第15話 ④——「やー……普段はマジで暇してるっすからねぇ……こういう差し入れは、マジでありがたいっす」
『——……よくぞ参られた。我らが王に認められし、赤き瞳の同胞よ。こちらは約束通り、例の儀式の準備はすでに出来ているが——。そちらも、約束の手土産を忘れずに持参してくれているのなら……嬉しいのだが』
〈やがてファンになる:うぉっ、これは……だ、ダークエルフっっ!?!〉
〈ニートの無職ん:うわぁ、夜なんとか姫さんみたいなのがいっぱいいるぅ!笑〉
〈もっこり助兵衛:うひょぉっ!? ナニここ?! 超絶美形褐色エルフがたくさん……! 森の奥にあったのは楽園だった……??!〉
〈やが灰のファンである:ぅぉぉおおマジぃ!?? この森の深部ってダークエルフが出没するエリアだったんすかッッ?!?!〉
森の深部にて現れた、今の私と外見的特徴が瓜二つの亜人系モンスターたちを見て、驚きの反応を示すリスナーたち。
〈やがてファンになる:いやマジで、これって普通に大スクープじゃないの?! だってダークエルフとか、めっちゃレアなモンスターだよね!?〉
〈探索兵長:まさかまさか……精霊ダンの中層中域にある南エリア——通称「迷いの森」の深部では、ダークエルフが出現するだなんて……これはあるいは、協会ですら把握していない新情報の可能性がありますよ……!〉
〈やが灰のファンである:いやダークエルフとかマジでガチの激レアモンスじゃん! 国内のダンジョンにおいては、いまだかつて出現が確認されたことはないはずだしっ、海外ってか世界的に見ても、ほんの数件しか報告例がなかったハズ! 俺は以前ガッツリ調べたことあるから詳しいんダ!〉
〈流浪の探索者:この森って、ほぼ誰も奥まで入ったことないから、今の今まで知られてなかったんか……でもそれを今回、姫がサラッと配信してしまった、ってコト……?笑〉
〈やがてファンになる:…………っは! もしかしてっ!? ソラちゃんの新たなテイモンって……ええウッソぉ?! そんなんって……アリぃ?!!〉
〈眠れぬ森の女王:おお、ヴーゲンビリア、声を聞くのはいつぶりか……ああ、懐かしや……まさかこのような形で、ふたたび目にすることになろうとは〉
〈浮世の社畜ん:全員があまりにも美男美女過ぎて、それが一同に揃ってると圧がスゴいな……笑 ってかさ、なんかひいさまに話しかけてきたっぽくない? いやまあ、なんて言ってんのかは、まったく解らなかったけど。あれは、やっぱり……エルフ語、ってヤツなのかなぁ??〉
「……盛大な出迎えに感謝するよ、誇り高き褐色の同胞たちよ。では、さっそくで悪いけれど、すぐに例の儀式に取り掛かってはくれないかな。ああ、もちろん、約束していた〝手土産〟の方は、ほら——ここに、こうしてちゃんと持ってきているからね。それも、全員に行き渡る十分な数があるから、安心してくれたまえよ……」
『……承知した。では、これよりすぐに〝儀式〟を始めるとしよう。儀式が終わるまでは、お連れの客人たちも含めて、この先の広場でゆるりと過ごされるがよろしい。ささやかなるもので恐縮ではあるが、歓迎の宴を開く手筈はすでに整っているので、遠慮なく参加していただければ……〝手土産〟もそこで受け取らせてもらおう。
ただ……この先に案内する前に、一つだけ、この場で断っておかなければならないことがある。
ここは、我らの重要な拠点であり、また、大いなる祖霊——すなわち、偉大なる我らが王を祀る、神聖なる祭祀場でもある。
ゆえにこそ……いかなる理由があろうとも、この先に不浄なる不死人を招き入れることは——それがたとえ、高貴なる赤き瞳を持つ同胞が引き連れてきた、同行者の一員なのだとしても……決して許可できないということは、予めご了承願いたい。
そこにさえ配慮してくれるのならば、我々は精霊も人の子も——それから、そこな浮遊し追従する謎の道具も——皆等しく歓迎し、大いにもてなすだろう』
「……ぅんぃや——もちろん、それは当然……そのつもりだとも。そもそも、この不死種に関しては……こちらとしても別に、連れてきたくて連れてきているわけではないのでね……ここに置いていくので一向に構わないさ。なんなら、この場で始末してしまってもいいくらいなんだけれども……」
『い、いや、そこまでは必要ない。あくまで、中に入ってもらうわけにはいかないというだけであるから……ここに待機し、これより先には立ち入らないというのであれば、それで十分だ』
