第18話 ⑦——「いざ室内で優雅に……ガトリングトーク!!」
「——さて。では、落ち着いたところで改めまして……先ほどの戦いは、とても素晴らしい健闘でしたわ、ソラ様」
「あ、ありがとうございます、神楽お嬢様」
なかなかに不恰好な内容だったけれど……私の初戦もなんとか無事に終わり——魔石拾いなどの後処理も終わらせて——今はまた、〝快優邸〟での移動を再開していた。
〈やが灰のファンである:いやマジでっ、めっちゃ迫力ある戦闘だったよソラちゃん! 中でも特に、最初にやった怒涛の連続射撃には痺れたっすわぁ……!!〉
〈浮世の社畜ん:にしてもまさか、あのやが灰が……男の子ならみんな大好きなタイプの特殊機構武器まで使いこなし始めるとは……これは一気に熱心なファンが増えるんじゃないの?(確信)笑〉
〈やがてファンになる:いやマジでっ?! なんすかあのババババババァッ! って撃ちまくるヤツぁッ!? あんな機能も付いてたん?! 聞いてないよぉ〜!? でも僕アレすでにマジで大好き!!!笑〉
〈†漆黒の堕天使†:……まさか君も、†こちら側†だったとはな、†やが灰†——。改めて……ようこそ、浪漫武器使いの少女よ……今宵、新たな同胞の産声に——†乾杯†〉
〈やが灰のファンである[¥30000]:狼とのインファイトで、殺意剥き出しで覚悟ガンギマリの鋭い眼光を放っていたソラちゃんの力強い瞳と、画面越しに目が合って射抜かれた瞬間に……私の心の鐘楼が、極めて特殊な性癖の鐘を鳴り響かせて……この度、めでたく新たな扉が開きました。ありがとうございます。——というわけで、こちらはご祝儀(?)です?〉
〈やが灰のファンである:平気そうにしてるけど、ソラちゃん怪我は無い? 大丈夫……? あの新しい防具が活躍したんかな——って、なんかぶっ飛んだスポコメ出てきたな!?笑〉
お嬢様にお声がけしてもらえた嬉しさに恐縮してしまい、思わず視線をさまよわせた際に、ふと目に入ったコメント欄を見ていくと……予想通りというか、例の新機構を気にする声が多かったので——先に話を振ってくれたお嬢様と、それから、反応に困る謎のスポコメに対して……一言断ったり、ちゃんと感謝の言葉をかけてから——疑問の声に返答していく。
先ほどの戦闘で初披露した〝特殊連射機構〟は……元々は、『七矢の弩』に最後に合成した弩に搭載されていた機能であり、それがそのまま、合成後にも持ち越されたものだった。
あれから時間が経った今になって、初めて披露する運びになったのには理由があり……それはひとえに、一定の運用に耐えるだけの膨大な矢弾を用意するのに、今日まで時間がかかったからだった。
——元となった特殊な弩を使っていた歴戦骸骨兵の場合は、専用の矢弾(というか、予備の樽型弾倉)を別途所持していたらしいのだけれど……そこまではドロップしていないし、そもそも、それを含めても総数としてはまるで足りない。
————なので、今使っている予備の樽型弾倉については、やっさんが(なんやかんやして)大量に複製してくれたものだったりする。
件の連射機構は凄まじい連射力を誇る反面、その利点を前面に出して運用していくためには、どうしても専用の矢弾——〝黒針弾〟が大量に必要になる。
この〝黒針弾〟自体は、【七矢魔弾】の特殊矢弾の一つであり——その中でも唯一、「実物がいつまでも残る、魔力ではなく実体を持つ矢を生成できる」という特性を持つ——【黒鋼重弾】を使って、一本一本、手作業で用意しているのだけれど……主に黒套が。
この件に関しては、始まりはやっさんの提案であり……ダンジョンでの待機時間と、アンデッドの特異性を有効利用しない手はない——という理由から、黒套に白羽の矢が立ったのだった。
——その時の、「疲れを知らないアンデッドには、実に相応しい仕事だろうよ……」と言って笑っていたやっさんの(あくどい)顔が思い出される……
とはいえ……いくら不眠不休で作業できる黒套とはいえ、一人で一本一本大量に作成するのにはそれなりの時間を要したので、今日までお披露目することが叶わなかったのだ。
という経緯を——部屋の隅に陣取った黒套が、さっき使い切った樽型弾倉に、今も手作業で一本ずつ矢を再装弾してくれている様を、感謝の気持ちで横目に見つつ——リスナーたちに話し終える。
