第14話 ④——「ハァー面倒くさい、面倒くさい、面倒くさいったら面倒くさい……っ!」
親身に話を聞いてくれるやっさんに、私は自分の現状を余すところなく打ち明けることを決意し、重い口を開いた。
「その……私、実は最近、探索者としても配信者としても、行き詰まりを感じていまして……」
「ん、それって……」
「原因はハッキリしてるんです。でも、色々と足掻いてはみたんですが、自分ではもうどうしようもなくて……————」
大きな諦念と、わずかな期待を胸に……私は自分の今の状況をありのままに伝えていく。
少し前からすでに魔力の成長が止まってしまっており、完全に実力が頭打ちになってしまっている——という、どうしようもない現実について……。
探索者の強さとは、大雑把に言ってしまえば魔力の量と出力のことだ。
その肝心要の魔力というものは、ダンジョンの中でモンスターを倒すことで——おそらくは、何らかの方法で吸収されていくと言われており——それにより少しずつ向上し、より強力になっていく。
探索者として成長していくためには、自分と同格以上の敵と戦い続けなければならない。
——自分より弱い敵を倒しても、魔石は得られても魔力はほとんど成長しないから……
逆にいえば、同格以上の敵に挑むことをやめるか、挑んでも勝てなくなってしまった時点で、その探索者の実力は頭打ちになってしまう。
つまるところ最近の私は、同格以上の敵を倒せなくなってしまったのだ。
その原因はひとえに、この階層との相性の悪さ。
東西南北の四つに分かれているエリアの内、〈北の山〉と〈南の森〉は数段階難易度が高いので、挑むには純粋に実力が足りていない。
かといって、〈東の湖〉と〈西の沼地〉については、出てくるモンスターとの相性が悪い。
ウチのパーティーのメインアタッカーである火蜥蜴のラマンダはバリバリの炎属性なので、水属性が多く出現するエリアではどうしても苦戦してしまうのだ。
これまでにも、何度も挑戦自体はしてきた。
しかし、相性の悪さは根性ではどうしようもなく、いつも負けそうになってどうにか逃げ出すのが精々だった。
一度、〈湖〉と〈沼地〉の両方で幾度もの負けが込んだ末に、とち狂って〈北の山〉に近寄ったこともあるけれど……それも麓にすらたどり着く前に現れた飛行モンスターにバチボコにやられてしまって、這々の体で敗走してからは、絶対に近寄らないようになった。
結局……現状の手札では、どうやってもこの難局を打開する術はないとの結論に至る他なかった。
とはいえ……本来なら、そこで諦めることはなく、別の打開策を打てばいいだけの話だったのだけれど。
それが——『魔物使い』ではない、普通の探索者なら……
他のもっとマシなダンジョンをいくらでも選んで、新たな挑戦を始めることができた。
しかしテイマーは……実質的に他のダンジョンに挑むことができないという特殊な境遇にあった。
なぜなら……テイマーは、既存の使役獣たちを連れて他のダンジョンに移れないから。
至極単純かつ当たり前の理由として……ダンジョンの外にモンスターを連れ出すのは危険極まりないから、いかなる理由があろうと法律によって全面的に禁止されている——という事情で。
これが同じくモンスターを扱う存在でも『召喚師』なら、ダンジョンから出る際は魔石に戻しているから問題なく移動できるのだけれど……
テイマーは使役獣をそのまま引き連れて移動するしか方法がないので、ダンジョンから連れ出すことをほぼほぼ禁止されているのだ。
——一応は、極めて煩雑な手続きと莫大な費用と多大なる手間と膨大な時間をかけて申請すれば……ルール上は(かなり限定された範囲において)連れ出しも可能だという話らしいのだけれど……詳しく調べれば調べるほど、実際は不可能なんだと判断するしかないレベルでガッチガチに〝規制〟されていた。
とはいえ……管理する立場の行政や、脅威に対して何の対抗手段も持たない無力な一般市民の側に立って考えれば、そんな処遇にも納得せざるを得ない以上は……この件に関しては、自力でどうにかしようという気概すら湧いてこないのだった。
このダンジョンにおける、この階層にて行き詰まってしまった上に、他のダンジョンに出ることも不可能な私は、もはや完全に袋小路に立たされてしまっている……というわけだ。
あるいは……今のパーティーメンバーである使役獣たちを切り捨てれば、他のダンジョンに行くことも可能だけれど……そんなことをするくらいなら、私はここで一生無謀な挑戦を続けるだろう。
それくらいに、今となっては、私にとって〝みんな〟はかけがえのない存在になっている。
私にとってのダンジョン探索とは、この使役獣のメンバーみんなと一緒に探索することなのだから。
という……私の話を黙って最後まで聞いてくれたやっさんは、ややあっておもむろに口を開いた。
「なるほどね……状況は理解したよ。だったら、今回の配信は、『その停滞を打ち破って、さらに上を目指す!』——というのを目標にするってことで……いいんじゃない? いいかな? いいよね?」
「それはっ、もちろん! ——と、言いたいところですが……いいんですか? ……本当に? そ、そりゃあ、やっさんが協力してくれるなら、それも不可能ではないと思いますけれど……でも、それならそれで、結構な時間がかかってしまうと思いますよ?」
そう……実のところ、現状の停滞を打ち破れる打開策としては、もう一つだけ取れる方法があることにはあった。
