第14話 ⑭——「心無き怪物、夜叉姫……笑」
やっさんの魔眼が秘められた力を解放したことで、この〈合戦跡エリア〉は、文字通りの大合戦場へと変貌してしまった。
そんな大混戦を見下ろす高所に居る私は、最初こそ戦いの迫力に圧倒されていたけれど……どうにか気を取り直してからは、チマチマと『七矢の弩』を使って、やっさんが操っていない方の敵を倒していった。
——ドサクサに紛れて目標の弩持ち骸骨射手を倒してドロップの回収にも成功したので、それからはいっそう派手に、私たちもとにかく攻撃していく。
そうして戦い続けた私たちが、すべての力を出し切って限界を迎える頃には……この、いつ終わるともしれない大乱戦にも終幕の時が近づいていた。
あまりにも大規模な戦いになったその合戦は、最終的に、この『合戦跡エリア』にいたスケルトンが——ただの一体も残らず——完全に全滅したことによって、ようやく終わりを迎えたのだった。
そう……やっさんは、他と比べても特に数が多いはずの、このエリアに存在しているすべての敵を倒してしまったのだ。
そんな、戦いを超える〝大合戦〟を間近で体験し、あまつさえ多少なりとも参加していた私は、貢献度はわずかなれど、規模が規模なので凄まじい経験値を獲得していたようで……
戦いが終結して放心としていた頭が思考能力を取り戻したところで——その時ようやく、自分の天恵である【使役】が成長していることに気がついたのだった。
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「いやー、なんか最後は、予想外に規模が膨れ上がって大乱戦どころか大乱世って感じになっちゃったけれど……ま、終わりよければすべてよし、だよね。絵的にもすごく盛り上がったし、むしろ大成功と言っていいくらいなんじゃないかなー」
文字通りの合戦跡に散らばっていた大量のドロップアイテムを回収したり、私の『七矢の弩』に最後のパーツを加えて完成させたりなどの事後処理を終わらせたやっさんは……配信の締めの挨拶として、そう切り出した。
「今日の配信はこれで終わるけど、予想外といえばソラの成長も予想外だったね。まさか初日にもう、目標の一つだった『使役容量の拡張』まで達成できるとはね……! 新武器も完成したし、なかなかいい滑り出しになったんじゃない? コラボ配信の初日としては」
「そうですね……私もまさか、たった一日でこれだけの成果が得られるとは思っていませんでした。改めまして……それもこれも、すべてはやっさんのお陰です。本当にありがとうございます」
「まあまあ、ソラの頑張りもあってのことだからね。いやぁ、この分なら明日の『防具集め』も一日で全部回れちゃうかもね」
「そういえば、そういう話でしたね」
そう、学校が休みである週末の二日目となる明日も、今日と同様に一日をフルに使って配信をするつもりなのだった。
今日は私の新武器を集めて完成させる配信で、明日は主に宝箱から手に入る防具を各地のダンジョンを巡って集めていって、私の全身の装備を一新してしまうという予定になっている。
という、その辺りの話もリスナーに対して一通り済ませたところで……最後の最後に、やっさんはサラリととんでもないことを言い放った。
「それじゃあ、最後に——黒套をソラに始末してもらってから、この配信も終わりにしようかね」
「はい……はい??」
「それじゃみんな、明日の配信もよろしく! 今日の配信は、用済みになった黒套をソラが始末するところで締めくくるとするよ。——というわけで……ソラ、やっちゃって」
「ちょっちょちょちょちょっ、ちょっと待ってください、やっさん……!」
「ん? どしたの?」
「いやっ、そのっ……黒套さんを、私が始末するって言いましたか?」
「そうだよ? まあ、すでにソラの【使役】も成長したから、経験値の足しとしても用済みなんだけれど……せっかくだから、最後はバシッとコイツをソラが倒して終われば良くない?」
「っ……、い、いえ、良くないと思います……!」
「え……?」
〈ニートの無職ん:なるほど、誰かさんが吸血鬼でアンデッドだというのは確かなようだな。血も涙も無いとは、まさにこのことか〉
〈アンチ太郎:散々こき使った挙げ句に、用済みとなれば即始末か……おい、気をつけろよ、やが灰。この調子だと、コラボが終わったら次はお前の番かもしれないぞ?〉
〈浮世の社畜ん:コクトー……いい奴だったのに……無茶振りにも健気に応えるお前の姿に、オレはどこか自分を重ねて見てたよ……でもゴメンな、オレたちには、ひいさまを止めることなんて出来ないんだ……泣〉
〈やが灰のファンである:そんな……寡黙な仕事人って感じでカッコよかったし、ぶっちゃけすでにファンだったのに……終わり方までそんな、闇に葬られるみたいな感じになるなんて……むしろカッコいいけど、でもすごく悲しいっスっっ!!〉
〈やがてファンになる:まあ、コクトーについてはテイムじゃなくて、あくまでただ支配しているだけなんだから、最後はそうするしかないんだろうけれど……あれ、なんだろなこれ、目から汁が……〉
〈アンチ二号:こんな終わり方にするなんて、ホント最低ね……コクトー、可哀想に……本気で見損なったわよ、ヤシャコ〉
「……ええぇ? なんかボクが悪者みたいに——何さこれぇ?! いやいやっ、コクトーってコイツただのモンスターじゃん!? それも、うす汚いアンデッドだし! 何をそんな……感化されちゃってんのぉ!?