「……そう? であれば、そうさせてもらうとも。——聞いたな? 黒套。お前はここで待機だ。決して、この先には立ち入るなよ?」
「……(コクコク)」
「これでいいかな?」
『ご配慮、痛み入る。では、どうぞこちらへ……』
〈ニートの無職ん:唐突に始まった、どうにも知り合いみたいなダークエルフに対しての、謎にそれっぽい雰囲気で会話してる風な、この状況isナニ?〉
〈アンチ太郎:おいおい……マジでこのっ、ツッコみたいことがいくつもあるのに……いくつもあり過ぎて何から言えばいいのか迷うだろうが〉
〈眠れぬ森の女王:コクトー、不憫なやつじゃ……やはり捨ておけぬ〉
〈やが灰のファンである:あ、あの、夜叉姫さん……アナタ、あのダークエルフのお姉さんと、お話——できてます?? というか……まずもって根本的な話、ダンジョンのモンスターを相手に交渉って可能なんですか?????〉
〈やがてファンになる:相手のエルフの言葉は(まるで聞いたことない言語で)全然なに言ってんのか解らんけど、夜叉姫さんのセリフとかから推察するに……手土産を持参したから歓迎されてるけど、コクトーは入っちゃダメって感じのアレ?? ってコト???〉
〈アンチ二号:なんでダンジョンのダークエルフと会話できてるのって訊いても、どうせ自分もダークエルフだからとかってワケ分かんないことしか言わないだろうから、もうそれは訊かないとしても……手土産って何を渡そうとしているのかくらいは言いなさいよね?!〉
さてさて……やはりというか、コメント欄が盛り上がってきたね。
とは、いえ……今の私は〝いと古き血の闇森貴人〟の役柄を演じ中なので……下手にコメントに返事することも出来ない。
——いやぁ……下見の時にノリでロールプレイ始めたら、そのまま後に引けなくなっちゃったよね……笑
なのでここは、コメントの相手は彼女に任せることにする。
というわけで……私に話しかけてきた彼女——ダークエルフたちの、まとめ役的な立場の人物であるところの——ヴーゲンビリアに連れられて、広場の中へと案内されていく最中に、私がチラリとそちらを向いてアイコンタクトしたら……すぐさま心得たとばかりにソラは頷き、コメントに対して状況を説明する役を引き受けてくれる。
「ええっと……そうですね、やっさんは、ここのダークエルフさん達と話が出来るとのことで、実は、事前に色々と話を通してくれているそうなんです。
それで、そのぉ……なぜ彼らと会話できるのか、どうやっているのか……皆さん気になっていると思うのですが、それについての、やっさんの返答としては——まさかの、すでに二号さんに言われてしまったんですけど——『今はダークエルフだから』……だそうです」
〈アンチ二号:……正解したのに、こんなに腹立つ答えってなんなのマジで〉
いやぁ……二号もなかなか鋭くなってきたじゃん?笑
まあでも、この程度じゃ、まだまだMVPリスナー賞はあげられないというか……先回りされるの普通に困るんですけど!笑 まあ別にいいけど……笑
〈ニートの無職ん:何が腹立つって、当の本人がニヤニヤしてんのが一番腹立つだろww〉
おっといけねぇ、今の私はロールプレイ中なんだから、表情を引き締めないと……
そうこうしているうちに、私たちは広場の中にある宴の会場に到着した。
巨大な樹々が鬱蒼と生い茂る森の中に、突然現れた開けた空間である、その広場には——なにやら、おしゃれな木製のテーブルや椅子が並べられていて、卓上にはすでに食事や飲み物が用意されている。
私たちはその中でも一際立派な席に案内され、促されるままに着席したところで……周りの席についているダークエルフたちからの視線が、一気にこちらへと集まってきた。
一斉にこちらを見てくる——期待感を隠しきれていない——無数の整った顔立ちの者たち……そんな彼ら彼女らに、私は一つ大きく頷いてみせると……
それからおもむろに懐に手を入れて、そこから手土産として持参したソレ——ダンジョン産の高級酒を次々に取り出していく。
するとすぐさま、居並ぶダークエルフたちから、おおっ!——といった歓声が上がった。
「前回好評だったものはもちろん、今回は新たな種類も色々と持ってきているから……存分に楽しんでくれたまえよ」
『いよっ、待ってましたぁ!』
『さすが姫様、太っ腹ぁ!』
『今となってはもはや、酒に勝る娯楽はない……!』
『万歳! 姫様、万歳っ!!』
そうして始まる、飲めや歌えやの大宴会……!
