第14話 ⑪——「イメチェン(見た目だけとは言ってない)効果はバツグンだ!」
「————……ここからは、お口にチャックの抜き足差し足忍び足で行くよ。さてと……それじゃ、ソラの準備はオッケー?」
やっさんにそう確認された私は、ウィルに合図して、その魔法を使ってもらう。
『“静粛なる隠影の帳”』
そして、ウィルと私の二人まとめて姿と音を隠す魔法を使ってもらってから、やっさんには「オッケーです」と小声で伝える。
「よし。ここからは隠密潜入モードになるから、他の使役獣たちとドローンカメラは置いていくよ。
ボクらの方の様子は、〝照面鏡〟の方でも暗視モードの一人称視点映像を別に出すから、そっちを観ててね。では……ドロン!」
その掛け声を皮切りに、私たちはこの〝砦〟の中を、目的の場所へと静かに進んでいく……——。
この場所は、完全に日が沈んだ夜のフィールドにある砦のエリアだった。
ここは本来なら、真っ暗闇の中で、砦に立てこもる大量の骸骨兵士たちと攻城戦さながらの大激闘を繰り広げることになる場所なのだという。
真夜中の常闇の砦という——夜目が効き、夜に強くなるアンデッドを相手にするには、ひたすらに不利な時間と場所ゆえに、ここはまごうことなき高難易度エリアなのである……普通なら。
しかし、今の私たちは、その砦の裏手側にひっそりと転移してきていたので、まだ誰にも気が付かれずにこっそりと潜入することが出来ていた。
〈やが灰のファンである:うおおっ、ナイトヴィジョンでモノクロの一人称視点潜入映像、めっちゃ迫力あるぅ……っ!!〉
〈やが灰のファンである:隠密の魔法使ったソラちゃんはマジで夜叉姫さんの方の映像にも映ってないし、バッチリ隠れてるのは分かるんだけど……当の夜叉姫さんは何の隠密もしてなくないですか????〉
〈ニートの無職ん:おいおい、隠れる気ゼロの誰かさんとコクトーとかいうのは普通に堂々と歩いてんのに……なんでスケルトンに襲われないんですかねぇ??〉
暗闇の中でこそ真価を発揮する隠密の魔法が有効に働いているので、今のところは見つかる気配はない。
——本来なら、まったく周囲が見えない暗さだけれど、〝照面鏡〟は撮影だけじゃなく拡張視界を暗視モードで補正する機能もあるので、それを使えば私もどうにか問題なく進むことが出来ていた。
とはいえ、隠密潜入なんて初めての経験である私は、いくら魔法で姿を隠していようとも、次の瞬間には——周囲を警戒するように徘徊している骸骨兵たちに見つかってしまうのではないかとビクビクしていた。
そんな私を助けてくれたのは、意外なことに黒套さんだった。
先導するようにズンズンと進んでいくやっさんの後ろに控えている彼は、そのさらに後ろからついていく私を気にかけるように、時折りこちらに視線を向けてきていた。
——元から私の存在を知っているからなのか……どうやら彼には、隠密状態の私の所在がなんとなく分かるようだ。
そんな彼は、私が他の骸骨兵に見つかりそうになるような危ない場面で、先んじて動いてアクシデントを未然に防いでくれているフシがあった。
おわっ——危ない! ……今もそうだ、このまま行くと曲がり角でバッタリ出くわすところだった骸骨兵の注意を黒套さんが逸らしてくれたおかげで、出会い頭にぶつからずに済んだ。
というか、私も気をつけないと……次からは、曲がり角はちゃんと距離を取って確認してから曲がろう。
その後も何度かヒヤリとする瞬間があったのだけれど……そのたびに黒套さんが私を助けてくれたので、どうにか事なきを得ることができていた。
〈流浪の探索者:このコクトーってヤツ、なかなか気が利くやん笑 アンデッドなのにw〉
〈ニートの無職ん:操ってるアンデッドの方が、主人より何倍も有能なの普通に草〉
〈アンチ二号:てかヤシャコが無能過ぎるでしょ。。。あんなバカみたいに自分一人だけスイスイ進んでさぁ、ちょっとはソラのことも気にしなさいっての〉
