第18話 ②——「新たなる魔眼、登場!」
「——ん、あいあい。じゃあ、ここは一番年上のアタシからいくねー」
すでに名前だけは聞いていた、そのお姉さん——御剣光刃さんは、そう言って一歩前に出ると、自己紹介を始める。
「あ、でも、年上っていうのは、あくまで〝ヴンオケ抜きのメンバー〟の中では年上ってだけで……ヴンオケの年上組と比べたら——え、どーだろ、アタシの方が年下になるんじゃないかな? セバっさんと白鳥さんっていくつ?」
「セバスが27歳で、白鳥は23歳ですわ」
「お、アタシ今年で23だから——へー、白鳥さんってほぼ同い年だったんだねー。よろしくー」
「はい、よろしくお願いします、光刃様」
「うんうん……あ、えっと、自己紹介だったか。
えー、アタシは御剣光刃といいますー、よろしくでーす。
でー、うん、名前からも分かると思うけど、あの……えー——ふへへへへっ、なんだったっけ、あのー、チーム名を、んっふふっ、ど忘れしたんだけど、ブレ……なんとかっていう、あのあれ、みんなから勇者パーティーって呼ばれてるあの、アレの一応、リーダーやってるアイツ、御剣勇刃の……実の姉ですぅ。
えーっと、それで……能力か。私の天恵はー、【光刃剣】っていって、剣に光を纏わせて強化したり、光で出来た剣を生み出せる能力ですー。
そんで武器は、メインが二つあってー、一つ目が『魔剣 光流』って言って、えーっと、なんで言えばいいのかな……まあ、これなんだけど——」
そう言って——超有名人であるはずの弟さんのチーム名をド忘れしただなんて、にわかには信じられないことを笑って話してから——光刃さんが取り出したのは、刀身がついていない持ち手の部分だけみたいな……奇妙な剣(?)だった。
「うん、こんな感じで、ブレードがついてないんだけれど……魔力を込めると、光のブレードが出てくるんだよね——こんな風に」
すると確かに、次の瞬間——ヴゥゥゥンンという独特の音を発しながら、〝光の刀身〟が出現した。
「これは元々そういう武器なんだけど、アタシの能力で出す光刃でも使えるんだよね。これを通して発動した方が負担が少ないから、これが愛用の武器って感じですー。
あ、あともう一つは、『魔刃剣 光牙』ってヤツで……これも元々、刀身に魔力の刃を纏わせる能力があるんだけれど、アタシの能力にも対応してるから、これもよく使うね。
とまあ、そんな感じかな? あとはー、何? バトルスタイル? ロール? ——としては、前衛近接アタッカーで、長所としては、アレかな、火力には自信あるって感じかな? ってわけなんで、はーい、よろしくお願いしま〜す」
そう言って、ぺこりと頭を下げた光刃さん。
それから彼女が一歩下がると、次に前に出たのは隣の鳳刃さんだった。
「うぃ〜、チッスチッス!
あーしは御剣鳳刃っす! オメたち、マブダチ——ここで会ったのも、何かの縁っ! このあーしちゃんのことは、フレンドリーに〝アゲぽよ〟って呼んでちょ〜。
そいから、あーしの天恵は【剣士】っす! いやまあ剣士というかー、今はスデにそっから何段階も〝進化〟してっケドね〜。
んで武器は〜、刀しか使わんのやけどー。いっぱいコレクションしてるから、色々あるんよね〜……んでも、最近のお気には、やっぱコレ。『名刀 花一文字』ちゃん。——ね、見てコレ、刀身以外全部デコってんだケド、まぢ可愛くナイ?! 特にこの、柄頭に付けてるコレ。これね、キミヲちゃんの限定グッズのラバストなんだけど……これマジお気に入り。ん〜いいよね〜、めっちゃカワイイ。——まあ刀振る時クッソ邪魔いけど笑 えっへへww でもま、んなことは気にしちゃ負けっスよねぇ〜。
あとは〜、バトルスタイル——前衛、近接、斬撃! 切る斬るキル! ぶった斬る! ってカンジ?
……あ、歳は17っす。JKっす。ソラっちと同い年っす。よろしくお願いしまっス!」
あ、鳳刃さん、私と同い年だったんだ。
彼女の見た目は、いかにもバリバリに陽キャのギャルって感じで……でも、服装は和風に着物なんだよね。まあ、着物の柄はすごく派手というか、着こなしもルーズに今風なカンジなんだけれど……それもすごく似合ってる。
——というか、いまキミヲちゃんって言った? へ、へぇー、鳳刃さんもキミヲちゃんのファンなんだぁ……すごいな、キミヲちゃん。
というか、このお二人は勇者御剣クンの実のお姉さんと妹さんなんだよね……確かに似てるし、弟さんに負けず劣らずの美形というか、美女と美少女だから……なんかもう、ま、眩しい……っ!
