第14話 ⑥——「サクサク進行からの、新たなる魔眼!」
「さて……それじゃさっそく、探索を始めるワケだけど、今回に関しては事前に段取りをバッチリ組んでるからぁ——実は、もう目的地についてんだよね。というわけで……はいっ、今回の目標である最初の武器が手に入るのは、ココ!」
そう言ってやっさんが指し示したのは、一見すると何の変哲もない——ダンジョンにはよくあるタイプの——石の壁だった。
「えー、実はこの部分の壁が〝隠し通路〟に繋がってるから、ここをぶっ壊すことで、お宝部屋までのルートが開通するのだけれど……」
「にゃんですと!? それはマジにゃんですかにゃ? にゃが輩はゼンゼン気がつかにゃかったですにゃ」
「そうかい? じゃあ、ちょっとここ調べてごらんよ。こういう隠し通路は他のダンジョンにもよくあるから、いい勉強になると思うよ」
「ンゴロニャーン!」
察知能力に優れる斥候役のにゃんたろーでもフツーにスルーしてしまうのだから、さすが隠し通路というだけはある。
〈ニートの無職ん:隠し通路にも驚くが……それよりも、まずソイツは何なんだよ?? その——普通より一回りデカくて二足歩行してるネコが、さも当たり前みたいに人語を流暢に喋っていることについての説明は???〉
「あ、そうか、みんなの詳しい紹介もまだだったね。えっと、この子の名前は〝にゃんたろー〟。猫妖精の斥候役で————」
壁を詳しく調べることで、ようやく隠された通路の気配を察知して驚いているにゃんたろーを尻目に、私はやっさんのリスナーに向けて自分の使役獣たちを紹介していく。
——いっけない……コラボなんて私も初めてだから、ついつい、いつもみたいにそのまま始めちゃった。
そうだよね……やっさんのリスナーは私の今までの配信を観ているとは限らないのだから、初めはちゃんと説明しなきゃだよね。
「そうそう……コツは魔力の〝奥行き〟を感じ取ることだね。そうすれば見つけやすいよ」
「ははぁ、勉強になりますにゃ」
「うんうん……まあ、そうやって見つけられたとしても、この壁って普通にめっちゃ硬いから、そうそう壊せないんだけれどね……ってことで、ソラも一回試してみる?」
「それなら……ラマンダ、お願いするね」
「——シャー!」
ウチで一番の火力担当の攻撃で、はたして壊せるのか——
結果は……
『“激火炎弾”』
ドオオオォォォンンッッッ!!!
一番威力の高い技を試したけれど……少々焦げついただけで、壁はほぼ無傷だった。
「うん……ダメージは入ってるから、あと10発くらい撃てば壊れそうだね」
「それは……壁を壊すだけでラマンダの魔力が尽きちゃいそうですね」
「まあ、時間もかかるし、今回はボクがやっちゃうね」
そう言ってやっさんが「えいっ」とパンチしたら——ドゴォン!! と壁が一発で粉砕され、その先から本当に通路が現れる。
〈やが灰のファンである:おおっ! マジで隠し通路出てきた!〉
〈探索兵長:これってなかなか貴重な情報だと思うんですが……そもそも姫はどうやってここのことを知ったんでしょうね〉
「ふふっ……秘密の多い女は、たくさんの秘密を知っているものなのさ。それじゃ行こうか」
秘密主義のやっさんは質問にもはぐらかして答えると、そのままズンズンと隠し通路の先へ進んでいく。
——私も疑問に思って事前打ち合わせの時に同じことを訊いたら、その時は普通に答えてくれたんだけれど……でもアレも、結局は余計に疑問が増えただけだったなぁ。
薄暗い通路を、ラマンダが出してくれた炎の灯りを頼りに進んだ先には小部屋があり、その中心には宝箱が鎮座していた。
〈やが灰のファンである:お宝だ! なるほど、この中にソラちゃんの新装備が!? 中身は何だろ〜? うわぁ楽しみっ!〉
「おっと……申し訳ないけど、この宝箱は開けないよ。中身入ってない罠箱だからね」
アッサリとそう告げたやっさんは、その言葉通り、中心の宝箱をスルーして後ろ側の壁に周り込み、そこでにゃんたろーに話しかける。
「にゃが輩くん、分かる? ここに隠された仕掛けがあるの」
「……! ほんとだにゃ、ほんにゃら、これが本命ってワケにゃんですにゃ?」
「そうそう、これを——こうすると……」
ガコン!
