第14話 ⑧——「派手な援護と、静かなる決着」
やっさんに連れられてやってきた、隠しエリアの闘技場にて——
段階を経るごとに強化されていく幽骸骨集団の襲撃を、第二陣まで何とか退けた私たち。
その成果に、確かな手応えを感じつつも……
同時に私は——かつてここまで、自分自身が戦闘にガッツリと参加して、魔力が尽きそうになるほどに必死に戦い抜いたことがあっただろうか……と、これまでの活動の記憶に思いを馳せずにはいられなかった。
だって、自分のことだから、私が一番解っている……
今までの私は、ずっと使役獣たちの後ろに隠れて、自分ではろくに戦いに参加していなかった——ということは……。
私自身、自分の弱さを理由にして、今まではずっと使役獣任せにやってきたという自覚はある。
しかしそれでは、今回はどうにかなっても、いずれまた行き詰まることになる——と、事前の打ち合わせの時には、やっさんにそう言われてしまった。
私のパーティーで今一番伸びしろがあり、鍛えたら一番大きな効果が出るのは、他でもない〝私〟なのだと——これまたやっさんに言われた時には、ハッとさせられた。
テイマーだから、大した装備も持ってないから……だからしょうがない。そんな風に考えていた自分が情けなくて、恥ずかしかった。
それでも——そんな私に呆れるでも、見下げたやつだと罵るでもなく、むしろ励まして応援してくれたやっさんに報いるためにも……弱音なんて吐いていられない——!
そう気合いを入れ直した私は、続く第三陣にも食らいつき、さらには第四陣すらなんとか乗り越えてみせた。
しかし、その頃には……初回からひたすら攻撃し続けた私とりんちゃんはもちろん、満を持して第三陣から攻撃に参加したラマンダや、防御だけでなく迎撃にも加わるようになったウェンディに、陣地を維持しながら少しずつ拡張し続けたハナちゃんと、敵を撹乱してくれて大いに助けられたウィルも含めた——戦闘にはほぼ参加していないにゃんたろーを除く——全員が、もはや精魂尽き果ててしまっていた。
全体的に数も増え、所持している武器の性能や身体能力も上がっていき、しまいには魔法を使う個体すら参戦するようになった敵軍を相手にして、どうにか無事に切り抜けられたことには自分でもよくやったものだと思うけれど……さすがにもう限界だった。
「す、すみません、やっさん……ハァっ……どうやら、ここまでのようです……はぁ……」
「いや、よく頑張ったよ。まさか第四陣まで自力で倒し切るとは……予想してなかったよ。想像以上に健闘したね」
「あ、ありがとうございます……」
「あと残りは、第五陣と……それから最後にボス格が出て終わりだね。この先はボクとアイツでやるから、ソラは休んでおいて。——はいこれ、マナポーションと体力回復薬ね」
「重ね重ね、すみません……いただきます」
最後の力を振り絞ってハナちゃんが造ってくれた砂の階段を使って登り上がった観客席にて……へたり込む私たち。
そんな私たちの前には、護衛するように黒マントのスケルトンが立っており……闘技場の砂の上にはただ一人、やっさんだけが残されていた。
「さーて……ここからはエキシビジョンマッチだよ。リスナーのみんなは、ポップコーン片手に大いに盛り上がってちょうだいね!」
そんな軽口を叩くやっさんの前に、いよいよ第五陣のスケルトン軍団が飛び出してきた。
『“武装召喚——双十字の儀礼剣”』
それを迎え討つやっさんの手には、いつものハルバードとは違い、二本の美麗な細長剣が光とともに現れる。
「不浄を洗い清めし、崇高にして聖なる光よ……いまこそ我が剣に宿り、呪われし不死を黄泉へと還す御力を授けたまえ——〝聖なる御力の付与〟ッッ!!」
そう高らかに唱える言葉に合わせて、やっさんの両手の剣が聖なる輝きを発揮する……!
『“聖属性の付与”』
自らが最も苦手とする聖属性の発する光を見ては、不死者たちは狼狽えるようにしばし、その動きを止めてしまう……が、それも一瞬のことで、すぐに気を取り直しては、むしろ忌々しい輝きを汚してやらんとばかりに勢い込んで襲いかかってゆく。
地を震わせながら突撃してくる多数の群なす圧力にもまるで怯むことなく、やっさんは泰然としてその場で待ち構える。
そしていよいよ、彼我の間にある距離が食い尽くされ、戦いの幕が上がると……
それから始まったのは、まさに一方的な蹂躙劇だった。
もはや人一人分の隙間もないほどに緻密なる連携でもって襲いかかる骸骨騎士の只中を、やっさんはまるで熟練の曲芸師もかくやという卓越した動きでもって間隙を縫っていき——まさに電光石火の素早さと一騎当千の強さを体現する彼女が通り抜けてゆく軌跡には、聖浄なる光を放つ二本の切先が猛々しくも華麗に舞い踊る……!
