第18話 ⑥——「うなれ〝新機構〟! これぞロマンの——っ!?」
初戦を見事にヴンオケが勝利で飾ってくれて、めでたしめでたし……と、なるかと思っていたのだけれど——。
「む……これは——どうやら、すでに〝おかわり〟が来ているみたいですわね。さて、いかがいたしましょうか?」
「そうねー、アタシらがやってもいいけどー?」
「あー、いや、悪いけど、ここはボクとソラが先でもいいかな?」
「おっ、全然。いーよん」
「うん、ありがとね。——それじゃあ、ソラ。ボクも一応、後ろから見ておくけど……まずは、自分たちだけでやってみなよ」
「あ、は、はい。分かりました……!」
どうやら、さっそく次の敵が来ていたらしく、私の出番が早くもやってきたのだった。
——うぅん……さすがは上級者だ。私はいまだに全然なんの予兆も掴んでいないのに、彼女たちはすでに敵の接近を感知しているみたい……。
周りはみんな、自分よりも遥かに実力者揃いという中で戦うというのは、普段とは違った緊張を覚える気がするけれど……
いやいや、弱気になるな——集中っ……!
余計なことを考えそうになる思考を振り払って、私は一気に戦闘へと意識を切り替えていく。
まず真っ先にやるべきは、敵情報の把握……すなわち、斥候役の出番だ。
私に言われるまでもなく、早くも索敵を開始しており、すでに敵を捉えていたにゃんたろーへと——使役契約の〝繋がり〟を通して——意識を接続させ、にゃんたろーが感知した情報を、私自身にも直感的に解る形で伝えてもらう。
——っ……敵はさっきと同じ雪原狼、数は12、会敵までは……っ、動きが速い! 猶予はわずか、すぐに来る!
そうと分かるや、すぐさまリンクの対象を全員にまで広げて——敵の情報を、言葉を超えたイメージで真っ先に伝えてから、続けて——〝念話〟で指示を出す。
『“みんなっ、すぐに馬車の前に出て散開して! 迎え討つよ!”』
脳内でそう声を上げながら、自分自身も素早く前に出て行こうとして……思うように進まない足に、早くも焦りが生まれる。
——くっ、積もった雪に足を取られる……まさか、ここまで動きづらいとは!
ついさっきまで、呑気に「綺麗だな〜」なんて眺めていた雪原フィールドの洗礼というものを——ここでは初めてとなる戦闘を迎えるにあたって、私は早々に実感させられていた。
足元の悪さもそうだけれど——実のところ、冬の本場もかくやという、この身を切るような寒さも、これでかなり厄介だ……
——うぅ、指先がかなりかじかむ……手袋装備は防寒用じゃないから仕方ない部分はあるとはいえ、この分だと、クロスボウの取り回しにもかなり影響しそうだぞ……
それに、悪影響があるのは私だけじゃない……他のメンバーも、寒さに耐性の無い子たちは、すでに無視できない影響が出ている。
——特に、ハナちゃんが酷いね……寒さに特に弱い彼女は、ここではまるっきり調子が出ないようだ……
ハナちゃんが当てにならないとなると、途端に緊張感が増してくるけれど……それは事前に分かっていたことだから、不安にはなれど動揺はしない。
——それに、メンバーの半数以上は寒さに耐性があるから、ウチは実際まだマシな方だ。
これは想定通り……ウェンディとラマンダは属性相性的に寒さも平気で、ウィルと黒套はそもそも体質的に寒さの影響を受けない。
それらを踏まえて、どう戦うべきか……って、もう来たか!? やっぱり速い——!
迎撃に集中するために、リンクを切って『七矢の弩(改)』を構える——けれど……
う、ウソっ——この距離でも、敵の姿がハッキリと捕捉できないっ!?
——白い雪の上を進む、白い狼の姿なんて……まったく見えんっ!?
こ、ここまで見えないものなの……?!
で、でも、さっきは……いや、まさか——!
衝撃の事実に、今になってやっと気がつく——
——分かったつもりで、本当はまったく解っていなかった……
さっきヴンオケが戦った時は——あまりにもさりげなくされていたから、私自身も今初めて気がついたくらいに——お嬢様が【豪華絢爛】で狼にほのかに〝着色〟していたから、実はすごく見分けやすくなっていたんだ……ということに。
今さら気がついても、もう遅い……敵は目の前、されど、姿は見えず——
ならば、どうする——?
迷うくらいなら——即ぶっ放す!
この『七矢の弩(改)』の、特殊機構を解放した——連射クロスボウモードで!
ジャキン——!
弩本体の下部に取り付けられる樽型弾倉を装填し……同時に、敵の位置を大まかにでも把握するために、頭装備の能力を発動させる。
『“波紋感知”』
ピィィン——!
私を中心に広がっていく魔力波が、魔力を持つ対象に反応し——姿は目に映らずとも——敵の位置を直感的に脳裏に描きだしていく。
——っ、そこだなっ!
前方に複数並んだ反応に向けて構えた弩の——銃身本体に魔力を込めつつも、私は(自動追尾頼りで)大雑把に狙いをつけて引き金を引き絞り、樽型弾倉に込められている大量の〝黒針弾〟を一気に連射していく……っ!!
ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババシュゥッッッ——!!!
ギャウッ! ギャッ! ギャワッ!
