第14話 【ぶち(プチ)バズ】やがて灰になる(配信探索者女子高生——『昏虚ソラス』空羽明日)
いつもの通学魔導列車に揺られながらも、普段とは違い今日は多くの視線を感じる気がする。
そうなる理由にも心当たりがあるとはいえ、はたしてそれが本当に——私が少しばかり有名人になったからなのか、それともただの気のせいや自意識過剰なのか……と。
そのどちらともハッキリしないくらいには、まだまだ微妙なバズり具合なのだと自覚している身としては、いまだ身バレ対策をするほどでもないので……今はただ軽く目を伏せつつ、〝照面鏡〟の画面に集中して気を紛らわせることにする。
それにしても——あの〝ごく短時間の生配信〟の後には、数日経った今日まで特に新たな配信はしていないというのに……
当初の5万人から一気に増えて、私の——『【ソロパーティー】昏虚ソラスの、精霊さんと紡ぐ活動日誌【ダンジョン配信チャンネル】』も、今や登録者数10万人超えかぁ……
さすが……すでに150万人超の登録者数を誇る——『【ソロ】夜叉姫様の深淵なる魅せプレイ配信【ダンジョンアタック】』チャンネルだ。ほんの少しだけとはいえ、コラボした影響が凄まじい。
私自身、配信者として成り上がりたいなんて気持ちは別に無かったし、夜さんにコラボをお願いしたのも、ただ純粋に彼女に会って——お礼を言って——話がしたかっただけとはいえ……これは自分でも予想以上の反響だった。
やはりそれだけ、今の夜さんは注目されているということなのだろう。
自分でも大胆なことをしたという自覚はあるけれど……でも私は、自分のやりたい事は——それがどんなことであろうと——すぐにやると決めているから、後悔はない。
そのことを改めて胸に刻むように、思い出深いその動画を——もはや何度目かもわからないくらいに何度も鑑賞した、その映像を見返しつつも……私は自分のこれまでを軽く振り返っていく。
私が探索者を始めたのは——法律によって定められている、探索者を始められる年齢である——14歳になってすぐだった。
交通事故により両親と早くに死別したことで、小学生の頃から親戚の家に預けられていた私は、ずっと自分が疎まれている存在なのだと自覚していた。
それゆえに、少しでも早く自立したいと思っていたので、未成年でも自立して生活できるだけの収入を得る手段として、あくまで現実的に考えた結果として選んだのが、探索者になって自力で稼ぐことだった。
14歳を越えたら、未成年なら誰でも無料でダンジョン講習を受けられる。
国が推進する探索者人口を増やすための施策の一環であろうそれに、まんまと応募した私は——幸か不幸か——いい感じの天恵を授かってしまったので、俄然やる気になってしまった。
とはいえ……その結果として私は、中学を卒業する頃には、探索者をすることで最低限の生活費を自力で稼げるだけの実力を身につけていた。
さすがに高校くらいは行っておいた方がいいとは自分でも思っていたので、受験勉強がほぼ必要なくて色々と優遇処置もある探索者専門学校を受けて——そしてアッサリ受かって念願の一人暮らしを始められるようになった。
肩身の狭い親戚の家を出られることになって、正直言って私は浮かれていた。
まあ、そうやって実際に一人で生きていくようになって……初めて色々と気付かされることにもなったけれど。
一人で生きていくためには——毎日の炊事、洗濯、掃除などの家事を筆頭とした——あらゆることを自分一人でやらないといけないという、当たり前のこととか。
思えば今までは、何やかんや言いつつも様々なことを私は親戚の大人たちに任せて頼って——そして守られて生きていたんだな、ということにも。
それでもやはり、私に後悔はなかった。
親が二人とも早く死に、常に死の危険と隣り合わせな探索者になったことで……私は死を身近に感じていた。
人はいずれ必ず死ぬ。しかし、誰もが自分がいつ死ぬのかなんて分からないし、誰しも自分が明日死ぬとは夢にも思っていない。
だけど私は、身近な人がある日突然帰らぬ人になると身をもって知っていたし、他のどの職業と比べてもダントツで死亡率の高い生業にて生活費を稼いでいる。
いつ死ぬともしれない人生の儚さを常に憂いながら、明日には死ぬかもしれない生活を送っているからこそ……今日、今、この瞬間を後悔なきよう全力の本気で生きると決めている。
だからこそ私は、尻込みして迷う心を振り払って、あの思いつきを思い切ってコメントにして送ってみたのだし、MVPリスナー大賞の景品として、あんな要望を後先考えずに伝えるなんて蛮行に出ることができたのである。
