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第18話 ④——「ん〜〜トレビアーナ!(笑)」



「——さてさて……開幕のご挨拶も終わったところで、それではさっそく、探索へ繰り出しましょう(レッツ・ラ・ゴー)ですわ!」


 そんなお嬢様の号令に従い、私たちは……『天上の神楽隊ヘヴンズ・オーケストラ』御用達の〝魔法の馬車〟へと、いそいそと乗り込んでいく。


〈浮世の社畜ん:え、何これ? なんか、お神輿(みこし)の神輿部分が地面からちょっと浮いてるみたいなヤツに、みんなして乗り込んでいくんだけれど……??〉


地上の視聴隊グランド・オーディエンス:で、出ましたわ〜! ヴンオケの移動の足としてお馴染みの、こちらっ! 内部空間拡張式(エクスパンデッド・)地上浮遊型(グランドフローター)御屋形(・キャビン)——その名も〝快適で優雅な動く邸宅トレビアン・キャリッジ〟!! 略して——〝快優邸(トレビアーナ)〟ですわ〜!〉


〈やが灰のファンである:え、すご、中めっちゃ広いやん! しかも内装が、高級ホテルも裸足で逃げ出すくらいに豪華なんですけどww はぇ〜、さすがはお嬢様……実家の天上院グループがメインスポンサーについてるだけあるぅ〜!〉


 う、うおぉぉぉ……!

 ——すごいすごい! これまでの人生で入った屋内(?)で間違いなく一番リッチな部屋だ、ここ……!

 まさかまさか、この私が……あの有名な〝快優邸(トレビアーナ)〟に乗れる日がくるだなんて……っ!

 今は探索中だってことを、さっそく忘れちゃいそう……っ!


「——おっわぁぁ〜、すっげぇぇ〜〜〜……お金持ち(オカネモティ)の考えることは恐ろしいわぁ〜〜ww」

(ナン)やコレ! スウィ〜トホテルやん! いや、もはやそれよりも上やんな?ww」

「これはこれは……さすがは、お嬢様——と言ったところだね。天使バージョンじゃなければ、ドレスコードで浮いちゃうところだったよ……なーんてね」


 圧倒されて言葉も出ない私を尻目に、御剣(みつるぎ)姉妹とやっさんが、それぞれ思い思いの反応を見せている間にも……〝馬車〟はさっそく動き出していた。


「さあ、皆様。どうぞ、お好きな席にお掛けになって。不躾なお客様が現れるモンスターエンカウントまでは、優雅なお茶会の雑談配信と洒落込みませんこと?」


 窓の外を流れる一面白銀の見るからに寒そうな雪景色とは対照的に、隅々まで暖房が効いていて暖かい(超豪勢な)室内にて……

 お嬢様のその一言を皮切りに、私たちは各々(おのおの)、豪華な調度品である椅子やソファに腰を下ろすのだった。


「さて、紳執事(ジェントル)——皆様にお茶を、お出ししてくださいまし」


 皆が席についたところで、お嬢様がそう声をかけると……

 なんとっ——唐突に、(みやび)な茶器が()()()()()()()()()()()()()()()ではないか……!

 その不可思議な浮遊現象によって、湯気の立つ紅茶が次々にカップへ(そそ)ぎ入れられていくと——香りの良い液体で満たされたカップから順次、空中を浮遊して——一人一人に配膳されていき……私の目の前にも、そっと、音すら立てずにカップが置かれる。


〈ツッコミ番長:あまりにも唐突に、これ以上ないほど意味不明な現象が起きてて草〉


〈やがてファンになる:……、……? …………???〉


地上の視聴隊グランド・オーディエンス:あら、そういえばそうでしたわね……もはや見慣れた光景でしたので、ウチの執事が(はたら)く場面は、初見の人にはとても驚かれるということを忘れていましたわ〉


〈眠れぬ森の女王:……もう我慢ならんわ、妾も混ざるのじゃ——!〉


 これぞまさに、ヴンオケ名物の〝見えない執事〟——その名は紳執事(ジェントル)——の奇妙で異様な仕事風景であり……

 見えざる紳士(しんし)執事(しつじ)の、その正体こそは……セバス様が使役する使役獣(テイモン)であり、不可視で非実体という特徴を持つ幽体(ゆうたい)モンスターの〝浮遊霊(ポルターガイスト)〟なのであった。


 か、感激すぎるっっ……!

 あのジェントルに手ずから(手があるのか知らないけれど)()れてもらった、お紅茶が飲めるだなんて……う、嬉しすぎるっ!

 ——てゆうかこれ、紅茶からして絶対すごい高級なヤツだよ……全然詳しくない私でも(わか)くらい、香りからしてお上品さが違うもの……。

 見るからに年季の入った(アンティークな)テーブルの上に乗っているお茶菓子だって、明らかにお値段が高そうな質感(クオリティ)(かも)し出しているし……もう視界に入るすべてが上質で、高級で、素晴らしい(エレガント)の一言につきる……っ!

 ……ゆえにこそ、自身の場違い感が半端ない……部屋はひたすらに広いのに、これ以上ないほど肩身が狭いっ……座って1分も経たないうちから、もう居た(たま)れない……っ!