〈ニートの無職ん:コクトーを始末しないと決めたら決めたで、今度はメタクソにこき使っていくスタイルの誰かさんは、まさにブラック上司の鑑だなww〉
〈浮世の社畜ん:コクトー……強く生きろ……!(アンデッドだけど笑)〉
〈やがてファンになる:まあ、そうやって役に立てる仕事がある間は始末されないだろうから、むしろ安心かもな……なんて考えているオレは、すでに何かに毒されてないか?笑〉
先ほどの戦闘では、さっそくこの連射機構にも大いに助けられたので……黒套とやっさんに感謝はすれど、私にとやかく言える資格は無いのだ……。
「……」
そもそも今の私は、あれこれと贅沢を言えるような立場——いや、実力ではないのだ。
そのことは、先ほどの戦闘を終えた今、よりはっきりと自覚した……。
今の私には、まだまだ足りない……何もかもが……
——寒さや雪に慣れていないのは、ひとえに経験不足だし……
——狼に襲われて醜態を晒したのは、単純に私の実力不足だし……
——指揮官であるはずの私が、真っ先に窮地に陥るなんて……指揮力不足以前に、一番やってはいけないことなんだから……。
落ち込む内心に引きずられるように、思わず俯いてしまいそうになる——そんな私の沈む心に波紋を生じさせるように、その時、澄んだ声が私の意識を浮上させる。
「……なにやら、迷いが見えますわね。ソラ様」
「あ、神楽お嬢様……えっと、その……はい。そう、なんです」
「よろしければ……その悩み、私たちに話してみませんこと?」
「え、私の悩みを、ですか……?」
「ええ。なにせ、そもそも今回のコラボ配信の一番の目的は、貴女の成長を助けることなのですから。私としても、元より、そのつもりで今日ここに臨んでいるのでしてよ。
それこそ、うちには貴女と同じ使役師のセバスがいますもの。貴女を導く先達として、私たちより適した存在は他にいないと存じますわ」
「そ、それは……確かにそうです、はい」
「でしょう? ですから……この際ですし、何でも相談してみてくださいまし」
「い、いいんですか……? あ、ありがとうございます!」
ここまで親身になってもらえるなんて……それもこれも、すべてはやっさんのお陰だ。
そのことに改めて盛大に感謝しつつ、私はお嬢様の親切に応えるためにも……赤裸々に自分の内心を吐露していった。
私の話を————やっさんのお陰で、ずっと停滞していた状態からは抜け出すことが出来たけれど……それはそれとして、私自身の実力は、まだまだこの階層には追いついていないのではないか……結局は、やっさんのお陰でここまでこれただけなんじゃないか……私自身の実力は、まだまだ未熟なんじゃないか……しかし、だとしたら、私はどうすれば、ここに見合う実力になれるのだろうか……だなんて、自分で言ってて聞くに耐えない、弱音とも愚痴とも取れる戯言を————黙って最後まで聞いてくれたお嬢様は……まずは静かに紅茶を一口、優雅な所作で口にしてから、ややあって口を開いた。
「ふむ……まず、大前提として、私はソラ様に実力が無いとは思いませんわ。
ええ、もちろん……この場にいる探索者の中でいえば、ソラ様が最も後塵を拝しているのは事実ですわ。
しかしそれは、あくまでも——本来は、もっと深い〝界層〟を主戦場としている——私たちと比べているから、そうなるのであって……ソラ様自身を客観的に評価すれば、決して実力は低くないどころか、中層を主戦場とする中級探索者としては、十二分に相応しい実力をお持ちですのよ。
いえ、まあ……それはそれとして、まだまだ未熟な部分もお有りですし、それも事実ではありますわ。ですが——それも、今後の伸び代だと考えれば……そのように悲観する必要なんて、まったくもってありませんわ。
そもそも、私が思うに……ソラ様の主要な実力を表す〝三つの柱〟のうち、二つの柱については、すでに下層にも十分に通用する——すなわち、〝上級〟と評するに値する——水準に達していると見ておりますから……落ち込む必要なんて、まったくありませんことよ」
「えと、三つの柱……ですか? そ、それって……?」
「ええ、ええ。では、ここで一つ、講釈させていただきますわ。——紳執事! 例のものを」
立ち上がりつつ、パンパンと手を叩いたお嬢様に合わせて、有能執事が用意したものは————。




