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第9話 ⑯——「お楽しみの、お宝確認!」



 大空間に戻ってきた私たちは、宝箱から出たアイテムを詳しく調べていく。


 手に入ったばかりのアイテムは、そのままだと、どんな効果を持っているのか(わか)らない場合がほとんどだ。

 なのでまずは、〝鑑定〟してどんな効果を持っているのかを調べる必要がある。

 とはいえ、鑑定は専門技能なので、普通は持ち帰ってから探索者協会に持ち込んで、そこで鑑定士に鑑定してもらったりするのが定番の流れなのだけれど……

 今回は勇者チームの魔法使いである〝賢者〟さんが鑑定の魔法を使えたので、この場で鑑定してくれることになった。


 賢者さんが最初に鑑定したのは、何やら古びた一枚の羊皮紙のようなアイテムだった。


「これは……やっぱり、〈迷宮地図(ダンジョンマップ)〉のようですね。レア度は、〝星冠(スタークラウン)〟……!? ——ウソっ……?! これ、従来の〝空冠(スカイクラウン)〟の上位版で、使い切りじゃなくて何度も使えるタイプのようです!」

「「「な、なんだってぇ……!!?」」」


 初っ端からみんなが驚いているダンジョンマップとは、「使うことで、今いる階層の地図を表示する——というか、その階層の地図になる」というアイテムだ。

 深層より浅い〝界層〟でも(まれ)に手に入るけれど、そういうレアリティの低いものだと一度使ったらそれっきりの使い切りタイプになるので、一つの階層に使ってその階層の地図にしたらそれで終わりだ。

 ——階層に入ってすぐに使ってもすべての範囲を網羅した地図になるので、そうは言っても使い切りでもかなり便利なアイテムではあるのだけれどね。

 しかし、何度も使えるタイプは再利用が出来るので、すでに使用済みでも次の階層に行ってからまた使えば、新たにその階層の地図として上書きされるので、ものすごく便利なのである。

 ——それこそ、ここみたいなランダムマップのダンジョンだと、もったいなくて使えないからね〜使い切りだと。すぐに無意味になるし。


「再利用可能とか……めちゃくちゃ便利なマップだな。便利だけどなかなか入手できないからこそ、ここぞという時に使うのがダンジョンマップなのに……いつでも使い放題とか、とんでもないね」

「いえ……驚くのはまだ早いです。なにせこれ、下りの階段の位置だけじゃなくて、宝箱部屋や罠の位置まで表示されるらしいので……」

「おいおい、マジかそれッ!? ヤバすぎんだろ……んならもう、もはやこれ一枚で斥候(スカウト)要らずじゃねーか?!」

「いやいや、落ち着きなよカイザー。このレアリティのマップだと、まだ隠し部屋や隠し罠は表示されないから、そこまでのものじゃないよ」

「そ、そうなんですか? ……物知りなんですね、夜叉姫(やしゃひめ)ちゃん」

「……もしかして、夜叉姫さんは、すでに似たようなものを持っているのかな? さっきも、無数の穴から一発で宝箱やドロップ置き場を見つけていたし、あれも……いや、不躾(ぶしつけ)な質問だったね。すまない、忘れてくれ」

「いや、ボクは何度か来たから宝箱とかの位置を暗記してるってだけだよ。ここってランダムダンジョンだから、階層の中でモンスターハウスがある位置は毎回違うんだけれど、モンスターハウスの中での配置はいつも一緒だから」

「そ、そうなんだ……それは……スゴイネ」


〈勇敢なる応援者:初っ端からなんかスゴいアイテムキタ〜?! いやいや聞いただけでもめっちゃ便利そうじゃんソレ!?〉


〈姫巫女様の親衛隊:今回の戦いのMVPは間違いなく姫巫女(ヒミコ)様なのですから、そのマップの所有権も姫巫女(ヒミコ)様にあると思いますっ!!〉


〈皇帝の臣民:すげぇなそれ、売ったら一体いくらすんのよ……まあ売るくらいなら自分で使うよな、一流探索者ならなおさら——って思うけど、そうなると一体誰が受け取るのかっていう問題が……。——まさか始まるというのか、この四チームでの血みどろの争奪戦がっ……!?(小声)……カイザー悪いことは言わんから参戦は見送れ。死ぬぞ〉


