩』の上に陣取ったラマンダが、白線に沿って飛ばすように、その大技をぶっ放して……
ボォッヒュゥゥゥゥ——ドッカァァァアアアアアンンッッッ!!!!
爆裂弾が闇の中に突っ込んでいき、すぐに盛大な爆発が巻き起こり、闇の魔法ごとすべてを吹き飛ばした。
——っ、貴婦人は……?!
やがて、爆発の煙が晴れていくと……
——ボスである貴婦人の姿はおろか、ドロップしたはずの魔石も含めて……
そこにはもはや、何も残っていなかった。
……やった!
倒したっ!
私の……勝ちだ!!
瞬間、一気に喜びが溢れてきて——
同時に、早くも貴婦人の魔石の回収などの事後処理のことが頭をよぎり……
バシャッ——ギュルルルルルッッ——ドスゥッ!!!
完全に油断していた私の土手っ腹に——【???】ならぬ——〝氷鋭魚〟が、水中から飛び出す勢いそのままに高速回転しながら激突してくる。
ぐっふぅぁっっ!!!
凄まじい衝撃により、大きく吹き飛ばされた私は……
交通事故もかくやという勢いで、氷の上を滑っていき——
ツルツルツル〜〜——ドッボーンッッ!!
最後の足場としていた、大した面積もなかった氷塊の淵よりアッサリと飛び出してしまうと……そのまま極寒の湖水の中へと落っこちていったのだった。




