第18話 ⑨——「いまさらの解説編……!」
神楽お嬢様の口から、唐突に飛び出してきた、〝魔功術〟なる聞き慣れない単語の意味とは……?
すわ、知らないのは私だけかと、ちらりと周囲を見渡してみても……御剣姉妹の二人と、そしてやっさんも——よく分からないという顔をしていた。
「ええ、ええ……皆様の、その〝はてな〟という顔も納得ですわ。なにせ、この〝魔功術〟——魔力に気功の技術と書いて、魔功術ですわ——とは、この私がそう名付けて、勝手に呼んでいるだけですもの。
オホン……まあその、この魔功術というのは……つまりは、世間一般——というか、探索者界隈においては、〝魔力操作の技術〟だとか、あるいは単に、〝魔力を直接操ってアレするアレ〟とかって言われている……それのことでしてよ」
魔力操作……と言われたら、私にも解る。
——周りを見ても、今度は皆「ああ、アレのことね」と納得した顔だ。
実際、正式名称も無く適当な呼び方で語られているくらいに、フワッとして捉えどころのないアレだよねってところは、確かにある……。
「さて、魔功術の話をする前に、軽くおさらいをしておきましょうか。
では、ソラ様。探索者が獲得し、使うことができる力——つまりは〝能力〟として、具体的には一体どういったものがあるのか……その種類として、貴女が思いつく限りのものを、一つ一つ挙げていってみてくださる?」
「あ、はい……えっと——」
お嬢様の問いに対して、私は少し考えてから答えていく。
探索者の持つ能力としては、やはり……まず真っ先に上がるのは、天恵だろう。
誰しも、初めてダンジョン内に足を踏み入れた時に、一人につき一つ、獲得する固有能力——それが〝天恵〟だ。
——まあ、固有能力と言いつつ、私の【使役】みたいに、他人と同じ能力になることもあるけれどね。というのも、ここでいう〝固有〟というのは、あくまでも個人が〝その身に〟有する能力という意味だから。
そう……だからそういう意味では、探索者がその身に直接的に宿している能力というのは、厳密にはこの天恵だけなのだ。
——なので……〝魔眼〟のように、自分の体に直接宿すような能力は、天恵以外ではあり得ないとされている。そして、一人の人間が二つ以上の能力をその身に宿すなんて事例は、いまだかつて確認されたことがない……はず、なんだけれどね、一応(やっさんを見ながら)。
なにせ他はすべて、後付けの外付けで獲得する能力しかないから。
探索者が使用する能力というと、天恵以外にも色々と種類がある。
と言っても、呼び名の区分けとしては——戦技と、武技と、あとは能力というのがあるくらいだろうか。
まあそれも——戦技は天恵の能力から派生した技のことを指す言葉だから、実質的にはギフトの一部だし……武技と能力は、どちらも装備に宿る能力を、武器とそれ以外で言い分けているだけだし……
なので、整理すると……探索者の能力とは、大別して〝天恵〟由来か、〝装備〟由来かに分かれるということだ。
後はそれこそ、〝魔法〟があるけれど……これについても、天恵由来と装備由来の両方がある。
魔法系の天恵持ちは、天恵が成長していくにつれて、特定の魔法(呪文)を覚えていく。
それ以外の魔法使いは、杖や魔導書という魔法系の武器や装備を使うことで、魔法を発動する。
——以前の私がまさにこれであり、魔法の杖に宿った呪文を発動していた。
ただ、いずれの能力にも共通している、一つの絶対的な法則があり……それが、「能力を発動するには、必ず魔力の消費が必要になる」というものである。
それでいうと、この〝魔力〟もまた、天恵と同様に、ダンジョンに初めて入った際に新たに獲得する能力の一部だと言えるのかもしれない——。
「——という感じで……どうでしょうか」
「ええ、とても解りやすい説明だったと思いますわ。概ね、その通りですわね」
「ふ——概ね、ねぇ……」
「ええ——まあ……他にも、まだ挙げられるものが無いわけではないのですけれど、ね」
光刃さんとお嬢様が、目線を交わして何やら意味ありげに——配信にも聞こえないくらいに——小声で短くやり取りしたのも束の間……
お嬢様はすぐに視線をこちらに戻すと、いよいよ本題を切り出してきた。
「ただし……そう、本題となるべき部分が抜けていましたわね。それこそが、最初に言った魔力操作——〝魔功術〟についてですわ。
ソラ様は——魔功術という呼び名はともかく——魔力操作については、どれくらいご存知でいらっしゃるのかしら」
「そ、そうでした、魔力操作を忘れていました……すみません……。
あ、それで、魔力操作——いえ、魔功術について、ですよね……えっと——」
魔力操作……改め、〝魔功術〟(お嬢様の手前、今後はそう呼ぶとしよう)とは、文字通り、魔力を操作する技術のことだ。
これは、魔力を持つ者——すなわち探索者なら、訓練次第で誰でも使えるようになる技術だと言われている……のだけれど。
——うん、はい……私は全然使えないんだよね……。
基本的には、次の三つの項目に分かれる。
・身体強化
魔力を体内にて巡らせることで、身体能力全般を強化できる。
——一口に身体能力強化と言っても、それは単純な筋力・膂力の向上に限らず……五感の鋭さを増したり、自然治癒力を促進する、なんて効果も含まれる。
熟練者は——応用技として、自分の肉体のみならず、身につけた装備(手に持つ武器)にも魔力を込めて性能を強化できるという。