〈ニートの無職ん:勇者からの不意打ちの質問にうっかり要らんこと答えそうと思ったら……予想の斜め上いく返答してて草 さすが——この四チームが力を合わせてようやくクリアしたモンスターハウスを普段からソロで何度もクリアしている異常者は言うことが違うわww〉


「それで、このマップについてだけれど……」

「……」「……」「……」

「……とりあえず、先に他の二つも確認しておこっか?」

「ああ、そうだな」

「おう、そうしようぜ」

「そうですね、そうしましょう」

「……じゃあ、はい、次はこれをお願い」

「え、ええ……これは、おそらくは回復薬(ポーション)(たぐ)いでしょうけれど、さて——」


 続いて賢者さんが鑑定したのは、液体の入った瓶のようなものだった。


「これは……〈治癒の水薬(ヒールポーション)〉ですね」

「やっぱりか。それで、ランクは?」

「……〝特級〟です」

「おおっとぉ……」

「特級……そんな気はしてたぜ」

「妥当な等級ですね」


 特級のヒールポーションというと、怪我の回復薬としては最上級のものだ。

 あらゆる怪我を瞬時に癒す。部位欠損すら再生する。一部の病気すら治してしまい、若返りの効果すらあるという噂もある……

 死んでさえいなければ、すぐに全回復して即座に戦線復帰できるので、探索者としても常に持っておきたいような一品である。

 回復薬なんてナンボあってもいいからね……私だって普通に欲しいくらいだ。

 まあ、物欲しそうに見ているみんなの手前だと言い出しにくいから、やっぱり要らんかな——と思うくらいには。


〈勇敢なる応援者:特級ヒールポーション!? これまたスゴいの出ました!! っぱ深層のモンスターハウスともなると、出てくるお宝もヤベェな!!〉


〈姫巫女様の親衛隊:姫巫女(ヒミコ)様自身が特級のヒールポーションに匹敵する回復魔法の使い手ですが……保険なんてナンボあってもいいですからね。当然これも姫巫女(ヒミコ)様の物ですよね??〉


〈皇帝の諫臣(かんしん):特級のヒールポーションとか、オークションで天井知らずに値段が上がるアイテムの筆頭よなぁ……まあ、ほとんどは入手した探索者がそのまま所持するから、そもそもオークションに出回ることがまず無いくらいの超絶希少品なんだけれども〉


〈探索兵長:最初期から姫の配信を観ているのに、そういえば一度もポーションを使っている場面を見たことがありませんでした……というか、なんなら配信に映るのも初めてでは? あ、いや、さすがにドロップアイテムとしてチラッと映ったことくらいなら、あったかもしれませんね〉


「ん、じゃあ……これもいったん保留にして、次いこうか」

「は、はい。分かりました」


 お次に賢者さんが鑑定しているのは、指輪だ。

 ——これは……罠付きの宝箱に入っていたヤツか。

 経験則からして、罠付きの方が普通のものよりレアが出やすいのだけれど……これはどうかな?


「これは…………っっ、こ、これは……!!!」

「ま、マコ? どうした?! その指輪は、いったい……」

「……この指輪は、〈大いなる湧魔の指輪グレート・マナスプリング〉。その、効果は……『魔力の自然回復力を常時50%アップさせる』……だそうです」

「「「——ッッ!!?!」」」


 ヒエッ……魔法職の人たちが、一気に目の色を変えてるぅ……!

 ——まあ、気持ちはスッゲェよく分かる。

 50%アップっていうと、ジッサイ相当変わるからね。

 魔法職はもちろん、魔力といえば探索者のあらゆる能力に密接に関わる根幹を成すような力なんだから……なんなら、魔法職以外の人だって普通に欲しいだろうし。


〈勇敢なる応援者:ま、マコっちゃん……! き、気持ちは分かるけど……スゴイ顔になってるよ!!笑〉


〈姫巫女様の親衛隊:この指輪は姫巫女(ヒミコ)様のものですこの指輪は姫巫女(ヒミコ)様のものですこの指輪は姫巫女(ヒミコ)様のものです!!!!!!〉


〈皇帝の忠臣:うわぁウチの魔法使いもガンギマリの目ぇしてるじゃん……笑 これもう大魔法戦争待ったなしでしょ〉


〈MS管理人R:50%がどれだけスゴいのかよく分かる顔で草ww これはマジで人殺す顔やで笑〉


〈浮世の社畜ん:ひいさまの貴重なドン引き呆れ顔いただきましたw〉


 にしても、圧がヤベェんよ……

 指輪の実物を手に持っている賢者さんは、さっきから(まばた)きもせずに(どことなく、血走ったような目つきで)ジッと手元を見つめたままだし……

 他の人たちも食い入るように指輪を見つめていて、なんかジリジリと近寄っていってるし……

 沈黙が痛いんだけれど……誰が何とか言ってくんないかなぁ……?

