第15話 ③——「魔弓使いのダークエルフ」
「みんなが、やたらと説明しろ説明しろって言うからさぁ……この魔弓に関しては、ちゃんと解説してあげるよ」
霧深い木々の影から飛び出してきた猿のようなモンスターを今まさに射殺しつつ、私は口を開く。
「この——全体的に黒くて、ちょっと禍々しい雰囲気がカッコいい弓の名は、『魔弓 影月』というよ。
——ちなみに、カゲツは影法師の影に三日月の月と書いて影月だよ。
その名の通り、この弓は影に関する能力を宿していて……しかも効果の幅が広いから、色々な使い方ができるんだよね。その辺りの詳細は、実際に使いながら解説してあげるよ」
なんて喋りながらも、襲ってくる複数のモンスターに対して、こちらも〝実体を持つ黒い影で出来た矢〟を連続して生成しつつ続々と射ち放って迎撃していくことで、次々に仕留めていく。
「まず初めは、今もやっているみたいに、『影で出来た矢を生成する』という使い方だね。ま、要は、魔力がある限り、いくらでも矢を生成できる便利な能力があるってワケさ」
〈やが灰のファンである:おお、いかにも魔弓って感じの能力だ! 影月って名前もそうだけど、影の矢とか確かにカッコいい!笑〉
〈ニートの無職ん:うーん、説明してほしいのは別に武器じゃない定期〉
〈アンチ太郎:なんだ、てっきりブンブン振り回すような頭悪い武器しか使えないものと思っていたが……お前って、弓なんて高度な武器も使えたんだな〉
「おいおいバカにしてんじゃねーぞ! 誰がブンブン振り回すしか能が無いってぇ? ってか、弓なんてそんなに高度じゃないし! 誰だってこんぐらい使えるってーの!」
〈やが灰のファンである:元弓道部のわたし、さすがに夜叉姫さんの言い分には異議を唱えたいのだけれど、あれほどの腕前を見せられたらもう何も言えないので、すごすごと引き下がる……笑〉
〈眠れぬ森の女王:貴公、弓も扱えたのか……もはやダークエルフ顔負けじゃな〉
なんて適当に話ながらも、敵を倒しつつズンズン進んでいくと……進む先にまたもや複数のモンスターの気配が。
——ふむ、コイツらはアレか、やたらと速いムササビか……しかもかなり数が多い。こんなに何匹もいると、会敵して散開されたら、さすがに面倒だ……となると。
私は、敵がいまだ木々の向こうにいて見えない段階で弓を引き絞ると、影の矢を放つ。
パシュ——ギュン——シュパパパパパッ——ドスドスドスドス!!!
すると、放った矢は途中でギュンッとカーブを描いて(私が思う通りに)その軌道を曲げ、さらには無数に分裂してその数を増やしつつも、それぞれが精密に狙い通りに動き——そうして、ある程度の範囲内にまとまって佇んでいた、ちっこいムササビのようなモンスターの、これまたちっこい影に次々と正確に突き立っていき……全員の動きを完璧に封じて見せたのだった。
〈やがてファンになる:え、今なんで射ったん? 気づかなかったけど、敵いました??〉
「おっとっと……まだ見えないか、ちょっと待っててね〜」
それからしばらく進んで、ようやく件のムササビたちの元にやってきたところで、実物を眺めつつ私は解説を続ける。
「さて、ご覧の通り……この矢で〝相手の影〟を撃ち抜くことで、相手の動きを止めたり、本体にダメージを与えたりすることができるんだよね。さらには……それ!」
影に刺した矢を介して能力を行使し、そこから実体を持つ影を発生させて操り、動けないムササビたちに巻きつかせて……ゴキゴキゴシャッ!