なんて思っていたら、そんな美人姉妹の視線が私に向けられる。
あ、次は私の番か……
「あ、えっと、私は——配信では昏虚ソラスと名乗っていますが、本名は——空羽明日といいます……その、もうご存知かもしれませんが、しがないテイマーの配信探索者です……。
あの、この度は、私とやっさん——夜叉姫さんのコラボ配信に参加してくださり、本当にありがとうございます。
なんというか……その、私——実は、以前から『天上の神楽隊』の皆さんの配信を長らく拝見させていただいておりまして……大のファンなんです!
なので今回は、本当に夢のようで……! ——あ、失礼しました……興奮してしまって、す、すみません!」
慌ててウィルに〝興奮〟を吸ってもらって、何とかすぐに落ち着く——
「スゥ——あ、それと……やっさんから聞いたのですけど、神楽お嬢様——並びに、天上院グループの方々には、何やら注目を集めてしまった私を助けるために、色々としていただいたそうで……そちらに関しましても、随分とお世話になってしまったみたいで、あの、本当にありがとうございます。
えっと、それで……ですね、まだまだ未熟者ではありますが、それでも精一杯に努めさせていただきますので、今回はどうか、よろしくお願いします……!!」
私がそう言って深く頭を下げると、すぐに——お嬢様の凛とした声が耳を打つ。
「ええ、ええ。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ。
それにしても、貴女——でしたら、どちらにしろ——ソラ様ですわね。貴女が私たちのファンの方だったなんて……素晴らしいですわぁ!
ソラ様が私のファンなのでしたら——自分のファンが困っているならば、それを助けるのは貴ばれる者の義務として当然の行いですから、お気になさらずとも良いのですわ。
——それに……その件については、すでに夜叉姫様と話し合って、例の新種の元にまで案内してもらう約束を交わしたことで、十分以上の対価をいただいておりますもの。
ですので、感謝というなら、むしろ夜叉姫様にするのが、よろしくってよ」
「あ、は、はい! それはもう、もちろんです! 夜叉姫様にも、感謝してもしきれないと思っているところですので……!」
「それは、なによりですわ。ですが——感謝というなら、私の方こそ、夜叉姫様にはこうして直接、感謝のお言葉を伝えなければと思っていたところですの。
とはいえ……正式なご挨拶もまだですものね。それでは——夜叉姫様! その愛くるしいお姿の説明を含めて——自己紹介の方、よろしくお願いいたしますわ!」
「う、うん、いよいよボクの番だね……よ、よろしくってよ」
なんだか若干、口調が移ってる気がする——夜叉姫様の順番が、いよいよやってきた。
「ん……オホン。えー、ボクは夜叉姫。深淵なるソロ探索者さ。
……それで、まあ、ここまでの流れからすると、ここはボクも、自分の天恵を明かすべきなんだろうけれど——」
「いいえ、それについては——ご心配なく。無理やりに訊き出すつもりはありませんので、秘密なら秘密でも一向に構いませんでしてよ?」
「——ん、そうかい……?
だったらまあ、お言葉に甘えさせてもらって……ボクの天恵は秘密ってことで、ここは一つ、お願いするよ。
武器については……今回の配信では、この『天使の弓』を使うつもりなんだけど……この弓の持つ主な効果は〝魅了〟で、射った相手を魅了して味方にできるんだよね。
まあ、それ以外にも、この『幻創の矢筒』から生み出される矢を使えば、普通の攻撃も可能だよ。
それで、さっきからみんなが気になっている、ボクの姿についてだけれど……これは、今回の配信用に新たにイメチェンした、さしずめ——〝天使モード〟の夜叉姫ってところかな」
そういうやっさんの今の姿は、確かにもはや、地上に舞い降りた天使といってそのままだった。
サラサラとウェーブのかかった美しく輝く金髪に、透き通った空のように澄んだ碧眼……それに加えて、純粋無垢な天使と言ってそのままの、愛らしくも奇跡的なまでに整った顔立ちには、まさに圧巻の一言……!