 私ゃもう怖くて口が開けねぇよ……(泣)


「そういえば——」

「「「——ッ!?」」」

「……まだ、ボスがドロップした武器を鑑定していませんでしたね。——夜叉姫ちゃん。確かそれまでは、この場で鑑定するんですよね?」

「あ、うん、そうだね、そのつもりだよ。じゃ、じゃあ……最後にこの武器も、お願いしていいかな……?」

「ああ、はい……分かりました」

「うん、じゃあ——その指輪は、いったんその辺に置いて……」

「いえ、うっかり転がっていったりしたら大変なので、ひとまずは私のポケットに……」

「「「……」」」

「……というのは冗談ですよ。ですが、床に置くのは心情的に許容し(がた)いので——すみません、夜叉姫さん。あなたが持っていてくれますか?」

「え、ヤダなぁ……なぁんてね。分かった分かった。ボクが預かっとくよ。——いったんね。一時的にね。今だけ一瞬ここに存在しているだけだからね?」


 だからこっち見ないでください。


 視線が集まる手のひらの上を意識しないようにしてから……私は賢者さんの方に集中する。

 ——って、何でアナタもまだこっち見てんの?! 鑑定して早く! さっさと終わらせたいんだからぁ……っ。

 はぁ……これだからソロの方が気楽なんだよね。ソロなら全部出たのは自分の物なんだから。


 ようやく賢者さんが鑑定を開始してくれる。

 最後に鑑定するボスドロップの武器は、かなり長くてしっかりした刀だった。


「これは……〈大太刀(おおたち) 蟲斬丸(むしきりまる)〉という刀ですね。

 性能としては……まずは特性として、『虫系モンスター特攻(特大)』があります。

 お次に効果として、『防御貫通+40%』、『防御力+25%』、さらには、『多くの敵に囲まれるほど、あらゆるST(ステータス)が一時的に上昇(アップ)する』というものまであります」

「——ッ!!」

「武器としての基本性能も、かなり高いようですし……特別な武技(ウェポンアーツ)こそありませんが、総じてかなり優秀な武器だと言っていいでしょう。

 いえ、使い勝手の面で言えば、むしろ下手に武技が宿っていない方がいいくらいですし……虫系はもちろん、それ以外の敵を相手にしても十分以上に活躍できそうです。

 特に、硬い敵や多数の敵を相手にする場合は——それこそ、先ほどの戦闘などはまさに——素晴らしい活躍をすること請け合いですね。……まあ、今さら出てきても遅いんですけど」


 大太刀かぁ……なるほどね。

 確かに、普通の刀に比べたらかなり長くて刀身も厚そうだから、まさに多数との乱戦向きの刀だと言えそう。

 ——いやマジで、ついさっきの戦闘でこそ真価を発揮する武器だよねコレ。ダンジョンってやつは……割とこういうことをするんだよね。

 これが手に入った理由はよく分かるというか、このモンスターハウスのボスから出るには、なるほど確かに相応(ふさわ)しいというほかないのだけれど……なんか逆なんだよなぁ。

 先にくれ? ……としか言えんよ。


〈勇敢なる応援者:刀といえば……これはまさに我らが剣豪、雪華(セツカ)様の出番ではないか!? いやマジで、この場で一番この刀が相応しいのは彼女を置いて他には居らぬであろうよっ?! これはもう、誰のものか決まったのではないかっ?!〉


〈姫巫女様の親衛隊:刀ですか……赤武(せきむ)にちょうど良さそうな大きさですが……まあ、これくらいは他に譲ってもいいですよね。赤武にはすでに自前の愛刀がございますし〉