〈やが灰のファンである:なんだろう、ソラちゃんを気にかけて、さりげなく助ける紳士なアンデッドのことが、だんだん頼もしく見えてきたかも……笑〉
そんな黒套さんの地味だけど確かな活躍については——私の隠密行動が下手くそなせいで、何度もヒヤリハットを起こしていたのもあり——いよいよリスナーのみんなにも認められるほどになっていた。
とまあ、そんな感じで、黒套さんの存在にも大いに助けられたことで……
結局、そのま誰にも見つかることなく……
私は、砦の一角に単独で佇んでいた、他より明らかに強そうな骸骨射手を——さっき手に入れたばかりの新武器を、さっそく使って——不意打ちの一撃で仕留めることに成功したのだった。
ちなみに……ここでも黒套さんは、私が攻撃しやすいように敵の注意を引いてくれたので、すごく助かった。
なんなら、注意を引くその動作の中で、ついでとばかりに『七矢の弩』の使い方のお手本すら見せてくれていて……それがあったからこそ私も、初めての武器で強敵を討ち取るなんて離れ業を成功させられたような気がするくらいだった。
そして、倒す前にはちゃんと、やっさんから事前に渡されていた「レアドロップ率上昇アイテム」なるものを使っていたので……
お目当ての弩——『白雲の弩』も一発でドロップさせられた。
そうして必要なものを回収できたら、もはや用は済んだとばかりに、私たちはそそくさと撤収していく。
そして帰りも——またまた黒套さんの助けを借りて——なんとか誰にも見つかることなく元の場所に戻ってくることができたのだった。
「——ふぅ……やっと戻ってこれたよ。さてと、これにてミッション達成だね! それじゃ……さっそく次の場所に行っちゃおうか。そう、さっきも使った、例の〝アレ〟でね」
〈アンチ太郎:おい待て待て、ようやく喋れるようになったんだから、敵の前を平気で堂々と歩いても襲われなかった理由を説明してから次にいけ〉
〈アンチ二号:そうよそうよ! あまりにも自然だったからうっかり忘れるところだったけど、何でアンタとコクトーはフツーに歩いてんのに襲われないのよ?!〉
〈流浪の探索者:いやまあ、コクトーの方については、一応はまだ分かるで? アイツは元々敵のアンデッドを操ってるだけやから、こっちから他のスケルトンたちを襲わせない限りは敵対判定にならないんかな、みたいなね? でも、まあ……夜の字については、普通にまったく意味が分からんのよな???〉
〈やがてファンになる:いやホント、他にも色々と気になることあるけど、そこもめっちゃ気になるっス! ちょ、ソラちゃんからもやっさんに訊いておくれよっ!?〉
「あの、やっさん……どうもみなさんが、こう言ってますけど……?」
私がそう水を向けると、本気で説明無しでそのまま次に行こうとしていたやっさんが、やれやれといった感じでカメラに向き直った。
「んもう、そうやって何でもかんでも訊いてこられても……ってかさ、ヒントはすでにあるんだし、ちょっと考えれば訊くまでもなく分かると思うんだけどなぁ? まあでも、中にはちゃんと分かってるヤツもいるみたいだけれどね。——さすがじゃん、流の字。まさにそれが答えだよ」
〈流浪の探索者:お、おう……そ、そうだったのか……だ、だよな?〉
〈ニートの無職ん:おいこれ正解者本人も解ってないぞ、ちゃんと解説しろ〉
「えぇ? いや、だからぁ……答えはもう出てるでしょって。ボクとコクトーが襲われないのは、相手と同じアンデッドだからだよ。こっちから攻撃しない限りは敵だと思われないから、何もしなければスルーされるのさ」
〈探索兵長:え、今、コクトーさんだけじゃなくて、〝自分も〟って言いましたか、姫……??〉
「やれやれ……今日のボクが、イメチェンして何バージョンになってるのか——まさか、もう忘れたとは言わないよね?」
そう言って——金髪紅眼の吸血鬼バージョンのやっさんは、その極上の美貌に不敵な笑みを浮かべるのだった。




