第18話 天上院家のお嬢様! 富・名声・力……すべてをあわせ持つ、最強最高お嬢様!
つい先週に、長らくの悲願だったエリアボスの撃破を達成したことで、ついに到達することが叶った〈精霊ダン・中層深域〉——その始まりの、〝第一区〟にて。
分厚く雪が降り積もり、吐く息も白くなるほどに冷たく、見渡す限り一面の銀世界である、この場所に……その時、最後の待ち人たちが現れた。
「おや——すでに皆さん、お揃いのようですわね。では、馬上から失礼して……ごきげんよう! 今日は何卒、よろしくお願いいたしますわ」
気品のある豪華なドレスに身を包み、ボリュームのある金髪縦ロールを揺らしながら、立派なたてがみの一角獣に横乗りになって——分厚く積もった雪の上を、ざっくざっくと踏みしめながら、こちらへと向かってくる……馬上の人物。
彼女を言い表す言葉は、これを置いて他にない——それすなわち、〝お嬢様〟……!
——ああ……本当に、かの〝お嬢様〟とこうして直接対面できる日が来るなんて……なんて、感激……っ!
彼女が率いる『天上の神楽隊』が到着したことで、今回のコラボ配信のメンバーが全員この場に集合した。
「ん、揃ったね……それじゃ、とりあえず、念のために邪魔が入らないようにしておくとしようかね」
彼女たちの到着を受けて、やっさんは手元のアイテムを操作する。
カチカチ——ジジジジ……ッ。
「——んん? なんですの? この感覚は……」
「ああ、今ちょっとね……このダンジョンの位相を弄って、他の誰かが入って来れないよう独立位相に変更したんだよ」
「おや、夜叉姫様——って、一体なんですの!? 貴女、そのお姿はっ?! ——な、なんという……愛らしさ、可憐さ、可愛らしさ……っ! ん素晴らしい!! 素晴らしいですわぁっ!!」
「ふっふっふ——生お嬢様だ、巻き髪スゲェ〜」
「——っむ? っと、そこにいるのは御剣姉妹——の姉、光刃様ではありませんか! すでに貴女もいらしていたのですね」
「ん、今日はよろしくね〜」
「ええ、よろしくですわ。それにしても、夜叉姫様のそのお姿は……ああいえ、色々とお尋ねしたいところではありますが——その前に、まずは皆様に、こちらからご挨拶いたしませんとね……!」
大声で話さなくても聞こえる距離まで来たところで、彼女は一角獣から降りると、こちらを向いて優雅に一礼してみせる。
「初めまして、ですわ、皆々様! 私の名は天上院神楽。天上院家の一人娘にして、『天上の神楽隊』の指揮者をしておりますの。
この私の授かりし天恵は、【豪華絢爛】! 世界に二つと無い、雅で壮大な能力ですわ……!
それから、使用する武器は——こちらの、『魔提琴 天御神楽』。
この弦楽器の奏でる音色で味方を鼓舞するのが、私の戦闘姿勢ですの。
これより始まる合同探索では、さっそく私の腕前を披露させていただきますので、楽しみにしておいてくださいまし。
では、お次に——セバス、名乗りなさい!」
「——仰せのままに、お嬢様」
一息に自己紹介を終わらせた神楽お嬢様が、次なるメンバーとして指名したのは——特殊な執事服をスマートに着こなした、外国人風の整った顔立ちの青年だった。
——むほっ、きちゃ、セバス様だゃっ……!
彼はこちらに丁寧に一礼してから、自己紹介を始める——。
とはいえ、ヴンオケの古参ガチファン(中でも特にセバス様推し)である私としては、今さら紹介されなくても、彼のことは細部に渡るまで把握できている。
セバス様……
本名は、「バスチアン・聖」。
名前の通りに外国の血が半分入っている彼は、この国の流儀に則れば「聖バスチアン」となるので、そこからもじって〝セバス〟の愛称で親しまれている。
そして、そんなセバス様の天恵こそが、まさかの……この私と同じ【使役】なのである。
——その縁もあり、ヴンオケのことは早くからチェックしていて……華やかで見応えのある探索風景にすぐさま魅了された私は、今となっては、すっかりヴンオケ古参ファンの一員になっていた。
しかしセバス様は、テイマーでありながら自分自身も徒手空拳で戦う格闘の達人であり——武装もそれに合わせて、『魔闘着 黒燕尾装』という、防御力に優れ、身体能力を劇的に強化する特殊な執事服に身を包んでいる。
普段の優雅な所作からは想像もつかないような、一撃の威力重視の重厚なる格闘術——〝八極勁拳〟で戦うセバス様を間近で観られるなんて……
本当に……ヴンオケとのコラボに漕ぎ着けてくれた、やっさんとラブちゃんには、感謝してもしきれない……!
