第14話 ⑫——「まさかそっち(背後)から来るとか思わないじゃんね??」
強力な不死種モンスターの代表格である吸血鬼——のバージョン(?)なのだと嘯くやっさんの爆弾発言により、にわかにざわめきだすコメント欄を尻目に……
いまやサクサク進行の鬼と化しているやっさんは、説明を求めるコメント欄のみんなを華麗に無視して、さっさと次なる目的地へと向かう。
「はいじゃあ、またちょっと暗転するからね……せーのっ!」
先ほどと同じ要領で、ジャンプ(映像オフ)→転移→ジャンプ(映像オン)の三段活用(?)にて、またまた別の場所に一瞬でやってきた私たち。
〈やが灰のファンである:ついた! うわぁマジでまた別の場所にきてるぅ!!?〉
〈やがてファンになる:薄暗いけど、ここはモノクロじゃないですね。ちゃんと光がある……ってか、何すかアレ、あの光ってる——ってか、燃えてる赤い川みたいなのは……え、もしかして溶岩?〉
「はい、到着〜。えっとねぇ、さっそく説明してあげるとぉ〜、ここはね、いわゆる『地下墓エリア』って呼ばれてるゾーンの、そのまた外れの方にあたる場所だね」
先ほどの砦エリアに続いてやってきたここは、やっさんの言う通りに、〈不死ダン中層深域〉にて、地下墓もしくは『地下墓エリア』と呼ばれている場所だった。
基本的にはダンジョンによくある石壁が続く通路形態のゾーンなのだけれど、その特徴としては、通常と比べてもかなり複雑に入り組んで迷路じみた構造をしているというところで、それに加えて罠も大量にあり、果ては溶岩が流れていたり毒霧が発生しているような場所もあるという、まごうことなき高難度エリアだった。
「えー、この現在地は見た通り、周りを大きく溶岩に囲まれているから、普通ならなかなか到達できない場所なんだよね。
というか本来ここは、ここをグルッと囲ってる溶岩帯の向こう側にある正規のルートを通ってる時に、チラッと見えるだけの場所なんだけれど……よく見たらほら——ここに宝箱があるんだけど——これが向こうからも見えるわけ。そうなると当然、どうにかしてここに来たいって思うようになるし、宝箱がある以上は、ここに行く方法もあるはずだって考えるんだよね。
でも結論を言ってしまうと……誠に残念ながら、この離れ小島の存在は、ほぼほぼ罠でしかないんだよ。
なんせ、ここにある宝箱は中身空だし、それに加えて——こっちからは丸見えだけど——あそこに潜んでる骸骨が、コソコソ弩で撃ってくるからね。
前にも説明したけど、このダンジョンって『領域効果』として【飛行禁止】と【上昇負荷】がどこでも働いてるから……自力で溶岩を越えるのって、実際のところ、かなり難しいんだよね。
——壁や天井を伝っていこうにも、そっちは罠だらけだし、モタモタ進んでたら、ここの伏兵によって狙い撃ちにされるだけだからね……。
だけど宝箱があるからには、何かしら渡るためのギミックとかがあるはずだって、探索者なら考えるんだけれど……そんなものは無いんだよねぇ。だって罠なんだもん。仕掛けを探してウロウロしている探索者を、ここからアイツがひたすら撃ちまくるという嫌がらせのためだけにあるようなエリアだからね、ここは……。
まあ、それでも一つだけ、ここの存在に価値を見出すなら……それこそが、アイツの持ってる弩なんだよね。
そう……あれこそがまさに、希少な能力である【自動照準】を宿している弩なのさ。
というわけでソラ……これまでにここを見つけたすべての探索者の想いを込めて——やっちゃいな」
「わ、分かりました……」
何やら実感がこもってそうなやっさんの言葉に頷きつつ、私はソロリソロリと件の骸骨へと近寄っていく。
——事前に聞いた話によれば、この骸骨は前ばかり見ていて後ろにはまったく注意を払っていないから、コッソリ近寄れば特に隠密のスキルとかなくても気が付かれないという話だった。
あまり近寄り過ぎてもアレなので、『七矢の弩』で十分に狙える距離まできたところで、私は装填動作を行う。
さらには、それと同時に、『七矢の弩』の武技を行使して、今回使う魔弾を生成していく。
『“七矢魔弾——二矢結合——黒雷鋼弾”』
【黄雷光弾】と【黒鋼重弾】の組み合わせで……単発で正確に狙う場合の威力としては最上位となる、黄金色の雷を纏う黒くて硬質な重量のある魔弾が生み出される。
——手に入れたばかりでまだ慣れていないのに加えて、本来は応用技である二矢結合を使っているので、上手く生成するのに時間がかかったけれど……なんとか成功させられた。
——さらに追加で、レアドロップ上昇の消費アイテムである〈幸運の黒星〉も忘れずに使用しておいて……
後はこのまま、可能な限り正確に狙いつつも、微調整は【自動追尾】に任せて放つだけだ。
〈ニートの無職ん:いや、だからよ、普通には来れない場所なら、お前はどうやってやってきたんだよ定期〉
〈やが灰のファンである:うおぉさっきも使ってたけど、これめっちゃ強いんだよなぁ! 新武器クロスレインボウいいじゃん!〉
〈流浪の探索者:あー、つまりはアレか……ダンジョンでは稀によくある、何かありそうだけど何も無い謎のエリアってヤツか。本来はコレ、ただの罠ゾーンでしかないんやけど、罠の一部である敵のドロップがレア武器だから、わざわざ来てみたってことかいな? まあ、普通はそもそも、ここまで来ること自体、ほぼ不可能なハズなんやけど……それについては、うん、夜の字は普通じゃないからな!笑〉
〈やがてファンになる:なんやろこの構図、どっかで見たことあると思ったら……これあれだ、FPS系のゲームでスナイパーの裏を取った場面だわww〉
スゥッ——と息を吸い、少し吐いたところで息を止めて……トリガーを引く。
バチュン——ズガッッッ!!!
