第18話 ⑤——「これぞまさに、完璧に演出された最高の勝利なり……!」
一面真っ白の雪原を進んでいた馬車が、襲い来るモンスターを迎撃するためにその場に止まると——すかさず飛び出したヴンオケのメンバーたちが、すぐさま馬車の前方に広がり戦闘陣形をとる。
そんな彼女たちに続くように、私たちも馬車から外に出ていく。
——ヴンオケの戦闘シーンを生で観られる機会とくれば、重度のファンを自負する私が、まさか馬車の中で待っていられるはずもない。
これから始まる戦闘の邪魔にならないよう、馬車を引いている一角獣の〝乙女号〟のすぐ近くに並び、それ以上は前に出ないようにしておく。
「セバス——敵の数と種類を」
「雪原狼の群れ、数は18です。お嬢様」
「それなら、前衛が五人だけで十分ですわね。とはいえ、|今は能力制限があり《普段とは少し、勝手が違い》ますから、何かあったらすぐに言うのでしてよ」
「「かしこまりました」」
さすがのチームワークというか——阿吽の呼吸で手短に最低限の確認を済ませたところで……恒例の始まりの合図を奏でるのは、我らがお嬢様だ。
「では、いきますわよ……天御神楽、〝戦いの調べ——『戦闘曲・序』〟!!」
プロ顔負けの演奏の腕前を持つお嬢様が、その天御神楽を優雅にかき鳴らし——
さらには、自前の能力も同時に発動させると……
『“戦闘強装曲・五重奏——豪華絢爛”』
超一流の作曲家に依頼して作曲してもらったという……壮大な曲調の戦闘曲が——天御神楽の主旋律だけでなく——フルオーケストラで響き渡り……
それに合わせて、〝魔提琴 天御神楽〟の持つ能力が——【豪華絢爛】による大伴奏を受けて、さらに大幅に効果を増幅された上で——惜しげもなく発揮され……聴いたものに特殊な効果を発揮させる音色の力で、味方には強化を、そして敵には弱体化の効果を与える〝魔法の旋律〟となって、周辺一帯を大いに席巻する……!
〜〜♪
〜〜〜♪♪
〜〜〜〜♪♪♪
んおおおぉぉぉぉっ……!!
な、生音ハンパないってェッッ……!!
——すっっっご……さすがぁ、お嬢様がソロオーケストラを披露するチャリティーライブを開催したら、我先にと詰めかけた聴衆で特大の箱がソッコーで埋まったという逸話があるのも納得しかない迫力と腕前っ……!
いやホント……【豪華絢爛】なんていう——名前に反して、初めはただ「単調な光と音が出るだけ」だった……とかいう——ふざけたハズレ能力を授かったというのに……
それでも決して、腐ることも諦めることもなく、ただひたすらに能力を鍛え上げた結果が、この素晴らしき大合奏なんだよね……っ。
本当に……一体どれほどの覚悟と努力でもって研鑽すれば——最初はただショボい音が鳴るだけだった能力を使って——たった一人で、これほどまでに壮大な音楽の総合芸術を演奏できるまでになるというのだろう……っ!
曲を通して伝わってくる——お嬢様がこれまで積み重ねてきたもの……その努力の軌跡、たゆまぬ研鑽の証、ほとばしる情熱の輝き…………!!!
……気づけば私は、戦闘が始まる前から早くも、大きく目を見開いたままに、滂沱の涙を流していたのだった……。
「うおぉぉ……これは普通に感動するレベル。マジで最高にイカしてるわ、お嬢様……ってソラちゃん泣いてる?! ヤバぁ……w」
「……分かるよソラち。その、推しに捧げる涙……いと尊きカナ」
「いいねぇ〜……いかにも戦闘曲って感じで、めっちゃテンション上がるぅ〜! やるねぇ〜、お嬢様くん……!」
〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:超素敵な音楽に合わせて踊るっ、天使な夜ちゃんも最高だよっ!〉
〈もっこり助兵衛:あまりにも素晴らしいBGMにノッて踊る、天使なやっきゅんが観られるなんて…………もう少しだけ、そのままでいて。おねーさんも、少し泣く〉
〈やが灰のファンである:ソ、ソラちゃんが……泣いてるっ!!?〉
〈やが灰のファンである:いや分かるよ……画面越しでも伝わるもん、なんというか、〝凄み〟みたいなのがさ……そりゃあ、これを生で聴いたら泣いてもおかしくねぇよ……!〉
〈地上の視聴隊:お嬢様の生演奏を聴けるなんて、すごく羨ましい……と思って、ソラさんには少しばかり嫉妬していましたが……なんということ、わたくしが浅はかでしたわね。ソラさん——いえ、ソラ様。貴女様も、もうすでに立派な我々の同志でしてよ〉
〈地上の視聴隊:たとえ——今さらの中層で、ザコ敵が相手で、もう何百回と繰り返して弾き慣れた曲だろうとも……いつだって本気の全力が当たり前で(いつ聴いても、すべてを一人でやっているなんて凄すぎて、もはや言葉も出ないくらいに素晴らしすぎる伴奏も含めて)演奏には決して手を抜かないお嬢様のプロ根性には、いつもいつも感服させられますわ……!〉
お嬢様のコメント欄を見ても、仲間と認められた嬉しさと全面的な同意しか湧いてこない……!
