第15話 ⑦——「最強の味方きた! これで勝つる!」
ソラが無事に〝シェイプシフター〟の使役に成功したところで——一段落の一安心と思いたかったのだけれど……そこで私は、はたと気がついた。
……ヤバい、配信の残り時間が思ったよりも押してるぞ——ということに。
実際、森での移動とかには結構時間かかったし、その後も宴会で無駄に時間を浪費したりもしたので、今日の配信に使える時間は残り少ない。
——休みの日とはいえ、あまり遅くなったら、親にも心配かけちゃうし……。
配信は家族にも内緒でやってるから、帰りが遅くなった理由を正直に話せないし、そもそも私って誤魔化すの下手だから、まずもって余計な詮索をされること自体を避けたい。
むむ……どうしよう。
いや、まあ、今日の残るタスクは、あとはアレだけだし……
だったら、こっからは巻きでいけば、何とか間に合うかな?
よし、そうと決まれば……シャシャシャっと進めてサクッと終わろう、そうしよう。
「……うん、よし、無事に〝シェイプシフター〟をテイムできたね。オッケーオッケー。そんじゃ、次行こっか」
「あ、えっと……もうですか?」
「うん——いやさ、思ったより時間押してたから、ちょっと急いだ方がいいかなって」
「あ、なるほど……確かに、もうだいぶ遅い時間ですもんね」
「そういうこと。だから、こっからはもう巻きでいくから——悪いけど、リスナーへの対応は全部ソラに任せていい? ボクは進行に専念したいからさ」
「あ、はい。そういうことなら……お任せください。やっさんには、もう随分とお世話になっていますので、それくらいは全力でこなしてみせます……!」
「う、うん、よろしくね」
〈アンチ太郎:現状でも、すでにかなり色々なものを省いて必要最小限以下にしてると思うんだが……これ以上さらに削るとなると、もはや何も残らないんじゃないか?〉
〈ニートの無職ん:まあ、それでも残るものがあるとしたら、それこそ……大量の疑問——とかかな?笑〉
さっそくやかましいコメントが目に入ってきたけど、その辺はもう完全に無視するというかソラに任せることにして、私はサクサクとやるべきことに取りかかる。
まず、シェイプシフターが倒された(実際はテイムしたんだけど)ことで、新たに出現した本物の台座に、改めて魔石をセットする。
すると……六つの魔石が揃ったことで、エリアボスのいるボス部屋へと繋がる大扉が開く。
「あ、今、エリアボスへの扉が開きましたね! えっと……そうです、この先にいるエリアボスの元へと、今から向かいます! ……はい、そうなんです、実は、エリアボスのことも使役するつもりなんです——」
質問が乱れ飛ぶコメント欄に律儀に回答していくソラを後ろに連れて、私はズンズンと進んでいき、なんら躊躇なくボス部屋の中へと入って行く。
足を踏み入れたボス部屋は、全体的に豪華な装飾が施された空間ながらも、どこか陰惨とした雰囲気を漂わせている……一見すると、そんな印象を受ける場所だった。
私の刀によって明るく照らされていてなお、拭いきれない負のオーラが満ちているようなそこは、しかしそれでも、れっきとした王座の間だった。
「……来たか、夜叉姫。予定よりも幾分、遅れたようだな。少しだけ……待ちくたびれたぞ」
王座に腰掛ける彼女——銀髪赤眼、褐色の肌に長い耳、そして何より、すべてを圧倒するほどの美貌を持つ——ダークエルフの女王が、そう口火を切る。
「……うん、ごめん。ちょっとね、思ったよりも時間かかったんよ。だからさ、悪いんだけど……予定してた、諸々のアレは——全部無しってことで。すぐに魔石出して、アイツに取り込ませちゃってくれるかな。あ、あと、魔眼もね。ちゃちゃっと使ってね。ひとまず今日はそこまで、何とか終わらせちゃいたいから……いい?」
「…………まあ、いいだろう。元より、暇を持て余していた身だ。この退屈から解放してくれるという貴公の言うことなら、今さらとやかく言いもすまいよ……。
よかろう、では、我が魔心臓、受け取るがいい。
さあ、我が膝元にて跪け、道化よ。今この時は、この身に近寄る不敬を許そう」
呼ばれた〝道化〟ことシェイプシフターは、ソラにも促されたことで、しずしずと女王に近寄っていき、言われた通りに目の前で跪いてみせる。
——ちなみに、姿としてはソラに変身したままなので、絵面がなかなかアレだけど……まあいいか。
そして道化は、女王がその胸の内より取り出した魔石を恭しく受け取り、自分の胸に押し当て——取り込む。
すると……おもむろに道化の姿が変化していき——
『“形態変化”』
たちまちのうちに、女王と瓜二つの〝いと古き血の闇森貴人〟へと変貌した。
「立て。我が器よ。そして、この目を見よ」
言われた通りにする道化と、目を合わせた女王が——その両眼に宿す魔眼の力を解放する……!