「——ってな感じで、矢を刺した場所の影を操れるというか、そこから実体のある影を生み出して直接攻撃したりもできるんだよ。
あ、それと……この影を操る力は〝影の矢〟にも適応されるから、さっきみたいに放った後の矢の軌道を自在に操作したり、矢の数自体を分裂させて増やしたりも可能なんだよね。
とまあ、こんな風に、色々とできるってワケさ。
ああちなみに、この魔弓ってこれでも中層級の武器だから、ちゃんと階層のレベルにも合わせてるんだからね。まあ、中層の中でも割と破格の性能をしてる方だとは思うけれど」
〈やが灰のファンである:そ、そんな凄いことをしてたのか……いやマジで、あの数の小動物の影を一気にすべて正確に撃ち抜くとか……控えめに言って神技では? これは是非ともその瞬間も見たかったな……笑〉
〈アンチ太郎:いや、さっきみたいも何も、その部分は映ってないから見てないんだけどな〉
〈やがてファンになる:これで中層級の武器ってマ!? マジで破格の性能じゃないっすか!w〉
〈†漆黒の堕天使†:なんと素晴らしい……魔弓の名に相応しい性能ではないか、実に天晴れだ、†深淵の†……!〉
うーん……反応としては悪くないけれど、やっぱアレか……ここを配信する上での一番のネックは、霧と木々による見通しの悪さか。
カメラワークとかでは、もはや改善できないレベルで視界が遮られてるからなぁ……これには私もお手上げだ。
となると……こんな場所はさっさと通り抜けてしまうに限るね。
「この魔弓の活躍をもっと見たいっていうリスナーの諸君には残念な話になるけど……ぶっちゃけ、ここで戦ってもなかなか見栄えのいい映像にはならないみたいだから、ここからは進行を優先して戦闘は控えめでいくよ」
せっかく用意した魔弓をちゃんとお披露目できたことで、私もひとまずは満足したので、あとはもう余計な戦闘は抜きでさっさと先に進むことにする。
——というわけで、そこからはさりげなく威圧を放っていくことで、近寄るモンスターを事前にガッツリ間引いておく。
それでもポツポツと空気を読まずに襲いかかってくるモンスターもいたけれど……それくらいなら、むしろいいアクセントになるので、ソラやコクトーとも協力して——というか、ソラの見せ場を作るために、私は手出しを控えて、戦いはもうほぼソラたちに任せるようにして——適当に倒しつつ進むこと、しばらくして……
「む……雰囲気が変わってきたね。分かるかな? ここからはもう、森の深部に入ってるよ」
私たちはいよいよ、目的の場所のその入り口へと到達したのだった。
「……にゃ、にゃんとも不気味なトコだにゃあ。にゃんだか、どーにも落ち着かないにゃ。変にゾワゾワするにゃ……まるで、四方八方から誰かしらに覗き見でもされているようにゃ感じだにゃあ……」
「いやぁ、まるでも何も、実際にあちこちから覗かれてるんだけどね」
「にゃんですと! 気のせいじゃにゃかったんですかにゃ!?」
「どうどう……落ち着きなよ、にゃが輩くん。——それから、他のみんなもね。大丈夫だよ。すでに話は通しているから。……こっちから何もしなければ、ね」
獣系モンスターの襲撃もなりを潜めた、森の深部にて……
不気味な静寂が支配するそこを、私たちはむしろペースを上げて進んでいく。
「やばいにゃあ……どんどん数が増えていくにゃあ……完全に取り囲まれてるにゃあ……っ」
「あ、あの……やっさん、本当に、このまま進んでも大丈夫なんでしょうか……?」
「うーん……確かに、このままじゃちょっと不味いよねぇ……」
「え゙え゙っ!? ま、マズいんですかっ?!」
「さっきからずっと、変わり映えのしない景色を進んでるだけで、何も起こらないし……これじゃあ、配信の絵的に微妙だってのは、確かにそうなんだけれど……」
「えっ、マズいって、そっち……? なんですか……?」
「……んー……これなら——ちょっとは襲ってくるように言っておくべきだったかな」
「ぅえっ?!」
「……まあでも、もうすぐ着くからね。ちょっと急ぐか——もしくは、予定と違うけど、ちょっと周りの奴らにちょっかいをかけてみるって手も……」
「いぃ——急ぎましょう! ぃ行くよ、みんな!」
小声でブツブツと考え事をしていたら、なんだか急に張り切り出したソラがペースアップし始めたので、テコ入れをする間もなく……
いつしか私たちは、その場所にたどり着いていた。
そこは、鬱蒼とした森の中に唐突に現れた、開けた広場だった。
そして、そこで私たちを待ち構えていたのは……
『……よくぞ参られた。我らが王に認められし、赤き瞳の同胞よ。こちらは約束通り、例の儀式の準備はすでに出来ているが——。そちらも、約束の手土産を忘れずに持参してくれているのなら……嬉しいのだが』
銀髪に長い耳、褐色の肌に橙色の瞳を持ち、揃いも揃って、異様と言えるほどに整った顔立ちをしている……闇森人たちだった。