・武装強化
身につけた装備に魔力を纏わせることで、装備の性能(威力)を強化できる。
——基本的には、ダンジョン産の(元から魔力を宿す)装備にしか使えないが、応用まで使えるようになれば、あらゆるものに対して使用できるようになるらしい。
熟練者は——自分自身の体(の外側)に魔力を纏わせることで、下手な鎧よりも防御力を高めたり、はては「足裏に接する地面を〝武装強化〟で固めて、足場を強固にする」なんて応用も可能になるのだとか。
・魔力感知
魔力を宿した対象物を感知する。
——基本的には、視覚や嗅覚、それから聴覚などの五感を介して発動し、主に魔力の光(の濃淡)を視たり、匂いを嗅いだり、音の波長を捉える、といった形で発動するらしい。
熟練者は——(魔力の持つ)色の違いまで見抜き、あるいは匂いの特徴を嗅ぎ分け、さらには音の高低や音階までもを識別できるのだという。
「……という、感じでしょうか?」
「素晴らしいですわ! よくお調べになっているではありませんの」
「あ、あはは……そうなんです。それというのも……実は以前に、できる範囲でガッツリ調べてはみたんです。
でも、結局は調べてみただけで……まあ一応——一時期は色々と、試してみたりとかもしていたんですけれど、いくらやってもまったく成果が出なくって、諦めちゃいました。そして、それ以降は……今日まで、ほとんど手をつけてないんです」
「確かに……手探りで習得まで漕ぎ着けるのは、実際のところ至難の業ですわ。かといって、習得済みの者が教えようにも、個人の感覚に依るところが大きい技術なものですから……それもなかなか、上手くいったという話は聞きませんわね」
そうなんだよね……私も過去に色々と調べていた時に、「【最短10日で習得!】熟練探索者が、直々に魔力操作をレクチャーします」って感じのレッスンを見つけて、思わず飛びつきそうになったこともあったんだけれど……
よくよく調べてみたら……そういうのって、ほとんどか詐欺の類いだからやめておけって言われてることに気がついたから、慌てて申し込みを取りやめた——なんて苦い経験も……
「しかし、そうは言っても、魔功術は探索者にとって、最も基本的かつ重要な技術と言えるくらいに、避けては通れないものですから……
それこそ、上級を超えて、特級——はては、さらにその上の領域へと……果てしない道のりを、それでも目指すのでしたら、もはや必須の技能といえますわ。
ソラ様が探索者として、どこまでの高みを目指していらっしゃるのかはともかくとして……どちらにせよ、これから〝下層〟に到達するつもりなのであれば、いよいよもって魔功術は必要になってきますわ。
——魔功術無しでも、天恵や装備だけでなんとかなった中層までとは、明確に違う次元になってくる場所……それが下層ですもの。
しかしそれは、この私がいまさら言うまでもなく……そこにいる偉大な先達様が、最初からすでに、そこまで見越しておいでになっていたようですけれども。
そうでしょう? ソラ様の装備として、あれらを見繕った——夜叉姫様」
「……ふふ、流石だね、お嬢様くん。ボクの意図なんて、キミにはお見通しってわけかい」
「うふふ、いえいえ……あれほど分かりやすく最適な装備を揃えられてしまっては——見る人が見れば、すぐに解ろうというものですわ」
「ん、それって……」
そういえば……やっさんが私の装備を選んだ時に、どうしてこの装備なんですかって軽く訊いたら、これが一番、強くなるのに近道だから——的なことを言っていたような……
その時は、どうせ口で言っても上手く伝わらないから、とりあえず使ってみてほしいって言われて、それ以上は詳しく教えてもらえなかったんだけれど……
お嬢様の反応を見るに——やっぱり、何かあるんだ……他のどの装備でもなく、この装備を選んだ理由が……?
その理由とは、一体なんなのか——
気になるその先を考えようとした——ちょうどそのタイミングで、テーブルの上にあった水晶玉が光と音を発して敵襲を知らせてきたのだった。
「ふむ、新手ですわね。どうやら、会敵は避けられないようですわ」
「ん、なんか話の途中みたいだし——アタシら、今回のコラボでまだ戦ってないし……ってことで、ソイツらは、この御剣姉妹が相手をしちゃおっかなー! ……どう? いいかな?」
光刃さんが元気よくそう言い——チラリとやっさんを見たお嬢様が、やっさんが頷いたのを確認してから——その言葉を肯定する。
「ええ、それでは次の戦闘は、お二人にお任せしますわ」
「よしきた。あ、じゃあさ……せっかくちょうど魔力操作——じゃ、なくて……なんだっけ、ああそう、魔功術。それの話題が出てるから、アタシらが実演してみよっか?」
「それは……願ってもない申し出ですが、よろしいんですの?」
「ん、いいよね? あーちゃんも」
「んだ! ぜんっぜんオッケーだぉ。んじゃ〜、次のバトルは、他の能力はゼンブ禁止の縛りプレイ! 魔力そ——じゃねくて、魔功術だけで戦うワ。つーわけで——見ててな、ソラっち」
「う、うん、しっかり見てる!」
「おーしおし。それじゃ、ビシッと配信初の戦闘をこなしてきまっさ。んじゃいこっ、あーちゃん!」
「あいあいやー!」
というわけで、何やら次の戦闘は、御剣姉妹が私に〝お手本〟を見せてくれることになったのだった。




