第17話 敏腕マネージャーのお陰です!
「——ん、返事が来たわ。『その日程でいいよ〜』ですって。これで両方とも、追加のゲスト参加が決定ね」
「マジかぁ……すごいね、昨日の今日でオッケーしてくれるなんて」
やが灰とのコラボのフィナーレとなる第三週目を目前に控えた、この日。
学校の帰りに陽菜の家に寄った私は——今やすでに、配信者夜叉姫の一端のマネージャーになってくれている彼女から、新たに二つのチームがコラボ配信に参加する旨を伝えられていた。
「にしてもまさか、いきなり二つもコラボするチームが増えるとはね……」
「やっぱり、初対面は緊張する? だったら、『天上の神楽隊』の方はともかく、御剣姉妹からのオファーは今回じゃなくても良かったんじゃないの?」
「いやぁ……初対面なのは、どっちも同じだしさ。だったらむしろ、初対面同士で一対一になるよりも、初対面が三者そろって一対一対一になった方がマシかなって……」
「何よそれ……。というか、ヴンオケと御剣姉妹は、一応はすでに面識があるみたいだったけれどね?」
「あ、マジ? いや、まあでも、それならそれで、知り合い同士で仲良くやってくれたらいいし……したらこっちもこっちで、ソラがいるから二対二に出来るし。というかほんと、ソラが居てくれる今だからこそ、やるべきというか——私が単身で知らん人と会いたくないっていうか……」
「なるほどね……まあ、ソラちゃんはヴンオケの大ファンらしいし、案外上手くいくんじゃない?」
「だといいけどね……」
そう……実は今回、今週末のコラボ配信最終回(になる予定)の内容を急遽変更して、ソラと私の二者に加えて、新たに二つのチーム——『天上の神楽隊』と『御剣姉妹(仮)』を迎え入れて、都合4チームで合同探索をすることになった。
そうなった理由としては、色々とあるのだけれど……最大の理由としてはやはり、「(表向きの)ソラの身の安全の確保」のためだった。
なんというか……前回(前週)の配信でシェイプシフターをテイムしたら、これが中々に大きな反響を呼んだらしくて……その影響がそのまま、ソラに対して何かしらの実害を及ぼしかねないほどになっているみたいだったんだよね。
——ソラの個人情報を特定しようという動きから始まり、シェイプシフターを欲しがる何者かが、そのままソラを狙って良からぬことを企んだりしているとか、なんとか……
私としては、自分が巻き込んだ以上は、何があってもソラを守護るつもりではあるのだけれど……それに関しても、単純な実力行使で済む場合ならともかく、騒動によって波及する間接的な影響なんかも含めたら、さすがの私でもすべてに手を回すことは難しい。
——それこそ、ネット上なんかでアレやこれやとされる場合は、私も普通にお手上げなのだ……機械はそもそも苦手だし……
そこで、どうしようかなと思っていたら……その時、声をかけてきたのが、ヴンオケというチーム——というか、その元締めとなる天上院財閥だった。
私ですら名前を聞いたことのあるくらいに有名な、この天上院財閥というのは、天上院家という国内有数の名家が支配する、全世界規模の巨大複合企業体である。
なんて言いつつ、私も別に詳しくは知らないんだけれど……とはいえ、天上院家といえば、政財界にバチクソに顔が利く、超級の金持ち権力者の一族ってヤツだと思っていれば、たぶん間違いない。
そして、そこのご令嬢——つまりは、天上院家のお嬢様がリーダーをやっている特級探索者のチームこそが、件の『天上の神楽隊』なのだった。
この『天上の神楽隊』という四人組チームの内の一人が、珍しいことにテイマーなのだという話だったのだけれど。
だからというか、事の発端としては、彼女たちの方から依頼が来たことが、その始まりだった。
その依頼の内容としては、シンプルに「シェイプシフターを獲得(使役)するのを手伝ってほしい」というもので……
その対価として、現在進行形で実行中の対応として挙げられていた内容こそが、「ソラの身辺に迫る脅威の排除」だった。
つまり、向こうは私が依頼を受ける受けないの返事をする前から、すでに先んじて動いており、自分たちの方で勝手にソラのために色々と対応してくれていた……ということらしい。
とはいえ、それを恩に着せることはなく——まあ、交渉材料の一つとして提示してきてはいたけれど——あくまで決定権はこちらにあるという前提で、依頼をしてきていた。
まあ、いきなりそんなことを言われても、本当かどうかも分からないし……と、普通なら困惑するところなんだけれど。
とはいえ、今回はたまたま、私が持っていた特殊なツテ(〝特務〟の流の字)から得た情報により、それが事実だという裏取りはできていた。
——前回のコラボの後で、〝流の字〟改め若月さんとは個人的な繋がりを構築していたので、今回それが役に立った形だ。
立場柄、色々と情報に通じているらしい流の字に——マネージャーであるヒナを通して——この件について確認してみてくれないかと頼んでみたところ、二つ返事で了承してくれた彼女は、いとも容易く事実関係を調べてから教えてくれたのであった。
天上院グループ(ヴンオケ)が、ソラのためにすでに動いてくれていたのが事実だとすると、こちらとしても、何かお返しをした方がいいのかなという気にもなる。
ただ、それを抜きにしても……改めて考えてみれば、このヴンオケというチームと合同探索することは、そのこと自体が、ソラが今より成長するための一助になりそうだという予感がするのも確かだった。
——そして実際、その点についても、協力してくれるかどうかを先方に(ヒナを通して)尋ねたら、すぐさま二つ返事で快く協力を申し出てくれたというのも、私にとっては大いに好印象を与えるものだった。
