第9話 ⑰——「今さら明かされる、脅威の同接数!!」
宝箱とボスドロップアイテムの所有権をめぐる話し合いもサクッと終わったので、私たちはさっそく探索の続きを再開することにした。
ちなみに……話し合いの結末としては、ほぼそれぞれの要望通りの結果となった。
勇者チームが獲得したのが、ボスドロップの刀——〈大太刀 蟲斬丸〉。
姫巫女ちゃんが獲得したのが、宝箱アイテムの内の二つ——〈〝星冠〟の迷宮地図〉と、〈大いなる湧魔の指輪〉。
そしてカイザーが獲得したのが、最後に残った宝箱アイテムである〈〝特級〟の治癒の水薬〉だ。
ドロップ置き場から回収した大量の雑多なドロップや魔石については後で分配するということで、ひとまずは姫巫女ちゃんがすべて預かってくれることになった。
——ただし例外として、一部の魔石(ボスカブトのもの含む)はすでに勇者チームの召喚師さんに渡してある。
この大量ドロップに関しては、私は一切の所有権を放棄しているし、分配するにしても配信が終わってからになるだろうから、もはやどうでもいい。
そんなことよりも、重要なのは次に向かうボス部屋へ通じるルートについてである。
落とし穴ショートカットに続いて、再び罠を利用したショートカットを敢行するのだ。
そんなわけで今の私たちは、それまでいた大空間にある無数の穴から選んだ一つを通って移動してきた先にある、とある小空間にいた。
この小空間の中心には、いかにも何か曰くありげな謎のモニュメントが鎮座しているのだけれど……実はアレはただのフェイクで、興味を持ってノコノコと探索者が近寄ったら、たちまち床下に隠された本命の転移魔法陣が発動するというトラップルームになっているのだ。
——ちなみに、いかにも怪しいのに、それでも近寄る探索者が後を絶たないのは……罠ではなくお宝が出てくるギミックだったりすることも普通にあるからなんだよね〜。
しかし今回はむしろ、その転移陣の罠にこそ用がある。
というわけで今回ショートカットに利用するのは、なんとびっくり転移罠である。
そう……探索者を脅かすダンジョンの罠は数あれど、転移罠ほど危険性の高さから探索者に忌み嫌われている罠も他にない。
なにせ、ものによっては階層すら跨いで転移させられるし、行き先がどこになるのかはまったくの未知数。
自分がどこにいるのかも分からないような場所に突然送られるだけでも厄介なのに、モンスターハウスや強敵のボス部屋に繋がることも多々あり、転移なので退路もない分、生還の困難さはいっそ絶望的であるからにして。
「はい、というわけでね……〝落とし穴〟の次は、この〝転移罠〟を利用することで、数階層分をすっ飛ばして一気に探索を進めてしまうつもりだからね。シュパッ! ——ってね」
〈勇敢なる応援者:転移罠、って……数ある罠の中でも一等ヤバいと言われるやつなんですが、それをショートカットに使うとか、そんなことが本当に可能なんですか?!〉
まあ……転移罠にはランダム転移もあるけれど、特定の場所に毎回飛ばされるものもあるから、そっちなら全然利用することも可能だし、もちろん今回使う転移罠はどこに飛ぶのかちゃんと分かってるから大丈夫ったら大丈夫なのだ。
「この転移罠は、とあるボスがいる隠し部屋に飛ばされるやつなんだけれど……そのボスさえ倒せば、そこからはもう目と鼻の先に今回の最終目標であるヒュドラがいるからね、ホントにいいショートカットなんだよね、コレって。
サクッとボスを倒して、報酬としてお宝とかもゲットして、ついでに回復陣でリフレッシュまで出来て、そっからすぐにヒュドラに挑めるなんて……もう最高だよね! というわけで、ここからもどんどん加速して盛り上がっていくから……みんなも期待しててね!」
〈皇帝の諫臣:もうボス倒した気でいて草ww 夜叉姫さんが言うとめっちゃ簡単でお得なルートみたいに聞こえるけど……でもこの人って、そんな軽いノリで全員を巻き込んであのモンスターハウスに突撃したんだよなぁ……w これはもう俄然、怖いもの見たさ的な期待感が止まらないっしょ……!!笑〉
——まあ、今度はあんな大群じゃなくてボスが一体だけだから……イケるっしょ。