『“闇王の瞳——憑依の魔眼”』
〝起瞳〟した魔眼でじっくりと目を合わせた後……満を持して、〝発瞳〟させることで——シェイプシフターの精神内に己の器を創り出し、さらにはそこに、自らの精神を乗り移らせるという、驚異の御技を成功させる。
魔眼の〝発瞳〟も終わり、目を閉じた女王(本人体)は、そのまま王座に深く腰掛けたまま、まるで眠るように俯いてしまったが……
それとは対照的に、もう一人の女王(模者体)は、それまでとは違い、瞳に〝本物の意志〟を宿し、その体からは圧倒的な実力を漲らせていた。
「ふふふっ……ははははっ!! これはいい……馴染む、馴染むぞ……っ! さすがは我が魔心臓を宿せし器よ! この違和感の無さ……そこな本体と比べても、もはや、いささかの相違もない。——ククッ、素晴らしい……! これでついに、この暗黒の牢獄からも——乗り移らせた精神体のみ、という変則的な形とはいえ——やっとのこと、外に出られる、というわけだ……。
とはいえ……さすがに、いくらかは力も制限されているな。まあ、それもいずれは……——。
ともかく——感謝するぞ、夜叉姫。貴公は約束を果たした。ゆえにこそ、妾も約束を果たそうではないか。
さて、人の子……ソラと言ったな。これより妾は、貴様の麾下に加わってやる。
ただし、ゆめゆめ忘れるな。貴様に従うのは、あくまでも——そこな夜叉姫と交わした盟約があるからであり……妾自身が、取引に応じてもよいと思う対価を、夜叉姫が提示してきたからであって……決して、貴様自身の功績では無いのだということを、な。
そこのところを十二分に弁えているのであれば……妾としても、協力してやるのは吝かではない」
「っ、も、もちろんです……! あ、あなた様に協力してもらえるのは、一から十まですべてが、やっさ——夜叉姫様のお陰だということは、重々承知しておりますので……!」
「ふむ、それならよかろ——」
「いや——よくないよくない。硬い硬い。もっとフランクに接して? これからは、お互いに一緒のチームで協力していく仲間になるんだからさぁ」
「む、そうは言うがな……しかし妾にも、王族としての自負が——」
「……なら——やっぱりあのまま、ここでずっと一人ぼっちの王様やっとく?」
「っ、……い、いや、それは、嫌だ……」
「だったら……王族としての自分は、王座に置いていきなよ。どうせ、ここから先の冒険には不用な荷物だよ、そいつは」
「……そう、かもな。——ああ、うん……もはや、過去への拘りなど、この胸の感傷と共に捨ててしまうべきか」
「別に、捨てろとまでは言わないけれどね……ただ、新たな挑戦にも引きずってきてしまうくらいなら、思い切って放り投げてしまった方がいいこともあるってことさ」
「……やけに実感のこもった話ぶりだな」
「まあね……ボクにも経験あるから」
「そうか……ならば私も、ここは貴公に倣うとしよう」
「ん……それがいいよ」
「ああ……そういうことだから——ソラ、前言撤回だ。私とは気安く接してくれ」
「わ、分かりまし——いや、分かったよ、えっと……」
「ん、そうだな……私のことは、〝ルフェルカ〟とでも呼んでくれ」
「うん、ルフェルカ……改めて、よろしくね」
「ああ、ソラ。よろしく、私の新たな盟友——」
こうして、規格外の強さを持つ境界主であり、ダークエルフたちの女王である、ヴェルフェルミーナ——改め、〝ルフェルカ〟が……
——シェイプシフターの変身形態の一つという、変則的な形ではあるけれど……
ソラの新たな仲間として、チームの一員に加わったのだった。
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「……ところで、夜叉姫よ。貴公は今も変わらず、コクトーのことを始末しようと考えているのか?」
「え、そうだけど? 女王——君が仲間に加わったなら、いよいよあんなザコは用済みだし。もう、今すぐにでも始末するつもりだよ。
まあ、今日はもう時間も無かったから、リスナーたちに確かめる間もなく配信終わっちゃったけど……でも、まぁ、そんなことは、もはや訊くまでもないでしょ。
コクトーと、女王——を宿したシェイプシフターと……どっちを選ぶのか、なんてのはさ。