——仮にそれで失敗して、恥をかいて、バカにされたんだとしても……そのくらいのことが何だというんだ、という気持ちで。
一つの失敗が死につながるダンジョン探索に比べたら、そのくらいなんてことはない。
探索者として活動し始めて、はや数年……並の人間よりもはるかに度胸がついたよなとは、自分でも大いに自覚しているところだ。
《まもなく、国立探索者専門学校前——》
《お降りの方は、お忘れ物のなきよう、ご注意ください——》
お、ついたか、降りなきゃ。
駅からは徒歩で学校まで向かい、途中でコンビニに寄ってお昼ご飯を買っておく。
——弁当を自作するなんて甲斐性は、いまだに身についていない……。
一応、夜ご飯は自炊することもあるし……まあ滅多にないけど。
なんて事を考えていたら、教室の前にたどり着いていた。
——入る前に、深呼吸を一つ。
ここ最近になって大きく変化した教室内の私を取り巻く環境圧に対抗するために、私はもはやダンジョンに入る時にも似た歴戦の気構えを作ってから、扉を開ける。
「——っあ、やが灰——っじゃなくて、空羽さん! おはよう!」
「空羽さん! 今日もコンビニ寄ってきたの? 私のお弁当のおかず分けてあげるから、今日も一緒にお昼食べよ!」
「私も私も! だからさ、今日も話を聞かせて! ねっ、夜叉姫さんの話!」
「……おはよう、みんな。——ふ、朝イチでもうお昼時間の話なの? まあ、いいけど……」
扉を開けた途端に、こちらに気がついて騒がしく群がってくるクラスメイトたちに苦笑しつつも——そんな調子が数日も経てば、さすがに少しは慣れてきたもので、適当にあしらいつつも自分の席に向かい、さっさと座ってしまう。
——あのコラボ配信の翌日に登校した時には、今日の比じゃない騒がれぶりだったから……アレに比べれば随分とマシになった。
どうでもいいけど……コイツらって絶対、私のいないところでは私のことを〝やが灰〟って呼んでるよね……。まあ、自分でもその呼ばれ方は気に入ってるから、別にいいんだけれど。
最初はぶっちゃけ、困惑や猜疑心の方が先に立っていたけれど……少しは慣れてきた今となっては、こうして騒がれるのも、まあ悪くないかなってくらいには思えるようになった。
そんな自身の変化に、自分でも驚くくらいだ。
なにせ私は——つい最近になって、例の夜さんとのコラボ配信効果によって、こうしてやたらとクラスメイトから構われるようになるまで——入学以来ずっと、一貫してボッチだったのだから。
私が学校でボッチ生活を余儀なくされていたのは、半分くらいは自分の内面というか性格とかのせいであると自覚しているけれど……もう半分は私の固有能力というか、探索者としての活動方針が原因だといえるはずだった。
結局のところ、私の能力ではどうやっても他の人間とパーティーを組むにはすこぶる相性が悪くて……
結果として私は、こうしてわざわざ探索者学校に所属しているというのに——最初から一貫して、今までずっと——クラスメイトの誰ともパーティーを組むことなく、ひたすらにソロで活動しているという異端児になってしまっていた。
ここの学生はみんな、普通は誰かしらとパーティーを組んで活動する。
その相手は同級生とは限らず、先輩や後輩と組むものや、中には先生やOBと組むような場合もあったりするらしいけれど……ソロなんてのはほぼいない。
探索者とはパーティーを組んで活動するものである。そんなことは、探索者学校に通っていない一般人ですら知っている常識だ。
事情が事情だとはいえ、その常識に真っ向から逆らっている人間が、よもや周囲に馴染めるはずが無かったのだ……。
とはいえ……私がこの高校に通っているのは、同じ境遇だからパーティーメンバーを見つけやすいという通常の場合の利点とかを考慮しての選択ではなく……あくまでも、探索者として活動しつつも高校卒業の肩書きくらいは貰っておこうという思惑からだった。
——この高校は授業日数とか学力テストの成績とかよりも、ダンゼン探索の実績が評価されるので、その辺はかなり融通が利くのだ。
だからボッチでも全然まったく気にしていない——と言えば、さすがに嘘になるけれど……とはいえ、自分の中で折り合いをつけて、しょうがないよねと割り切ることは出来ていた。
そんな私の孤独な学校生活すらを、夜さんは一夜で一変させてしまった。
私のチャンネルなんか目じゃない空前の〝ぶちバズ〟によって、一気に時の人となった彼女……
そんな超絶有名人との正式なコラボ配信が、いよいよ間近に迫っているという現実に——自分で言い出したことながら——しかし私は、いまだに実感が湧いていないのだった……。




