第14話 ②——「怒涛の紹介回! 甘党パーティー見参!」
翌日、週末、休日の朝。
普段から潜っている最寄りのダンジョンにまでやってきた私は、入場管理ゲートに「探索者ID」を認証して手続きを済ませると、〈境界門〉を潜ってダンジョンへと入っていく。
——文字通りの異次元に繋がっている、歪んだ空間がそのまま形を成したような、不定形のモヤとしか言いようのないコレ……
ダンジョンゲートを潜る際のこの感覚には、なんど経験しても慣れる気がしない。
とはいえ今さら、いちいち動揺することもなく……ダンジョン内に入った私は早速、目的の階層へと飛ぶために出入り口からすぐ近くにある〈転移陣〉へと——向かう前に、まずは真っ先にみんなを迎えに行く。
入り口からほど近い空き部屋には、私の大事なパーティーメンバーがいつものようにお行儀よく待機していた。
「みんな、お待たせ。——毎度のことだけど、いつも窮屈な思いをさせちゃって、ホントごめんね……。それじゃ、すぐに行こうか」
すまなそうに謝る私に対して、みんなは気にするなとばかりに元気よく寄ってくるけれど、そうは言いつつも、いつもの〝おねだり〟も忘れていない。
「——はいはい、分かってるよ。ちゃんと持ってきてるから。まずは移動するよ」
そう言ってその部屋——『魔物使い』が使役している使役獣の待機場所として割り当てられている専用のエリアから出た私は、早足で転移陣へと向かう。
——別に悪い事をしているわけでもないのに、いつもここでは早足になってしまう……。
——まあ、他の探索者と会ってもトラブルの種にしかならないから、なるべく急いだ方がいいのは確かだ。
幸いにして誰ともすれ違うことなく転移陣にたどり着いた私は、さっそく〈中層・中域〉の転移陣を選択して転移した。
上層の出入り口から、すぐ近くにあるそこは、転移部屋と呼ばれる石造りの小部屋で……ここにある〝転移魔法陣〟を使うことで、すでに使用したことのある他の階層の転移陣へと転移することができる。
というわけで、転移陣を利用して、全員そろって転移してきたのは……
小高い丘の上にある——等間隔に屹立する石柱が並ぶ中心の石床に転移陣があり、あとは何かを嵌めれそうな窪みのある台座が四つ並んでいるだけで、他には壁や天井もない——開放的な〈転位地点〉だった。
そこから見渡す一面には——ダンジョンの中だというのに——頭上には晴れ渡る空が、正面には広い裾野の山があり、右手には果てが見えないほどに巨大な湖、左手には湿った沼地、背後には霧に包まれた広大な森が鬱蒼と茂っていた。
私のメイン活動ダンジョンであるここは——堅苦しくてやたら長い正式名称はともかく——一般的には、『精霊ダンジョン』の通称で呼ばれている。
その名の通り、ここは精霊系のモンスターが多く出現する、広大な自然地形型のダンジョンだ。
「さて……他の人と鉢合わせないように、まずはちょっと移動しよう」
転位地点の付近は安全地帯のようなもので、モンスターが湧くこともなければ近寄ってくることも(基本的には)ないので、本来ならここで色々と準備したりできる場所なのだけれど……
テイマーである私としてはむしろ、モンスターよりも他の探索者との不用意な接触こそが厄介なので、いつ新たな探索者が来るともしれない転位地点からは、さっさと離れるに限る。
とはいえ、転位地点からほど近いこの中心部の平原はモンスターも少なく比較的安全なので、適当に距離を取った場所まで来たところでようやく落ち着く。
「よし、この辺でいいか。さて、今日は以前から言っていた大事な予定の日だから、念入りに最後の事前確認を——って……はいはい、分かったよ、まずはお土産からね、まったく」
話なんかより先に、いいからまずはとっとと寄越せ——という圧がきていたので、私はやれやれと思いつつも、腰の後ろにつけている〈〝雲冠〟の魔法の鞄〉から、それぞれがご所望の貢ぎ物を取り出していく。
「まずは、にゃんたろー。はい——お前の大好物のグミだよ! しかも今回は特別に、期間限定品の豪華版だぞ〜!」
「ニャンと! ンゴロニャーン〜! 太っ腹だにゃあ!」
「だろ〜? ——はは、嬉しいか、よしよし、それは何より」
小躍りするように喜んでいるのは、私の膝丈くらいの大きさの猫妖精である〝にゃんたろー〟だ。
このにゃんたろーは、私がこのダンジョンで初めてテイムした記念すべき最初のメンバーにして、ウチのパーティーの頼れる斥候役であり、さらにはモンスターとの通訳もこなせる交渉役でもある。
——本当に、後になって思えば、この子を最初に味方に出来たのはとんでもない幸運だった。あの時はグミを食べ歩きながら探索してて、本当に良かった……。
お菓子のグミに目がなく、完全にそれ目当てで私の使役を受け入れたという、筋金入りのグミ好きニャンコだ。
「お次は、りんちゃん♪ 今日のフレーバーはちょっと珍しい、パイナップルだよ〜」