まあ、そもそも、新たな使役枠はすでにシェイプシフターに使っちゃってるから、選ぶも何もないんだけど。でも、それならそれで……コクトーもシェイプシフターに取り込ませればいいじゃん——とかって言われても敵わないしさ。——いやいや、女王がいればコクトーなんて要らないっての。
というわけだから、コクトーは今日で降板だね。明日からは、女王を宿したシェイプシフターを新メンバーとしてやっていくつもりだよ」
「それはまた……なんとも乱暴なやり口ではないか、夜叉姫。なんやかやと言いつつ、貴公はリスナーたちとの交流を大事にしていたように思えたのだが……それを今更になって、そうも容易く蔑ろにしてしまうというのか?」
「な、何さ……知った風なことを言うけど、女王に何が分かるってーの?」
「分かるとも……なにせこちとら、例の対価の前払い品として受け取った、この〝照面鏡〟で……すでに、すべて観させてもらったのだからな」
「——!? え、ウソ?! いや、今日の配信を観てたのは知ってたけど、すでにアーカイブも履修済みだったんかい!? えぇ……使い方は軽く教えてたとはいえ、もうそこまで使いこなしてんのっ?」
「ふっ、何せこちとら、暇な時間だけはいくらでもあるのだからな……貴公こそ、知恵を持つ存在が暇を持て余した末に陥る退屈というものの耐えがたさを、あまり舐めない方がいい」
「し、知らんってぇ、そんなの……」
「だからこそ、これは一人のリスナーとして言わせてもらうのだがな——何を隠そう、かくいう私も、今や立派なコクトー擁護派だ。いや、もはや、その筆頭だと言っていいだろう。なにせそれこそ、こうして直接、夜叉姫に意見できる立場なのだからな……!」
「う、嘘でしょ……!? いやマジで! どこに気に入る要素があんのさ?! あんなヤツなんかにっ!?」
「……似ているのだ、境遇が。この私と。——迷宮に囚われ、一切の自由が無い、哀れな傀儡……。それはまさに、これまでの私——いや、妾のことだった」
「っ……」
「しかし今や、コクトーも私も、貴公のおかげで——仮初とはいえ、自由を得たのだ。その喜びが、いかほどのものか……貴公には想像もできまい」
「……」
「だからこそ、私にはヤツの——コクトーの気持ちが解る。アイツが、この数日間の冒険を、どれだけ楽しんでいたのか……他でもない私だけは、それが痛いほど感じ取れる。まだまだ低位の不死人ゆえ、自らの胸の内を語る術を持たないアイツの代わりに、こうして口を利いてやらねばと義憤にかられるくらいには……私はヤツに共感しているのだ」
「っ……」
「だから頼む、夜叉姫……コクトーも私のように、ソラの仲間として迎え入れてやってくれ。——この通りだ」
「……頭を上げなよ、女王」
「っ、では……」
「はぁ……君にそこまでされちゃあ、断ることはできないよ」
「っ! 感謝する、夜叉姫……!」
「……それにしても、意外だったよ。むしろボクは、他でもない女王自身が断るだろうから、いよいよコクトーを始末するしかないと思っていたんだけれどね。
一応、念のため、確認しておくけど……コクトーをチームに入れるってことは、そのシェイプシフターに——女王の新しい、仮初の体に——不浄なるアンデッドも取り込ませるってことなんだよ? 本当に、それでもいいって思ってのことなんだろうね?」
「ああ、構わない。そもそも、貴公が言ったのだろう? そんな拘りは、王座の体に置いてこいと」
「ふぅん、そう……あくまで仮初の体の方になら、受け入れてもいいって——そういうこと?」
「ふ……我が魔眼の能力を知らぬ貴公ではあるまい? なぁに、こちとら、他者と同じ身体を共有するくらいは、すでに慣れたものゆえ……今さら動じることもないというだけよ。それこそ——実のところ、不死人を相手に使った経験だってあるのでな」
「それは、聞いてなかったな……」
「誰かに話したのは初めてだ。しかし、ここまで言えば、さしもの貴公も納得してくれるだろう?」
「これ以上ない説得力だね……負けたよ。完敗さ……ああ、認めるよ、コクトーをソラの新たなメンバーとして、チームに加えることを、ね」
「おおっ——聞いたか、皆の衆……私は成し遂げたぞ! 喜べ! あの、血も涙も無い夜叉姫から、コクトーを守り切ったぞ!」
「……はぁ、女王にまで悪者扱いされることになるなんてね——コクトー、恐るべし、だよ……」
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