第9話 ⑳——「いよいよお披露目される、魔眼の真骨頂……!」
「すごいっ……! 目をつぶって戦うのとは段違いだ! こんな方法があったなんて……自分で思いつかなかったのが悔しいくらい天才的な発想だな! ——さすがだね、夜叉姫さん! そしてありがとう! これでようやくまともに戦えそうだ!」
自身の前方に映像を映し出しながら戦う勇者さんが、さっきまでの苦戦ぶりから一転して、いきいきと動き回りながら嬉しさを弾ませた声を上げる。
「いや〜勇者くぅん、褒めるのも感謝するのも相手が違うよ〜。この方法を見つけてくれたのは、ボクの自慢すべき〝観測者〟の一人である〝やが灰〟だからね……! だから礼を言うなら、それこそ〝やが灰〟に言ってあげてよっ」
「なるほどっ?! 〝やがはい〟さんか! それじゃ改めて——ありがとう〝やがはい〟さん! 君は天才だ! すごく助かったよ! 君のお陰で戦える……ここからの活躍を見ていてくれ!」
「わたくしからも感謝を。〝やがはい〟さん、本当にありがとうございます。お陰様で——先ほどまでの苦境から一転して、今は暗闇に光明を見出した心持ちです。あなたの貢献に報いるためにも、きっとこの戦いは勝利を掴んでみせますので、どうか応援していてください!」
「うおおおおおオレ様からも礼を言わせてくれぇぇぇぇぇ!! おう〝やがはい〟! 天才かお前! マジで助かったぞっ! ありがとうっ! これできっと巻き返せる! お前はオレ様たちの恩人だっ〝やがはい〟!」
勇者さんがそう口火を切ると、続いて姫巫女ちゃんやカイザーも次々にお礼の言葉を口にしていく。
〈勇敢なる応援者:すごいすごいっマジで一気に動きが良くなってる! やっぱり目を開けて戦えるのは違うな! これは本当にグッジョブ過ぎるぜ、やが灰さん! アンタ最高だよぉぅ!!〉
〈姫巫女様の親衛隊:なんっって羨ましいぃぃぃぃぃぃのでしょう!!! 姫巫女様に直接、名指しでお礼を言ってもらえるだなんて! 私だったら嬉しすぎて嬉死にます!! ……なのでアナタが言ってくれて良かったです。そういう意味でも感謝ですね、やが灰さん〉
〈皇帝の忠臣:マジで大感謝ですッッやが灰さんッッ!! おかげで希望が見えてきたっす!! スポコメあったらアンタに送りたいくらいっす!! ホントにありがとうぅぅぅぅぅ!!!〉
コメント欄も大盛り上がりで、やが灰に対する感謝や賞賛の声で溢れていく。
〈ニートの無職ん:いちリスナーが一躍有名人になってて草〉
〈アンチ太郎:おい夜叉公、何一つとしてお前の手柄じゃないんだから調子に乗るなよ〉
〈アンチ二号:マジでやが灰に感謝しなさいよね、ヤシャコ。アンタの百倍は役に立ってんだから〉
「言われなくても……分かってるし、感謝してもしきれないよ。本当に、ありがとね……やが灰。君のような〝観測者〟がいてくれて、ボクも鼻が高いよ……!」
〈やがて灰になる:い、いえっ、お役に立てたのなら、よかったです……!〉
〈ニートの無職ん:マジで一気に持ち直したよな、当たり前だけど、前が普通に見えるのはやっぱデカいわ〉
〈浮世の社畜ん:いやこれもうバジリスクの攻略法として後世に語り継がれるレベルの発明でしょ!ww〉
〈探索兵長:前衛だけでなく、後衛も攻撃に参加できるようになりましたからね。当初に比べたら今は凄まじい攻勢です。やが灰さんの功績は本当に大きいですよ〉
〈☆脳空◎:他チャンネルのコメントでもめっちゃやが灰が褒められてるの、なんか嬉しいしビックリ! まぢでやが灰人気者なっててウケる!笑〉
〈暇人預言者X:ふっ、我ながらよく耐えたものだ……この誘惑に。やが灰の手柄はやが灰のもの……この賞賛は、やが灰こそが受けるに相応しい〉
〈†漆黒の堕天使†:新たな天才の登場に……†乾杯†〉
〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:やが灰は私たち〝観測者〟の誇りだね!〉
〈流浪の探索者:これはもはや、やが灰の人気に嫉妬すら覚えるレベル……とはいえこれで、ようやくバジリスクもどうにかなりそうやな?〉
「本当に……お陰でボクも、重要な気づきを得ることが出来たよ。これでまた一つ、真理に近づいたね……」
やが灰が示してくれた、新たなる教訓……
それこそは、「夜叉姫流・新・魅せプレイの法則・その七」——「安易に(強力な・新しい)能力等に頼らず、創意工夫で対処せよ」である。
ゴーレムが出てきた時よりも、今の方がよっぽど盛り上がっている。それこそが〝答え〟だ。
「さて……お待たせしたね。もはやボクが出る幕も無いかもしれないけれど……ウチのやが灰がこれだけ貢献してくれたってのに、当のボクが後ろにいたんじゃ格好つかないからね……そろそろこの夜叉姫も戦線に参加していくよ!」
〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:いよっ! 待ってましたっ!〉
〈やがて灰になる:応援してます! 夜さん!〉
〈ニートの無職ん:遅ぇよバカと言ってやりたいところだが、ここはやが灰に免じて許してやるから、さっさとあのヘビ倒してこいよ〉
〈アンチ太郎:マジで今さら何しに行くんだよって感じだが、お前も少しは役に立ってみせるんだな〉
〈ねっこ寝子:やっしゃん! 気をつけてね!〉
「応援ありがとうっ、それじゃあ行ってくる!」
そう言って私は、解説役を終えると共に、満を持して戦闘に参加していくのだった。
やが灰が発案した革命的な魔眼対策を使用してからは、状況は一変した。
前衛の動きは見違えるほど良くなり、それまでの防戦一方から一転して、一気に攻勢へと転じていく。
後衛もしっかりと狙って攻撃できるようになったので、今や毒蛇王が受けるダメージは桁違いに増えていた。
しかし、そんな中でも一番に活躍しているのが、他でもない雪華さんだった。
元々動きが良かった彼女は、他のみんながまともに戦えるようになったお陰で、自分の本分である攻撃に専念できるようになった。
——それまでは他のサポートのために慣れない盾役もどきの動きをしていたため、まったく本領を発揮できていなかったのだ。
すでに使いこなしている大太刀を存分に振るい、大蛇のぶっとい胴体をぶった斬り、決して浅くない傷をつけていく。
さらに彼女は、大蛇の後頭部に近い首筋にいい一撃が入ったところで、その傷口に妖刀を深々と突き刺すという大胆な離れ技すらやってのけてみせる。
『“妖刀 血桜——吸血紅華”』
毒蛇王の体に突き立てられたその紅き妖刀は、その刀身に宿る特性を遺憾なく発揮し、勢いよく血を吸い上げていき少なくない継続ダメージを与えていく……!
〈勇敢なる応援者[¥5000]:あれは雪華様の〝妖刀 血桜〟! その紅に染まった刀身は、切り裂いた相手の血を吸い己の力とする! それをああして突き刺しておけば、後は何もしなくても血を吸い上げられ続けた相手はたちまち干からびて死に至るのであるっ!!〉
まあ……さすがに吸える血の量にも限度があると思うし、相手はあのデカさだから、よっぽど吸わないと早々に死ぬことはないと思うけれども……それでも効果的な攻撃であることには間違いない。
——なんせ相手はヘビだからね……あんなところにあんな深く刺されたんじゃ、もはや手も足も出ないというか、自分じゃどうやっても引き抜けないんだよね。
まあ、それもこれも、相変わらず目をつむったままでもあれだけ動ける雪華さんだからこその芸当と言える。
——彼女にしてみれば、ホロスクを使った例の方法を使うまでもないということだ。
実際、やが灰謹製の〝秘策〟を使うことで、かなりマシになったとはいえ……それでも普通に肉眼で見るのに比べたらさすがに劣るだろうし、自前の能力により元から完璧な視界を確保できていた彼女からすれば、みんながホロスクを使って視界を確保している今となってもなお、自分が一番いい動きをしているのも当然といえば当然なのだろう。
そんな彼女に目立ってもらうために、私は——ダメージを稼ぐアタッカーというよりは、周囲を補助するサポーター的な立ち回りを意識して動いていた。
攻撃するにしても、使うのはもっぱら槌部分の能力である指向性爆発の【豪爆打撃】ばかりで、そうやって相手をぶっ飛ばしたり怯ませたりに終始する。
——私の場合だと、普通に攻撃するよりむしろ武技使った方が威力を抑えられるし、相手の体勢を崩して援護するには実際もってこいなので、もっぱらこればかりを多用していく。
それもこれも……ぽっと出の私がいいところをかっさらうよりも、ここまで耐えてきて、今ようやく攻勢に転じられるようになった雪華さんに存分に活躍してもらった方がいいだろうと思っての判断だ。
与えるダメージはともかくとして、見た目は派手な爆発をボンボン起こして大きく吹き飛ばしたりしているので、観戦しているリスナーも盛り上がってくれている。
いいねいいね、できればこの盛り上がりを維持して、そのまま最後までいきたいけれど……さて、どうかな……。
そうやって私たちの攻勢が順調に続き、いよいよ毒蛇王にもダメージが蓄積されてきたところで、相手も本領を発揮してくる段階に突入した。
そのことを感じ取っていた私が、さてどのタイミングで切り出すべきかと悩んでいたら……そんな私に先んじて姫巫女ちゃんが大声で警鐘を鳴らす。
「っ、毒蛇王の魔眼が変化します! 皆さんっ、備えてくださいっ!」
「「「——ッ!!」」」
ん、来たか……!
