第13話 寝たフリ夜叉姫(中の人)、一般通過ギャル系クラスメイト相手に、あえなく憤死させられかける!
ふっへへへっへっへぇっ〜、へっへっへぇっ〜……♪!
自分でも気持ち悪いと自覚しているニヤけ笑いを隠すため、私は授業の間の小休憩を机に突っ伏して寝たふりして過ごす。
しかし、そうやって顔を伏せていても——露出している耳に入ってくる噂話を、聞くともなしに聞くたびに……止まることなく新たなキショ笑いが込み上げてくるぅ……っ!
「ねーマジでヤバかったよねぇ、てか、どこが一番面白かったと思う? 色々あり過ぎて決めらんないわ」
「ウチはダンゼンあそこ、やが灰ちゃんのMVPアドバイスからの一連の流れ」
「分かるー、てかあれはもう殿堂入りっしょ」
「それな。殿堂入りのそれを除いたら、アタシはあれかな、姫巫女ちゃんが騰蛇呼び出したシーン。アタシあっこでフツーに叫んだからね、タブレットの画面に向かって」
「いやそれも殿堂入り〜、てかそれわかりみ深過ぎてマジ深層〜。いやマジあん時はホントぉ、画面真っ赤っかで自分も燃えたかと思ってぇ、私もめっちゃ叫んだしぃ!」
「ふふっ、いやそれは盛り過ぎw」
「ンフッフフ、すまん盛った笑」
「殿堂入り多過ぎて草〜。じゃあさベストバウト決めよーよ次。これもけっこう迷うくね?」
「いいけど、まずベストバウトて何?」
「一般的には、一番盛り上がった試合のことを指すから、この場合だと、まあ一番良かったボス戦ってかバトルシーンのことかな」
「真面目な解説助かるww」
「迷うけど……っぱ最後のヒュドラぢゃね? 配信の最後に相応しい、超盛り上がる最高のラストバトルだったっしょ〜アレぁ」
「やーでも、その前のバジリスクもヤバかったっしょ。ってかさ、フツーにラスボスのヒュドよりバジん時のがバチクソに苦戦してたの、アレなんなん?」
「ゆーてヒュドは攻略法もすでにあったしー、最後だから全部出し切った感じぢゃね? んでバジはー、単純に魔眼がありえんくらい強すぎたみがアリアリ過ぎ過ぎ杉並公園」
「強さってか厄介さ的には、バジのが上だった可能性あるのは確かにそう。でも盛り上がりでいうなら、むしろバジは魔眼が強過ぎたせいであんま盛り上がらなかったまであるから……やっぱヒュドラかな?」
「まーそれがシントウか」
「しんとう? ……順当じゃね?」
「んふふ草ァッ!www」
おぼっ、ふっ……! ンンンッウンッ!
——不意打ち喰らった……ww
くっそ肩が震える……わ、笑うなっ、耐えろ私……ンンンンンフフフッ……!
……いや今のキショ笑いは違うわ、あのギャルグループのヤツらの会話が謎に面白過ぎるせいであって——私が自分が夜叉姫だという正体を隠しつつも、学校の中で自分の話題がされているというこの状況に隠しきれない愉悦を感じて忍び笑いしているのとは——これは別の話だろ……。
——つーかこのギャルども……ネットにかぶれ過ぎだろっ! いいよなギャルは! 普通はリアルにそんなノリ持ち出したら許されないのに、ギャルなら許されるしな!
まあ、別にいいけどね……今の私はめっちゃ機嫌が良いし……というか最高の気分だしっ!
あーーーーーーー……自分が夜叉姫だって正体を隠した状態で通ってる高校で休み時間に話されてる話題がこないだやったコラボ配信のことで持ちきりなのーーー、端的に言って気持ち良過ぎんだろ〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!
ふうぅぅ……こりゃあ、コミュ障ぼっち陰キャには過ぎた快楽だぁ……
もーマジ、さっきから妄想が止まんねぇもん……
もしも——今ここで、私が唐突に夜叉姫に変身して正体を明かしたら……コイツらどんな反応すんだろうなぁ……なーんつって……
………………ふっへへへっへぇ〜ぇぁぃっ⤴︎……♪
「——じゃー最後、やが灰以外のMVPね。まあ要は、配信に出てる探索者の方のBest Playerってヤツな、これ誰っしょ?」
「いやそりゃー……フツーに夜叉姫様っしょ」
「様付けワロタw お前もうガチファンじゃん!ww」
「いや、活躍的には普通に姫巫女様じゃね?」
「は?」
「あ?」
「こっちも様付けw んでなんかケンカしてて草ww いいぞ戦え観測者vs親衛隊!www」
「いやバカ笑うなし」
「戦えじゃねぇんよ」
「じゃあ……イケメン勇者は私のものってことでオッケー?」
「いきなり何?ww」
「それはそれ、これはこれだろー……誰もイケメン勇者が嫌いだなんて言ってねーよ?」
「カイザー派のウチ、高みの見物」
「あ……どうぞどうぞww」
「何でやオレ様カイザー最高やんか!」
「好みは人それぞれやからね」
「何コイツぅ……」
「てかさー、夜叉姫ちゃんも姫巫女ちゃんも、ウチらと歳同じくらいなんよね? なんか信じられんくね?」
「あと雪華ちゃんもね。——それな。てかそれって、アタシらと同じように学校通ってるってことやろ? いや全然想像できんw」
「あの感じで、普通に学校に通う夜叉姫ちゃん……ダメだ笑うわ」
「いや夜叉姫様もあのまま学校行ってるわけないじゃん! てか夜叉姫様の正体は謎なんだから、普段は一般人に紛れて普通にフツーの学生してるんじゃん?!」
「いやそりゃ分かってっけどw ってかそうか、正体不明だから、もしかしたらウチらの近くに——なんなら、この学校にいる可能性だってあるワケやん?」
ビクぅッ——!!