〈姫巫女様の親衛隊:今度こそは姫巫女様任せではなく、他のメンバーもちゃんと活躍してほしいのですけれどね……その辺、作戦会議ではしっかり話し合ってもらえたのでしょうか〉
今回も前回同様に、罠を踏んでボス部屋に入る前に、みんなで集まって軽く打ち合わせのオフレコ会議をさせてもらったのだけれど……案の定、そこまで大した作戦は立てられていない。
とはいえ、ボスの特徴やら使う能力についてはバッチリ漏れなく伝えているから、あとはその場のノリで上手いことやってくれるハズ。
「それじゃあ……ボクが先に行くから、みんなも後からすぐに来てね」
「う、うん、分かったよ……」
「本当に言った通りの場所に出たら——だけどな。じゃなかったら、オレ様は行かねぇからなっ!?」
「すぐに後を追いますから、お気をつけて……」
さすがに転移罠には抵抗があるらしく……私が先行して転移して、ちゃんと前もって伝えていた通りの場所に無事な姿を現したことを配信で確認できたら、彼らも続いてやってくることになった。
——疑り深いというか、慎重というか……まあウソじゃないから別にいいんだけれど。
まったく……配信してなかったら無事の証明も面倒ごとになるところだったから、配信やってて良かったよ。
ドローンカメラはもちろんだし、〝照面鏡〟についても配信探索者としてはほぼ必須の装備だといえるのだけれど——通常の探索中にも色々と使えて便利なので、配信者でなくとも持っている探索者は多いとはいえ——かといって、すべての探索者が必ず持っているかというと、別にそうでもない。
とはいえ、生配信中にコメントを確認するのにこれほど便利なものはないため、それなりの配信探索者なら〝照面鏡〟を持っていないことはないだろうと思う。
そういうわけで、この場にいるメンバーも漏れなく全員が〝照面鏡〟を装備しているから、これを使えば、私の配信映像をリアルタイムで確認できるので……お互いに配信探索者ならば、今さら改まって何かする必要も無く、転移で離れ離れになろうとも安否確認は容易に行えるという話なのだった。
「それじゃ、行ってくるね」
サラッとそう言い残してから——念のため、呼び寄せたドローンカメラに片手で触れつつ——私は軽く足を踏み出して部屋の中央にあるモニュメントへと近寄る。
すると——
ピカッ——パシュン!
一瞬で視界が切り替わって、私は件のボス部屋に転移していた。
自分でも部屋の中を見渡していくのと同時に、手を放して高く浮かせたドローンカメラにも周囲を映させていき、ついでに〝照面鏡〟での一人称視点映像もオマケの別枠で配信にのせておく。
ボス部屋の中は、一見すると巨大なすり鉢状の空間になっていた。
今の私がいるのは、なだらかに傾斜している中腹辺りの地点で、それでもすでに建物数階分の高さがある。
それより上のすり鉢上端の淵の部分は、天井により蓋がされる形になっており、逃げ場はどこにも無くなっている。
その、いかにも特徴的な、磨き抜かれた鏡面のように滑らかで光を反射している天井から視線を下へと下ろせば……すり鉢の最下部である底の中心地点にて、巨大な蛇がとぐろを巻いている姿が目に映った。
あれこそが今回戦う、このボス部屋の主。
全長にして、およそ二十メートル超。胴回りなど巨木と見紛う太さを誇る、圧倒的に長くて太い体躯を持つ大蛇。
しかしてその脅威は、その長大なる巨躯にあらず、むしろ保有する能力にこそある。
誰が呼んだか——私が呼んだ——その名もズバリ……毒蛇王。
〈勇敢なる応援者:デカァァァァいヘビっ!! 説明求む!〉
——欲しがり屋さんめぇ……ん〜ダメダメまだ教えないよっ♪
〈姫巫女様の親衛隊:いったいなんですかアレは!? 騰蛇様に匹敵するほどの大蛇ですって?!〉
——確かに、大体おんなじくらいデカいよね。まあ、こっちは燃えてないケド。
〈皇帝の忠臣:例のヒュドラや下層のエンドボスを除けば、いまだかつて見たことのないデカさ……これは間違いなく強敵だろう……! 世紀の一戦の予感がするなっ! こうなりゃSNSでさらに拡散ダァ!!〉
——そういや、今って視聴者どれくらいいるんだろうか……?