それに何より、頭上に浮いている光輪と、背中に生えた——最大で三対六枚も展開可能な——純白の翼は、潔白なる清廉さと荘厳なる威容とを、見るものに与える迫力を有している。
その上、装いも天使を彷彿とさせるトーガのような服に、編み上げのサンダル姿であり……雪の上ではどう見ても寒そうなんだけれど……本人は至って平気そうにしているところなんかも、人智を超えた天使らしい一面といえば、そうなのかもしれない……。
「天使……! まさしく……! こんな天使がいたら、さっそくお家に持って帰りたいくらい素晴らしいですわ!」
「う、うん。えっと、それで……天恵は秘密なんだけれど、この天使の持つ〝魔眼〟については紹介しておくね。
この魔眼の能力は、簡単に言うと『設定した〝規則〟を相手に課して、それを破ったら〝罰則〟を与える』というものでね……
この能力を使えば——罰則による〝封印〟の効果によって——てんでバラバラなみんなの実力を、中層に相応しい範囲内に調整できるんだよ。
というのも……今回のコラボ配信の目的は、あくまでも〝ソラの躍進を助けること〟だから——実力が遥かに上の協力者ばかりが活躍するようでは困るんだよねぇ。
だからさ……君たちも、このコラボに参加するからには、ある程度は実力をソラに合わせてほしいんだよね。
——ああでも……自前の能力なり装備やアイテムを使って自分で〝弱体化〟できるから、ボクの魔眼は必要無いよって人は、そこは全然それでも構わないよ。自分でやってもらうのでもね。
まあ、そうは言っても——会ったばかりの相手から、得体の知れない能力を使われるのは信用できない、と言うなら……無理強いはしないけれどね。そう言われるのも当然だと思うし。
——あ、でも一応、自力で弱体化の封印を解けるような仕掛けを組み込むこともできるから……いざという時には、各々の判断で、すぐに元の力を取り戻せるようにはしておくつもりだけれどね。
それで……どうかな? ボク自身も含めて、全員が——ああいや、あの吸血鬼のおじいさんは、配信には参加しないから別としても——一律に同じくらいの実力になれば、余計なことを気にせずに協力プレイできるかなって思ったんだけれど……」
「——! ……なるほど。でしたら——ええ、私たちは、それで構いませんわ。天使の魔眼というものにも、興味がありますし……是非とも使ってみてくださいまし」
「では、まずは私めに、お願いいたします。夜叉姫様」
「あら、白鳥……まったく、あなたも心配性ですわね」
「あ、じゃあアタシも〜。あいにくと、自前で弱体化する手段には持ち合わせがないから……夜叉姫ちゃんの、その〝魔眼〟にお願いしよっかなー。お姉ちゃんファーストってことで、まずはアタシから先に試してみてもいーい?」
「うん、ありがとう。——警戒するのも当然だろうから、まずはそれぞれ一人ずつに試していくね」
「はは……うん、そうね、それは助かるー」
というわけで……
何やら、やっさんの魔眼の力によって——中級クラスの私にはまるで釣り合わない強者であるコラボ相手の皆さんが、弱体化して中級相当の実力に揃えてくれることになったのだった。
やっさんが魔眼の効果で設定したルールは、次の二つ。
その1——「中層級までの実力しか発揮してはいけない。破れば、『中層級までの力しか出せないように、力を封印される』という〝罰則〟が課される」
その2——「これ以降は、〝制限解除〟という言葉を口に出してはいけない。破れば、その時点で『すべての罰則が解除される』という〝罰則〟が発動する」
〝ルールその1〟によって、どちらにせよ中層級の実力しか出せなくなるのだけれど……〝ルールその2〟があるので、その封印はいつでも自分で任意に解除できるという安全装置もついている。
——なるほど……? 〝罰則〟の効果を逆手に取れば、そういう使い方もできるんだ。
改めて、詳しい説明を終えたやっさんは、いよいよ魔眼を発動させ——
『“天使の瞳——断罪の魔眼』
まずは試しに受けてみると言った二人だけに限定して、説明通りの効果を付与してみせるのだった。
「——っ、これは……確かに、中層級にまで、実力が制限されていますね」
「——おっほ……マジか。やるぅ、夜叉姫ちゃぁん……アタシの実力も、ガッツリ封じられちゃったよー」
そのことを身をもって(先行して)体験した二人が、やっさんが言っている通りの効果であると確認できたところで……
それから改めて、やっさん本人も含む——元から必要ない私たちや、配信には参加しない付き添いらしい謎のおじいさん執事を除いた——他のメンバーすべてに魔眼を使い、同様の効果を付与したことで、この場の(一名を除く)全員が中層に見合う実力になったのだった。
とまあ、そうした準備を色々と——他にも、細かい打ち合わせなんかも——テキパキと終わらせたところで……
それから程なくして、いよいよコラボ配信を始める時がやってきたのだった。




