第15話 ⑥——「新メンバー、ゲットだぜ!」
私の目の前には、いかにも意味深な〝六つ〟の台座が並んでいる。
エリアボスの魔石を、どれか一つでもいいからセットすることで、今いる〈中層・中域〉から、次なる階層である〈中層・深域〉へと飛べるようになるという——階層転移陣にある〝四つ〟の台座にも似た、それら……
これにはリスナーも気になるようで、しきりに「これは何なのか」と質問を飛ばしてきていたので……勿体ぶらずにサクッと説明してあげるために、私は口を開く。
「さてさて、みんな気になってるみたいだから、さっそく教えてあげるけれど——
えっと、そうなんだよね……言うなればこの台座も、階層転移陣のところにある台座と似たような役割を持っているんだよ。
というのも、ここ——南の森のエリアボスに挑むためには、まずこの広場から伸びてる六つの道の先にあるそれぞれのエリアを攻略して、最奥にいるボス級モンスターを倒して六つの魔石を集めないといけないんだけれど……
んで、集めた六つのボス級魔石をすべてここの台座にセットすることで、ようやくエリアボスへ通じる扉が開くって仕掛けになってるのさ。
というわけで……六つのエリアのボス級モンスターを倒して得られる六つの魔石が——これだね」
そう言って私は、事前に集めていたそれら六つの魔石を、おもむろに懐から取り出してみせる。
〈ツッコミ番長:いやあるんかい!笑〉
〈やがてファンになる:うわマジかよ、ここまで来るのも(夜叉姫さんはともかく)普通ならめっちゃ大変だろうってのに、こっからさらにそんな面倒な手順を——とかって思ってたら夜叉姫さぁん!! アンタって人は、ほんまにさぁ!!!笑笑〉
〈ニートの無職ん:よくある料理番組みたいなノリで「こちらが事前に集めていた魔石になります」みたいなことしててワロタww〉
〈浮世の社畜ん:ああなるほど……今回は入念に下準備したって言ってたのは、つまりはこーゆうことなのね笑〉
「まあ、普通に——一から集めてたら時間かかり過ぎるから、今回は事前に集めてたってのもあるけど……それだけじゃなくて、ここって〝隠しエリア〟というだけあって、もはや中層中域を逸脱してるレベルの難易度になってるからさ……今のソラには荷が重いんだよね。それもあるから、今回はもう、そっちの攻略はカットすることにしたんだよ」
「やっさん……改めて、ありがとうございます。私のために、わざわざそんな手間をかけてまで協力してもらって……本当に、なんとお礼を言ったらいいか……」
「いやぁ……コラボ企画を成功させるためでもあるし、そこまで恩に着る必要はないからね」
改まって深々と頭を下げるソラに、感謝されることに慣れていない私は恐縮してしまう……ので、まるで逃げるように、私はそそくさとその場から移動していき、取り出したばかりの魔石をさっそく台座にセットしていく。
〈やが灰のファンである:中層を超えるレベルって、具体的にはどれくらいの難易度なんやろ……? めっちゃサラッと必要な魔石ぜんぶ出してきたけど、相手は夜叉姫さんだから……このボス級ってヤツらがどれくらい強いのかも、まるで想像つかんw〉
〈やがてファンになる:てか、魔石を事前に集めてたってことは……つまりはそういうことなんっすか!? いやいやもうセットしていってっし!? じゃあマジで?! ソラちゃんの新メンバーは、まさかのエリアボス……ってコト!?!〉
〈やが灰のファンである:いやいや、エリアボスのテイムは不可能でしょ?? まあエリアボスに限らず、ボス級のモンスターは普通のモンスターに比べて抵抗力も高いから、テイムは無理ってのは常識ってか定説なんすけど……でもー、夜叉姫さんだからなぁ笑 いやでも、実際にテイムすんのは、あくまでもソラちゃんなんだから……さすがの夜叉姫さんでも、無理なもんは無理やろ……?〉
〈やが灰のファンである:あぁ、ついに、その時がくるのか……! もう何が来ても驚かない自信があるぜっ! いやごめん嘘、何が来ても驚く自信しかない!笑〉
そうして、五つ目の台座にまで魔石をセットし終えたところで、最後の六つ目に魔石を置く前に、カメラへ振り返って口を開く。
「さて……それじゃみんな、ここからが本題だよ。いよいよ発表するからねっ、みんなが気になってしょうがない、その答えを……!