〈皇帝の臣民:確か……強げな武技持ちよりも、地味な効果付きの方が基本性能は高くなるんよな、装備って。いやまあ、その刀の効果は全然地味じゃないし、むしろぶっ壊れ気味だと思うけれどさ。てかそれ刀身も見てみたいんだけど、誰がちょっと抜いてみてくれんかな?〉


〈ニートの無職ん:マジで出るの今さら過ぎて草 戦いの前にそこに刺しといてくれんか〉


「この刀に関しては——宝箱と違ってドロップだからね……ドロップアイテムは基本的に、倒した人のものになる。だから、これの所有権を持つのは……夜叉姫さん、君だ」

「え、でもこれって……ほぼほぼ姫巫女(ヒミコ)ちゃんが倒したようなものだし、というか、そもそもモンスターハウスの戦いはみんなで戦ったんだからさ、ドロップについても——」

「確かに、ドロップ置き場のドロップは全員に権利があるかもしれない。しかし、ボスは例外としてその場にドロップしたから……慣例通りに倒した者が権利を得るハズだよ。この場合の〝倒した者〟とは、〝最後にトドメを刺した者〟という意味だから……姫巫女(ヒミコ)さんじゃなくて君だ、夜叉姫さん。それは姫巫女(ヒミコ)さんも納得しているはずだと思うけれど……どうかな?」

「そうですね。わたくしも異論ありません。その刀の所有権は、すでに夜叉姫ちゃんにあります」

「うん……その上で交渉したい。どうかその刀を、ウチの雪華(せつか)に譲ってくれないか?」

「——!」

「その代わりと言ってはなんだけれど……ウチは、他の三つの宝箱アイテムからは手を引こうと思う」

「「「——ッ!!?」」」

「……よろしいのですか? 本当に、それで……?」

「ああ……これでも十分に欲張って交渉しているつもりだからね。あの戦いにおけるオレたちの貢献度では、本来なら、雑多なドロップからいくらか分けてもらえたら御の字ってところだろうし」

「お前らでもそんな言うなら、オレ様のチームはどーなんだっての……だがオレ様も言うだけは言わせてもらおうか。そうだな……特級ポーション! 宝箱アイテムからは、それだけでいい。後はまあ、雑多なドロップもそれなりにくれると嬉しいけどな」

「意外だな……カイザー。マップや指輪は欲しくないのか?」

「欲しいに決まってんだろッ!!! ……だが、今回の戦いで、んなことを主張できるほど貢献したとは——たとえ寝言でだろうがほざけねぇな。そこまで厚かましい面の皮はしてねぇよ」

「……そうか。それなら、オレとカイザー——ひいては、『勇敢なる挑戦者(ブレイブランナー)』と『規律正しい乱暴者ジャスティン・ジャガーノート』の要望としては、そういうことになった。後は姫巫女(ヒミコ)さんと、夜叉姫さんの意見次第だけれど……?」

「え、ボク? いやボクは、あらかじめ言ってたよね?」

「ん? ……あ、え、いやでも——」

「ボクは今回の探索で出るドロップは、全部君たちにあげるって。だから、さっきの刀もボクのものじゃないし、君たちで話し合ってくれないとなんだけれど……」

「…………ああ、うん。確かに言ってたけどね。……いやでも、宝箱はドロップとは別だよね?」

「同じようなものだし、同じ扱いでいいよ」

「ええぇぇ……??!」

「おいおい、いくらなんでもそりゃあ……」

「……本気なんですか、夜叉姫ちゃん。あの宝箱から出た三つのアイテムも、本当に要らないと言うんですか……?」

「まあ、その……何回も来てるから、ボク」

「あっ……はい。で、でしたらそうですね、後はわたくしたちで話し合いましょうか」

「あ、ああ」

「お、おう、そうだな」

「あー、でも一つだけいいかな?」

「んっ……な、なんでしょう?」

「あーいや、出来るだけ早めに頼むね。すぐに次のところに行きたいし」

「そ、そうだね……なるべく、長々と話さずに済むように出来ればと思うよ」

「おう……よく見てろよ、滅多に見れない謙虚なカイザー様を見せてやるぜ」

「配信中ですものね……分かりました。なるはやで交渉は終わらせましょう」


 全部譲った私の要望ということで配慮してくれたのか、それからの三者の話し合いは確かにすぐに決着がついたので、私はそんなに待たされることなく次の探索に進むことが出来たのだった。


 

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