「……いやウチのガッコーにはいねーだろw」
「確かにw ボクとか言ってる美少女なんていなかったはw」
「おい貴様ァっ、ボクっ子夜叉姫様をバカにすんなよっ! マジで舐めてっとコレ、〝夜叉車〟すっぞ! ……ふっふふwww」
「お前ぇ! 自分で言ってて笑うなって!w」
「ふふっ……ふぅ——スッ——一輪落下……〝滝夜叉車〟ッッ!! ——グルグルグルグルッ!!」
「や め ろ お ま え w w」
「いやそれ小学生がやる腕回すヤツぅ〜⤴︎!笑 お前ホントは夜叉姫アンチだろww」
クッッッッソォォォォォォォォォォォォッッッッ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
ギャルどもがぁぁぁッッバカにしやがってぇぇぇぇぇッッッ!!
——んあああ恥ずかちいぃぃぃぃぃッッッ!!!
ぜっっってぇ許さねぇぇぇぇぇっ!! いつか見返してやるぅぅぅぅぅぅっっ、からなあああああぁぁぁぁぁ——!!!!
キーン
コーン
カーン
コーン
「————ってことがあったんだよ、酷くない? 感情が乱高下して、最終的には怒りのあまりに、机の上の筆記用具をぜんぶ吹き飛ばしてしまうところだったよ……せっかく最初は、夜叉姫の噂で持ちきりなのを気分良く眺めてたってのに……あああああんのギャルどもめぇ!! いまだに怒りが収まらンねぇッ!!」
「……ちょっと、気持ちは分か——いや、あんま分からないけど、食事中に暴れないでちょうだい」
「あ、ごめんヒナ、ついつい思い出し憤怒が」
「思い出し笑いみたいに言わないで」
「てへへ」
お昼休みになったので、いつものように空き教室に行って、別クラスのヒナと集まって二人きりでお弁当を食べながらお喋りに興じる私は……すっかり気分を持ち直しており、すでにゴキゲンに戻っていた。
「はぁ……まあ、何やかんや言いつつ、すこぶる機嫌がいいようで何よりだわ」
「あは、やっぱ分かっちゃう?」
「そりゃあね、そんだけニヤニヤしてたら誰だって分かるわよ」
「おっと……んっへへへ——やっぱダメだ、もう今日は一日中マスクしとこ……へへへ」
「楽しそうなのはいいけれど……次の配信のことは、ちゃんと考えてるの? もう今週末でしょ、やが灰さんとのコラボは」
「おっと、それだよ……ラブちゃ——じゃなくて、ヒナに相談しようとちょうど思ってたとこ」
「ふーん……」
「え、なに? そういうヒナは、なんか不機嫌じゃない?」
「別に〜? 誰かさんが浮かれ過ぎてるから、呆れてるだけよ」
「それはしょうがないじゃんよ〜。だって私——ってか夜叉姫って、今や超が付くほどの有名人なんだぜ〜? いやマジで、今日の教室とかずっとあのコラボ配信の話題で持ちきりだったかんね〜。もう嬉しいやら、恥ずかしいやら……憤死させられそうになるくらいに怒りを覚えるやら、大変なもんだったよ」
「どんだけそのギャルたちの会話で精神ダメージ受けてんのよ……」
「アイツらは絶対に許さん。いつかゼッテー見返す。マジで——最高のタイミングで正体を明かしてやるからな……覚悟しとけよぉ! ファンに見せかけたアンチ野郎が! てめぇは私を怒らせた! ボクの〝夜叉車〟の餌食になンのはテメェだよォォンッッ!!」
「まったく……まあ確かに、ウチのクラスでも今日は、あの配信の話題一色だったけれどね。話を聞いた限りじゃ、勇者や姫巫女さんだけじゃなく、夜叉姫のファンもすでにけっこういる様子だったわよ」
「ホント?! ウェヒヒヒっ……! じゃあ、そっちのクラスには変なギャルは居なかったのね? 夜叉姫をバカにする、くっっそムカつくギャルは?」
「知らないわよ、そんなの……みんな普通に楽しそうに話してただけだし」
「そう、ならいいんだけど。……ウェッヒヒィ……イッヒヒィ……」
「はぁ……これじゃ当分、まともに話とか出来なさそうね……」
その日の私は終始そんな調子でひたすらにご機嫌だったので、結局ヒナとは大した話をすることができなかったのだった。