ソラの新たな使役獣となるモンスターは……ズバリ、この扉の先にいるエリアボス——ではない……のだけれど、でも、ある意味では、やっぱりここのエリアボスこそが、新たな使役獣になる、ともいえる。
これらのある種、矛盾した説明になることの答え……その鍵を握っているものこそが…………これから、ここに現れる、コイツ——世界的にも、ほぼここでしか遭遇しない——激レアモンスターの〝形態模者〟なのさっ!!」
そう言って私は、最後の六つ目の台座に魔石をセットする——と見せかけて、台座に触れた瞬間に魔石をすばやく引き抜き、取り込まれる前に魔石を手元に引き戻す。
すると、魔石が置かれたことに反応してシェイプシフターに変化した台座はしかし——本来なら即座に吸収されるところを——私が強引に魔石を引き剥がしてしまったので、設置されたボス級モンスターの魔石を取り込んでの〝変身〟を発動することができず……
その結果として、後にはただ、変身し損ねて何の力も発揮できない哀れで無力なモンスターだけが残されることになったのだった。
〈やがてファンになる:っ!? 台座が、変形してるっ……?!〉
〈やが灰のファンである:えっ、何これ、台座が……不定形の黒いヒトガタとしか言いようのないものに!?〉
〈流浪の探索者:シェイプシフター!? ……って、何? え、ミミックじゃなくて?〉
〈探索兵長:え、知らない、何そのモンスター……こわ笑〉
変身をキャンセルさせられて、所在なさげに佇んでいるシェイプシフターを尻目に……私はリスナーたちの疑問に答える。
「……んー、まあ、簡単に説明すると……つまりはこういうことなワケ。
この六つの台座は——ここから四方八方ならぬ、六方へと向かう道の先にある——六つのエリアの最奥にいるボス級モンスターの魔石をすべて揃えてセットすることで、本命であるエリアボスへの扉を開くためのギミックなんだけれど……実は、最後の最後に発動する、とある〝罠〟が仕組まれているんだよね。
それこそがコイツ——台座に擬態した〝シェイプシフター〟ってワケ。
まあ、というか……六つすべての魔石を嵌めるまでは、台座はただの台座なんだよね……六つ目の魔石を最後の台座に嵌めたその瞬間に、最後の台座がシェイプシフターだったことになる、っていうか……。
だからまあ、普通ならどうやっても、このシェイプシフターにハメられるのは避けられないんだよね。
んで、このシェイプシフターは、『触れた魔石を取り込むことで、そのモンスターに変身できる』って能力を持っているんだけれど……ここまで言ったら、これがどれだけ悪辣な罠なのか、もう分かったよね?
そう……苦労して六つの魔石を集めて、一つ一つ台座にセットしていって……いよいよ最後の一つを置いて、ついにエリアボスへの扉が開かれるぞ!——ってところで、最後の台座に擬態したシェイプシフターが、その魔石を取り込んで、すでに倒したはずのボス級モンスターに変身するってワケよ。
しかも、近くには他の五つの魔石もあるワケだからね……まあ十中八九、それらの魔石も取り込まれてしまうことになるから……そっから始まるのは、すでに倒した六つのボス級の力を宿して、すべての能力や特性を切り替えながら戦うことができる——っていう、そんな最悪のボスとの予期せぬ遭遇戦なのさ。
ただ、まあ……今回は魔石を取り込まれる前に、こうして無理やり引き剥がしたから、変身は不発に終わったんだけどね。
魔石を取り込んでの変身が不発に終われば——素のコイツは、変身能力特化のただのカスだから、戦闘能力もほぼゼロだし、なんら脅威にはならないんだけれどね。
だからまあ……今のコイツは無力なただのザコだし、今のソラでも強制的に使役できると思うよ。
というわけで……さあソラ、やっちゃいな」
「わ、分かりました……!」
私に促されるままにソラは一歩前に出ると、シェイプシフターに手をかざし、その頭部と思しき部位に触れる。
すると——
『“形状変化”』
シェイプシフターが自身の特性を発揮して、ソラとソックリの姿に変身してみせる。
しかし——他者の能力すら模倣できる変身をするには、魔石を取り込む必要があるので——触れるだけでは、精々が見た目を真似できるというだけだから、特に危険はない。
これはあくまで、相手と同じ姿になることで攻撃し辛くなるだろうという思惑からの……いわば防衛本能の発露みたいなものなのだろう。
ソラそっくりに変身したシェイプシフターを見て、コメント欄はにわかにざわめき始めていたけれど……当のソラは(私が事前にその可能性を教えていたこともあり)なんら動じることなく、そのまま自分の天恵である【使役】を使用する。
『“使役契約”』
そして、それに合わせて——
「……私の仲間になってくれたら、きっと後悔はさせないから……どうか、受け入れて……嘘じゃないと誓う——約束、するから……!」
そんな真摯な想いが、はてして通じたのか……
——はたまた、このまま倒されるよりはマシだと観念したのか……
ややあって、シェイプシフターは——まるで頷くように——ゆっくりと頭を垂れて、そして……
ソラの使役を受け入れて、彼女の新たな仲間になったのだった。




