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第15話 ②——「霧深き〝迷いの森〟の中へ……」



「まあ、今から行くよ——って言ったけど……実はもう、すでに着いているんだよね」


 そう言って、ドローンカメラを振り返らせると……目の前には鬱蒼(うっそう)(しげ)る霧に包まれた巨大な森が映し出されるのだった。


〈やが灰のファンである:こ、ここは……っ?! 精霊ダン中層中域において最も難易度が高いエリアと言われている〝南の森〟じゃないですかっ!?〉


〈やが灰のファンである:え、ってことは、ソラちゃんの新しいテイモンは、この森でゲットするってコト!?〉


「そうそう……今日の目標である、ソラの新メンバーの獲得——その候補となるモンスターがいるのは、他でもない、この森のエリアなのさっ!」


 私が高らかにそう宣言したことで、特にソラの古参リスナーたちがざわつきだす。


〈やが灰のファンである:え、でもここ、この中域の中では一番危険なエリアなんですけど……!?〉


〈やが灰のファンである:まあ、前回のコラボ探索でソラちゃんの装備もかなり強化されたし、強力な助っ人である夜叉姫さんとコクトーもいるから……大丈夫か? いやでも、この森って敵の強さだけじゃなくて、不意打ちとかにも注意しなきゃなんだよなぁ……いや、やっぱ厳しくない???〉


〈やが灰のファンである:行き詰まって長期間低迷した挙句に暴走したソラちゃんでも、ここは選ばずに北の山に行ったくらいだし……というか、他の探索者でも精霊ダン中層中域でこの森に行くヤツはほぼいなかったと思いますよ!?〉


〈やがてファンになる:なんか古参たちがこぞって戦慄しているようなんですが……この森ってそんなにヤバいん?? え、ソラちゃん本当に大丈夫なの?〉


「ええっと……皆さんの心配も当然だと思います。私も——軽く調べただけですけど、この森だけは行かない方がいいって情報しか出ないくらいだったので、ずっと避けてましたし……」


〈やが灰のファンである:情報が何も出てこないってことは、つまりはこれまでに誰も行ってないってことなんよ。そして、その理由は……まあ、お察しというかね〉


 まあ、本当に誰一人として行ってないってことはないだろうけれど……表に情報がほとんど出てこないくらいには、行く人が少ないってのは確かだろう。

 事実、この森の危険度は中層中域においては逸脱しているといっていいレベルなので、普通なら誰も行こうとはしないのも(うなず)ける。

 この〈中層中域〉という階層を攻略するだけなら、(ここ)以外のエリアに行けばいいだけだから、攻略目的ならまず近寄らないだろうし……かといって、適正レベルを超えた強者がわざわざ戻ってくる理由になるような(うま)みも特に無いとなれば、そりゃあスルーされるのも当然だ。

 しかし今回は、この先にいる〝とあるモンスター〟を使役(テイム)するのが目的なのだから、本来は生まれなかった需要が発生した例外のパターンだといえる。


 んー、とはいえ、だ……今回は別に攻略することが目的ではないのだし、無闇にリスナーを不安にさせてしまっているのは良くないのかも……

 適度な不安は配信を盛り上げるスパイスになるとはいえ、それも時と場合によるはず。

 それこそ、攻略を進める上では絶対に避けられないエリアボスとの戦いとかなら、リスクを取るのも納得できるだろうけれど……強力な新メンバーのためというのは——成功したら確実に攻略にもプラスになるとはいえ——自分から不要なリスクを取りにいっていると見做(みな)すこともできなくはない。


 その辺のバランスを考えると……今回に関しては、不安を払拭(ふっしょく)できるような配慮をした方が無難な気もする。

 実際に、事前にソラと軽く打ち合わせした時にも、そういう結論になっていたので——ネタバレになるから、私としては、あまり事前にアレコレと言いたくはなかったのだけれど——私は不安がるリスナーたちに、心配無いことを理由も含めて伝えておく。


「なんだか心配の声がいくつも上がっているようだけれど……大丈夫だよ。なんたって、このボクがついているんだからね。

 今のボクはダークエルフバージョンなんだよ? 当然、森の中はお手のものなのさ。

 それにそもそも、今回は念入りに下見というか〝下準備〟もしているからね。もう事前の段取りはバッチリなワケ。だからリスナーのみんなも、大船に乗ったつもりで安心して観てくれるといいよ」