追尾補正の効果もあり、狙い通り相手の頭部に命中した黒雷鋼弾は、一撃でその骸骨射手の頭部を吹き飛ばし……後には魔石と、一つの弩だけが残った。
「お見事——! それじゃさっそく、この弩からも能力を引っこ抜いて追加しちゃおーね」
「は、はい。よろしくお願いします!」
やっさんはまたまた大きな釜を取り出して、武器の合成をこの場でやり始める。
〈探索兵長:また出ましたね……これはおそらく、錬成釜系の魔道具だと思いますが……まるで見たことがないデザインなんですよね〉
〈やが灰のファンである:てか素朴な疑問なんすけど、武器の能力とかって、そんな簡単にポンポン付け替えたりできるもんなんすか?〉
〈探索兵長:探索者協会でも、一応は武器合成などのサービスを行ってはいますが……錬成釜自体が希少な魔道具ですし、これを使う人の適性というか加工の実力によって成功率が左右されるので……普通は専門の職人の職員がやるんですけどね。まあ、それでも失敗は日常茶飯事なので、色々とトラブルが尽きないんですが〉
そうして何度かボフン——としたら……結局は一度も失敗することなく、やっさんは私の『七矢の弩』に新たに【自動照準】を追加してみせた。
「はい、できたっと。ほい、どうぞ」
新たな能力を宿して、さらに強化された『七矢の弩』を受け取った私に、やっさんは続けてこう言う。
「さて、【自動照準】が追加されたから、これで一気に命中率が向上するはずだよ。まあ、そうは言っても、すでに使い慣れてた【自動追尾】とは違って、こっちはまだ慣れてないだろうから……そうだね、今のうちに、ちょっと試しておく?」
「そうですね……そうさせてもらえると助かります」
「よしきた。とはいえ……適当に撃つだけじゃ、なかなか感覚も掴めないよね。となると——うーん、的が欲しいところだね。それこそ、動く的の一つでもあればいいんだけれど……」
そういうやっさんがチラリと目線を向けていたのは、まさかの黒套さんの方であり……目が合ったらしい彼は、盛大に慌てた様子になる。
「……まあ、アイツにはまだ、次の戦いでも出番があるから——仕方ないか、ここはボクが一肌脱ぐよ」
「え?」
「じゃあソラ、いまからボクが適当にその辺をウロチョロしてみるから、ボクを狙って色々撃ってみなよ?」
「えぇっ?! で、でも……」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと避けたり防いだりするからさ。この際だし、存分に試してみなさいな」
「……わ、分かりました。やっさんがそういうなら……私はやっさんを信じて、ここは胸を借りさせていただきます」
私の心情としてはともかく……やっさんの実力なら確かに、私程度の攻撃なんてどうとでもあしらってしまえるだろうから、万が一の心配もないだろうし……しっかり試しておこう。
——なんせここの次に行く戦場では、なかなか激しい戦いが待っているらしいし……。
そう決心した私は、離れた場所でウロチョロしているやっさんを狙って、強化された『七矢の弩』を思いっきり試し撃ちしていく。
〈ニートの無職ん:とばっちり受けそうになったコクトーがめっちゃギョッとしてて草ww アンデッドすら怯えさせるとか相当だろw〉
〈もっこり助兵衛:一肌脱ぐ?! 胸を借りる?!? ちょっと興奮してきました……!〉
〈ツッコミ番長:おまどこに反応してんw まあ、ある意味では興奮する絵面になりそうだけどな……誰かさんの期待とは別の意味で笑〉
〈やが灰のファンである:いや夜叉姫さんすっっげーーー?!? 飛んでくる魔弾を完全回避もしくは双剣で弾いてノーダメ余裕じゃないっすかぁ〜〜〜!!?〉
〈やがてファンになる:いやソラちゃんも大概容赦なくて草ww 一通り試しときたいのは分かるけど、その紫のヤツとか何すかそれww地面溶けてんすけどwwマジ怖ぇwww ……しかし真に恐ろしいのは、それらをすべて余裕で完璧に凌いでいる夜叉姫さんの実力やでぇ……〉
〈流浪の探索者:明らかに命中精度ってか、やが灰のクロスボウの練度が、目に見えて上達しているように見える……なるほど、これがオートエイムの効果ってワケか。アビリティ一つでこれだけ変わるなら、そりゃあクロスボウ初心者のやが灰にはもってこいやろなぁ〉
純粋に新たな能力を試すために、武技は使わずに普通の矢を装填して放ったり……あるいは、武技を存分に使って最大限に武器の持つ性能を引き出してみたり……
——む、私も昔は弩を使っていた時代もあったんだけれどな……だからこそ、やっさんも私の武器としてコレを選んでくれたんだけれど……そうは見えない腕前ってことか、はは……。
そうしてお試しすること、しばらくして……
「——ふむ、だいぶ使い慣れたみたいだね。これでバッチリかな?」
「は、はい! お陰様でいい感じに慣らせました。ありがとうございます」
「いいってことよ。それじゃいよいよ、次の——今日最後の目標へと向かうとしようか」
一通り使い倒したことで、すっかり『七矢の弩』や【自動照準】に慣れることができた私は、いよいよ新たな武器が自分の力になってきたような実感を胸に、次なる本日最後の戦場へと向かうのだった。