……ああそうか、キミたちはコイツの本性を知らないから……だから、そんなことが言えるんだね。言っとくけど……マジでクソモンスだからコイツ! 上からコソコソコソコソ撃ってくるだけしか能が無い、ただのお邪魔虫! ——ボクも下見ん時に、どんだけイライラさせられたか……。あれを見てたらねぇ、口が裂けても、そんな擁護論は出てこな——」
「や、やめましょう、やっさん。それ以上言っても、やっさんが悪者になっちゃうだけですっ」
「っ、……! っ……」
〈ニートの無職ん:下見の様子を配信しないと決めた時点で、お前の負けは決まってたんだよ……諦めな〉
〈アンチ太郎:おい夜叉公、お前がミュートにしている連中の意見も、掬い上げて伝えてやるよ……『この人でなしが』。要約すると、まあそんなところだな〉
〈探索兵長:すみません、姫……今回ばかりは、あの要約も、あながち誇張とも言えないかもしれません……〉
〈やが灰のファンである:慈悲は……慈悲はないのですか?! これじゃあんまりにもコクトーが不憫だし……ソラちゃんに始末させようっていうのも、なんかもう……もう……!〉
〈やが灰のファンである:テイマーとしてモンスターとも絆を紡いできたソラちゃんを応援してきた身からすると、いくらコクトーがアンデッドとはいえ、こんな扱いには許容しがたいものがあります……〉
〈やがてファンになる:夜叉姫さん……あんた、人の心とか、ないんすか……?〉
やっさんはもの凄く納得がいかなそうな表情をしていたけれど、すでにコメント欄が完全にコクトー擁護の流れになっているのを見ては、彼女としても振り上げた拳を下ろすしかなかった。
——そもそも私だって、今日一日でも何度も助けられたコクトーには感謝しているので、そうする他ないのだとしても、出来ればもっと報われる形でお別れをしたかった。
というか……一応は、お別れしないで済む方法もあるはずなのだけれど。
——ちょうど一つ、枠も増えているのだし……。
でも、やっさんがこの調子だと、それを言うのも憚られる……けれど、私は後悔しない生き方をすると決めているから……ここで遠慮はしない。
「あの、やっさん……それなら、コクトーさんを私の新しい使役獣として迎え入れるというのは——」
「いやいやいやいやいや無い無い無い無い無い無い無い無い! それは無い! ソラに相応しい最高のモンスターは、ボクがすでにバッチリ見繕ってるし! こんなザコカスアンデッドなんて絶っっ対ダメダメダメダメダメダメダメダメッッッ!! ……絶対ダメ!」
「そ、そこまでですか……」
「ちょ、コメント! その手があったか! って盛り上がるんじゃないよ! いくら盛り上がろうが無理なもんは無理だし、決定は決定! もはや覆らないからね! ソラにはもっと相応しい使役獣がいるし! コクトーはここで終わりったら終わり! 残念無念! さようなら!」
「や、やっさん……」
「………………ああ分かったよ。それじゃ、こうしよう。
ひとまず明日——明日の『防具集め』までは、コクトーをこのまま続投してあげるよ。——は? ダジャレじゃないし! 余計なツッコミ今は要らないっての!
……ん、おほん。それで、明日の防具集めも終わったら、次はいよいよ、新たな使役獣になるモンスターのところに行くわけだけれど……
そこで、だよ。そこで——ボクのイチオシである新たなテイモン候補が明かされてからも、それでもなお、コクトーの方がいいってみんなが言うんだったら——
つまり、ボクの出した案が、コクトーの人気よりも劣るというのなら……その時はボクも折れて、コクトーを正式にソラのテイモンとして迎え入れることを認めようじゃないの……ま、そんなことにはならないだろうけれどね!」
反発するコメント欄に対して、やっさんはそう自信満々に言い切って……そのまま、この日の配信は終了したのだった。