ついに毒蛇王が——その両の瞳の魔眼が、その真の力を解放する……!!
すでに使っているものを「魔眼の起瞳効果」と呼ぶとしたら、これより使ってくるのは「魔眼の発瞳効果」だ……!
毒蛇王の攻略法があるとしたら、最も重要な点として「この魔眼の〝発瞳〟は、決して使わせてはならない」と赤色の太字で書かれているくらいに、今から使われるのは強力な能力である。
なので私も、事前に行ったオフレコの作戦会議の中では、そのことは特に強調して伝えていた。
最善の攻略法としては——バジリスクには決して魔眼を〝発瞳〟させることなく、その前に両の瞳を完全に潰しておかなければならないのだと……何度も念押しするくらいには。
しかし、いくら事前に情報を伝えたとしても……それによって、毒への対処はもちろん——やが灰のお陰で——今や魔眼にすら、目をつぶる以上の対策を打てているとはいえ……それですべてが上手くいくほど、バジリスクも甘くない。
ヤツ自身も、自分の最大の武器は魔眼だと理解している。それゆえに、突かれれば最大の弱点にもなるその部位を、警戒して守らないわけがないのだ。
元より、見上げるほどに巨大な蛇の頭部に位置する関係上、魔眼を狙うのは難しい。
それにそもそも、対策を講じているとはいえ、ヤツの魔眼は、何かの拍子に目を合わせたら一発アウトの劇物なのだ。だからこそ、こちらも警戒して慎重にならざるを得ないし……しかし、そうして慎重にやっていては、やはりこちらの刃が届くこともない……。
結果として、いよいよ魔眼を〝発瞳〟される段階になっても、ヤツの両眼は健在だというのが現状だった。
だけどまあ……それについても、一応すでに想定内ではある。
——事前の作戦会議では、当然そうなった時のことも話し合っている。
それこそが、作戦の第二段階なのであり……むしろ、ここからがこのバジリスク戦の本番なのだ。
——とはいえ、ここにくるまでに、想定よりも苦戦してしまったのは……やはり、さすがに目をつぶりながら戦うのは厳しかったからか……もしくは、想定外のハプニングで、早々に重傷者が出たからか……あるいは……私が後ろで、ギリギリまで呑気に解説役なんてしていたからか……。
いやぁ……完全に、途中から参戦するタイミングを見失っちゃってたよね……。それに関しても、やが灰のお陰で、なんかいい感じの流れになったから、こうして戦線に加わることが出来たんだし……そういう意味でも、やが灰には本当に感謝だなぁ。
使われてしまった以上は、それ用のプランに切り替えるまで。
——まあ、元より、すでに石化している者がいる以上は、どうせ第二段階は必要だっただろうし……。
私自身がヤツの目をつぶす役割を担うつもりがない以上は、大一番は彼に任せて、こちらはサポートに回るとしよう。
——相手にも本領を発揮させ、しかしそれを上回り、完膚なきまでに倒しきる……そのために、私も全力を尽くす……!
さて、そうと決まれば……全体がよく見渡せる場所に、陣取っておかないと。
ここに連れてきた者の責任として、全員を生還させる義務が、私にはあるのだから。
『“蛇王の瞳——石化の魔眼”』
ついに〝発瞳〟されたバジリスクの奥義を見下ろす場所にて……
私は精神を研ぎ澄まして、これからやるべきことに集中していくのだった……——。




