第14話 ⑬——「新たなる魔眼の神髄、解放!!」
やっさんと私たちは、またまた例によって例のごとく、三度目の『場面転換ジャンプ』によって、一瞬で次の場所に移動した。
そうしてやってきた、本日の配信における最後のエリア——
そこはまさに、大昔から幾度も戦いが繰り返されてきた果ての荒野とでもいうべき……『合戦跡エリア』と呼ばれている場所だった。
視界に広がるのは、一面の荒れ果てた大地。
頭上を覆うのは、常に分厚い雲に覆われた夕暮れの空。
そして、大量の血が染み込んだような赤茶けた地面には、無数の戦没者たちの朽ち果てた骸……すなわち、大量の幽骸骨たちが所狭しとひしめき合っている。
「これはまた……とんでもない数ですね」
「うん、数はね。でもまあ、ほとんどは雑兵だから、ろくな装備も身につけてないし大して強くないよ。まあでも、中にはそれなりに手強い連中もいるんだけれど……」
「私たちがこれから戦うのは、まさにそういう強者集団の一つ——なんですよね?」
「そういうこと。ソラの武器として相応しいスタイリッシュさと使い勝手の良さを誇るクロスボウを持つ相手とくれば、そりゃあ、そんじょそこらの雑魚とは格が違うのさ、格が」
そう言ってやっさんが指差す先にいる一団は、確かに他の有象無象とは別格の雰囲気を醸し出すような存在感があった。
〈やが灰のファンである:なるほど、次の敵はアイツらですか。ぬぬ、確かに……周りの他の連中に比べても、なんか装備もイイ感じだし強そうっすね……!〉
〈やがてファンになる:周りはザコばかりだって言っても、この数が一気に襲ってきたら普通にヤバくない? それこそ、こんな何もない開けた場所で戦うとなると、どう工夫してもすぐに見つかって取り囲まれるような気しかしないんだけど……??〉
〈探索兵長:これはどうも、一筋縄ではいかないような気がしますが……何か作戦とかはあるのでしょうか?〉
「そうだね、みんなが思うように、ここはなかなか厄介な場所だよ。下手に戦ってたら、気づいた時には大群に囲まれて〝ジ・エンド〟になるからね。だからここは……時間との勝負だよ。囲まれる前に、目的を達成して……とっととズラかる! 作戦というなら、やっぱりこれに尽きるね」
〈ニートの無職ん:子曰く、人はそれを力尽くのゴリ押しと呼ぶのであり、作戦と称するにはあまりにも乱暴過ぎるものであると説く〉
〈浮世の社畜ん:さすがひいさま笑 相変わらずのストロングスタイルでむしろ安心するw〉
「まあ、このエリアの難易度だと、まともに戦うのは今のソラでもまだまだ荷が重いから……今回はボクもガッツリ手を貸すつもりだし。それに、今日最後の戦いだから、場合によっては派手にやってしまうのもアリだと思ってるからさ……楽しみにしてるといいよ」
そう言ったやっさんの言葉には、確かに偽りはなく……
それからの戦いは、配信の最後を飾るには相応しすぎるほどに、これ以上ないほど派手なものになった。
事前に想定していた〝最善の策〟としては——目的の弩をドロップする上位個体の骸骨射手が含まれる特定の一団のみを相手にして迅速に倒し切り、そのまま素早く撤収する……という段取りになっていた。
とはいえ、そもそも相手の実力からして、正面からそのまま戦うには私たちの手に余るレベルなので……こちらはせめて有利な地形を駆使して対抗できるようにと、いつぞやにもやったようにハナちゃんの『地魔法』であらかじめ地形を操作してから、件の集団をその〝陣地〟へと誘き寄せることにした。
囮役として敵の釣り出しを買って出てくれたやっさんと黒套が、さすがの手腕で上手くやってくれたのもあり、最初は目的の集団のみと地の利を活かして戦うことが出来ていた。
しかし、やっさんと黒套はその時点で見守りに徹するようになったのもあり、私たちだけでは格上の敵に苦戦してしまい、なかなかすぐに倒し切ることが出来ず……
そうこうしているうちに、戦闘音に引き寄せられて周りの骸骨雑兵たちが集まってきてしまい、完全に取り囲まれてしまった私たちは、一気に進退窮まる危機的状況に陥ってしまったのだけれど……
そこですかさず黒套が加勢してくれたので、何とかいったんは態勢を持ち直すことができた。
〈やが灰のファンである:いいぞコクトー! お前が頼りだっ! どうかソラちゃんを守ってくれぇ!!〉
〈やがてファンになる:やっぱコクトーってか、このクロスボウ強えぇぇぇ!!〉
〈アンチ二号:ちょっと、コクトーにばかり働かせてないで、少しはアンタも手伝いなさいよ! ヤシャコ!〉
〈浮世の社畜ん:コクトーも頑張ってるけど、さすがにこの数が相手では厳しそう……なんだけど……うん、ひいさまとしては、これでもまだ自分が加勢するには早いって判断なのかぁ……ギリギリ攻めるなぁ笑〉
黒套の参戦によって、こちらも少しは勢いづいて、コメント欄も盛り上がりをみせていた——のだけれど……
しかし、それからも敵が敵を呼び、襲いくる敵は際限なく増えていくばかりで……さすがに敵の数が多すぎて、黒套がいくら強くても多勢に無勢ではどうにもならず……
そうして、いよいよ限界まで追い詰められてしまったところで……ようやく重い腰を上げたやっさんが、その真紅の〝魔眼〟の真価を解放したことにより、状況は一変することになる。
「————死してなお動くもの、現世を彷徨う兵どもが成れの果て……終わりなき闘争に骨身をやつす、哀れなる罪人たちよ……今こそ我が魔眼の神髄でもって、永劫に続く汝らの不毛なる贖罪に終止符を……せめて末期は華々しく、死に花咲かせて散るがいい……紅魔眼光、夜王の瞳——〝発・瞳〟——支配の魔眼……〝支配の魔眼〟ッッッ!!!」
高らかに詠唱したやっさんが、ついにその紅に輝く瞳の力を解放する——!