普段の配信でも視聴者数は全然気にしてなかったし、逐一確認するなんて習慣がまるで無かったもんだから……その辺の数字の存在自体を今の今まで忘れていた。
どれどれ、今の同接は…………って、えっ——!!??
パパパシュン——!!
「——っとお、転移のこの感覚は何度やっても慣れないな……とはいえ、無事に到着したか。——ってぇ、ははっ……ヤバいボスいるぅ……全然無事じゃあないだろ、これぇ……」
「——っおぅ、相変わらずキメェ感触しやがるなぁ転移っつーのは…………は、はは、オイオイ……なんだありゃあ……アレがボスかよ……へっ、さっきのモンスターハウスが可愛く見えるぜ。——クッソォ、夜叉姫このヤロウ……っ!! 何がっ、『一体だけだからさっきより全然楽だよ』——だぁっ……!?」
「——っんっ、無事につきましたか。……っ、なるほど。アレが件の……毒蛇王ですか。っと、そうでしたね……呆けている場合ではありませんでした。敵が動き出す前に、まずは最低限の支援魔法を使っておかなければ……」
「………………同接150万人超え!!?? ひゃく、ごじゅう、まん……!? ってぇ……1500000じゃん! ……ウッソぉ、ヤッッバぁ……??!」
「いやどんなタイミングで何に驚いてんだよこのアホ姫は!? おいもう始まるぞ?! ボケっとしてんじゃねぇ!」
「だ、だってカイザー……ひゃ、百五十万て……」
「だあぁ安心しろ! オレ様だって同じくらいいってるし、なんなら勇者や姫巫女サマはさらに上の200万とか300万とかいってる。むしろ、まだまだこれからも増えるだろ。それくらいの配信してんだよオレ様たちは! 今! まさにな!」
「………………ヤバい今さらながらにめっちゃ緊張してきたかも」
「……この土壇場でそんなこと言うの、マジでやめてくんねぇかな、オイぃ……」
意識したら一気にヤバい、マジでめっちゃショックが強くて死ぬぅ……
——だって150万人の300万の瞳に見つめられていると思うと……うぅっ、毒蛇王の【石化の魔眼】なんかより、よっぽど恐ろしいっ……!!