ダークエルフたちは、我先にと私の持ってきた酒を受け取ると、そこらかしこで次々に乾杯を交わしていく。
『ささっ、姫様もどうぞ……!』
「うむ、くるしゅうないぞ」
そんなみんなの手前、主賓の私が飲まないわけにもいかないので、注がれる酒を豪快にクイっとあおる。
〈やがてファンになる:えっと、ここってダンジョンの中だよな……? これは、一体……何が起きてるってぇの???〉
〈眠れぬ森の女王:(*´꒳`*)〉
〈ツッコミ番長:いや姫って、まだ未成年じゃな——いや、うん、何でも無いわw いい飲みっぷりっすね!笑〉
「えっと、はい……というわけで、手土産というのはその、色々な種類のお酒らしいです。これらは、ダンジョンで手に入る、とても高級なお酒だそうで……皆さん、とても嬉しそうですよね」
〈やが灰のファンである:へぇぇ、そうかぁ……ダークエルフって、酒好きなんだなぁ……笑〉
〈アンチ太郎:結局、何でコイツらは酒盛りなんてしてるんだよ……マジで、脈絡が無さすぎて意味不明だろ……〉
「あ、そうですね……そもそも、どうしてこんなことになっているのか、というのは——もう話してもいいですかね、やっさん」
「うむ、よきにはからえ」
「あ、はい。では私から、ざっと説明させてもらいますね」
お酒でボーッとしてきた私の代わりに、ソラがリスナーに説明していく————。
なぜ酒盛りをすることになっているのか……そもそも、さっきからちょくちょく出てきている〝儀式〟とは、何のことなのか……
端的に言うと、〝儀式〟とは——この森の深部からさらに先(というか、地下)にある〝隠しエリア〟へと進むために必要となる、ここに住むダークエルフたちにしか出来ない、特殊なギミックの解放条件を満たすための手法のことなのだった。
この〝儀式〟を行うことにより、隠されたエリアである〈暗黒地下領域〉なる場所へと繋がる道が現れるのだ。
では、そもそもなぜ、そんな面倒な手順を踏んでまで、その隠しエリアなんぞに向かう必要があるのかというと……私が今回、ソラの新たな使役獣として見繕ったモンスターがいるのが、まさにそこ——隠しエリアたる〈暗黒地下領域〉だからなのだった。
——コイツは極めて珍しいモンスターなので、もうほぼここにしかいないってくらい希少な存在なんだよね。
だからわざわざ、下見と称して事前に話を通しておいたり——その際に、ダークエルフたちに〝儀式〟をやってもらうための対価として、アレコレと探りを入れた結果として、たどり着いた——〝お酒〟という交渉材料を用意したり……なんて苦労をすることにもなったのだけれど。
とはいえそれも、ひとえにソラの新メンバーとしてバッチリ相応しい相手を紹介せねばという使命感ゆえの行動なので……
——コミュ障ゆえに、初対面の相手との交渉にビビった挙句に、謎のロールプレイで乗り切る羽目になったりとかしたけれど……
私の大事な〝観測者〟であり、また〝古き盟友〟でもあるソラのためだと思えば、それもなんら苦ではない。
まあ、事前に一人でこなしたそんな下見の苦労を、わざわざ語るもんでもないので……ソラには最低限の部分しか話してないんだけれどね。
なので、彼女の口からリスナーに向けて語られた話としても——ダークエルフにしか行えない〝儀式〟によって、新メンバー候補のモンスターがいる〝隠しエリア〟に行けるようになることと……ダークエルフが酒好きだったから、〝儀式〟の対価というか交渉材料として、事前に用意していたんだよってくらいの大雑把な説明にとどまっていた。
そんな感じのソラの解説も終わり、リスナーたちからもある程度の納得を得た頃には、いよいよ宴もたけなわとなり……
ちょうどそのタイミングで、〝儀式〟を行っていたらしきダークエルフたちが、無事に儀式を終わらせて宴に合流してくるようになっていた。
なので私たちは、酔っ払って陽気になり、まだまだ一緒に楽しみましょうと引き留めてくるダークエルフたちの誘いをやんわりと断りつつも、〝儀式〟が行われた後の、その場所に向かい……
〝儀式〟によって出現した——見上げるほどの大木の下部にできた洞の中にある、地下深くへと続いている巨大な洞窟へと、いそいそと入っていくのであった。