『“夜王の瞳——支配の魔眼”』
すると……やっさんが睨みを利かせた方角の一面に布陣していた骸骨雑兵の大軍たちが——もはや目を合わせる必要すらなく、視界に収まっている大群がすべて丸ごと、ただの〝ひと睨み〟によって——完全に彼女の支配下に降り、残りのスケルトンたちと争い始める……っ!!
その光景はまさに、天下分け目の大合戦と言わんばかりの迫力だった。
視界を埋め尽くす、もはや数えきれないほどの骸骨兵の大軍同士が、お互いに潰し合うように激しい戦闘を繰り広げていく……
そんな大激戦に巻き込まれてはたまらないと、私たちはとにかく【地形操作】に全力を注ぎ、陣地をとにかく高く盛って難を逃れる。
もはや塔かなにかのように、先細りながらも遥かな高みに押し上げられた安全圏の端から見下ろす戦場に対して、やっさんは高笑いしながらも時折り魔眼を〝発瞳〟し続け、いつまでも終わらない闘争を演出し続ける。
「そうだ……争え……争うがいい……っ! 最後の一片すら残さずに潰し合うのだぁぁぁ〜〜〜!!! ——っとお、我が軍が少し劣勢かなぁ?! ならば増やすまでよ! そらっ、そこの貴様らっ! 全員寝返れっ! ——『“支配の魔眼”』ッッ!!」
……瞳を爛々と輝かせ、ノリノリでそれっぽいセリフを楽しそうに叫びながら。
〈ニートの無職ん:完全に頭イっちゃってる人で草〉
〈探索兵長:姫が楽しそうでなによりです〉
〈もっこり助兵衛:やっきゅんのキュン♡なシーン、いただきました!〉
〈†殺戮の使徒†:これだよこれぇぇ!! 僕が見たかったのはさぁぁ!! さすがだよぉ夜徒っちぃぃぃ!! 死してなお終わらぬ殺し合いなんてぇぇぇっっんぁぁぁあああ最高だよぉぉぉぉおおおおっっっ!!!!〉
〈やが灰のファンである:いやスゴ過ぎぃぃ!? あの画面を埋め尽くす規模の大軍勢のうち半分を、夜叉姫さんがたった一人で操ってるってコトぉぉ??! そんなんあり得ないってぇぇぇ!!!〉
〈やがてファンになる:いや本気出した支配の魔眼とかいうやつマジ強すぎるっしょwww こんなん普通にヤバ過ぎて引くwwww〉
〈やが灰のファンである:なんだろう……視界に入ってる膨大な数のスケルトンをすべて丸ごと一発で支配できるとかいう、とんでもチート能力なのに……夜叉姫リスナーの反応軽すぎない?笑 いやさ、下で行われてる大戦争よりも、夜叉姫さんの奇行にばっかり反応してるの、普通にこっちもイカレてんでしょww〉
画面の向こうのみんなは、実に楽しそうだけれど……実際にその場にいて体験している私としては、とてもじゃないけれど、そんなはしゃいだ気分にはなれそうもない。
——いや、あるいは私も、いちリスナーとして画面の向こうにいたならば、オリメンのみんなのように純粋に楽しめたのかもしれないけれど……
——実際にその場にいて、戦場の殺伐とした空気を感じ、大軍勢同士がぶつかり合う壮大な戦闘音を聴き、眼下の大地から高所たる陣地の上にまで伝わってくる……千を優に超える軍勢からなる大行進の振動を受けてみては……戦場の熱気に当てられて興奮はすれども、それを楽しむことなどは、とてもとても……
それくらい圧巻の大合戦が、眼下では今も繰り広げられているのだから……。