『“七矢魔弾——白光線弾——光線駆動”』
大柄の骸骨騎士たちに完全に囲まれた中心部にいるやっさんの姿は、角度のついた観客席からでも埋もれてしまってよく見えず……私は真上からやっさんを撮影している彼女のドローンカメラからの映像を〝照面鏡〟で確認することで、ようやく戦いの様子を何とか確認できていた。
——そんな私を尻目に、黒い外套の懐からおもむろに厳つい弩を取り出した彼は、真上付近を狙って白く光る光線を引き連れた魔弾を撃ち込むと、弩に繋がるワイヤーを一気に縮めることで、しっかりと弩を保持する自分ごとはるか上方へと舞い上がっていった。
やっさんの姿が捉えられずに困っているのは私だけではなく、骸骨騎士の後ろに控える骸骨射手たちも同様であり……各々が手に持つ弓や弩、はたまた魔法の杖を構えようにも味方に阻まれて狙えず、しばらくの間オロオロと滑稽な姿を晒す。
しかしいつしか、敵は目の前の双剣使いだけではなくあそこにもいるぞと気がついたらしく——そこからは一斉に、こちらに向かって得物を構え出す。
『“七矢魔弾——三矢一体——水雷爆弾”』
自分に向けられる多数の凶器に、思わず萎縮しかける私だったけれど……そんな怯えた内心ごと吹き飛ばすかのように、その時——上から降ってきた極彩色の閃光が、敵射手集団の中心に着弾し、轟音と大爆発を巻き起こした。
ピュン——ドッッッカァァァァァァンンッッッッ!!!!!
〈ニートの無職ん:おいおいおい、アイツなんかやってんぞ、と思ったら……すんげぇ大爆発してて草〉
〈やが灰のファンである:ちょ待って待ってアイツめっちゃ強くね?!?〉
〈流浪の探索者:あ、やっぱり……要はアイツが最初から敵だったら、これまでにも〝コレ〟がずっと上から降ってきてたってワケやな……えっと、それなんて難易度ベリーハード?笑〉
その様子を私のカメラで追っていたので、リスナーからも驚愕の声が上がっていた。
確かに……たった一発の攻撃で、後衛の射手たちはほとんど半壊していた。
中心付近の半分は即死で、周囲の吹き飛んだ残りの中には、かろうじて生き残っているものたちもいたが……
『“七矢魔弾——赤炎燃弾”』
不死種にとっては弱点となる赤き炎の魔弾による連射を受けては、次々にトドメを刺されて消えていき、アッサリと全滅してしまうのだった。
「ふう、終わったか……さて、それで——おい黒いの! ソラを守れって言ってたけど、こらまた派手にやったなぁオイ! まあいいけど! でもせっかくのボクの見せ場が爆発で吹っ飛んじゃったから、次のボスは手出し無用だぞっ!」
結局は一人ですべての骸骨騎士たちを倒してしまった夜さんがそう声を上げると、まるで了承の意を示すように、〝黒いの〟と呼ばれた彼は私の目の前に飛び降りてきて着地した。
「まあ、時間をかけるもんでもないし……最後はビシッと決めて終わらせるかな」
いよいよ現れた最後のボス級アンデッドである、巨大な骨の馬に乗った全身甲冑の骸骨騎士を前にしても、やっさんはまるで動じない。
大槍と大楯を左右に構えて勢いよく突進してくるボスに向かって、やっさんも走っていくと、交差する瞬間に飛びかかり——
「——〝交叉・双輪・夜叉車〟ッッ!!」
キキキキィィン——ッッ!!!
やっさんは、自らの名を体現する、その技を放つ——!
そして、高速ですれ違ったお互いが、距離を置いて立ち止まった時には……
——グラリ、ドサッ……
乗っている馬も含めた二つの首がまとめて飛ばされたボスが、飛んだ首すら真っ二つにされて、そのまま倒れると同時に塵になっていったのだった。