ダメだ……気を落ち着けないと、このまま配信しながら戦闘なんて、とてもじゃないけどムリぃ…………。
「あれが、毒蛇王……っ! ——夜叉姫さん……今回ばかりは、君にも最初から本気で戦ってもらわないといけないと思うんだけれど……って、夜叉姫さん? ど、どうしたの?」
「ごめん、勇者くぅん……ボクちょっと、今は気が動転しててまともに戦えそうにないから……最初は隅っこの方で見学しておくね」
「……え? え、そ……ほ、本気?」
「うん……でもちゃんと、後方支援として解説役とかはやっておくつもりだし、みんなのこと、しっかり応援しておくから……頑張ってね」
「…………わ、分かったよ。だからその、お願いだから——君もなるべく早くに調子を取り戻して、戦闘に参加してきてほしい。ほんと、早ければ早いほどいいから……ね?」
「うん……善処するよ」
〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:大丈夫だよ夜ちゃん! ここには夜ちゃんの味方しかいないからね!〉
〈ニートの無職ん:モンスターハウスで戦ってた時点でもう100万いってたし、姫巫女様の奥義やら、宝箱の開封でさらに伸びて、今や150万か……ぶっちゃけぜんぜん実感が湧いてなかったけど、誰かさんの反応で一気に実感湧いてきて草〉
〈探索兵長:おいたわしや、姫……今初めて同接数を確認したんですね? 配信開始からすぐに、かなりのペースで視聴者数が増えていたのに、これまではいたって平気そうだったので、いくら増えても気にしてないのかと思っていたのですが……まさか——今の今まで、全然意識を向けていなかっただけだったとは〉
〈アンチ太郎:新規リスナーを全員ミュートなんてワケ分からんことしてまで、いつも通りにやろうとしてたってのに、マジで今さら何言ってんだコイツは……〉
〈ねっこ寝子:無理しないで、やっしゃん……辛い時は休んでていいんだよ?〉
〈アンチ二号:いやいや、今は休んでちゃダメでしょ……同行者を自分から率先して死地に追いやっておいて、ほんと何をほざいているのかしらねコイツは。アンタのせいで他のみんなが迷惑すんのよ? 分かったらバカなこと言ってないで、さっさといつもの調子を取り戻して、あんなヘビくらい瞬殺しなさい!〉
〈やがて灰になる:150万なんて聞いたら、普通はそんな反応になるよね……改めて、今回のコラボ相手がどれだけのビッグネームなのか思い知るかも〉
〈宝塚ジュエルちゃん最推し勢:姫巫女様はもちろんだが……勇者だって、ダンジョン探索系配信者という括りにとどまらず、すべての配信者の中でも上澄み中の上澄みなんだからな……それこそ、ジュエルちゃんよりも上なんだから、そんなレジェンドとコラボしたら、当然これくらいの数字はいくんだよ。というか……姫巫女様はマジで、国内こえて世界レベルでトップ層の配信者なんだぞ! 今回は事前告知もほぼ無しのいきなり過ぎて伸び率悪いけど、本来はこんなもんじゃねーんだからな! 自覚しろよマジで!!!〉
〈☆脳空◎:んは、ヨルちゃの反応ウケる笑 キミならもっと上にイケるから、今のウチに慣れなさい!笑〉
〈推しは君♡:よるチャン、ガンバ!(*≧∀≦*) プレッシャーなんかに負けナイデ〜!(⃔ >ω<* )⃕↝〉
おおぉ、みんながめっちゃ励ましてくれているぅ……!
そうだ……私には味方であるオリメンたちがいる!
弱音を吐いている場合じゃない、しっかりしないと!
——応援の力ってスゴい……なんだか一気に緊張がほぐれてきた。
これなら、すぐにでも復帰できそうかも……!?
ん、とはいえ……
〈勇敢なる応援者:ええぇ〜!! なんやかんや頼れる夜叉姫さんが、まさかの戦う前からダウン〜〜!? 確かに他の三チームとは違って夜叉姫さんは最近まで無名だったから、リスナー爆増で緊張するのは分かるんだけれど……よりにもよって今ここで?! それはヤバいよぉ〜〜〜っっ!!!〉
〈姫巫女様の親衛隊:ちょっとちょっと夜叉姫さん!? 時と場合というものを考えてくださいませんこと!? しっかりしてくださいな!? 今はそんなこと言っている場合ではないんですのよ!!?〉
〈皇帝の臣民:さっきのモンスターハウスでもアレだけギリギリだったのに、あそこよりさらに深いらしい階層のボス相手に、このまま夜叉姫さん抜きは普通に厳しんじゃね……?! 開幕からいきなりピンチかよっ!? それも、なんかよく分かんない理由で……ww いや笑い事じゃねーけど! でも笑っちゃうってか、もはや笑うしかねぇじゃんかよぉこんなんっ!!!〉
なんか盛り上がってんだよねぇ、すでにねぇ。
——開幕からピンチの演出が、図らずしも上手いこといっちゃったパターン……?
だったら、その、まあ……
このまましばらくは後ろから様子見すっか笑。