ンギャッ! ワギャッ! ウギャッ!
ギャオゥッ! ボギャッ! ギャゲェッ!
だらららららららららららららららららららららららららららららららららららららららぁっ——どうダァッ!!?
——手応えアリッ……!
いる……っ! 現れたなァっ!? んっ、だけど数が——ぐおっ?!
ギャウッ——ガブゥッッ!!
飛びかかって噛みついてきた一頭に対して、とっさに弩を盾にして頭を庇う——っ!
グルルッ! ガウガフッ! ハァッグルファッ!
ぬううっ! おおおおっ! こンのっ喰らえぁっ!
ガンッ——!
キャンッ!
ドスッ——!!
キャウンッ!
必死の攻防の中で——一瞬の隙を見て狼の鼻面を殴りつけ、怯んだところで間髪入れずに腹を蹴り上げ、吹き飛ばす!
——フゥッ、ハァッ……!
極度の興奮によって心臓の鼓動をうるさく感じつつも、頭の中はあくまでも冷静に状況を見極めており……すでに両手は弾切れの樽型弾倉を外して、素早く新しいものに取り替えている。
ガッ……ジャキン——!
押し倒された姿勢のまま上体起こしのように上半身だけを起き上がらせた私が、マガジンを詰め替えた弩をバッと構えるのと——蹴飛ばされて雪面を転がっていた狼が起き上がるのは、ほぼ同時だった。
ザザッ——狼がその場を飛び退き……
バババババッッ——っと、私の弩が高速連射で黒針弾を吐き出しつつ、それを追いかけていき……すぐに追いつく。
ドドドドドスッッ——!!
ギャウンッ——そんな鳴き声を上げた狼が倒れ込んで動きを止めるのを尻目に、私は迅速にその場で立ち上がり、すぐさま周囲の状況を把握するように努める。
最初の一斉掃射で炙り出せた狼は——みんながちゃんと抑えてくれている。
ただ、私に襲いかかった一匹みたいに、あの連射を掻い潜った個体が他にも数体いたはずなのだけれど……と、その時——
——一斉掃射を運良く抜けてきた三匹のうち、りんちゃんとにゃんたろーという、ウチのメンバーでも特に打たれ弱い二名に襲いかかっていく二匹を、素早い連射でほぼ同時に迎撃する——
——黒マントの彼との交わした視線を合図に、リンクを通して伝わってくる、断続的な記憶の欠片たち……
なるほど、どうやらそちらは、黒套が的確に対処してくれていたらしい。
『“七矢魔弾——赤炎燃弾”』
ボッッ——ズガァッ!!
それこそ——今まさに私が、さっきの狼に止めを刺したみたいに——相手の弱点となる炎属性の魔弾を使って、彼が見事に迎撃してくれていたのである。
——なんなら、私の方にもフォローするつもりだったみたいだけれど……ちょうどそのタイミングで、私が自力で対処したという流れのようだ。
ならばもはや、他に不安材料は無い……から、攻勢に出る!
『“りんちゃん! ラマンダ! 合体浮遊形態! 上からブレスで一掃しちゃって!”』
『『“——シャー!”』』
もはや残りは、最初に私の連射攻撃を喰らって抑え込まれた集団だけだ。
——あの〝黒針弾〟の元になっているのは、【七矢魔弾】の武技で生成した『黒鋼重弾』なので……魔力を込めた銃身を通して撃てば、本来の特性である「命中した相手の重さを増す」効果が発揮されて、相手の動きを鈍らせることが出来る。
最初に〝黒針弾〟を受けて、素早い動きを封じられていたからこそ、その後もバラけることなく——私を除く全員がかりの牽制によって、どうにか一ヶ所に留めておくことができたようだ。
そして、そうやって狭い範囲に集まっている状態ならば、あとは強力な範囲攻撃で一掃してやればいいだけ……!
私の指示を受けて——自前の浮遊能力をラマンダにも発揮させて——二人合わせて宙に浮かび上がっているりんちゃんたちに、強い意志と共に最後の号令を出す。
『“ラマンダ——激火息吹!”』
『“シャー!”』
高所から見下ろして射角も十分なラマンダが、連中の弱点である炎属性の大技を発動する——!
『“激火息吹”』
ボオオオオオオォォォォォォッッッッ——ジュワァァァァッッッ——バッシュゥゥゥゥッッッッ!!!!
燃え盛る火炎の息吹が激しく吹きつけられ、雪原狼たちをもれなく飲み込んでいき——普段よりもいくらか威力が増していそうな勢いでもって、その白い体を焼き焦がしていくのと同時に——周囲の雪が盛大に蒸発して、膨大な水蒸気を噴出させる。
一気に視界が真っ白に煙る水蒸気で染まる中で——慌てることも早とちりすることもなく——私は冷静に観察を続ける。
『“波紋感知”』
放たれた魔力探知波が蒸気を貫通し、その内部にいる狼の魔力が……すでに消えゆく間際であることを教えてくれる。
それでも油断することなく、短い感覚をおいて再度、複数回に渡って魔力波を打ち込んでいけば……
蒸気の霧が完全に晴れる頃には、狼の魔力もすべて完全に消え失せており……ところどころが焦げている剥き出しの地面に、複数の魔石だけが残っているという——戦いの終わりを告げる光景が現れたのだった。