 

 私が自信満々にそう言ってのけると……


〈やが灰のファンである:ま、まあ、アンタほどの実力者がそういうのなら……〉


〈やがてファンになる:そりゃあ、いくらこの森の難易度が高いといっても、深層級の探索者である夜叉姫さんからすりゃあ、楽勝っすよね〉


 ソラのリスナーも一応は納得した様子だった。


〈ニートの無職ん:下準備、ねぇ……なんだか嫌な予感がするのは気のせいか?笑〉


〈眠れぬ森の女王:水面下での準備が重要なのは、どこの世界でも同じなのじゃな〉


「じゃ、じゃあ、みんなの不安も払拭(ふっしょく)できたところで、さっそく中に入っていくとしようか」


 余計なことを言う誰かさん()()は無視して、私はソラたちを引き連れて森の中へと入っていくのだった。



 常に霧が立ち込めており、木々が密集している森の中は見通しが悪く——それどころか、地味に『方位測量(マッピング)系の能力を阻害する』という【領域効果(フィールドエフェクト)】も働いているので——この私ですら、下手すると普通に迷いかねない。……なんの対策もなければ。

 ——(くだん)の領域効果は、〈迷宮地図(ダンジョンマップ)〉すら使用不可にしてしまうくらいなので……下見の時には、私もなかなか苦労させられた。

 しかし今は、『森の中では決して方向感覚を失うことはない』とまで言われるエルフ特有の感覚が発揮されているので、まったく迷うことなく目的地へと真っ直ぐに進むことができている。

 なのでこれ(さいわ)いと、まだまだ大人(おとな)しいモンスターしか出ない外縁部については、ズンズン進んでさっさと通り抜けてしまう。


〈やがてファンになる:なんかめっちゃ進むの早いっすね!? てか、そんなガンガン突っ込んでいっても大丈夫なんすか?! その、索敵とかは……〉


「索敵はバッチリやっているから大丈夫だよ。——まあ今回は、攻略の寄り道みたいなものだから……にゃが(はい)くんには任せずにボクが先導するからね。戦闘は避けてサクサク進むつもり。

 というのも、森に入ってすぐのこの辺りに出てくるモンスターなんて、ほぼほぼ木に擬態した妖樹木(トレント)くらいしかいないからさ……コイツらは基本的にその場から動かないし、避けて通れば問題ないよ。

 まあ、中には(まれ)に、上位種の妖大樹(エント)(まぎ)れていたり、普通に動ける樹精霊(ドライアド)彷徨(うろつ)いてたりもするけれど……数は少ないから、滅多に出くわすことはないよ」


〈やが灰のファンである:いやトレントもかなり見破りにくいからこそ普通にめっちゃ危険なんですが……でも、まあ、うん……さっきからまったく遭遇しないところを見るに、夜叉姫さんなら問題無さそうですね〉


〈やが灰のファンである:ん、ドライアドっていえば、緑の髪の美しい女性の姿のモンスターですよね……はっ、もしかして、新メンバーってドライアドなんですかっ?!〉


〈やがてファンになる:ドライアドかぁ……まあ見た目的には、ソラちゃんの良ビジュ精霊チームの新メンとして及第点だが、実力的には……ぶっちゃけ微妙じゃね? てか能力や属性的にも、軽くハナちゃんと被ってる気ぃするし……そこも微妙ってゆーか〉


〈やがてファンになる:夜叉姫さんほどの人物が、あれだけ期待を(あお)るような言い方をするほどのモンスターだって考えると……ドライアドでは無い気がするなぁ。この辺はまだ森の浅いところらしいし、もっと奥のモンスターなんじゃないのー?〉


「ふっ……みんな色々と予想してくれてるみたいだね。さてさて……はたして、みんなの予想の中に正解はあるのか……それはともかく。答えが明かされるその時まで、また一歩近づいたみたいだよ。

 というわけで、そろそろ森の浅い部分を抜けて、深部の手前、中間部の辺りに差し掛かってきたからね。

 ここからは、活発に動いて襲ってくる動物系のモンスターも現れるようになるから、戦闘も発生するだろうし……いよいよコイツの出番かな」


 そう言って私は、背中に背負っていた魔弓(まきゅう)を手にとって、戦いの準備をするのだった。


 

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