「——! 〜〜♪ 〜〜〜♪」
「はいはい、今ストロー刺すから……ちょっと待っててね」
嬉しそうに飛び回りながら鼻歌をハミングして喜んでいるのは、手乗りサイズの羽の生えた女の子である羽妖精の〝ふぇありん〟。あだ名はりんちゃん。
二番目に加入したメンバーである彼女は、『精霊魔法』が使える魔法役で、状況によって回復役も強化役も準攻撃役もこなせる万能選手だ。
臆病な性格ながらも果物ジュースが大好物で、ねばり強い交渉とあれこれ試してようやく正解にたどり着いたことで勧誘に成功した。
「次はハナちゃんね。……うん、今日は大事な日だから、特別に一袋まるまるあげちゃいます!」
「っ! 〜〜〜♡」
「ああ待って待って今開けるから……って、え、自分でやるって? まあ、丸ごとだからいいか、んじゃはい、どーぞ」
ひったくるような勢いで私からそのブツを受け取った後、力ずくで破るのかと見せかけて、普通に切れ目から綺麗に開け口を裂いてみせたのは……上半身は薄緑色の肌の女性で、下半身が巨大な花になっている魔人花の〝ハナハナ〟。あだ名はハナちゃん。
三番目に加入した彼女は、我がチームの頼れる盾役であり、『地魔法』を駆使した防御力は圧巻で、さらには毒性の蔦や花粉を介した弱体化までこなせる縁の下の力持ち。
砂糖の中でも黒糖がとにかく好きで、直接そのままかじって食うのが至高、何かと混ぜるのは邪道と豪語する。しかし、産地や値段には特にこだわりは無いらしく……安くて量の多い銘柄でも普通に満足してくれるのには、こちらも助かるところだ。
「器用に開けるねアンタ……ん——ああ、はいはい、次はウェンディの番だよ。なんとねー、今日は特別に、いつものシャーベット系以外にも、色々な種類のアイスを取り揃えてみました〜」
「っ! パチパチパチパチ〜!(ピチャピチャピチャピチャ)」
「盛大な拍手をありがとう……じゃあはい、どーぞ」
お前分かってるじゃねぇかって表情で、上下に手を動かして拍手しているのは……水色の液体がそのまま大人の女性の姿をしている水精霊の〝ウェンディ〟。
四番目に加入した彼女は、攻撃よりも防御に優れる『水魔法』を使いこなし、準盾役もするけど私の護衛をメインに担当してくれている優秀なボディガードだ。
冷たい氷が好きらしく、それが転じて氷菓の良さに目覚めた彼女は、アイスと名のつくものなら何でも美味しそうに食べる。
「——チロチロ……ボウゥッ」
「そうだねぇ、次はいよいよラマンダの番だね。今日はねぇ〜、色々持ってきたよー。羊羹に、おはぎに、お饅頭に……あんぱんも。まあ、このあんぱんは私が食べるやつだけど」
「シャー! ——チロチロ……」
「え、一口欲しいって? しょうがないなぁ……じゃあ、私も一口もらうからね」
まあ、一口なら……よかろう——って感じの上目遣いで、私の肩の上という至近距離からこちらを見ているのは、赤い鱗をした火蜥蜴の〝ラマンダ〟。ちなみにメス。
五番目に加入した彼女は、文字通りに火力の高い『炎魔法』やら炎のブレスを使う、このパーティーのメインアタッカー担当だ。
和菓子全般が好きで、特にあんこが大好物。それ系のお菓子をこよなく愛している。ちなみに、あんこのお供には冷めた緑茶がベストだと確信しているのだとか。
「さて、最後はウィルくん——なんだけれど……うん、そうなの、ごめんね? 今日は普通に調子も機嫌も良いから、あまりあげられる〝憂鬱〟は無さそうなの……」
「……(´・ω・`)(ショボーン)」
「でも、ある意味では過去イチで緊張しているから、ちょっとそれ軽くしてくれないかな?」
「……(^^)(ニコリ)」
「うん、ありがとね」
そういうことなら、オイラに任せんしゃいとばかりに、触れる私の指先から——まるで吸い取っていくように——張り詰めた緊張の糸を解いていってくれるのは……燃えるような闇色のオーラを身にまとって宙に浮く半透明の球体である、闇人魂の〝ウィルルク〟だ。——性別の区別は無いそうだが、便宜上は彼と呼んでいる。
六番目に加入した彼は、隠密に秀でる他にも色々と便利な『影』と、精神に作用する『闇』の魔法を使えるほか、幻術系の能力も持ち合わせており、探索時の細々とした活躍にとどまらず、戦闘では敵の撹乱を得意とする支援役だ。
人間の持つ「負の感情」を好み、それをオヤツ感覚でつまんで〝食べる〟ことができる彼は、すぐに落ち込んだりずっとモヤモヤと悩みや悪感情を溜め込んでしまう性分の私とは相性がいい存在なのだった。
「さて……これでオヤツタイムも終わったね。それじゃあいよいよ、本題に入るよ。この後、会うことになる夜さん——夜叉姫について、もう一度しっかりと説明しておくからね。いい? みんなは——」
「やが灰〜、ごめん早く着いちゃったよ、てへぺろ」
「——!」
唐突に聞こえた聞き馴染みのある声に振り返った私は、まるっきり見慣れない姿をしている彼女の不意打ちの登場に度肝を抜かれたのだった。