やっさんが仕掛けを動かしたことで、部屋の床の一部が開いて、下へと続く梯子が現れた。
「この先に、本命の宝箱が出てくる玄室があるよ。まあ、そこは半分トラップルームというか、出てくる敵を倒さないと報酬が得られないタイプの部屋なんだけれどね」
〈ニートの無職ん:いやめっちゃ雑に謎解きしてて草〉
「んーまあ、今回はソラの強化育成がメインだから、その辺はサクサク進めていくつもりなんだよね。そりゃあね、自分で探索する力を身につけるのも必要だけれど、それはまた別の機会にというか、一通り装備を揃えた後でもいいかなってね……とにかく、今はテンポ重視でいくよ」
やっさんなりに、その辺も色々と考えてくれているのは私も感じていた。
あまりにもやっさんにすべてを任せていたら、私自身も成長しないし、観ている視聴者からも、おんぶにだっこだなんだとブーイングされることになる。
なので今回、やっさんは「助言や案内はするけど、基本的に手は貸さない」の方針でいくと言っていた。
〈やがてファンになる:へぇ、今回はそういう方針なんすねぇ。まあ、強い人に頼りまくってレベル上げするのってあんまいい顔されないし、それくらいのバランスがいい気がする〉
〈探索兵長:そうですね、レベルの高いメンバーが手を貸し過ぎても強くなれないので、それがベストだと思います〉
〈やが灰のファンである:なるほどなるほど、了解です。あ、それと、その話とは関係ないけど……ハシゴの登り降りとか苦手そうなハナちゃんをウェンディが下から支えてあげてるの、てぇてぇっす笑〉
という感じのことも、長い梯子を降りながら軽く説明していたら……とうとう目的の部屋にたどり着いた。
「さーて、それじゃ、こっからが本番だよ。そうそう、さっきはボクのスタンスについて、ああ言ったけれど……ここでの戦いについては、正直、今のソラの実力ではまだ厳しいんだよね。だから今回に関しては、例外的にボクもある程度は加勢するよ——それも、他でもない、この〝魔眼〟を使ってね……!」
そう言うやっさんを先頭に、私たちがその部屋に全員入ったところで、背後の入り口が閉まる。
そこは、直径30メートルくらいの円形の舞台を擁する闘技場のようなエリアだった。
砂地の地面を取り囲む高い壁の上には勾配のついた観客席が広がり——それも含めると、全体の広さは直径50メートルくらいになるだろうか。
しかし、何より真っ先に目を引くのは、上を見上げた先の天井部から、ぐるりを囲む円形の壁にかけて広がっている——まるで群生するキノコか何かのように、壁や天井に、逆さや横向きになって展開している——古代の遺跡群みたいな半壊している建物たちだった。
と、事前の説明を聞いていた私も、実物を見て圧倒されていたら……
ヒュン——と視界をかすめる影があり……
慌ててそちらに視線を向けたら——どこぞから飛び込んできて——闘技場の中心に現れていたのは、丈の長いボロボロの黒い外套に全身を包み隠していながらも、歴戦の風格を漂わせている不死種だった。
その、明らかに自分より強いと分かる威容を放つ相手を前にして、私は半ば無意識のうちに、息を呑んで体をこわばらせてしまう……けれど。
私の前に立つやっさんはまるで平気な様子で、むしろ待ってましたとばかりに口を開いて、その詠唱を開始するのだった。
「不滅の呪いに囚われし、哀れなる白き傀儡よ……すべての不死なる者の主、夜を統べし王が告ぐ……我が双眸が宿す異能にひれ伏し、今こそ永遠の忠誠を誓うがいい……紅魔眼光——〝夜王の瞳〟ッッ!」
すると、やっさんの両眼から、強大なる力が込められた紅の魔力が迸り——
『“夜王の瞳”』
眼前の幽骸骨を、鋭く捉えて射抜く——。