それに加えて……ソラのために、いずれはどうにかしたいと思っていた〝とある問題〟についても——ヴンオケとなら色々と協力できそうな感じだった、というのも……彼女たちと今回コラボすることを決断した大きな理由になった。
ここでいう〝とある問題〟とは——つまりは、テイマーが不遇と言われる最大の原因である、「使役獣を地上に連れ出せない問題」のことで……これに関しても、私としては、ソラのためにもどうにかしてやりたいと思ってはいた。
とはいえ、さすがの私でも、法律で定められているルールが相手となると、実力行使ではどうにもならないので……今回のコラボ中に、これをどうこうするのは無理かと、渋々諦めていたのだけれど……
しかしそこで、天上院グループという、そっち方面にも融通を利かせられる協力者が現れたのならば、あるいは無理難題でも無くなったのかもしれないぞと思って……それまでの予定を変更して、かねてより考えてはいた〝例の問題対策〟を実行に移すことにしたのだ。
ヴンオケが裏で手を回してソラを守護ってくれているのは助かるけれど、一番良いのは、やはりソラ本人が自分で自分の身を守護れるようになることだ。
——まあ、それを除いても、ダンジョンに置き去りにせずに、いつでも使役獣たちと一緒にいられるようにできたのなら、ソラにも大いに喜んでもらえるだろうし。
そう考えると、これはまさに一石二鳥の方法なのだ。
なにせ、この〝例の問題対策〟が上手くいけば、ソラは地上でも使役獣を連れ歩くことができるようになる。
そうすれば、ソラの防衛戦力は飛躍的に向上するし——それこそ、女王がいつでもソラを守護れるようになれば……大抵のヤツは襲ってきても返り討ちにできるし、それどころか、女王の規格外の強さを目の当たりにしたら、そもそも襲うことを躊躇うようにすらなるだろう。
と、ここまで〝ヴンオケと協力するべき理由〟が揃ってしまえば……いかな私としても、コミュ障ゆえの重い腰を上げて——というか、自分では無理めなのでヒナに頼んで——コラボという形で彼女たちと接触することも辞さない。
まあ、ソラとのコラボ配信も三週目ともなると、なかなか真新しい要素も無くなってきてしまうから……タイミングとしては、むしろ悪くないのかもしれないな——とも思うし。
それを言うなら、御剣姉妹も追加でコラボに呼んだのも、そういう〝テコ入れ〟の一貫とも言えるし……まあ、こっちは別に、ただのついでと言えばついでなのだけれど。
この御剣姉妹に関しては……実のところ、前回の勇者さんたちとのコラボの後から、ずっとお誘いを受けていたんだよね。
まあ、それは別に、コラボ配信のお誘いに限った話ではなかったのだけれど……
——というか、そもそも向こうは配信をしていない普通の探索者だし……。
お誘いの内容としては、「一緒に探索したいから、良ければそのうちに会ってみませんか?」って感じの、ゆるいものだった。
先のコラボ配信では、勇者さんたちにはお世話になったので……その勇者さんからの直々の頼みとあれば、私も応えてあげたいと——思わなくもなかったのだけれど……
そうは言っても……人見知りのコミュ障ぼっちの私としては——一応は知り合い経由のお誘いとはいえ——初対面の知らん人と、いきなり自分一人で会うってのはハードルが高かったので……
別段、すぐに断るわけではないけれど、さりとて、すぐさま受けるわけでもない——という、なんともはっきりしないどっちつかずのムーブで、今まではお茶を濁していた。
とはいえ、そんな煮え切らない態度をいつまでも続けるのは、さすがに自分でもどうかと思う気持ちがあったし……このまま、のらりくらりと返答を引き延ばすのは失礼だよなぁと心苦しく思っていたところだったので……
今回のヴンオケの件に便乗して——まさに渡りに船だとばかりに——御剣姉妹とのコラボもねじ込むことにしたのであった。
知らん人たちと一人で会うのは怖いけど……
隣にソラがいてくれるなら、これほど心強いことはない。
ゆえにこそ、この機会を逃してなるものかと、それぞれのチームとの細かいやり取りは全面的にヒナに任せつつ……私も私で、この週末までに、配信内容の予定を変更するに当たって必要となる下見をバリバリこなしてきた。
おかげでなんとか、配信予定日の週末を目前にして、諸々の準備を間に合わせることができた……
それもこれも、ヒナがマネージャーとしてコラボ相手とのやり取りをすべて代わりにやってくれているからこその成果だ。
「それにしても、今回はヒナにも随分と助けられたよね……そういうのが苦手な私の代わりに、交渉を一手に担ってくれたことにはマジで感謝してるよ。本当にありがとうね、ヒナ」
「まあ、ヨルのマネージャーをしてあげると言ったのは私なんだから、それくらいはね。
それに、これはオリメン仲間のソラちゃんのためでもあるし。何より、私自身が望む、より面白い配信にするためでもあるから……私のためでもあるのよ」
「だとしても、だよー。ほんと、ありがとうと言うだけじゃ足りないから、うーん、何かしらのお礼をしたいんだけどなぁ……何かあったら遠慮なく言ってよね?」
「ふふ、そう……そこまで言うなら、考えておくとするわ。でもまずは、ヨルは明日からの配信に集中すること。いい?」
「それはもちろん……見てくれるみんなのためにも、なるべく人見知りせずに頑張るから!」
「んふ、さーて、どうなることやら……楽しみね」
ヒナに楽しんでもらうためにも……最後のコラボ三週目、絶対に成功させないとね——!