それこそは、今まさにやっさんが提案してくれたように「誰か他の人の力を借りる」というものだ。
ただ、それに関しても……なかなか出来そうになかったからこそ、私はわりと長いこと一人でアレコレと奮闘していたんだけれどね……。
実際、「他の探索者に協力してもらう」という——それについても、いくつも問題点があった。
それは、『テイマーが抱える普遍的な問題』でもあるし、あるいは、『私個人が抱える性格的な問題』でもあったし、何より——ある種のパワーレベリングが難しいという、『ダンジョンの仕様そのものに関わる根本的な問題』でもあった。
一つ目の、『テイマーが抱える普遍的な問題』というのは……ひとえに、「テイマーは他の探索者とパーティーを組みにくい」というものだ。
その理由としては色々ある。
それこそ、真っ先に挙げられるものとしては、「モンスターと共闘するのが(心情的に)そもそも難しい」というものがある。
いくら——使役獣は使役主の命令には基本的に絶対服従なので、味方には攻撃してこないから安全だし共闘も可能だと言っても……やはり心情的には、普段から敵として戦っているモンスターと肩を並べることにどうしても抵抗が生まれるというのは仕方がない。
さらには、「テイマーがいると分配で揉めやすい」というのもある。
使役獣は召喚獣とは違い、戦うことで探索者と同じように成長して強くなっていくのだけれど……それに加えて、魔石を摂取させることで、その成長を加速させられるという強みもあった。
しかしそれは同時に、魔石の扱いに関して他の探索者と揉める要因にもなってしまう。
魔石とは探索者のメイン収入源なのだ。それを戦力強化のためとはいえ、使役獣に横から掻っ攫われてしまうとなれば、文句の一つも出るだろうことは理解できる。
それ以外にも——そもそもテイマーを分け前一人分とするのか、はたまた使役獣の分もすべてテイマーが得るのか……その辺を決めるのも難しい問題だという。
これはなにも、素材などのドロップアイテムの分配で揉めるというだけの話ではなく……それこそ、魔物を倒して得られる——俗に言う〝経験値〟である——魔力の成長についても、同時に戦う人数が増えるほど一人分の分量は減ってしまうし、それに関しては使役獣もバッチリと頭数に入っているのである。
そうなると、テイマーは配下である使役獣を含めて多くの経験値を自分一人で占領していると見做されてしまい、やはり誰も組みたがらなくなってしまうのだ。
そしてこのことは、『ダンジョンの仕様そのものに関わる根本的な問題』の方にも関わってくる。
経験値分配の法則については、同時に戦う人数以外に、もう一つ重要な点があり、それが「一緒に戦う者たちの戦力差」だった。
端的に言うと、「強い者が弱らせた強敵にトドメを刺すだけでは、ほとんど成長しない」のだ。
要は、強い味方におんぶに抱っこで戦っても「同格以上との戦い」とは見做されず、ゆえに成長もしない……というわけなのである。
それでも工夫することで——強者はほとんど手を出さずに、いざという時の保険として見守るだけに徹するなどすれば——強者と組んで成長していくことも可能ではあるけれど……それにも色々な問題がある。
というか、それだと強者の方にはほぼ何のメリットもないし、結局はそれでも普通に比べて成長効率は落ちるので、ある程度まで強化しきるにはかなり長い時間を付き合わせる必要があり……それでも協力してくれるような相手を探すとなると、そのためには大いにカネもコネも必要になってくる、という話になる。のだけれど……
それには最後に残った『私個人が抱える性格的な問題』までもが邪魔をしてくる。
なにせ私は——どうせパーティーを組みにくいテイマーなんだから、最初から一人でいい……と——探索者学校でも余裕でボッチを貫いていたようなヤツなのだ。
いまさら誰かを頼れるような性格なら、そもそもそんな選択をしていない。
根本的に人嫌いなのだ、私は。誰かと探索するよりも、使役獣と探索する方がよっぽどいい——と思うくらいには。
つまり、結論としては——テイマーという存在自体がすごく面倒くさいし、私という人間自身もかなり面倒くさいし、ダンジョンの経験値仕様も普通に面倒くさい、という……面倒くさいづくしなのだ。
だからこそ私も——もはや無駄な足掻きと分かっていても、そのままズルズルと現状維持を続けてしまっていたのである……
しかし……やっさんが協力してくれるなら、そんな停滞した現状からもついに抜け出せるのかもしれない——けれど、いや、やっぱり……恩人であるやっさんだからこそ、そんな迷惑はかけられない……
そんな私の内心での葛藤を知ってか知らずか——やっさんはあっけらかんとしたもので、私に力強い言葉をかけてくれる。
「なるほど、なるほど……うんうん、でも大丈夫。全部ボクにどーんと任せちゃいなよ、ソラ。きっと後悔はさせないからさ」
「や、やっさん……! で、でも……」
「そもそもボクも、最初からそのつもりだったし……この吸血鬼バージョンだって、いわばそのためのものでもあるんだからね。——まあ、サプライズのイメチェンでもあるんだけど。まあそれはともかく、とりあえずコラボ配信でやることを決めちゃおう。まずはボクが具体案を出していくから、ソラもバシバシ意見していってね」
「あ……は、はい。分かりました」
その勢いに押されて、私はそのまま、やっさんの話していく〝計画〟に全面的に同意してしまうのだった。