〈ニートの無職ん:お嬢の演奏がマジでプロ顔負けってのは理解したが……肝心の敵はどこなん? いなくね?〉
〈アンチ太郎:おい夜叉公、不細工な動きで踊るくらい暇なら、実況解説の一つくらいやったらどうなんだ?〉
「チッチッチッ——分かってないなぁ……彼女たちの戦いに、不粋な実況だなんて、それこそが不作法……ただの野暮ってもんさ。あと、この階層の敵は、だいたい全部真っ白だから、雪に紛れてて見えにくいんだけれど……そろそろ出てくるよ」
そう言ったやっさんの言は、まさにドンピシャで——
『“豪華絢爛——敵影捕捉”』
ちょうどその時、いよいよ敵モンスターが、雪の中から浮かび上がるように、その姿を現した。
「いきますわよ……まずは、白鳥! 派手に舞い踊って、優雅に蹴散らしなさい!」
「仰せのままに、お嬢様——!」
白雪と見紛うばかりに真っ白な毛並みの狼たちが、白銀の雪原から次々に飛び出してくるのに合わせて、お嬢様がそう命じると——
二つ返事で承ったメイドの彼女と二人で、さっそく息のあった共闘共演を繰り広げる……!
『“豪華絢爛——天上照明——突華演出”』
『“花形踊子——天光強化——一天突化”』
まさに本場のバレエダンサーのように、伸び伸びと美しい動きで舞うような蹴り技を次々に放っていく白鳥さんに合わせるように……お嬢様はお嬢様で、自らの能力を駆使して、常に彼女を注目の的として際立たせる。
——明るい雪原の上にいてもなお、周囲から浮き上がるように天上より差し込む光を浴びせて輝かせ、さらには、攻撃動作に合わせるように派手な光と鋭い音の演出を能力で描き奏でることで、その威力と見栄えの両方を劇的に向上させる……!
これぞまさに、光と音で派手に演出できるだけの能力と、見栄えが良いほど強くなる能力との、奇跡的な運命の出会いによる、素晴らしき相乗効果……!
その巧みな連携による戦いぶりは、中層級に実力が抑えられていてもなお圧倒的であり……美しく舞い華麗に目立つ彼女に引き寄せられるように集まっていく雪原狼は、しかし鎧袖一触に文字通り蹴散らされていく。
そんな一方的な蹂躙劇を見せられては、雪原狼も分が悪いと感じたのか、白鳥さんを大きく避けて、こちらに来ようとする個体も現れ始めるのだけれど……
そんな、はぐれ雪原狼を遊撃として次々に狩っていくのは——雪の上を、まるでスケートリンクのように自在に滑って動き回っている——ギラさんだった。
そう……彼女の使う武器である〝魔刀 光刃靴〟は、まさにあんな感じに——靴のブレードが発する光の上に乗って滑ることで——どんな場所でもスイスイ滑って移動できるという能力を持っているのだ。
そんな彼女の戦いぶりを一言で表すなら、まさに「戦うアイススケーター」だ。
それも——白鳥さんに負けず劣らずの——優美さと洗練された動きで滑る彼女だから……スケートはスケートでも、フィギュアスケーターと呼ぶのがもっとも相応しいことだろう。
——あれぞまさに、氷上ならぬ雪上の妖精……! 壮大なクラシック調の音楽に合わせて舞い踊る姿は、まさに大舞台のショートプログラムが如し!
蹴りやスピンによって斬撃を放つ刀刃靴使いの彼女が、華麗に踊り抜けていく後には——盛大に斬り裂かれた雪原狼が、真っ白な雪の上に鮮烈な赤を撒き散らしていくのであった。
そんな二人の戦う踊り子の活躍により、さっそく敵の大部分が早くも倒されてしまっていた……のだけれど。
しかし、相手の数が数なので、中には二人の攻撃を掻い潜って、その先へと進み出る個体もわずかに散見される。
そんな雪原狼が標的として定めたのは、他でもない、今も戦場を支配する荘厳なる楽曲を奏でるお嬢様だった。
近づくにつれ、より一層〝弱体化の旋律〟の効果が大きくなるのか、明らかに動きを鈍らせながらも、しかし諦めることなく突き進む雪原狼たちがいよいよお嬢様に迫る——その直前に、立ち塞がる影が二つ。
それは、立派な〝長槍〟を構えた大柄の〝鎧騎士〟と——
スラリとした体躯ながら、まるで巨木のように不動なる迫力を体現した武闘派執事……!
騎士が長槍を軽々と振り回せば、たちまちのうちに倒された狼たちは、その身を塵へと変えていき……
それすら抜けて、唯一セバス様に肉薄した幸運な個体は——しかしどうやら、すべての運をそこで使い果たしたようで、後はなんの大番狂わせもなく——セバス様の放った(洗礼されていてかつ力強く豪快な)拳の一撃でアッサリと葬られたのだった。
さすがは、お嬢様を守護る鉄壁の二枚看板。
セバス様はもちろん、〝槍騎士〟の戦いも、迫力あってカッコいいなぁ……。
——セバス様の使役獣である、自動鎧の〝騎士鎧〟と、自動槍の〝騎士槍〟の鉄板コンビを指して、誰が呼んだか「槍騎士」とは、言い得て妙だ。
本来はここに、まだまだ他の使役獣たちも控えているのだけれど……今回の敵くらいなら、本当に前衛の五人(+α「演奏」)だけで勝てたね。
さすがは、指揮官としても優秀なお嬢様の見立てだ。
単に後方支援役として活躍するだけじゃなく……かのお嬢様は、指揮者としても確かな実力を持っているのだから。
まるで図ったかのように、流れていた曲が一段落ついたところで、すべての敵が倒されて終わった、ヴンオケによるコラボ初戦闘は……
仕上げとばかりにお嬢様が、戦いの勝利を祝した戦闘勝利曲を高らかに響かせるという完璧な演出にて、盛大に幕を閉じたのだった。