 そんな風に、私が嬉しさと居づらさで情緒がめちゃくちゃになっていたところで……そんな空気を変えるかのように、彼女が現れた。


『“闇王の瞳(ダークロード・アイズ)——憑依の魔眼ソウルバンディット・ヴィジョン”』


「——……ほう、これはこれは……配信の画面越しに観るよりも、実際にこの目で見る方が、よほどこの(みやび)な空間の雰囲気を感じられるというものだな。

 ふむ……一見すると、ひたすらに豪華だが、しかし派手すぎず、落ち着いた居心地の良さもある。

 なるほど、なるほど……いやはや、実に素晴らしいではないか。

 本来ならば、相反(あいはん)する要素たる〝(ぜい)〟と〝(じゅう)〟をもってして、これほどまでに調和された空間を演出できるとは……驚くべきは、これを采配した者の実力よ。もはや疑いようもない、類稀なる美的感覚という名の才能を持っておる者の仕業じゃ。

 もちろん、そのような卓越した才能を見極めて、このように仕事を任せる采配をした者もまた、同じく一流と呼ぶべき存在なのだろうて」

「お褒めにあずかり、光栄至極にございます。

 初めまして、(あたくし)天上院(てんじょういん)神楽(かぐら)と申しますわ。

 女王陛下——ヴェルフェルミーナ様におかれましては、ご機嫌(うるわ)しゅう……」

「ほう、ほう……! 素晴らしい。なんと礼儀正しく、優雅で気品に満ちた(たたず)まいか。

 こちらこそ、お初にお目にかかる、ご令嬢。まことに(かしこ)まったご挨拶、(わらわ)としても嬉しく思う。

 しかし……今の私は、一介の使役獣に過ぎぬ身。そして、その(ほう)もまた、この場には一角(ひとかど)の探索者として(のぞ)んでいるはず。

 であれば、ここは一つ、(こころざし)を同じくする仲間として、立場の壁なく対等に接してほしいと思うのだが……いかがかな?」

「願ってもない申し出ですわ。それでは、(あたくし)のことは神楽(かぐら)と、そうお呼びくださいまし」

「承知した、神楽(かぐら)(じょう)。この私のことは、ルフェルカと呼んでくれ」

「ええ、ルフェルカ様。どうぞ、おかけになって。——紳執事(ジェントル)、ルフェルカ様にもお茶を」


 いきなりの登場から、流れるようにお嬢様と優雅なやり取りを交わし、あっという間に距離を縮めてみせた女王(ルフェルカ)の如才なさを見せつけられて……私は改めて、眼前の人物(自分の使役獣)只者(ただもの)ではないのだと実感させられていた。

 ——女王(ルフェルカ)は堂々としていてすごいなぁ……でも、おかげでウィルに頼るまでもなく、少し緊張も解けたかも……。

 いつまでも使役獣(テイモン)にばかり頼っているわけにもいかない——って、つい最近に、そう決意したばかりだというのに……私ももっと、精神力を鍛えないとなぁ……。


 上品に紅茶を(たしな)みつつ、お嬢様と対等に談笑している女王(ルフェルカ)を尻目に、私はそう密かに決意を新たにしていた。


「ちょいちょちょ、そこの女王……よくもまあ、主人(ソラ)を差し置いて、さも自分が主賓です——みたいに振る舞うんじゃないよ」

「む、これは失敬……。しかしな、夜叉姫よ……これほどまでに格式高い空間を見ると、私としても、どうにも昔の記憶が(うず)いてしまってなぁ……懐かしさに、つい、な」

「まあ、程々にしてくれるならいいけどさ。なんせ——能力制限してないから——戦闘に関しては、今回は女王の出番は無いからね……」

「ああ、やはり何かしておったのか。明らかに違和感があったのは、それか」

「おっと、そうでしたわ。能力制限(そのこと)について、視聴者(リスナー)の皆様に説明していませんでしたわね。——夜叉姫様。ここは一つ、(あたくし)の口から説明させていただいても?」

「え、うん、そうしてくれるなら、むしろ助かるけど」

「かしこまりましたわ。では————」


 そう言って、お嬢様は——やっさんの魔眼の能力については詳細を(はぶ)いて——簡潔に、自分たちにかけられている実力制限について、リスナーに向けて説明してくれる。


〈探索兵長:なんと、意図的にデバフをかけて実力を落としているんですか……なるほど、今回はそうやってレベル差の壁に対応するのですね〉


〈やが灰のファンである:制限するのに使ったっていう、夜叉姫さんの能力も気になるけれど……もはや、あえて訊くまいよw〉


地上の視聴隊グランド・オーディエンス:今さら中層程度ではヴンオケの実力にはまったく釣り合わないので、どうするのだろうかと密かに思っていたのですが……能力制限で中層級に実力を落とす、ですか。となると、なんだか中層を攻略していた頃のお嬢様たちを思い出せそうで……(なつ)かしくなりそうですわ〉


 という説明を終えたところで……不意に卓上にあった〝とあるモノ〟が、光と音を発して注目を集める。


「おや、預言玉(オラク)が敵の接近を感知したようですわ。

 ということは……ついに、初戦闘ですわね。

 では、僭越(せんえつ)ながら……一番槍の栄誉は、この(あたくし)たちがいただいても?」

「ん、いいよ〜」

「も、もちろんです!」

「うん、お願いするよ」


 あれこそは、ヴンオケの優秀な斥候役(スカウト)であり——セバス様の使役獣(テイモン)である——未来を見通し、敵を感知する水晶玉の付喪神(つくもがみ)預言玉(オラク)だ。

 ——ヴンオケの配信の別窓として映し出されている馬車の外の景色は、私も照面鏡(ホロスク)で視界に表示しているけれど……その中には、いまだモンスターの姿は見えず、ただ一面の銀世界(雪景色)が広がるばかりで、敵の影はまったく見えない……

 そんなオラクを含めた、ヴンオケの実力をよく知っている私を含めて……この場のみんなは誰も、その発言を疑う者はおらず——今となってはすでに、もはや完全にこの場を仕切っているお嬢様の言葉には、誰も(いな)やを唱えることもなく……


 コラボ配信の初戦闘は、そのお嬢様が率いるチームであるヴンオケが単独で出ることになったのだった。


 

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