「————よろしい。では次、白鳥! 貴女の番でしてよ」
「かしこまりました、お嬢様」
セバス様の紹介が終わり、次に前に出たのは——クラシカルなメイド服をきっちりと着こなした、落ち着いた印象を与える妙齢の女性だった。
メイドの白鳥様……
彼女のフルネームは、「白鳥湖蝶」。
ヴンオケは箱推しであるところの私は、将来を有望視されるバレエダンサーから——怪我による挫折から紆余曲折あり——探索者に転向したという異色の経歴の彼女のことも、よく知っている。
白鳥様が探索者になった理由は、一言で言えば、神楽お嬢様に見出されたからだった。
彼女の天恵である【花形踊子】は、かなり特殊な能力で……華々しく目立てば目立つほど、自分の力が強化されるというものだった。
ダンジョン探索には、正直あまり向いていないハズレ扱いの能力だったのだけれど……同じく——というか、使い勝手が悪いだけで、有用な効果もあるこれとは、比べるのもおこがましいくらいに、まるっきり使えない——ハズレ能力だった、神楽お嬢様の【豪華絢爛】と組み合わせることで……むしろシナジー効果を発揮して、一転して強能力扱いされるほどの待遇へと返り咲いた。
——そんな二人の出会いのエピソードには、初めて聞いたときには、私も思わず涙するくらいに感動させられたものだけれど……
そんな運命の出会いから、時は流れて……長い年月を共に研鑽し、連携も巧みになった今となっては——彼女専用の特殊武器である『魔槍 穿孔靴』を使いこなす白鳥様と、お嬢様の伴奏による相乗効果は、見事な快進撃を奏でるまでになった。
——まるでバレエのトゥーシューズのような、先端に鋭い刃のついた靴で戦う彼女の戦いは、まさに戦場に舞う一輪の花の呼び声が相応しいだろう……。
ああ……白鳥様の美麗なる戦闘をこの目で直に観られるだなんて……超一流のバレエ団の公演を観るにも勝る喜びでしゅ……!
「————では最後に……ギラちゃん。ご挨拶してくださる?」
「ん、りょ。——ギラちはグラちゃんとニコイチの相棒なのです、ブイ✌︎」
「ギラちゃん? もう少し詳しく、ですわ」
「むむぅ……kwskとな?」
んぅん、ギラち……
彼女のフルネームは、「周防戯羅」。
正真正銘の一般人枠にして——私と同年代なので、お互いに高校生である——神楽お嬢様の幼馴染みの親友で……一言で言えば、天才児だ。
もしくは、フィジギフと——そう言い換えてもいい。
それはひとえに、彼女の天恵がまさに【超人】というものであるからでもあるし……
彼女自身が、そもそも——何でもこなせる才能に溢れた存在だからでもある。
何をやっても成功する彼女は、探索者としても抜群の適性を発揮していた。
それについては……そんな天才たる彼女自身とは真逆の存在だと言っていい——ダンジョンを探索する才能に見放されたかのような——神楽お嬢様と一緒に活動していくにあたって、全面的にお嬢様に合わせるように自在に自身のスタイルを一から確立していった、その軌跡が……如実に物語っている。
そんなお嬢様への献身振りはまさに、彼女の武器である『魔刀 光刃靴』という、これまた特殊な武装靴にも現れている。
この、一見すると(通常より五割り増しくらいでゴツい)アイススケートのスケート靴そのままの見た目をしている靴は、こう見えても立派な武器であり……分類上は、刀のカテゴリーに含まれることからも察せられる通りに、下部のブレードが本物の真剣になっている。
それだけではなく、この靴はとても特殊な能力を宿しており、それがお嬢様の能力との相性が抜群なのだけれど……こればかりは、口で説明できるようなものではないので、実際に観てみることでしか理解できるものではないだろう……。
「——それでー、ギラの戦い方はー……あー、観てもらった方が早いから、そーゆうことで、よろしゅう」
「仕方ありませんね……確かに、口で説明できるものではないですから、百聞は一見にしかずということで、ここは一つ。
さて、これで全員——いえ、そう言えば、あともう一人いましたわね。まあ、正式な一員ではないというか、ただの付き添いなのですけれど……。——じいや、じいやも一言ありませんの? というか、どこですの?!」
「——こちらです、神楽お嬢様」
「「——っ!?」」
「——そして皆さま、私めは黒鬼と申します。天上院家に仕える家令でございます。
この度は、お嬢様の探索を陰ながら見守らせていただくためにと、僭越ながらこの場に参じた次第にございます。配信には映るつもりはございませんので、悪しからず……この老骨に関しましては、いないものとして扱っていただけますと幸いに存じます。
それでは——御前を失礼つかまつりました」
お、驚いた……
いつの間にか——どこからともなく、老紳士然とした執事服のおじいさんが現れたと思ったら、一言二言話しただけで、すぐにまたどこぞへと消えてしまった。
「び、ビビった〜……いきなり鬼強そうなおじいが出てくるんだもんよ〜、油断してたわぁ……」
「ふふ、みっちゃん気づいてなくってウケるわ」
「おぅ、あーちゃんは気づいてたか……あと、夜叉姫ちゃんも」
「ん、まあ……ボクは事前に聞いてたから。——ああでも、ソラには伝えそびれてたっけ、ごめんごめん」
「あ、いえ……」
「あらまあ、ごめんあそばせ。うちのじいやが驚かせてしまったようで、失礼いたしましたわ。ともかく、これでこちらの紹介は終わりましたので……次はそちらですわね。よろしくお願いできまして?」
「ん、あいあい。じゃあ、ここは一番年上のアタシからいくねー」
そういって、次に自己紹介を始めたのは、私よりは確かに年上に見える、和服のようで微妙に違う、不思議な服を着たお姉さんだった。




